原子炉(読み)ゲンシロ(英語表記)nuclear reactor

翻訳|nuclear reactor

デジタル大辞泉 「原子炉」の意味・読み・例文・類語

げんし‐ろ【原子炉】

ウラントリウムプルトニウムなどの核分裂性物質を燃料とし、核分裂の連鎖反応を適度に制御しながら定常的に進行させ、そのエネルギーを利用できるようにした装置。発電や船舶用の動力炉のほか、研究用・医療用など多くの用途がある。リアクター。
[補説]原子炉には、核分裂反応を利用する核分裂炉、核融合反応を利用する核融合炉、核破砕反応を利用する加速器駆動炉などがある。このうち実用化されているのは核分裂炉のみで、核分裂反応を起こす中性子の速度(エネルギー)によって熱中性子炉高速中性子炉に分類される。熱中性子炉は、核分裂によって放出される中性子の速度を下げる減速材の種類によって軽水炉重水炉黒鉛炉に分類される。このうち最も多いのは軽水炉で、世界の発電用原子炉の8割以上を占める。軽水炉には、原子炉圧力容器内で高温高圧にした一次冷却水の熱で二次冷却水を蒸気に変える加圧水型原子炉(PWR)と、圧力容器内で冷却水を直接沸騰させ、その蒸気でタービンを回す沸騰水型原子炉(BWR)がある。世界全体ではPWRが軽水炉の8割を占めているが、日本では両者がほぼ同数となっている。軽水炉はウラン235の濃度を3~5パーセントに高めた低濃縮ウランを燃料として使用するが、重水炉は、中性子を吸収しづらい重水を用いるため、天然ウランをそのまま使用することができる。現在、運用されている重水炉は、冷却材にも重水を用いる加圧重水型原子炉(PHWR)で、主流のCANDU炉は開発国のカナダをはじめインド・韓国・中国・ルーマニアなどで導入されている。黒鉛炉には、冷却材に炭酸ガスを用いる黒鉛減速ガス冷却炉(GCR)と、沸騰軽水を用いる黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(LWGR)があり、それぞれ開発国の英国(GCR)、ロシア(LWGR)で運用されている。高速中性子炉は、核分裂によって放出される中性子を減速させずに利用する高速炉で、高速中性子による核分裂連鎖反応を利用した高速増殖炉(FBR)がロシアや中国で稼働している。日本で開発中のもんじゅは事故や保守管理の不備により長期間停止している。

世界各国で運用されている発電用原子炉
炉型炉数電気出力(MWe)主な導入国減速材冷却材燃料
加圧水型原子炉(PWR)278258,215米国・フランス・日本・ロシア・中国・韓国・ウクライナ・スウェーデン・英国・インドなど軽水軽水(非沸騰)低濃縮ウラン
沸騰水型原子炉(BWR)8075,353米国・日本・スウェーデン・インドなど軽水軽水(沸騰)低濃縮ウラン
加圧重水炉(PHWR)4924,549カナダ・インド・中国・韓国など重水重水(非沸騰)天然ウラン
黒鉛減速ガス冷却炉(GCR)158,045英国黒鉛炭酸ガス天然ウラン/低濃縮ウラン
黒鉛減速軽水冷却炉(LWGR)1510,219ロシア黒鉛軽水(沸騰)低濃縮ウラン
高速増殖炉(FBR)2580ロシア・中国液体金属ナトリウム濃縮ウラン/ウラン・プルトニウム混合
合計439376,961   燃料
IAEAの動力炉情報システム「PRIS」より。一時停止中の原子炉を含む(2015年3月)。

発電用原子炉の開発世代による分類
開発世代年代・特徴主な炉型
第1世代1950~60年代前半に開発された初期の原子炉シッピングポート原発の加圧水型炉・ドレスデン原発の沸騰水型炉原子炉・コールダーホール原発のマグノックス炉など
第2世代1960年代後半~90年代前半に建設された商業用原子炉加圧水型原子炉(PWR)・沸騰水型原子炉(BWR)・CANDU炉(カナダ型重水炉)・改良型ガス冷却炉(AGR)・ロシア型加圧水型炉(VVER)・黒鉛減速沸騰軽水冷却炉(LWGR)など
第3世代第2世代炉の改良型として開発され、1990年代後半~2010年代に運転を開始した原子炉改良型沸騰水型炉(ABWR)・改良型加圧水型炉(APWR)・System80+など
第3世代プラス2010~30年頃までに導入される、第3世代炉の経済性を向上させた原子炉高経済性単純化沸騰水型炉(ESBWR)・欧加圧水型炉(EPR)・AP1000など
第4世代2030年頃の実用化を目指して開発中の、より高度な経済性・安全性・持続可能性・核拡散抵抗性を備えた原子炉ナトリウム冷却高速炉高温ガス冷却炉超臨界圧水冷却炉ガス冷却高速炉・鉛冷却高速炉・溶融塩炉など

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精選版 日本国語大辞典 「原子炉」の意味・読み・例文・類語

げんし‐ろ【原子炉】

  1. 〘 名詞 〙 ウラン、プルトニウムなどの原子核分裂連鎖反応の進行速度を制御して原子エネルギーを徐々にとり出す装置。加圧水型、沸騰水型などがある。
    1. [初出の実例]「最初の頃の原子炉では、最後の棒が最後の一呎半を引抜かれた時にはじめて火がつく」(出典:原子力の将来(1947)〈山屋三郎訳〉原子の火)

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改訂新版 世界大百科事典 「原子炉」の意味・わかりやすい解説

原子炉 (げんしろ)
nuclear reactor

核分裂性物質を構成要素の一部として有し,核分裂連鎖反応を制御しながら持続的に行わせる装置をいう。発生する熱エネルギーや放射線,あるいは中性子による核反応により生成される各種物質を得るために使用される。核融合反応のエネルギーを持続的に取り出す装置も原子炉と呼ぶこともあるが,一般には実用化している前者のみを指し,後者は核融合炉ということが多い。

 核分裂とは,重い原子核が質量のあまり違わない二つの原子核に分裂する現象である。熱中性子を吸収したときに核分裂する確率が大きい原子核を核分裂性核種と呼ぶ。原子炉ではウラン235 235U,ウラン233 233U,プルトニウム239 239Puなどの核分裂性核種が使用される。これらは中性子を吸収すると単にγ線を放出するのみのこともあるが(これを中性子捕獲反応という),多くの場合,核分裂を起こす。核分裂によってできた二つの原子核を核分裂片(核分裂生成物)と呼ぶ。核分裂片は大きな運動エネルギーを有し,2~3個の中性子(核分裂中性子と呼ぶ)とβ線やγ線などの電離放射線を発生する。核分裂に伴い発生するエネルギーの大部分は,この核分裂片の運動エネルギーである。こうして発生した中性子のうち1個以上が他の核分裂性核種に衝突してこれを核分裂させるように設計してあれば,核分裂は連鎖的に続く(核分裂の連鎖反応と呼ぶ)ことになる。原子炉とは核分裂の連鎖反応を制御しつつ持続させる装置である。世界最初の原子炉シカゴパイルNo.1(CP-1)は,E.フェルミらによりシカゴ大学構内に1942年に作られたものである。

連鎖反応が起きている系において単位時間当りの核分裂数を一定に保つためには,核分裂性核種1個の核分裂で放出される数個の中性子のうち,平均して1個だけが次に核分裂を起こすようにする必要がある。中性子数の増減を左右する要素は,(1)核分裂による中性子の発生,(2)原子炉内のさまざまな物質による中性子の捕獲,(3)原子炉体系からの中性子の漏れ,の三つであり,これらがつりあっていれば原子炉内の中性子数は一定に保たれ,単位時間当り一定の数の核分裂が発生しつづけることになる。

 中性子と原子核の反応には,衝突した中性子が原子核に吸収される吸収反応と,衝突した中性子が原子核とエネルギーをやりとりした後,ふたたび中性子がその原子核と離れて自由な運動を続ける散乱とがある。散乱反応の結果,中性子はそのエネルギーを一部原子核に与えるので,自らはエネルギーを減じる。中性子を吸収した原子核は,核分裂する場合と中性子以外の粒子(放射線)を放出する場合(中性子捕獲)がある。これらの反応は量子力学が支配する世界の現象であり,どの反応が起こるかは確率的にしか定められない。原子核反応の起こりやすさを表すには,〈断面積〉という量が使われる。断面積は〈多数の原子核Aからなる物質の薄い層に1個の中性子が入射したときに核反応が起きる確率は,中性子の入射方向に垂直な面に投影された原子核の断面積がこの面内に占める割合に等しい〉という仮定から計算される。したがって断面積が大きいほど,中性子の入射により核反応の発生確率が高い。断面積は物質ごとに,また入射中性子のエネルギーによって異なる値をとる。

 核分裂で生まれた中性子は平均2MeVという高いエネルギーをもち光の速さに近い速度で運動しているので,高速中性子と呼ばれる。高速中性子は体系から漏れ出るか,吸収されないかぎり,周囲の原子核と散乱を繰り返してそのたびにエネルギーを失い,これら原子核の運動エネルギーと同程度になるまで減速していく。減速を起こさせる目的で炉心を構成している物質を減速材という。減速過程にある中性子を減速中性子,周囲の原子核と運動エネルギーが等しくなった(熱平衡に達した)中性子を熱中性子と呼ぶ。原子炉中の熱中性子のエネルギーは一般に0.025~0.07eV程度である。

 原子炉で使用する核分裂性核種を含む物質を燃料と呼ぶ。ここでは減速材に冷却材を兼ねて軽水(普通の水)を使用している原子炉(軽水炉)をモデルに原子炉内の中性子の振舞いを説明する。

 軽水炉の燃料には235Uは約2~3%しか含まれておらず,残りの約97~98%はウラン238 238Uである。この238Uはエネルギーの低くなった減速していく中性子や熱中性子を吸収した場合には239Uになってγ線を放出するだけであるが,高速中性子を吸収した場合には核分裂を起こす。235Uの核分裂により発生した高速中性子の一部は238Uの核分裂を引き起こすことができるので,減速していく中性子数は1.05~1.2倍になる(この係数を高速核分裂係数と呼びεで表す)。減速中性子に対する238Uの中性子吸収断面積は,共鳴反応によりさまざまなエネルギーの中性子に対して大きな値をとる。一方,235Uの吸収断面積は熱中性子に対しては非常に大きいが,高速中性子,減速中性子に対しては小さい。このため,235Uを0.7%しか含まない天然ウランを燃料とする原子炉では,核分裂で発生した中性子が235Uに核分裂を起こさせる以前に238Uに吸収されて失われがちで,連鎖反応は起きにくい。

 この困難を解消する方法は二つある。一つは燃料ウラン中の235Uの割合を高める(濃縮する)ことである。こうすれば燃料に吸収される熱中性子当りに発生する核分裂中性子数が大きくなるからである。軽水炉ではウラン濃縮工場で235Uの濃度を2~4%に高めて使用している。研究用原子炉では,もっと高濃度に濃縮したウランを使うこともある。もう一つの方法は,燃料と減速材を均一に混合しないで,燃料のまわりをある程度の厚さの減速材で取り囲むようにして,減速の途中に燃料中の238Uに捕獲される可能性を減少させることである。このような方法で,減速中に共鳴吸収を逃れる確率pを0.8~0.9程度にまで高くすることができる。

 原子炉において燃料や減速材のある部分(炉心)は有限の大きさをもつため,炉心の表面からは中性子が漏れ出ていく。一般に大きな物体ほどその体積の割りには表面積は小さくなるので,中性子の漏れ出す確率は減少する。また,炉心の周囲を中性子の捕獲断面積が小さく散乱断面積の大きな物質で囲むと,漏れ出す中性子の一部を散乱により炉心に戻してやることもできる。このような目的で置かれた物質を反射体と呼ぶ。

 中性子は上述のように原子核と衝突を繰り返しながら,原子核に吸収されるか,体系から漏れ出ていくかする。中性子が減速中に漏れ出ない確率をPf,熱中性子になってから漏れ出ない確率をPt,原子核によって吸収される熱中性子のうち燃料に吸収されるものの割合(熱中性子利用率と呼ぶ)をfとすれば,核分裂で発生した1個の中性子が燃料に吸収される確率はεpfPfPt)となる。燃料が熱中性子を吸収した場合,核分裂を起こす場合と起こさない(捕獲反応の)場合とがある。燃料に吸収された熱中性子当りに発生する核分裂中性子数を再生率と呼びηで表すと,核分裂で発生した1個の中性子によって(εηpf)(PfPt)個の第2世代の核分裂中性子が発生することになる(図1)。ここでkeff=(εηpf)(PfPt)とおくと,keff>1のときは中性子数,したがって核分裂数が世代を経るごとにkeff倍に,つまり時間の指数関数状に増大し,一方,keff<1のときは世代を経るごとに中性子数が減少する。そして,ちょうどkeff=1のときにのみ中性子数,したがって単位時間当りの核分裂数は世代を経ても変化しない。この状態を臨界という。また,keff>1のときを臨界超過または超臨界,keff<1のときを未臨界または臨界未満という。このようにkeffは原子炉の炉心のような核分裂性物質を含む集合体(中性子増倍体系という)における連鎖反応の特性を支配する基本的指標で,実効増倍係数と呼ばれる。一方,この集合体がかりに無限の広がりをもっているとすれば中性子は漏れようがなく,PfPt=1となるから,この指標はεηpfk∞となる。k∞を無限大増倍係数,この式を四因子公式という。

