小説家、精神科医。東京生まれ。本名小木貞孝(こぎさだたか)。1953年(昭和28)東京大学医学部卒業後、病院や刑務所に精神科医として勤務。1957年より3年間フランスに留学。帰国後、東京医科歯科大学、上智(じょうち)大学で精神医学を講ずるかたわら創作を始め、北フランスの精神病院を舞台とした『フランドルの冬』(1966)で芸術選奨新人賞を受賞。以後、長編小説によって、本質的な人間存在の問題に取り組む。『荒地を旅する者たち』(1971)で、現代社会の狂気を描き、『帰らざる夏』(1973。谷崎潤一郎賞)で、戦争責任の所在を追及、『宣告』(1979。日本文学大賞)では、死刑制度の問題点を明らかにした。1979年上智大学教授の職を退き、創作に専念し、日米開戦時の特派全権大使栗栖(くるす)三郎(1886―1954)の家族をモデルとした『錨(いかり)のない船』(1982)、犯罪者の生を多面的な手法で描いた『湿原』(1985)がある。そして、『永遠の都』(1997)では、長編小説『岐路』(1988)、『小暗い森』(1991)、『炎都』(1996)の三部作をあわせ、血縁でつながった四つの家族の、戦中、戦後を描く大河小説を完成する。ほかに短編集『風と死者』(1969)、『夢見草』(1972)、評論集『文学と狂気』(1971)などがある。
[山田俊治]
『『加賀乙彦短篇小説全集』全5巻(1984~1985・潮出版社)』▽『『加賀乙彦評論集』上下(1990・阿部出版)』▽『『脳死と臓器移植を考える』(1990・岩波書店)』▽『『脳死・尊厳死・人権』(1991・潮出版)』▽『『高山右近』(1999・講談社)』▽『『夕映えの人』(2002・小学館)』▽『『錨のない船』上中下(講談社文芸文庫)』▽『『帰らざる夏』(講談社文芸文庫)』▽『『生きている心臓』上下(講談社文庫)』▽『『フランドルの冬』『宣告』『湿原』『永遠の都1 夏の海辺』『永遠の都2 岐路』『永遠の都3 小暗い森』『永遠の都4 涙の谷』『永遠の都5 迷宮』『永遠の都6 炎都』『永遠の都7 異郷・雨の冥府』(新潮文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
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