 以上から,炉心のような中性子増倍体系が臨界になるためには,その組成によって定まるある大きさを必要とすることがわかる。この大きさを臨界寸法と呼び,これに含まれる燃料の量を臨界質量という。臨界質量は,燃料の成分や炉心の形状,減速材,反射体の種類などに関連する(図2)。

核分裂で発生するエネルギーの大部分(約167MeV)は核分裂片の運動エネルギーとして現れるが,核分裂片は発生後直ちに周囲の原子と衝突して自らはエネルギーを失い,周囲の物質を加熱していく。そこでこの核分裂当り約167MeVのエネルギーは核分裂の発生地点ですべて熱エネルギーに変わると考えてよい。なお,核分裂の際に伴って放出される中性子やγ線も,前者は約5MeV,後者は4.6MeVと核分裂エネルギーの一部をもっている。これらも周囲の物質中で相互作用を行う結果,熱エネルギーとなる。また核分裂生成物は一般に放射性でβ線やγ線をながく出しつづける。β線のエネルギーは合計約7MeVであり大部分燃料中で,γ線のもって出るエネルギーは総計6MeVで,燃料中のみならず減速材や冷却材中で,いずれも熱となる。これらの熱は,原子炉の運転停止後未臨界になっていて核分裂が発生していなくても発生しつづける。そのため原子炉停止後も燃料を冷却しつづけることが必要になる。以上をとりまとめたのが表1である。表中にあるニュートリノはβ線とともに発生するが,物質とほとんど相互作用をしないため,原子炉ではそのエネルギーを利用できない。一方,この表に入っていないが,中性子によって放射化した構造材が放出するγ線やβ線による発熱も10MeVほどある。以上のことから,原子炉では核分裂当りに約200MeVのエネルギーが発生すると考えてよく,したがって1Wの出力を得るためには,毎秒約3.1×1010個の核分裂が必要である。中性子を吸収した235Uのうち核分裂するのは84%であるから,核分裂で1000kWの熱を1日出しつづけると約1.3gの235Uが失われていくことになる。

原子炉で核分裂の連鎖反応が発生する場所を炉心という。炉心は燃料,冷却材,減速材,制御材,ならびにこれらを結びつける構造材から構成される。一般に燃料は棒状であり,何本かまとめて燃料集合体(あるいは燃料体)と呼ばれる構造物に組み立てる。炉心はこの燃料集合体により構成される。燃料中に発生した熱は冷却材により運び出される。冷却材は燃料集合体中の燃料棒と燃料棒の間を流れる。冷却材に要求される条件は,熱輸送能力が大きく,中性子吸収断面積が小さく,かつ中性子などの放射線により分解したり放射性物質を生み出したりしないことなどである。熱エネルギーを利用する原子炉では,原子炉を出る冷却材の温度が高いほど熱効率が高まるので望ましい。冷却材としては,軽水(普通の水),重水のほか,気体,液体金属が使用される。特に軽水は,その構成元素の一つの水素の原子核である陽子は,中性子を吸収し重陽子となりγ線を放出する中性子捕獲反応の断面積が大きいという欠点をもつが,その利用技術が確立されており安価であるため,最もよく利用されている。一方,重水は,その構成元素である重水素(ジュウテリウム)Dの原子核(重陽子)がほとんど中性子を吸収しないので,中性子吸収断面積が小さいという優れた特性を有する。

 減速材に求められる条件は,中性子吸収断面積が小さく,散乱断面積が大きいこと,また冷却材と同様,中性子などの放射線により変化しにくいことなどである。さらに,一般に中性子の衝突する原子核の質量が中性子の質量に近いほど散乱による中性子の運動エネルギーの減少率が大きいため,少数回の散乱で熱中性子になりやすい。このため減速材は質量数の小さい元素から構成されていることが望ましく,炭素,軽水,重水,ベリリウムなどが使用される。炉心の構成には,核燃料物質と減速材物質が混合して一体となっている均質型と,ある程度大きい燃料体が減速材中にある非均質型とがある。炉心の周辺部には,通常,中央部から漏れ出てくる中性子を炉心の方へ戻す中性子反射体を置く。

 制御材は,中性子が燃料に吸収される確率を変えて実効増倍係数を制御するための物質で,中性子吸収物質が使われる。中性子吸収材としては中性子吸収断面積の大きな物質が使用される。具体的使用法には,これを棒状または板状に成形したものを炉心に出し入れする場合(これを一般に制御棒と呼ぶ)と,冷却材に溶かして使用する場合(これを一般に液体ポイズンという)がある。物質としてはカドミウム,ホウ素,ハフニウムなどが使用される。なお原子炉の制御には燃料そのものや反射体を使うこともある。

 炉心では核分裂反応に伴ってγ線,中性子線などが発生し,また,放射性である核分裂生成物が生成している。したがってこれらを原子炉外に漏らさない工夫が必要となる。燃料中に発生する核分裂生成物を冷却材中に漏らさないために,燃料はアルミニウムステンレス鋼,ジルカロイ(ジルコニウム合金)等の金属のさやに入れる。このさやを被覆という。次に,炉心を冷却する冷却材を保持し,燃料の被覆が破れて核分裂生成物が冷却材中に漏れ出てもそれを外部に漏らさないように,炉心は通常,原子炉容器と呼ばれる金属容器(炭素鋼やステンレス鋼でつくられる)の中に設置される。原子炉容器は冷却材で満たされており,容器材料の中性子による損傷やγ線による過大な発熱を防止するため,炉心との間に熱遮蔽と呼ばれる遮蔽体を置く。原子炉容器の外側にはコンクリートの遮蔽体を置く。これは,その外側にいる人が過剰な放射線を浴びないようにする目的で設置されるので,生体遮蔽と呼ばれる。

 冷却材は一般に原子炉容器の中または外に置かれたポンプにより駆動され,炉心を通って高温になったり蒸気になったりして炉心を出て,その熱を利用系統に送られる。冷却材中には燃料被覆に欠陥が生じると核分裂生成物がまじる。またそれ自身炉心で中性子により放射化される。このため,炉心を通る冷却材は直接熱利用系へ導かず,熱交換器で別の冷却材に熱を伝えてふたたび炉心に戻すようにすることもある。この場合,炉心を通る冷却材を一次冷却材,熱交換器で熱を伝達される冷却材を二次冷却材という。二次冷却材の水が熱交換器で蒸気をつくるとき,この熱交換器を特に蒸気発生器という。なお,炉心を通る冷却材の循環系に放射性物質を捕捉する装置を置くことは,原子炉冷却材系統や一次冷却材系統の保守点検時の従業員被曝を低くするために有効である。冷却材が水の場合には,一般にイオン交換樹脂などによる脱塩浄化装置が使用される。さらに,一次冷却材系統が万一破損しても放射性物質が環境へ大量に放出されることのないように,原子炉容器ならびに一次冷却材系統の主要部を気密容器に収める。この容器を格納容器という。以上を図示すると図3のようになる。

原子炉は,その炉心設計,使用材料の選択,使用目的などで多様な設計が可能であり,したがって種類も多様である。

 炉心設計の面では,まず核分裂をおもに起こす中性子を熱中性子とするか,ある程度減速した中速中性子とするか,あるいはほとんど減速していない高速中性子とするかという選択があり,これによって熱中性子炉,中速(中性子)炉,高速(中性子)炉という分類が生まれる。中速炉や熱中性子炉では減速材が必要である。また炉心において,中性子の一部は238U,トリウム232 232Thなどに捕獲される。これらの原子核は中性子を捕獲すると

 238U+n─→239U+γ

 239U─→239Np+β(半減期23.5分)

 239Np─→239Pu+β(半減期2.35日)

 232Th+n─→233Th+γ

 233Th─→233Pa+β(半減期22.2分)

 233Pa─→233U+β(半減期27日)

と2度のβ崩壊を経て核分裂性物質である239Puや233Uに変化する(ここでnは中性子,γはγ線,βはβ線)。この現象を転換といい,核分裂性原子1個が核分裂する間に生成する核分裂性原子の数を転換率という。転換率が1より大きいときには原子炉の運転にしたがい炉心で核分裂性物質の量が増えていくので,転換率といわず増殖率という。この転換率を大きく設計(0.7以上を目標にするのがふつう)した原子炉を転換炉,1より大きく設計した炉を増殖炉という。一方,このようにして得られた核分裂性物質を燃料とする原子炉を専焼炉という。

 使用材料による分類もよく行われる。燃料による分類としては天然ウラン炉,濃縮ウラン炉,減速材による分類としては黒鉛炉,重水炉,軽水炉,ベリリウム炉など,冷却材による分類としてはガス冷却炉,水冷却炉,ナトリウム冷却炉などがある。軽水減速軽水冷却炉はしばしば軽水炉と呼ばれるが,これには冷却水に圧力をかけ沸騰するのをおさえつつ高温水を得る加圧水冷却型と,炉心で沸騰を許して原子炉容器から蒸気を取り出す沸騰水冷却型とがある。

 次に炉心構造の面では,原子炉容器に炉心のみを入れている分離型のほかに,炉心が自由表面を有する水のプールに入っていて,この水が冷却材と生体遮蔽を兼ねているスイミングプール型,原子炉容器の中に一次冷却材系統と熱交換器の入っている一体型,あるいは燃料集合体一本一本が冷却材とともに管に入っていて,この管が減速材の入った容器を貫通している圧力管型などがある。

 原子炉は使用目的でも分類が可能である。大別すれば,放射線,特に中性子を利用するものと熱を利用するものがある。前者には研究用原子炉,材料試験炉,医療用原子炉など,後者には発電用原子炉,地域暖房や海水脱塩の目的で使われるプロセス熱源用原子炉がある。

原子炉プラントを構成する設備は原子炉の種類によって異なる。ここでは発電用原子炉を中心に述べる。

炉心は一般に燃料集合体と減速材,冷却材で構成されている。

(1)軽水炉 軽水炉では冷却材が減速材を兼ねており,沸騰水型炉と加圧水型炉がある。軽水炉は,一般工業で使用経験の多い水を使用することから実用化に要する技術開発が少なくてすみ,1960年代にはアメリカで実用化が進められた。96年現在では,世界各国で約300基が使われており,原子力発電設備の80%を占めるにいたっている。これにロシア製のVVERと呼ばれる軽水炉を加えると約90%に達する。この炉型の短所は,一次冷却材系統が高圧になること,100気圧を超える圧力にしても熱効率の悪いことである。

(a)沸騰水型軽水炉(BWR) 冷却材を原子炉内で沸騰させ,その水蒸気を直接タービン発電機に送るなどして利用する型式の原子炉である。減速材も兼ねる冷却材は約70気圧に加圧された約278℃の水で,炉心の燃料棒の間を通っていくうちに沸騰して,一部は蒸気となって炉心上部の気水分離器を通って蒸気と水に分けられ,蒸気はさらに蒸気乾燥器を通って原子炉容器を出て蒸気タービンに送られる(図5-a)。一方,分けられた水は,炉心まわりの領域で吸水と混合してふたたび炉心へ送り込まれる。タービンを通った蒸気は復水器で水に戻されて給水ポンプにより原子炉容器に送り込まれ,ジェットポンプで炉水と混合して炉心に送り込まれる。燃料棒は直径約1.1cmの低濃縮度(3%程度)の二酸化ウランの長さ1cm程度の固まり(ペレットという)をジルカロイ-2でできた被覆管の中に詰めたものである。燃料集合体はこの燃料棒を63本と水を入れた棒1本の計64本の棒を8×8の格子状に配列したものをジルカロイ-4製のチャンネルボックスに入れたもので図5-bの構造になっている。100万kWの発電能力を有する原子炉ではこれが764体集まって炉心を構成している。炉心の大きさは高さ約4.5m(発熱部は3.7m),直径が約4.75mであり,燃料の総重量は約140tである。制御棒は4本の燃料集合体の間の十字路を通るように十字形をしており,そのブレード部分には炭化ホウ素の粉末が入っている。これが185本用意されて原子炉容器の下に設けられた制御棒駆動機構により下から駆動される。原子炉容器は設計圧力が88気圧,設計温度が302℃である。

(b)加圧水型軽水炉(PWR) 加圧水型は冷却材である軽水の圧力を約157気圧とし,温度289℃で下部から炉心に入り,325℃で炉心を出ていくように設計してある。この水は原子炉容器外の蒸気発生器内部の逆U字形の細管を通ってその外側にある二次冷却材の水を加熱沸騰させ,その後ふたたび原子炉容器に送り込まれる(図4-a)。二次冷却材は約80気圧の飽和もしくは過熱蒸気になって蒸気タービンに送られる。100万kWの発電能力を有するPWRでは,燃料ペレット直径は8.2mmとBWRのそれよりやや細めである。燃料集合体は200本前後の燃料棒と制御棒クラスターに連なる20本弱の案内管(シンブル)などで構成され,これらが14×14,15×15,あるいは17×17の正方格子配列になっている(図4-d)。炉心は193体の燃料集合体で構成され,直径約3.4m,装荷される二酸化ウランの総重量は約89tである。制御棒は上部から銀-インジウム-カドミウム合金を封入した棒をそれぞれの案内管に入れる方式で,1燃料集合体に入る約20本の棒が一つの制御棒クラスター駆動装置に連結されており,炉心にはこれが61組入る(図4-b)。PWRに特徴的な機器は加圧器と蒸気発生器である。加圧器は,一次冷却系の圧力を調節する装置で,系の圧力が下がると電熱で中の水を加熱して蒸気を増やし圧力を上げ,圧力が上がりすぎると中の蒸気に冷水をスプレーして凝縮させ圧力を下げる。また一次冷却系の圧力が急に上がり,冷水による調節能力をこえた場合には,ここに備えてある逃し弁,安全弁が開く(図6)。一方,蒸気発生器は図4-cのような構造をしていて,高温の一次冷却水を逆U字管の中を流し周囲の水を加熱する型と,まっすぐな管の中を流す型とに大別される。前者の方が使用例が多い。いずれにしてもこの伝熱管の本数が約1万本以上と多いため,また製造ミスや水質管理の誤りによって使用中に応力腐食割れにより伝熱管にひびが入ることがあるため,製作,検査,管理に特段の配慮が要求される。原子炉容器の設計圧力と温度は175気圧,343℃である。

(2)重水炉 軽水のかわりに中性子吸収断面積の小さい重水を減速材として(場合によっては冷却材としても)使用する炉である。このため天然ウランを燃料として使用できるが,重水は高価であり,中性子を吸収して三重水素(トリチウム)になりやすいという短所もある。使用実績の多いカナダ製の圧力管型炉では,原子炉本体は減速材である重水を入れた容器(カランドリアタンク)に多数の管が貫通していて,この中を高圧の軽水または重水の冷却材が流れる構造になっている。この管を圧力管という。この圧力管の中には直径約16mm,長さ4.5mの燃料棒が28本あるいは37本入っている。重水炉にもこの管中を流れる冷却材を,BWRのように沸騰させる設計と,PWRのように沸騰させないで別に設けた蒸気発生器で二次冷却材を沸騰させる設計とがある(図)。

(3)ナトリウム冷却炉 液体ナトリウムは,過去には黒鉛を減速材とする熱中性子炉の冷却材に使うことも試みられたが,現在は高速増殖炉の冷却材にのみ使われている。高速炉は減速材が不要であるから,軽水のように減速能力の大きなものは冷却材に使用できない。また増殖率を大きくするには,中性子経済をよくするために炉心における冷却材の体積割合を小さくすることが重要で,このために熱伝導率や熱輸送能力の大きい液体ナトリウムが使用されるのである。液体ナトリウムは化学的活性が強く,空気や水に触れると発火・爆発に至ることがあるので,その扱いに注意が必要であるが,常圧での沸点は880℃であるから加圧しなくても高温を得ることができ,これによって良質の水蒸気を得ることができるので,高い熱効率を実現しやすい。

 ナトリウム冷却高速炉の原子炉容器内の構成は,炉心が燃料集合体から構成されているのはこれまでと同様であるが,燃料被覆管はステンレス鋼製で,この中に入る燃料ペレットは劣化ウランに核分裂性プルトニウムを20%程度混合した混合酸化物でできており,燃料棒の直径は約8mmと細く,集合体当りこれが約270本,三角格子状に配列されて六角形状の管の中に入っているところに特徴がある。ナトリウムは炉心下方より380℃前後で燃料集合体に入り,550℃前後で出ていく。炉心を出たナトリウムは中性子照射により放射化されている。現在のところ,このナトリウムは蒸気発生器にではなく中間熱交換器へ送られ,そこで別のナトリウム(二次ナトリウム)を加熱して炉心に戻る。二次ナトリウムは蒸気発生器へ送られて蒸気を発生させる。制御棒としては,B4C粒を詰めた棒を使用する(図)。

(4)ガス冷却炉 ガス冷却炉には,冷却材に炭酸ガスを用いるものとヘリウムを用いるものとがある。前者には,黒鉛減速のコールダーホール型およびその改良型であるAGR,ならびにフランスで開発された重水減速のものがある。このうち現在もイギリスで主力となって稼働しているAGRは,減速材である黒鉛のブロックを積み上げ,それに規則正しくあいている穴に微濃縮ウランの酸化物ペレットを20Cr-25Ni-Nb鋼製の被覆管に入れた燃料棒から成る燃料要素を入れて炉心としている。冷却材である炭酸ガスは,炉心に温度約300℃で入り,650℃内外で出て蒸気発生器に送られている。

 これに対してヘリウムガスを冷却材にした原子炉では,金属を被覆材とした燃料を使用しないで,ウランやトリウムの炭化物を黒鉛で二重,三重に被覆した粒子(被覆粒子)を黒鉛中に多数入れ六角柱状(プリズム状ともいう)に成形したものを集めて炉心とし,この柱にあけた多数の穴に冷却材を流す。アメリカで建設されたフォート・セント・ブレイン炉では,冷却材入口温度が338℃,出口温度が761℃,その圧力は約50気圧となっている。このような原子炉を高温ガス炉と呼ぶ。高温ガス炉の炉心には上に述べたプリズム柱状の燃料要素を用いる方式以外に,多数の上述の黒鉛被覆粒子を黒鉛で直径5cm程度の球に成形したものを黒鉛容器にたくさん入れて炉心とするペブルベッド方式もある。冷却材はこの球のすき間を流れる。高温ガス炉の炉心を出た冷却材は,直接蒸気発生器へ送る,ガスタービンを回したのち蒸気発生器へ送る,あるいは,工業プロセスの熱源として利用する方式も検討されている。

原子炉のコラム・用語解説

【原子炉の分類】

核分裂炉
持続する核分裂連鎖反応により発生するエネルギーを利用するための装置。原子炉といえば一般にこれを指す。
核融合炉
持続する核融合反応により発生するエネルギーを利用するための装置。
ハイブリッド炉
核融合炉の一種で,そのブランケットに核分裂性物質を若干装荷しておくことにより,核融合中性子による核分裂や転換を起こさせて,エネルギーバランスを改善し,あるいは(核分裂炉用の燃料生産により)経済性を改善しようとしているもの。
[核分裂をおもに起こす中性子による分類]
熱中性子炉
核分裂がおもに熱中性子によって引き起こされている原子炉。炉心に減速材がある。
高速中性子炉
核分裂がおもに高速中性子によって引き起こされている原子炉。高速炉ともいう。転換率が1より大きい炉心を設計しやすいので増殖炉としやすい。
[減速材と燃料の置き方による分類]
均質炉
減速材と燃料が中性子から見て均質,つまり中性子の平均自由行程に比較して小さい単位で混合している炉心。この場合,混合物中の燃料の部分と隣接する減速材の部分で事実上中性子束密度に差がないと考えてよい。
非均質炉
減速材と燃料が非均質に混合している原子炉。この場合,減速材中の中性子束密度と燃料中の中性子束密度に差があるため,そのことを考慮した設計解析が必要となる。
専焼炉
転換によって得られた核分裂性物質を燃料に使用する原子炉。
[転換率,増殖率による分類]
転換炉
転換率が大きい(例えば0.7以上の)原子炉。
増殖炉
増殖率が1以上の原子炉。
新型転換炉
日本で開発されている重水減速沸騰軽水冷却炉。英語でadvanced thermal reactor,略してATRという。
高速増殖炉
増殖率が1以上の高速炉。英語でfast breeder reactor,略してFBRという。
[燃料,冷却材による分類]
天然ウラン炉
天然ウランを燃料とする原子炉。減速材に重水や黒鉛を使い非均質炉心とすれば,天然ウランでも数千MWD/Tの燃焼度を達成することができる。
濃縮ウラン炉
濃縮ウランを燃料とする原子炉。
軽水炉
減速材に軽水を用いる原子炉。英語でlight water reactor,略してLWRという。この場合,冷却材も軽水とすることになる。現状ではPWRとBWRの両炉型が使われている。
重水炉
減速材が重水である原子炉。この種類には,冷却材に加圧重水を用いるCANDU-PHW型,沸騰軽水を用いるCANDU-BLW型やATR,イギリスのSGHWRなどがある。研究炉にも多い。
溶融塩炉
燃料が液状の溶融塩である原子炉。アメリカでかつて動いていたMSREが唯一のもので,現状で稼動中のものはない。
ガス冷却炉
気体を冷却材とする原子炉。使用される気体としては空気,炭酸ガス,ヘリウムなどがある。英語でgas cooled reactor,略してGCRという。イギリスで開発されたコールダーホール型原子炉(東海村の第1号機はこの型である)およびAGRは炭酸ガス冷却であり,アメリカや西ドイツで実用化されつつある高温ガス炉はヘリウム冷却である。
高温ガス炉
ガス冷却炉のうち,冷却材出口温度が高いもの。英語でhigh temperature gascooled reactor,略してHTGRという。特にこの名称を用いるべき温度条件は定まっていないが,出口温度が700℃以上でヘリウム冷却である原子炉をいうことが多い。アメリカのフォート・セント・ブレン発電所,西ドイツのAVRやTHTRはこの型である。
加圧水型原子炉
冷却材を兼ねた減速材に加圧水を用いた原子炉。英語でpressurized water reactor,略してPWRという。軽水炉の一種。美浜発電所や大飯発電所の原子炉はこの型である。
沸騰水型原子炉
冷却材を兼ねた減速材に沸騰水を用いた原子炉。英語でboiling water reactor,略してBWRという。軽水炉の一種。福島第1,第2発電所にある原子炉はこの型である。
[構造による分類]
スイミングプール型原子炉
ちょうど水泳プールのような,水を入れた上部の開放されたタンクの中に炉心を入れた原子炉。この水は遮蔽材と冷却材の役割を果たす。研究炉のように,熱を利用せず,炉心に試料を入れるなど,接近する希望の多い原子炉に向いている。日本原子力研究所にあるJRR-4や,安全性研究炉NSRRなどがこの型である。
圧力管型原子炉
減速材がカランドリアタンクに入っており,このタンクを圧力管と呼ばれる管が多数貫通している。この中に燃料要素を入れ,冷却材を流している原子炉。重水炉に使われる型式である。
一体型原子炉
原子炉容器の中に蒸気発生器を入れた加圧水型原子炉。船舶用原子炉として計画された。
[使用目的による分類]
研究炉
研究用の原子炉。主として放射線,特に中性子を利用した研究に使われる。日本原子力研究所のJRR-2,JRR-3,JRR-4,JMTR,あるいはNSRR,京都大学のKUR,東京大学のYAYOIなどがある。
中性子源炉
研究炉の一種で主として中性子源として使われる。東京大学のYAYOIは高速中性子源炉である。
材料試験炉
原子炉材料の研究のため,特に高い中性子束密度が得られ,また,材料試験に十分な大きさの試料を照射できるように設計された原子炉。日本原子力研究所のJMTRはこの型の原子炉である。
臨界実験装置
種々の炉心物質組成に対して臨界量,出力分布,物質の反応度価値などを測定し,あるいは核設計計算手法を検証する目的で使われる原子炉。炉心の物質組成を変更しやすいように,積木状の各種炉心構成材料を組み合わせて炉心を構成できるような工夫がなされている。日本原子力研究所には,FCA(高速炉用臨界実験装置),TCA(軽水炉用臨界実験装置)などがある。
実験炉
ある炉型が実際に建設・運転できることを確かめ,これを実用化するために必要なデータを得るための原子炉。原子炉開発には20種以上の実験炉が建設されているが,動力炉として実用化したのはそのうち数種にすぎない。一般工業分野でいうパイロットプラントに相当する。
原型炉
ある型の原子炉の原型になる原子炉。あるいは一連の同一炉型の原子炉のうち最初に作られたもの。日本の新型転換炉〈ふげん〉や高速増殖炉〈もんじゅ〉は原型炉とされている。
実証炉
ある型の原子炉が工学的かつ経済的に実現しうることを実証するための原子炉。工学的実証に重きをおけば原型炉と同義になる。ヨーロッパではそうした使い方がなされている。日本やアメリカではむしろ経済性の実証を行うことに重きがおかれた,原型炉の次の段階の原子炉をいう。
実用炉
工学的に成熟し,経済的には他のエネルギー供給力と競合できる段階にある原子炉。
動力炉
動力源として使われる原子炉。発電用原子炉,船舶の推進用原子炉などがある。
多目的炉
各種の目的に使える原子炉。例えば,高温ガス炉は,発電のみならず各種工業プロセスの熱源としても使えるのでこのように呼ばれることがある。
生産炉
核分裂性物質,特にプルトニウムの生産に使われる原子炉。プルトニウム生産炉ともいう。大型の天然ウランまたは微濃縮ウラン炉心として,燃料を低燃焼度で取り出す方式がとられる。
化学用原子炉
炉心で工業プロセスとしての放射線化学反応を発生させるための原子炉。放射線重合反応を利用し高分子化合物を生産する。
医療用原子炉
放射線,特に中性子線を用いて腫瘍の治療を行うために建設・利用される原子炉。
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原子炉の燃料は原子炉停止直後は被覆材の融点よりも高温であるため,冷却が不十分だとその保有熱が被覆材へ伝わり,被覆の損傷が起きる。さらに,燃料中に蓄積されている核分裂生成物の崩壊により発熱が続くので,その健全性を維持するためには,それに見合った冷却(崩壊熱除去)を長期にわたって行う必要がある。この目的で原子炉に設置されている系統を停止時冷却系,あるいは崩壊熱除去系という。

軽水炉における水管理は,原水の管理,原子炉冷却水の浄化,液体廃棄物の処理に三分される。このうち冷却水の浄化は,BWRでは原子炉水浄化装置で行われる。これは,(1)原子炉水中の不純物の熱伝達面への付着による燃料棒表面における熱伝達率の悪化を防ぐこと,(2)原子炉水中の腐食生成物およびその他の不純物が放射化され,γ線,β線の二次線源となるのを防ぐこと,を目的に炉水の濾過およびイオン交換を行い,その水質を保持するもので,脱塩浄化装置と呼ばれる。PWRでこれに対応する装置は化学・体積制御設備である。この設備は冷却材中の腐食生成物の除去のみならず,一次冷却材系統への冷却材の充塡補給,中性子吸収材として冷却材へ入れるホウ酸濃度の調整,主冷却材ポンプのシール部への軸封水の供給などの機能を有する。PWRの二次系では,蒸気発生器細管の応力腐食割れを防ぐためにヒドラジンを注入して酸素濃度を制御している。

原子炉施設からはわずかではあるが核分裂生成物が配管や機器を通して環境中に出てくる。これらは気体状,液体状,あるいは固体状の放射性廃棄物と呼ばれる。気体廃棄物にはクリプトンやキセノンという放射性希ガスのほか,ヨウ素,三重水素(トリチウム)などの気体,あるいはクロム,マンガン,コバルトなどの微粒子が含まれる。BWRの場合,コンデンサーの空気抽出器からの排ガスと格納容器や建屋の雰囲気が主要な放出経路である。この排ガスには水の放射線分解で生成した水素,酸素が含まれているので,これを再結合後,減衰タンクに圧縮貯蔵し,放射能を減衰させてからフィルターを通して大気へ放出している。PWRの場合には,窒素を主体とする各種冷却材タンクからのベントガスと化学・体積制御系からの水素を主体とするパージガスの精製過程で生ずる廃ガスが建屋などの雰囲気とともに主成分である。廃ガスは圧縮後,貯蔵し,放射能を減衰させてから放出される。液体廃棄物には機器ドレーン(漏洩水),床ドレーン,そして冷却材浄化の目的で設置された脱塩器の再生の際に生じる廃液があるが,機器ドレーンは濾過・脱塩処理後に原子炉へ送り,床ドレーンは濾過処理後に放射能レベルが低いことを確認して復水器冷却水放水路に放出される。再生廃液は中和後,放射能レベルが高い場合には蒸発,濃縮処理される。また使用済みイオン交換樹脂,フィルタースラッジ,蒸発濃縮液などは,吸水材または固化材と混合し,圧縮減容可能なものはそうしてからドラム缶に詰める。また焼却による減容も有効であり,最近ではこの方式の採用により固体廃棄物発生量は大幅に減ってきている。高速炉やガス炉においては放射性ドレーンがほとんどないので放射性廃棄物の発生量は小さい。液体ナトリウムの精製には,液中の不純物が低温で析出する現象を利用したコールドトラップ,あるいは特定の高温金属面に不純物が付着することを利用したホットトラップを用いる。したがってこれらが固体廃棄物として発生するが,その減容貯蔵は困難でない。

原子炉プラントの制御系は出力制御系,中性子計装系,プロセス計装系,放射線計測系,安全保護系,異常診断系などから構成される。

(1)出力制御系 原子炉を運転すると,燃料中には転換により核分裂性核種もできるが,通常の設計では核分裂性核種の消費のほうが大きく,時間がたつにつれ核分裂性核種の割合が減少していく。一方,中性子を吸収する核分裂生成物は放射性で壊変していくにしても発生量が大きいので蓄積される。そこで,炉心の実効増倍係数は一般に低下していく。また発電用原子炉などでは,出力に対する要求に応じて炉心の実効増倍係数を増減する必要がある。その際,炉心の温度の変化によって燃料や減速材の密度が変わり,吸収断面積の実効的な大きさもドップラー効果で変わるので,実効増倍係数は炉心温度にも関係している。そこで,出力を制御するためには要求出力と現在の出力の差を見ながら制御棒を出し入れしてやる装置が必要になる。これが出力制御系である。

 BWRでは,制御棒による出力制御方式と,炉心内の沸騰状態を主として再循環流量により制御してその実効増倍係数に与える効果により出力調整を行う方式とが併用されている。再循環流量を増減すると炉心で冷却水が沸騰している部分の体積が変化する。沸騰している部分では減速材としての水素の量が少ないため,この部分が増加すると出力は減少する。この方法は炉内の半径方向の出力分布をあまり変化させないので,制御棒系に比較して好ましい制御法である。そこで,定格出力に近いところでの負荷変動への追従にはこの方式が使われ,制御棒系は原子炉の起動,停止の場合のように大幅な出力レベルの変更や長期の反応度変化および出力分布の調整に用いる。

 一方,PWRにおいては制御棒が出力制御の直接の担い手であり,これに関連して一次冷却系の圧力と水量を制御する加圧器圧力制御系,蒸気発生器内水位を保持する水位制御系および負荷急変時などにタービンバイパス蒸気を制御する蒸気ダンプ制御系などがある。運転は一次冷却材平均温度を出力に応じて計画的に変化させる方式をとっている。これを実現する系統図を図6に示す。なお,核分裂生成物の蓄積などに対応する長期的な反応度の制御は一次冷却材中のホウ酸濃度を調整して行われる。通常,初期炉心で1000ppm程度,燃焼末期では40ppm程度の濃度となっている。

(2)中性子計装系 原子炉の制御はおもに中性子の数密度を変化させることで行うため,中性子の数密度を正確に測定することが重要である。一般に中性子の測定は三つの範囲に分けて行う。0出力から定格出力の1/1000くらいまでは起動領域と呼び,一般にパルス状の出力信号をもつ核分裂計数管や比例計数管を用いる。この領域では,中性子の数密度が計器の検出下限以下にならないように炉心に中性子源を入れていることが多いので,中性子源領域とも呼ばれる。中間領域は原子炉周期領域とも呼ばれ,定格出力の0.01%くらいから1%くらいまでの範囲を対象とする。測定器としては,γ線の影響を補償した電離箱がよく使われる。出力領域は定格出力の1%から100%までの範囲で,通常,電離箱出力電流を増幅して出力計に表示させる。

(3)プロセス計装系 プラント各系統の運転状態,すなわち温度,圧力,流量を計測し,必要に応じてそれらの制御を行うための装置である。

(4)放射線計測系 人の放射線障害の防止とプラント施設の安全運転を確保するために,プラント内外の放射性物質濃度や線量率を測定する装置である。

(5)安全保護系 中性子計測装置やプロセス計測装置からの信号に基づき原子炉の安全性を損なうおそれのある状態が生じたと判断される場合に,原子炉の緊急停止(スクラム)やタービン発電機の停止(トリップ)などを行い,原子炉やタービン発電機が損傷することを未然に防止し,さらに非常炉心冷却系などの工学的安全施設を作動させるための装置である。

(6)異常診断系 原子炉の各種プロセス量の変化の様相を分析することにより,発生しつつある異常を同定してその前駆現象のうちにオペレーターに知らせ,異常に関してオペレーターの判断を助ける重要なパラメーターと,行うべき行動のメニューを提示する装置である。1979年のアメリカのスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故をきっかけとしてその重要性が広く認識され,プラント状態診断システムとして開発利用されてきている。

原子炉の安全を確保するためには,施設の位置,構造,設備が災害の防止上支障のないものであること,および施設を運用する者が十分な技術的能力を有することが必要である。

(1)施設の位置 施設の位置については,安全確保に支障のあるような自然的あるいは人工的な事象--たとえば地震や津波,洪水や爆発性の製品を扱う工場の存在など--が過去にもこれからも発生しないことが第1に求められる。第2には,重大事故の発生を仮定しても周辺の公衆に放射線災害を与えないことを目標に,この事故の際に人がその場に長くとどまっていればその人に放射線障害が発生するかもしれないと判断される地域は,公衆が原則として居住しない〈非居住区域〉であることを求める。ここで重大事故とは,敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設などを考慮して技術的見地からみて最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故をいう。第3には,仮想事故の発生を仮定しても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを目標に,この事故の場合に何らの措置も講じなければ公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される距離の範囲は,適切な措置を講じうるように〈低人口地帯〉であることを求める。ここで仮想事故とは,重大事故をこえるような,技術的見地からは起こるとは考えられない事故,たとえば重大事故を想定する際には機能を果たすと仮定した安全防護施設のうちいくつかが作動しないと仮定した場合の事故をいう。第4には,仮想事故の場合,全身被曝線量の積算値が国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に小さくなるように,人口密集地帯から十分距離が離れていることを求める。

(2)構造と設備 原子炉中の放射性物質の分布を調べると表2のように燃料自体と被覆管とのすき間(ギャップ)にその大部分が存在しており,これらは燃料が溶融したり,被覆が破損しないと放出されないので,燃料の過大出力を防止し,燃料の冷却をいつでも確保できるようにするとともに,万一放出された場合にも放射性気体を確実に閉じ込める(格納する)ことができることが要求される。過大出力防止の点で最大の課題は,原子炉が原子爆弾のように爆発するか否かであったが,いくつかの原子炉暴走実験の結果,元来爆弾には熱膨張など自然の現象に逆らって高密度を維持する特別な工夫が必要であるが,原子炉にはそのような仕組みがないので核爆弾のような爆発は起こりえないことがわかった。また,出力暴走事故は炉心に自己制御性を付与することにより著しく穏やかにできることが確認されたので,炉心の反応度フィードバック係数を負に設計し,原子炉緊急停止系を設備することでこの過大出力防止の要求は達成できることが理解された。事故時の燃料の冷却確保には非常用炉心冷却設備が,放射性物質の格納には格納容器が使われていることはすでに述べた。

 これらの安全機能を有する設備の設計が適切で信頼できると判断するためには,まずシステムとして信頼性の高い設計になっているかどうかを検討し,次に原子炉に故障を仮定してその応答を求め,それらのもつ安全機能により,これが予期された範囲内にあることを確認する。後者の手続きを事故解析,事故評価,あるいは安全評価といい,安全審査の重要な手段となっている。

 ところで,建設された安全設備が信頼できるか否かは,その品質にかかっている。品質を確保することは明らかに所有者の責任であるが,日本においては,この点についてもある程度,国が関与することとし,設計および工事の方法については国が認可し,設備完成時には国の使用前検査に合格することを義務づけ,さらに,施設使用中にあっては,定期的にその性能を国が検査することになっている。この考え方は運転員についても適用されており,運転員のうち直長となる者については国がその資格を認定している。

(3)放射性廃棄物の処理 定常時の原子炉安全を支配するのは,放射性廃棄物の取扱いである。すでに述べたように,気体状廃棄物や放射能が極低レベルの液体廃棄物は〈合理的に達成できるかぎり低くAs low as reasonably achievable(ALARA)〉の精神に従い,放射能を十分減衰してから放出される。液体状廃棄物の一部および固体状廃棄物は,基本的には減容・濃縮して固化している。これらの放出をながく続けても,特定元素の濃度のみに注目すれば変化が見られるかもしれないが,環境放射線レベルには有意な変動を与えるものではない。

 廃棄物が大量に出るのは原子炉施設を廃止するときである。原子炉の廃止措置の進め方には,解体撤去,密閉管理,あるいは遮蔽隔離などがあり,技術的にはいずれも可能であるが,後2者は,解体撤去を行う中間段階の手段とも考えられ,撤去後の跡地利用計画との関係でそれらの採用が決定されることになる。原子力利用が進展して原子力発電を中心とした社会開発が進展するものとすれば,跡地を引き続き原子力施設用地として使用していくことが一般的であろうから,原子炉の運転終了時には比較的早期に解体撤去が実施されるだろう。

原子炉の設計作業は,設計目標を定めることから始められる。目標は出力とその性能(例えば冷却材温度など),信頼性,保守の容易さ,経済性,安全性などについて定められる。原子炉設計作業は,(1)臨界条件をつねに維持しつつ所定の出力を発生できる炉心を設計する核設計,この炉心から熱を取り出すための流動伝熱条件を設計する熱設計,ならびに燃料および構造材が使用条件下で過酷な中性子照射を経験しても寿命中はその健全性を維持できるように設計する構造設計からなる炉心設計,(2)原子炉容器およびその内部のいわゆる炉内構造物,ポンプ,熱交換器,配管およびその支持構造などを設計するいわゆる機器設計,(3)炉心,熱輸送系,冷却材浄化系,補助冷却系,廃棄物処理系などのプロセスとその機器の設計を行うプロセス設計,(4)プラントを運転制御するために必要な制御系を設計する制御系設計,(5)安全性確保の観点から設計全体を検討し,特に事故を防止し,あるいはその影響を緩和するために必要な機能である原子炉停止系,非常用炉心冷却系,格納系などの機能とその信頼性を設計する安全設計などの分野がある。以下ではその主要なものとして(1)(2)(5)について述べる。

炉心設計においては,まず原子炉の使用目的に照らして設計対象とすべき原子炉の種類と構成を決める。すなわち第1に熱中性子炉とするか高速中性子炉とするか,第2に燃料の種類(天然ウラン,濃縮ウラン,プルトニウム)とその化学形態(金属,酸化物,炭化物),第3に冷却材,第4に燃料と冷却材の双方と共存性のよい被覆材や構造材の種類を決める。これらを決めた後,炉心構成要素の形状,寸法を決定する。それには設計目標である熱出力に対して必要十分な熱伝達面積,冷却材流量を設計する。安全設計上,通常運転時および機器の故障や誤動作によって生じる過渡状態で燃料が破損しないようにすることが要求される。このために,(1)燃料が一部でも溶融しないこと,(2)被覆材の歪みがその強度限界をこえないこと,(3)燃料表面の熱流束が過大にならないこと,特に液体冷却炉では沸騰を起こさないこと,あるいは起きるとしても局部沸騰までであること,また沸騰水型炉のように沸騰時に熱伝達率が大きくなることを利用する場合には,熱流束が大きくなりすぎると沸騰様式が核沸騰から膜沸騰に移行して熱伝達率が低下するので,この限界となる熱流束(限界熱流束)をこえないこと,などが必要である。

 これらを念頭に燃料の単位長さ当りの出力(線出力密度)の限界値qmaxを定める。酸化物燃料では約600W/cmくらいの値となる。次いで異常や故障による過大出力時にも燃料が破損しないという要求を満たすべくFOV=(異常・故障時の過大出力/通常出力)を安全設計から,炉心のFN=(炉心内最大線出力密度/平均線出力密度)の値を中性子束分布の計算から入手して,平常時の炉心平均線出力密度qaqaqmax/(FOVFN)と計算する。ここでFOVを過出力係数,FNを出力ピーキング係数という。

 次に燃料ピンの発熱部の長さをZ(cm)と仮定し,原子炉出力をQ(W)とすれば,必要な燃料本数NNQ/(qaZ)と計算でき,燃料ピンを四角格子に配列するとして,その格子間隔(ピッチ)P(cm)を与えれば,所要炉心半径RcがπRc2NP2から計算できる。熱流力設計では,燃料ピン半径γf(cm)を変えてプラント熱効率の観点から期待される冷却材の炉心出口温度や蒸気量を検討し,一方,期待されているように燃料から熱がとれるかどうかを検討する。核設計においては,rfPで決まる燃料棒の配列に対して燃料の濃縮度をパラメーターにこの構造が無限に繰り返していると仮定して,中性子の拡散方程式や輸送方程式を解き,ε,P,η,fk∞を求める。一般にk∞は減速材と燃料の体積比の特定の値に対して極大値をもつので,減速材が減るとk∞が小さくなる点に設計点を選ぶ。こうしておくと,万一沸騰が進みすぎて炉心の減速材の量が減少したときにk∞が小さくなり,原子炉が未臨界の方向へ向かうという固有安全性を付与することができるからである。以上の熱流力設計と核設計の考察に加えて,冷却材ポンプ動力,燃料ピンの製造コストなどの経済性の考察も加え,ピッチ,燃料ピン半径,濃縮度を決めることになる。

 制御棒の核的設計も同時に行われる。制御棒の設計においては,(1)たとえ1本の制御棒が入らなくてもkeff<0.99の未臨界になること,(2)原子炉の固有安全性により出力が0から定格値に上昇するとかなり反応度が減少するため,制御棒はこの出力上昇に伴う反応度減少分(出力オーバーライド)を補償できるだけの反応度余裕をもつこと,(3)原子炉の運転を続けると核分裂生成物が蓄積する一方,核分裂性物質が減少し,したがって反応度が減少するので,所定の期間運転を続けるためにはこの反応度減少分を補償できるだけの反応度余裕をもつこと,などが要求される。このため,単に原子炉を停止するに必要な本数よりかなり多くの制御棒が必要になる。安全設計上,制御棒が1本急に抜けるような事故が起こっても,一次冷却材バウンダリーが健全性を損なわないことが要求されるので,制御棒1本当りの反応度をあまり大きくできない。そこで,あまり制御棒の本数を増やさないために,運転による反応度の減少の一部を補償するため冷却材に吸収材を混入してその濃度を調節したり,中性子吸収材を炉心の一部に装荷しておくこともある。この吸収材は運転とともに中性子を吸収して吸収材としての役目を失っていくが,それが核分裂生成物の蓄積による中性子吸収の増大とちょうど打ち消しあえば,制御棒の反応度負担がそれだけ小さくてすむからである。こうした吸収材をバーナブルポイズンという。

原子炉施設を構成する容器,管,ポンプ,弁など,あるいはこれらの支持構造物の構成の設計は,技術的には通常のプロセスプラントの場合と変わるところがないが,その安全裕度は国の定めた技術基準に従って確保される。これらの基準はつねに新しい知見を反映して合理的な方向へ改良されている。軽水炉の構造設計に使われている基準の基本になっているアメリカ機械学会制定のASME Code Section Ⅲの現在の考え方は,(1)材料の変形および破壊は最大剪断応力説による,(2)原子炉の運転状態を通常運転状態,変動状態,異常状態などに分類し,当該機器の役割によって重要となる状態における最大圧力を最大使用圧力とする,(3)各部の応力を計算し,その種々の組合せについて応力強さの限度と比較しながら設計の適否を判断する,(4)機器をその重要度に従って分類し,その分類に応じた使用前検査,供用期間中の検査を行う,の4点から成る。なお,高温下で使用する場合にはクリープ変形,クリープ疲れについて非弾性解析も行い,制限値とも比較しなければならない。機器の中でも原子炉炉内構造物,燃料,あるいは原子炉容器のように中性子照射を受ける材料では,脆性(ぜいせい)遷移温度の上昇の可能性を検討しなければならない。脆性破壊の可能性についての評価は,問題となる場所に仮想できる最大の欠陥の存在を仮定し,この欠陥について使用応力状態での応力拡大係数kmを求めて照射量によって決まる材料の参考応力拡大係数kIRより小さいことを確認する。

 さらに,耐震設計も原子炉構造設計の中での重要な作業である。その基本方針は,想定されるいかなる地震力に対しても,これが大きな事故の誘因にならないように十分な耐震性をもたすことである。設計の第1ステップは設計用基準地震動を定めることであり,現在は歴史的資料から過去において敷地またはその近所に影響を与えたと考えられる地震および近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいものを設計用最強地震として想定,これによる地震動を設計用最強地震動S1とし,さらにこの設計用最強地震を上回る地震を過去の地震の発生状況,敷地周辺の活断層の性質および地震地帯構造に基づき工学的見地からの検討も加えて設計限界地震として想定し,これによる地震動S2を設計限界地震動とする。第2に原子炉施設を重要度に応じて分類する。これは,通常の建物は建築基準法の定めるところの基準,すなわち水平震度C0について耐震設計を行うわけであるが,特に高い放射性物質を内包する建物,構築物についてはこれをBクラスとして水平震度を1.5倍にして設計し,さらにそれが破損すると原子炉事故に至る施設か,あるいは原子炉事故の際放射線災害から公衆を守るために必要な施設はAクラス,中でも原子炉格納容器や原子炉容器はAsクラスとして,水平震度はC0の3倍とし,さらに,上に定めたS1地震,S2地震についてその安全余裕度を検討することにしている。

 放射線遮蔽の設計にあたっては,発電所従業員および発電所周辺地区の住民が受けると予想される放射線量が法律に規定されている許容値を十分下回るように考慮する。その設計の目安となる線量率は,通常運転時の作業,立入りの頻度と時間とを総合的に検討し,その場所の最大立入り時間に応じて区分して設計する。遮蔽材の選択にあたっては単に放射線の遮蔽能力のみならず,そのおかれる温度その他の環境条件におけるその材料の健全性についても十分配慮する。

安全設計は,〈厚く備えるdefence in depth〉という考え方に基づき,原子炉災害の潜在的源である放射性物質の環境への大量放出を確実に抑制するよう安全機能を多段に設計し,各段階の機能が高い信頼度で実現するように関連機器を多重あるいは多様に設計することを基本にしている。すなわち,第1には,故障が起こらないこと,外乱に対して安定であることであり,具体的には炉心に自己制御性を付与して固有安全性を実現するとともに,通常運転に必要な機器,特に放射性物質を閉じ込める燃料被覆材,一次冷却材バウンダリーとなる諸機器を十分な安全余裕をとって設計する。

 第2には,そのように故障の発生しがたい設計を行っても故障や誤動作は発生すると考え,その場合に事故に至ることを防止するために,異常が発生したら原子炉を速やかに停止する原子炉緊急停止系(スクラム系)や,一次冷却材バウンダリーの破損による冷却材流出(冷却材喪失事故と呼ばれる)が発生したときに炉心に冷却材を注入して燃料の温度上昇を防ぎ,放射性物質放出に対する主要な障壁の一つである燃料被覆材の健全性を確保する非常用炉心冷却装置(ECCS)を設置する(図7)。ナトリウム冷却炉やガス冷却炉のように冷却材がまったく失われるような可能性がなく,かつ残存冷却材で冷却が維持できる場合にはECCSは特に必要ではない。非常用炉心冷却設備の具体例としては,炉心上部から水をスプレー状に注ぐ炉心スプレー系,原子炉容器に注水する注水系の2種類がある。またBWRでは低圧大容量注水ポンプを有効に活用するため,小破断時には原子炉容器の圧力を下げる自動減圧系も使われる。

 第3には,第2段の安全機能により大量の放射性物質が燃料から放出されることはないと考えられるが,すでに放出されているものや万一それらの機能が働かないときに発生する大量の放射性物質の環境への放出を防止することを目的として,格納容器,およびその機能を確保するための格納容器圧力低減系,非常用ヨウ素除去フィルター系などを設置する。BWRの格納容器は,ドライウェルと呼ばれる部分と,一次冷却材バウンダリーの破断時に放出される多量の水蒸気をベント管によりサプレッションプールに導き,そこでこれを水中に放出して凝縮復水を図る格納容器圧力抑制系とから構成される。これを圧力抑制型の格納容器という。PWRでは鋼製格納容器の外側に高さが格納容器と等しい円筒形の遮蔽用外周コンクリート壁を設け,これと格納容器の間の環状部分のうち配管,電線などの貫通部の多い下部を密閉して(アニュラス部と呼ぶ)半二重格納構造とした格納系を採用していることが多い。なお,BWRと同様の考え方から,格納容器内に氷の棚を作り,放出された蒸気がここを通るときに凝縮することを利用して圧力低減を図り,格納容器の容積を大幅に減少させたアイスコンデンサー型の格納容器も一時建設されたことがある。

 非常用ガス処理系は,格納容器から漏れる放射性物質の減少を図るための設備である。BWRの場合には,格納容器が原子炉建屋に収容されているので,原子炉建屋内の放射線レベルが高くなると自動的に常用換気系を閉じ,ファンにより建屋内の空気を換気しつつ,格納容器から漏れてくる放射性物質をフィルターにより除去したうえで排気筒から放出するように設計される。ここで使われる非常用ヨウ素フィルターは,有機ヨウ素をもよく吸着するヨウ化カリや有機物などを含浸させた活性炭フィルターと固体状放射性物質を除去する粒子フィルターから構成されており,99%以上の除去効率をもつことが実験的に確かめられている。PWRでは,事故時に格納容器内に放出された放射性物質を除去しつつ容器中空気を冷却して減圧する格納容器空気再循環設備と,アニュラス部を負圧に保ち,その排気をヨウ素フィルターと粒子フィルターにより浄化するアニュラス排気設備とを設けている。

 以上の安全機能の達成に重要なのが電源である。所内非常用電源として直流はバッテリーで,交流はディーゼル発電機で供給することとし,高い信頼度を得るためいずれも十分冗長度を有する系統構成とする。
原子力発電
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「原子炉」の意味・わかりやすい解説

原子炉
げんしろ
nuclear reactor

ウランやプルトニウムなど核分裂をおこす物質を燃料とし、核分裂連鎖反応を人為的に制御するように考案された装置。つまり、原子炉は、原子爆弾のように核分裂連鎖反応を瞬時におこさせるのではなく、持続させ徐々にエネルギーを取り出すようにつくられている。

 第二次世界大戦中の1942年にアメリカのイリノイ州シカゴ大学構内に、フェルミらにより、黒鉛ブロックとウラン、酸化ウランを積み重ねた装置がつくられたのが世界最初の原子炉である。原子炉は最初から核兵器の開発と深く結び付いていて、フェルミらの歴史的実験の成功も秘密にされていた。第二次大戦中、原子炉はおもに原子爆弾用のプルトニウムの生産などに使われ、原子力発電や原子力船などの平和利用の原子炉が開発されたのは、戦後のことである。現在では、原子炉の利用は多方面にわたり、動力用として発電、船舶推進に、そのほか製鉄や宇宙開発などへの利用も進められている。研究・生産用原子炉も多く、広く原子力の研究・開発のための道具として利用され、また人工の放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)の生産なども行う。

 日本には、大学研究機関に研究・試験用原子炉が、日本原子力研究開発機構に研究・試験用および動力用原子炉の開発を目的とする原子炉がある。一方、商業用原子炉としては、日本原子力発電会社と電力会社が全国各地に数多くの原子力発電所を建設・運転しており、また計画・建設中の炉も多数ある。

[青柳長紀]

原子炉の物理

原子炉では、燃料のウラン235の核分裂で発生する中性子がふたたびウラン235の原子核に吸収され核分裂をおこす連鎖反応がおきている。1回の核分裂で平均2.5個程度の中性子が発生するが、そのすべてが燃料に吸収されるわけでなく、別の核反応や燃料の外へ逃げて失われていく。中性子の発生と吸収をうまく調節しないと核分裂連鎖反応が急激に増大したり、持続しなくなったりしてしまう。天然ウランは、ウラン235が全体の0.7%程度しか含まれず、残りはウラン238である。ウラン235は、速度の遅い中性子(熱中性子)を吸収して容易に核分裂をおこし、速度の速い中性子を発生させる。ウラン238は速い中性子でわずかに核分裂をおこすが、一方では速度の速くない中性子を多量に吸収し、プルトニウム239を生み出す非核分裂性物質である。連鎖反応を持続させる方法の一つとして、原子炉の燃料では、ウラン235の存在比を高くし、ウラン238への中性子の吸収を少なくした濃縮ウランが多く使われる。それでも、発生した中性子は、原子炉を構成している多種多様な非核分裂性物質に吸収されたり、原子炉表面から逃げ出したりする。原子炉の物理学では、まず原子炉が無限に大きくて中性子が炉の外に漏れていかないような体系を考え、その中での中性子の発生と吸収のバランスを研究する。

 核分裂で発生した速い中性子は、減速材の原子核に衝突しながらエネルギーを失って減速され、速度の遅い熱中性子になる。いま、核分裂で発生した中性子が減速され燃料に吸収されてから再度核分裂をおこすまでを中性子の1世代と考え、世代がかわったときに中性子の数が何倍になるかを表す数を増倍率というが、持続する連鎖反応を実現するには、この値が1以上でなければならない。無限に大きい原子炉での増倍率は次のような因子で決まる。(1)核分裂により発生した速い中性子は減速される前にウラン238に吸収され核分裂をおこす。これによって中性子個数が増加する、その寄与分。(2)核分裂で発生した速い中性子が減速される途中で、ウラン238に吸収される(共鳴吸収)ことなく熱中性子になる確率。(3)減速された熱中性子のうち燃料の中に吸収される割合(中性子利用率)。(4)1個の中性子が燃料に吸収され核分裂をおこしたとき発生する次の世代の中性子の平均個数。以上四つの因子の積として無限に大きな原子炉の増倍率が現れるが、この関係を表す式を四因子公式という。

 実際の原子炉では、燃料の入った体系(炉心)は有限であり、炉心で発生した中性子の漏れを少なくするため、炉心の周囲を反射材で囲み、漏れる中性子を炉心に返すようにするが、それでも一定の割合で体系外に漏れる。そこで有限の原子炉では、その原子炉が無限に大きいと考えたときにもつ増倍率に、中性子がその体系内で吸収され系外に漏れていかない確率を掛けた値が実際の増倍率となる。前者を無限増倍率というのに対し、実際の有限の炉の増倍率を実効増倍率という。

 原子炉では実効増倍率が1のとき、ちょうど1回の核分裂で発生した中性子のうちの1個だけが燃料に吸収され核分裂をおこし、次の世代の中性子を発生させることになり、連鎖反応は定常的に持続できる。この状態を原子炉は臨界であるという。実効増倍率が1より小さいと、連鎖反応は縮小していき持続できなくなるが、この状態を臨界未満といい、逆に1より大きいと連鎖反応が増大していく臨界超過の状態となる。

 中性子の漏れは炉心の表面でおこるが、中性子は炉心の中で発生する。炉心部分の体積の増加に対し表面積の増加の割合は小さいので、炉心の増大に対し中性子の漏れる確率は小さくなる。したがって、ある一つの炉心に燃料を増加させていくと、中性子の漏れない確率の増加で、原子炉は臨界未満の状態から臨界に達し、やがて臨界超過の状態になる。原子炉が臨界の状態になったときの炉心に含まれる燃料の量および容積を、その原子炉の臨界量および臨界の大きさという。

 原子炉を定常的に運転するには、燃料が臨界をやや超過する程度まで装荷した炉心の中に、熱中性子の強吸収体(制御棒)を挿入し、臨界超過で余分に発生する中性子を吸収することで中性子の発生と吸収のバランスをとり、臨界状態を保つ。以上の説明は、現在もっとも多く存在する熱中性子炉とよばれる形の原子炉の原理についてのもので、高速中性子炉などの原理はやや複雑となる。

[青柳長紀]

原子炉出力と熱工学

核分裂反応で発生する放射線はいろいろの経過をたどるが、最終的には熱になる。原子炉の出力(熱出力)は、炉心の中で単位時間におこる核分裂反応の数で決まり、発生するエネルギーを熱の単位で表したものである。理論的には、炉心内で核分裂連鎖反応を増大させれば単位時間に放出するエネルギーは、ほとんど無限に近くいくらでも大きな出力の原子炉ができることになるが、実際にはその炉の熱除去のできる割合で決まってしまう。

 核分裂エネルギーの80%は核分裂破片の運動エネルギーとなり、すぐに熱になり、すべて燃料中で発熱するが、その他の20%はγ(ガンマ)線や中性子の運動エネルギーなどにもなる。熱中性子炉では、核分裂による全発熱量の90%程度が燃料中で発生するので、燃料といろいろな構造物の間を流れる冷却材との熱の受け渡しがたいせつである。燃料中の発熱分布が決まれば、燃料体、構造物、冷却材各部の温度分布が決まるが、その場合、各要素中の熱伝導と冷却材への熱伝達が重要で、とくに冷却材の沸騰による熱伝達の変化に注意を要する。

 火力の熱機関では構造物は機械的性質を考えて選ばれるが、原子炉材料ではおもに核物理学的性質が優先され、熱的、物理的、機械的に優れた素材が選ばれるとは限らない。したがって、熱応力や化学的腐食による材料の割れの発生や高温での溶解を防止するため、燃料体や構造材の温度を一定の範囲内に抑え、それより上昇したり低下したりしないようにすることや、温度勾配(こうばい)を大きくしたり熱的変動を大きくしないような設計が必要となる。一般に最大の熱出力と最大の熱効率を得るために高温化と熱放出率を高めようとする要求と、熱応力、化学的腐食、長期間の高い中性子密度の中での材料の劣化などを防止するという相反する要求のなかで、厳しい原子炉の熱的設計がなされる。とくに最近では、燃料体や構造材の破壊は核分裂生成物の高い放射能の放出という安全上の問題をおこすため、慎重な材料の選択と熱設計上の改良が原子炉の技術を発展させるための重要なポイントになりつつある。

[青柳長紀]

原子炉材料

原子炉材料は、広義では燃料体の中身の核分裂性物質をも含むことがあるが、普通はこれを含まない。燃料被覆材、冷却材、減速材、反射体材、遮蔽(しゃへい)材および中性子吸収材、その他の炉心構造材、一次系構造材、蒸気発生器材から格納容器材まで入れることもあるが、一般には炉心構造材までにとどめ、あとは原子炉固有の材料を加えるにとどめる。

 原子炉の炉心をつくるのに使用される材料は、原子炉の種類、型式によって若干違う。このほか実用に至らなかった原子炉のために研究された材料や、今後の使用を目標に研究開発されているものがある。燃料被覆材としてのベリリウムおよびその合金、ニオブ合金、バナジウム合金は実用に至らなかった例であり、ナトリウム‐カリウムの共晶合金ナックは研究照射カプセルには封入して使われるが、原子炉の冷却材には実用されない。また融解塩燃料、液体金属燃料の炉も研究開発のみで実用には至っていない。硫酸ウラニル水溶液燃料は日本最初の研究炉JRR‐1(すでに解体された)には用いられた。またフッ化物の融解塩燃料に対する容器材としてアイノール8というニッケル合金が開発されたことがある。

 実際に用いられる原子炉材料を大別すると、(1)旧来からの工業材料を原子炉用に若干仕様を変更して製造させて使うものと、(2)原子炉用に開発された旧来の工業材料の改良材(新合金など)と、(3)まったく原子炉用を目標に新たに工業生産されるようになった金属(いわゆる新金属)および合金とになる。

 (1)の例は研究炉用のアルミ合金、動力炉・研究炉用のステンレス鋼や低合金鋼があり、(2)には炭酸ガス冷却炉用の燃料被覆材のマグノックスやボロン入り鋼、ボラールがあり、(3)の例はジルコニウム合金、ナトリウム、ハフニウム、中性子吸収用の希土類元素の酸化物などがある。

[三島良續]

原子炉の構成要素

原子炉は普通、炉心、反射体、遮蔽体、冷却装置、計測制御装置などから構成される。炉心は、核分裂連鎖反応をおこす燃料体と、中性子を減速させる減速材よりなり、原子炉中もっとも重要な部分である。反射体は、炉心の周囲を囲み、炉心より逃げる中性子を反射させ炉心に返す作用をする。遮蔽体は、炉心から流れ出る強力な放射線を遮断し、原子炉の外に漏れないようにする。一方、冷却装置は、冷却材を炉心、反射体、遮蔽体などの中を循環させ、発生する熱を取り去る。計測制御装置は、強力な中性子吸収体でできた制御棒を炉心に出し入れし、原子炉出力を制御し、また出力、温度、中性子密度、圧力、放射線の強さなどを測定・記録するためにある。

〔1〕燃料体 核燃料物質としては、ウラン235、プルトニウム239、ウラン233などがあるが、天然ウランとウラン235を分離・濃縮し存在比を高めた濃縮ウランの利用が大半で、プルトニウム含有燃料は実用化されつつあるが、トリウム232より生成されるウラン233を使うトリウム燃料は、まだ一般的には使用されていない。核燃料物質は、金属や金属合金、酸化物などの形で円筒型(ペレット)板状、中空円筒型などに成形され、アルミニウム合金、ジルコニウム合金、ステンレス鋼などで被覆される。燃料体は1本の場合もあるが、普通、燃料板や燃料ペレットを積み重ねて被覆管に挿入密封した燃料棒を複数束にし支持機構に収めた燃料集合体(アセンブリ)の形をとる。被覆材は、核燃料物質内より発生するガス(核分裂生成物)の四散を防ぎ、燃料物質中の不純物や核分裂生成物と冷却材との相互作用による化学的侵食作用を防ぐためにあり、冷却材の化学的作用に強く、中性子の吸収の少ない物質が選ばれる。

〔2〕減速材・反射材 中性子の減速効果は、中性子の質量に近い質量数の小さな原子核ほど有効だが、一方では中性子の吸収の少ないほうがよい。普通、軽水(普通の水)、重水、ベリリウム、酸化ベリリウム、黒鉛などが使われている。反射材は減速材と同様の物質がよいが、減速材と兼用されることもある。

〔3〕冷却材 冷却材としては、気体の炭酸ガス、ヘリウム、液体の軽水、重水、溶融ナトリウムなどが使われる。気体の冷却材は、液体と比較し熱伝導度が悪く、より大きな熱除去用循環ポンプ動力を要するが、中性子の吸収が少なく高温にできる特質がある。ヘリウムガスは冷却材として優れた性質をもち高温ガス炉に使われるが、高価である。炭酸ガスは安価で、液体と比較し放射能の発生が少ない利点もあり、コールダーホール型原子炉で使われている。

 液体の冷却材の軽水は、安価で入手しやすく、減速材との兼用も可能なので、もっとも多く使われている。難点は、高温で沸騰し熱伝導度が落ちるため、冷却系を高圧にする必要があることで、中性子の吸収も比較的大きく、不純物による放射能が発生しやすい。重水は、中性子の吸収も少なく減速材兼反射材ともなり有利であるが、トリチウムの発生や、軽水より高価となる欠点もある。液体ナトリウムは、高い伝導度で冷却能力が大きく沸点も高く、冷却材としては優れた物理的性質をもつが、化学的に活性で水との反応により爆発をおこす危険性もある。設計上の注意と特殊な技術が必要で、高速中性子炉におもに使用される。

〔4〕遮蔽材 遮蔽材は、炉心から漏れてくる中性子やγ線などの強い放射線をよく吸収する物質が用いられる。種類としては、水と水素を多く含む水酸化物、ホウ素とその化合物、鉄、鉛、カドミウムなどの金属と、それらを多量に含む重コンクリートがある。炉心や反射体に接した部分ではγ線や速い中性子を吸収し発熱するので、熱除去しやすい軽水タンクや、融点の高い鉄などを置き、発熱による遮蔽体自体の破損を防ぎ、その周囲を重コンクリートなどの遮蔽材で囲む。前者を熱遮蔽といい、後者を生体遮蔽という。

[青柳長紀]

原子炉の種類

原子炉には、利用目的別分類や、炉の原理、燃料、材料、構造の差による分類法がある。後者の例としては、熱中性子の核分裂反応をおこす熱中性子炉に対し、おもに速い中性子の核分裂反応をおこす高速炉がある。1回の核分裂で発生する中性子で新しい核分裂性物質を平均何個生成するかを表す値を転換率(比)というが、転換率1以上の炉を増殖炉、1未満の炉を転換炉とよぶ分類が使われている。

〔1〕研究用原子炉 一般に動力用原子炉に対して、原子力の研究開発のための利用を主目的とする原子炉をいう。利用目的としては、原子炉を線源として中性子線など放射線を使った研究、物質や生体に中性子を照射したときの効果や影響に関する研究、原子炉自体の研究や原子炉計装機器の研究開発、プルトニウムやラジオ・アイソトープの製造、医療への利用、原子力技術者の教育訓練などがある。ゼロ出力の臨界実験装置から熱出力数十万キロワットまでいろいろな型の原子炉があり、熱出力のわりに高い中性子密度と流れが得られる。一般に冷却材の温度は低く、通常発生する熱を利用しない。

(1)ウォーターボイラー型 原子炉開発初期に多くつくられた炉で、球形の炉心に、硫酸ウラニルの濃縮ウランを減速材の軽水と均質に混合した燃料が入っている。1958年(昭和33)日本最初の原子炉となった日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)のJRR‐1はこの型の炉である(68年運転終了、70年解体工事終了)。

(2)スイミング・プール型 濃縮ウランのアルミニウム合金燃料を板状に成形したものを複数枚並べて燃料集合体をつくる。その何本かで構成された炉心を、軽水を満たした開放型容器(プール)の底に入れ、その周囲を黒鉛やベリリウムの反射体で囲む。プール水が減速、冷却、遮蔽の三役を果たす。炉心を直接肉眼で見られるなどの特徴を有し、遮蔽実験、中性子照射実験、教育訓練など多方面に利用される。日本原子力研究開発機構のJRR‐4、京都大学のKURなどがこの型である。

(3)タンク型 燃料体と減速材をともに密封型の容器(炉心タンク)に収め、タンク内の減速材兼冷却材をポンプで加圧循環させ冷却する。出力を高くでき、高い中性子密度と流れが得られる。燃料は天然ウランから高濃縮ウランまで幅広く、燃料体の構造も多種多様で、減速・冷却材の軽水・重水との組合せで特徴ある炉型が多数できる。日本原子力研究開発機構のJRR‐2、3はこの型の炉である(JRR‐2は1996年運転終了)。

(4)材料試験炉 出力と中性子密度が高く、原子炉材料の照射試験を主目的とする。高濃縮ウランをアルミニウム合金板状燃料として、それを炉心タンクに入れる。炉心タンクの中は減速・冷却材の軽水を高い圧力で循環させ、炉心タンクはさらに軽水プールの中に置く。茨城県大洗(おおあらい)町にある日本原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR)がこの型である。

(5)トリガ型 濃縮ウランと水素化ジルコニウムの合金燃料棒を束ね、軽水の入った円筒型容器中に置いた構造をもつ。比較的低出力、安定性があり、実験、教育訓練に利用される。立教大学、武蔵(むさし)工業大学にこの型の炉がある。

(6)高中性子束炉 中性子線で原子や分子の配列、運動などを調べる研究、超ウラン元素の生産、材料の照射試験などのために、小さな炉心で出力を大きくして高い中性子密度と流れを発生させる原子炉である。この種類の炉は、海外には多数あるが日本にはまだない。最近では、高中性子束炉を上回る性能を出す超高中性子束炉の設計と開発が、各国で進められている。

(7)その他の研究炉 東京大学の高速中性子源炉「弥生(やよい)」のように小型で低出力の実験用中性子源炉や、日本原子力研究開発機構のNSRRのように、出力を断続的に高くし、短い時間でも高い中性子密度と流れをつくりだすことのできるパルス炉がある。

〔2〕動力用原子炉 動力用原子炉は、熱出力が大きくなければならないので、熱交換器、タービンなど付属施設と安全装置を含む施設全体が大型化する。また、石油などの他のエネルギー機関と競合する関係で、安全性、経済性の面で優位を保つよう、炉の設計・建設・運転すべてに厳しい技術的要求がなされる。動力炉の実用化には、炉型の選定と開発目標の設定、基礎的な技術開発、実験炉・試験炉での開発研究、開発目標とする炉の機能と安全性を検証する原型炉の建設と運転、商業用の実用炉の建設・運転というように、長期にわたる何段階もの開発ステップを踏む。

[青柳長紀]

実用炉として使われている原子炉

(1)軽水炉 減速材と冷却材に軽水を用いた炉で、水の沸騰を防ぐため冷却系を高圧にして冷却材を循環させた加圧水型炉(PWR)と、炉心で沸騰した蒸気をそのまま循環させる沸騰水型炉(BWR)がある。加圧水型は、蒸気発生器をもち、一次系と二次系に分離されるが、沸騰水型は、炉心で発生した蒸気を直接タービンに送る。加圧水型はアメリカで古くは原子力潜水艦の推進用に開発されたが、発電炉として実用化されたのは1956年ペンシルベニア州シッピングポートの商業用発電所が最初である。沸騰水型は、1957年ドレスデン発電所が完成、60年より商業運転を開始したのが実用化の最初で、その後軽水炉は大型化し、現在では電気出力150万キロワットの大型炉もある。

(2)天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉 早くからイギリスで開発され、燃料に天然ウラン、減速材に黒鉛、冷却材に炭酸ガスを用いたコールダーホール炉が有名である。日本最初の商業用発電所となった原電東海1号炉は改良型コールダーホール炉であるが、その後日本でつくられた発電所はすべて軽水炉である。

(3)黒鉛減速軽水冷却炉 古くから旧ソ連で開発されてきた、減速材の黒鉛ブロック中の1本1本の燃料棒の周囲を冷却材の軽水が流れる(チャンネル)炉心構造をもつ炉で、現在では電気出力150万キロワットの大型炉もある。RBMK炉ともよばれ、チェルノブイリ原子力発電所の事故をおこした原子炉として有名である。

(4)CANDU炉 燃料に天然ウラン、減速材と冷却材に重水を用いた炉で、カナダで開発され国外にも輸出されているが日本にはない。

[青柳長紀]

開発中の動力用原子炉

(1)新型転換炉 現在稼動または建設中の発電所の大半を占める軽水炉は、濃縮ウランを必要とするうえ、転換率も低くウラン資源の一部しか利用できない。転換率の高い新しい型の熱中性子炉として、日本では動力炉・核燃料開発事業団(のちの核燃料サイクル開発機構、現日本原子力研究開発機構)が重水減速・軽水冷却のウラン燃料とプルトニウム酸化燃料を用いる新型転換炉「ふげん」を建設、1979年に運転を開始した。しかし、日本での実用炉の建設は、計画されたものの、おもに経済的採算性がとれないという理由で95年に中止された。「ふげん」は2003年に運転を終了した。

(2)高速増殖炉 速い中性子の核分裂反応を主体とし、燃料を消費するよりも早くプルトニウムを生産できる炉として各国で開発されてきた。日本では、1977年から動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖実験炉「常陽」が運転を始め、その後94年に高速増殖原型炉「もんじゅ」も動きだしたが、95年に起きたナトリウム漏れ事故のため停止中である(現在は日本原子力研究開発機構が所有)。

(3)固有安全炉 原子炉の暴走や冷却水喪失事故をおこさない、新しい安全設計思想で設計された炉をいう。物理的な自然の摂理で、原子炉の緊急停止や炉心の熱除去が確実に達成できる。電気出力60万キロワット程度の比較的小型の炉の開発が各国で進んでいる。

(4)高温ガス炉 世界では、多目的利用の高温のガス冷却炉が開発されてきたが、日本では日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)が試験中である。

(5)溶融塩増殖炉 トリウムを使って、核燃料となるウラン233を増殖する熱中性子炉である。核燃料とトリウムのフッ化物、酸化物などを溶かした溶融塩の燃料を使い、発電と燃料再処理を一体にして行うのが最大の特長である。

[青柳長紀]

原子炉の安全性

原子炉では、核分裂の結果、膨大な放射能が発生する。たとえば、電気出力100万キロワットの軽水型原子力発電所では、1日約3キログラムのウランが核分裂をおこすので、同量の核分裂生成物(死の灰)を生成する。広島に落とされた原子爆弾では1キログラム程度のウラン235が核分裂をおこしたと推定されているから、大型の原子炉中に蓄積される死の灰の量がいかに膨大であるか推測されよう。1年間運転して停止した直後の放射能蓄積量は173億キュリーにもなると計算され、その崩壊熱も20万キロワットにも達する。そのほかに中性子の作用で原子炉構造材が放射化されて生じる放射能(コバルト60など)があるが、その量は死の灰の1000分の1程度である。原子炉の危険性とは、この膨大な蓄積放射能が存在するという潜在的危険をいい、原子炉の安全性とは、それをいかに確実に炉内に閉じ込め、顕在化させないかという問題である。

 原子炉で起こる大事故の一つとして、なんらかの原因で連鎖反応の制御ができなくなり、急激な反応の増大で原子炉が暴走状態になる反応度事故がある。1986年4月ソ連のチェルノブイリ原子力発電所第4号炉で、実用発電炉史上最大の事故が起きた(91年のソ連崩壊後、チェルノブイリはウクライナに属す)。この事故は、長い連続運転の後、原子炉の停止に入る直前の特殊な実験中に、原子炉が暴走し原子炉と建屋が大きく破壊した。原子炉から膨大な死の灰が噴出し、ソ連の近隣諸国まで拡散した。1996年の国際原子力機関の報告によると、事故の被害は死者30名、急性放射線傷害者134名、高放射線レベルの汚染のために疎開させられた住民約11万6000人、復旧作業などで比較的高い放射線被曝(ひばく)をした人は20万人といわれている。さらに放射線傷害として、1995年末までにベラルーシ、ウクライナで、小児甲状腺癌(こうじょうせんがん)が約800人と急増している。その後、事故から20年目にあたる2005年9月に国際原子力機関を中心とする専門家グループによる報告書が発表された。それによると、これまでに事故による直接被曝のために癌などで死亡した人は47名、小児甲状腺癌で死亡した子供は9名であり、今後、これらの人を含めて直接被曝のために死亡する人は4000人に達すると推計した。しかし、この数値に対して、低すぎるとしてグリーンピース・インターナショナルなどから批判が出された。

 もう一つの大事故として、とくに軽水型原子炉などでは、冷却水がなんらかの原因で失われ、炉心が空焚(からだ)き状態となり、燃料が熱で溶解する冷却材喪失事故(LOCA)がある。その例は、1979年3月アメリカのペンシルベニア州スリー・マイル島原子力発電所第2号炉の事故である。この事故では、機械の不良から始まり、人間の誤操作も加わったため冷却材喪失事故となり、炉心が損傷、多量の放射能を長時間にわたり放出し、20万人にも及ぶ多数の住民が避難した。軽水型発電炉では、冷却材喪失事故発生と同時に別の冷却水を注入するための緊急炉心冷却系(ECCS)があるが、なんらかの原因で非常用冷却水が供給されない場合は、原子炉が緊急停止しても、燃料体中の放射性核分裂生成物から発生する多量の熱で燃料温度が上昇、被覆材の溶解で溶けた燃料が圧力容器下部に落下すると考えられる。このような状態を炉心溶融といい、溶けた高温の燃料や被覆材と残留した水とが反応し水素を発生させ、酸素との結合で爆発がおこるかもしれない。さらに完全に冷却材が喪失した場合、溶融物は圧力容器の底部にたまり、容器と下部コンクリートを貫通、最後には地中に進入するという過程が想定できる。実際に、スリー・マイル島の事故では、炉心の半分以上の燃料が溶けて圧力容器の底にたまり、もうすこしで容器の外に流れ出るところだったことが、事故後の調査で判明した。

 このような原子炉の安全設計で想定した事故を上回るような大事故を苛酷(かこく)事故とよぶが、チェルノブイリ事故の後、日本でも苛酷事故に対する対策が検討されるようになった。

 過去の事故例は、原子炉の安全性に「万全の」という形容詞はつけえないことを示しているが、事故の発生を防ぎ、また事故が起こった場合の公衆への被害を防止するため、原子炉の建設以前に、第三者機関で、原子炉設置とその利用の適否について安全審査が行われる。原子炉建設の歴史をみると、古くは地理的条件を考慮し、公衆のいない砂漠の中などに設置されたりしたが、現在でも立地基準は原子炉設置にとって第一に重要な条件である。日本の場合は、原子炉の重大事故または仮想事故の発生で、周辺の公衆に、定められた「めやす線量」を超えた放射線災害を起こしてはならないことが立地基準として定められている。原子炉設置の第二の条件としては、原子炉の定常運転時、放射能による周辺住民の被曝線量限度を定め、できうる限り線量を低くするよう義務づけられている。さらに原子炉の増加に伴った人口密集地への設置を可能にするため、多重防御(深層防御)などの特別の安全思想をもって原子炉を設計・建設・運転するという工学的安全性についての基準がアメリカなどで生まれた。日本でも発電用原子炉では「軽水炉についての安全設計に関する審査指針」に同様な内容が定められている。このほか、地震による事故の発生に関してとられる耐震設計基準が最近とくに問題となりつつある。

 安全審査の基準に適合した原子炉ならば、十分安全かどうかについて、歴史的に多くの論争がされてきた。しかし、現在主流となっている大型の動力用原子炉では、苛酷事故の発生を完全に否定することができない。そのため、二つの大事故の後で、現在の工学的安全性の基準では十分安全は確保されない、原子炉の安全審査基準や安全審査体制に欠陥がある、苛酷事故時の防災体制と緊急時対策が不十分であるなど、さまざまの論争が続いている。大事故の背景には、原子力関係者の「安全に対する思い込み、過信」があることが、国際的にも指摘されている。原子炉技術がまだ未熟であり、多くの原子炉でその工学的安全性もまだ十分実証されないことを考えると、原子炉を用いたエネルギーの利用については、今後も多くの基礎的研究・開発が必要とされているといえよう。

[青柳長紀]

『R・L・マレイ著、遠藤雄三訳『核エネルギー――その原理と応用』(1981・コロナ社)』


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百科事典マイペディア 「原子炉」の意味・わかりやすい解説

原子炉【げんしろ】

原子核分裂連鎖反応を人為的に制御しながら実現・進行させる装置。1942年フェルミが作ったCP-1が最初。核分裂を起こす核燃料と核分裂で放出された中性子の速度を落とす減速材とで炉心を形成し,炉心からもれ出る中性子を反射して炉心に戻す反射材(減速材と同種の物質を使う)で包み,さらに放射線を防ぐ遮蔽(しゃへい)材(水,鉄,コンクリート等)で囲む。炉心には冷却材(炭酸ガス,軽水,重水,溶融ナトリウム・カリウム等)を循環させて熱をとり出し,炉心の加熱を防ぎまた動力に利用する。炉の反応を制御するためには中性子を吸収する制御棒を挿入する。原子炉は以上の構成要素の組合せにより多数の種類に分かれるが,核燃料が減速材中にほぼ均一に分散している均質炉と,両者が独立した形で配置される非均質炉に大別される。また目的により実験研究用,材料試験用,動力炉試験用,動力用(発電用,推進用),プルトニウム生産用,アイソトープ生産用,医療用等に分けられる。大部分の原子炉は速度のおそい熱中性子炉であるが,核燃料の転換率がより大きい転換炉もある。1.ウォーターボイラー(湯沸し)型(WBR)。濃縮ウランと減速材の軽水を硫酸ウラニル溶液として球状タンクに満たした均質炉。低出力,実験用。2.水泳(スイミング)プール型(SPR)。濃縮ウランとアルミニウムの合金棒を軽水(普通の水)のプールに沈めた実験炉。プールでなくタンクに納めた形式をタンク型といい,研究炉に多用,材料試験炉にも用いる。3.加圧水型(PWR)。低濃縮ウランの棒または板に100〜140気圧に加圧した軽水を循環させ減速・冷却材とする。発電用,船の推進用。4.沸騰水型(BWR)。炉心は3.とほぼ同様だが軽水の圧力が低く内部で沸騰する。発電用。5.天然ウラン黒鉛減速型。通称コールダーホール型。ブロック状に積み上げた黒鉛の間に金属ウラン棒を挿入,炭酸ガスを冷却材とする。1956年以来おもに英国で開発,改良されている。世界の発電用原子炉の大半は軽水炉(3.の加圧水型と4.の沸騰水型)であり,原子炉開発も軽水炉が主体であったが,近年は核燃料の効率を高めるため,転換炉(転換比0.7)から一歩進んだ増殖炉(転換比1以上)の開発も進行している。また,原子力を発電だけでなく製鉄,化学工業,地域暖房など多目的に使用することを目的に研究,開発されているのが高温ガス炉(HTGR)である。HTGRは冷却材にヘリウムガスを用い,炉の出口温度を1000℃程度に高め,高温ガスで直接タービンを動かしたり,高温ガスの熱を利用する。原子炉は核分裂を人為的に起こさせ,人為的に制御する装置であるため高度に安全性が確立された設計と徹底的な安全管理のもとで運転されなければならい。安全性確保に絶対はなく,安全性の向上のための技術革新にたえず取り組まなければならない。また事故が発生した場合,大量の放射性物質の外部流出・放出をまねき,最悪の放射能汚染を引き起こすため,すみやかな事故収束の対策が準備されていなければならない。→原子力原子力発電核燃料サイクル放射性廃棄物原発事故アクシデントマネジメント
→関連項目原子力工学原子力産業原子力製鉄原子力船原子力保険原子力ロケットスリー・マイル・アイランド原発事故チェルノブイリ原発事故朝鮮半島エネルギー開発機構電磁ポンプ動力炉プルサーマルメルトダウン吉田昌郎臨界量

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知恵蔵 「原子炉」の解説

原子炉

燃料となる核分裂性物質を炉の中央に一定間隔で並べ、核分裂で発生する中性子を吸収する物質(制御棒)をその周囲に配置した装置。制御棒の出し入れによって、一定レベルの核分裂が起きる臨界状態を保つ。原子力基本法では「核燃料物質を燃料として使用する装置」と定めている。核分裂で生じた高速で飛ぶ中性子は連鎖反応を起こしにくいので、速度を落として熱中性子にする必要がある。そのときの減速材に何を使うか。また、発生する熱を取り出す冷却材をどのような物質にするか。燃料、減速材、冷却材の種類によって炉型も異なる。世界の商業用原子炉の主流はウラン(U)燃料で、減速材と冷却材はともに普通の水(軽水)。そのため軽水炉と呼ばれる。高速増殖炉はプルトニウム(PU)を燃料に使う。減速はせず、冷却材はナトリウムの場合が多い。研究炉や軍事用プルトニウム生産炉には、高濃縮ウランを燃料にしたもの、黒鉛減速、ガス冷却などがある。また、ウラン燃料を粒状にして、減速材の炭化ケイ素で被覆し、ヘリウムで冷却する高温ガス炉も商業用に研究されている。世界初の原子炉は、米国の原爆開発に関連してできたシカゴ・パイル(1942年)。日本で最初に稼働したのは、茨城県東海村にあった日本原子力研究所(当時)のJRR-1(57年)。66年に日本原子力発電(原電)の東海発電所が初めて営業運転を開始し、続いて原電・敦賀1号機、関西電力・美浜1号機、東京電力・福島第一1号機が営業運転に入った。2001年に発足した「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム」(GIF)には日本、米国、英国、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、フランス、韓国、南アフリカ、スイス、中国、ロシアの12カ国と欧州原子力共同体(ユーラトム)が参加。ナトリウム冷却高速炉、超高温ガス炉、ガス冷却高速炉、超臨界圧水冷却炉、鉛冷却高速炉、溶融塩炉の6つの炉型で研究・開発協力が進行中だ。

(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「原子炉」の意味・わかりやすい解説

原子炉
げんしろ
nuclear reactor; reactor

ウラン 235,ウラン 233またはプルトニウム 239などを燃料として核分裂連鎖反応を制御しながら持続させ,一定のエネルギー出力を取り出す装置。現在,発電用として運転中のものは大部分が速度の遅い熱中性子で核分裂連鎖反応を起こさせる熱中性子炉と呼ばれる型のもので,天然または濃縮ウランを使い,ウラン 235の核分裂が効率よく行なわれるように工夫されている。ウラン 235は熱中性子に対する核分裂確率が大きいので,核分裂で生じた高速中性子を熱中性子にするため軽水 (普通の水) ,重水,黒鉛などの減速材を用いる。炉の制御は制御棒によって中性子の密度を加減して行なう。核分裂で生ずるエネルギーは,熱として炉心中を通過する冷却材で取り出す。この熱を動力源として用いる原子炉を動力炉といい,原子力発電や船舶の推進の動力として利用する。小型であって熱は利用せず,主として中性子源として研究用に用いるものを研究炉という。使用する燃料,減速材,その他構造上の相違で各種のものがある。また,炉中の中性子や炉外に取り出された熱中性子は種々の物質の照射に利用されている。さらに,新型原子炉の開発段階で,製作技術の開発研究用につくられる実験炉もある。

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化学辞典 第2版 「原子炉」の解説

原子炉
ゲンシロ
nuclear reactor, reactor

中性子による核分裂連鎖反応を制御できる状態のもとで起こさせ,その結果放出される放射線およびエネルギーを利用しうる装置をいう.臨界状態を維持するだけの“核分裂性物質”,核分裂によって発生する熱を除去する“冷却材”,分裂によって生じる高速中性子を減速する“減速材”,中性子の系外への漏れを防ぐ“反射材”,連鎖反応を維持するための“制御材”,熱や放射線を防ぐ“熱しゃへい体”,“生体しゃへい体”などから構成される.[別用語参照]臨界

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の原子炉の言及

【核燃料】より

…原子燃料ともいい,原子力のエネルギーを原子炉によって利用する際,エネルギーを発生する源になるものをいう。核融合反応を利用する核融合炉での使用が想定される重水素,三重水素なども広義には含むが,一般には核分裂反応を利用する原子炉で使用するもののみをいい,ウランU,プルトニウムPu,トリウムThのいずれか一つ,またはその組合せである。…

【核燃料再処理】より

…原子炉の使用済燃料の中から核燃料物質を回収することをいい,あるいは使用済燃料再処理,または単に燃料再処理ということもある。核燃料が原子炉で使用されると,(1)核分裂生成物がしだいに蓄積してきてこれによる中性子吸収が増加し炉の運転が難しくなる,(2)核分裂生成物の蓄積や放射線損傷により核燃料の機械的性質などが変化し燃料体が損傷するおそれがある――ために,ある期間使用したあとはこれを取り出し新しい核燃料と交換する。…

【原子力】より

…すなわち,235Uの核分裂に伴って発生する中性子を238Uに吸収させることによって239Puを生産しようとの考え方であり,これを実現するために必要となる連鎖反応装置が技術的に可能であるかどうかが検討され始めた。原子炉の概念の始まりである。 そのような原子炉の開発研究はシカゴ大学が中心となって進められた。…

【中性子吸収材】より

…原子炉の炉心を構成する主要な材料の一つで,中性子を吸収し,炉心内の中性子の数を調節して,原子炉の出力の調節あるいは原子炉を停止する役割をもつもの。原子炉が運転状態にあるとき,核燃料は中性子を吸収して核分裂し,熱エネルギーや中性子を発生している。…

※「原子炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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