精選版 日本国語大辞典 「原生動物」の意味・読み・例文・類語
げんせい‐どうぶつ【原生動物】
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真核をもち、多少とも動物的傾向を示す単細胞生物の総称。近年の分類では動物や植物に匹敵する生物群、あるいはプロチスタ群に属する一群とされることがあるが、系統的ではなく、確立された定義もない。多細胞生物と原核生物との境界に位置し、単細胞であるため単純な生物と考えられやすいが、けっして原始的な動物ではない。動物や植物が多細胞化指向の結果、高次の組織化の道を進んだとすれば、原生動物は細胞器官の多様化を指向することによって、高等生物と同様に特殊環境に高度に適応できた生物といえよう。オランダのレーウェンフックが1674年にミドリムシやツリガネムシらしいスケッチを残したのが最初といわれ、以後約6万5000種が知られている。なお、原生動物のうち病原性の種を医学や寄生虫学の分野では原虫、複数形で原虫類ということが多い。
[石井圭一]
淡水、海水、土壌中に広く分布し、水温80℃以上の温泉、積雪中、5000メートル以上の深海にまで生息する。約3分の1は寄生種で、とくに胞子虫類はすべて寄生性である。自由生活種は一般に広範囲に分布し、各地に同じ種がみられる傾向が強い。その反面、微小な環境の相違に出現種は大きく左右される。したがって、環境汚染の指標にも利用されている。
[石井圭一]
10~250マイクロメートルの大きさの個体が普通。最小1マイクロメートル(住血鞭毛虫(べんもうちゅう))から最大5ミリメートル(巨大アメーバ)、有殻のものでは6センチメートル(有孔虫)にも達する。1個の細胞には違いないが、動物1個体に匹敵する機能を発揮する。したがって、細胞自体は高度に精密化し、各種の適応形態が極度に発達している。核は普通、球形であるが、ほかに長棒状、螺旋(らせん)状、ネックレス状など多細胞生物とは比較にならないほど多彩である。多核のものも多く、巨大アメーバは数百個の核をもち、とくに繊毛虫類には機能の異なる大小2種類の核があるのが特徴である。仁は、核の中央に1個ある場合(エンドソーム)と、多数が核内に散在するタイプとに大別できる。有糸分裂を行うが、その過程で核膜や仁が消失せず、あるいは中心小粒のないものなど普通の細胞にみられない分裂形式もある。細胞表面は細胞膜の外側に糖外被を分泌形成する(プラスマレンマという)か、さらに強固な各種の殻(シスト、テスト、ロリカなど)を構築したり、外界の砂粒などの異物を装着するものと、細胞膜直下に分化した構造(ペリクル、甲など)を形成する種とに2大別できる。繊毛虫はとくにペリクルとよばれる外皮が発達し、細胞口、咽頭(いんとう)、食道、肛門(こうもん)など高等動物と相似の特異構造までもっている。細胞質中にはミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、リボゾーム、リソゾームなど一般細胞と同様の小器官がみられるが、ミトコンドリアのクリスタは普通、繊毛型で、ミトコンドリアのない種や1個だけもつものも知られている。ゴルジ体、小胞体やリボゾームの欠如している種もまれにある。以上の一般的細胞器官のほかに、原生動物独特の浸透圧調節のための収縮胞、摂食消化に使われる食胞、飲食管、銛(もり)、吸管、比重調節の気胞、液胞、尿素系の結晶を入れる排出胞、体形維持の骨格構造と収縮のための微小管束や糸筋など、各種の細胞器官が細胞質中に分化し、1個体としての適応機能を分担している。
[石井圭一]
原生動物の三大運動様式がアメーバ運動、鞭毛運動、繊毛運動である。プラスマレンマを表面構造としてもつ細胞が行う移動法で、恒久的な運動器官によらず、運動時に一時的運動器官である仮足(かそく)(擬足(ぎそく)、偽足(ぎそく)ともいう)が形成されることがアメーバ運動の特徴である。細胞体の一部が変形突出して仮足となるが、アメーバ運動の機構はまだ不明の部分が多い。葉状、糸状、網状、有軸仮足などに分類されるが、その区別はかならずしも明確ではない。仮足は運動器官であると同時に食胞形成に直接関与する。鞭毛はアメーバ類や鞭毛虫類にみられる遊泳器官で、その構造から鞭(むち)型と羽型とに大別される。また、基底小粒のほかに副基体や波動膜などの付属構造を伴ったり、数百本以上の鞭毛をもつもの(オパリナ、超鞭毛虫類など)もある。普通、体前端部より起生する種が多い。鞭毛は運動のみでなく、渦流をつくり捕食に役だて、また付着機能や光の受容にも関与する。繊毛は基本的構造は鞭毛と同じで、繊毛虫より起生するものを繊毛といっている。普通、体表面に繊毛列を形成する体繊毛のほかに、とくに周口部では小膜、波動膜、合膜、ペニクルスなど、腹部では棘毛(きょくもう)、剛毛、触毛などの複合繊毛をもつ種も多い。三大運動のほかに、胞子虫類では滑走運動や振動運動、固着性の柄をもつものではスパスモネームの収縮運動も重要である。
[石井圭一]
本来、原生動物は食肉型または腐食型の従属栄養で、細菌、藻類、原生動物、小形動物、それらの断片などをエンドサイトーシス(食細胞作用と飲細胞作用)により食胞内に取り込み、体内消化をするので動物的とみなされている。しかし、鞭毛虫類には色素体をもち独立栄養のものも多く、共通の光合成色素クロロフィルaのほかに、bやc、フィコビリンも含まれる種がある。しかし、高等植物に普通のカロチン系補助色素であるリコピン、γ(ガンマ)-カロチン、フラボキサンチンを欠くことは独特である。アメーバ類や繊毛虫類では共生細菌や共生藻をもつ例も多い。ごくまれにアメーバ類で体外消化吸収様式も知られている。
[石井圭一]
ヒトに病原性をもつものは約30種、マラリアを筆頭に各種トリパノソーマ症、リーシュマニア症、アメーバ赤痢、アメーバ性髄膜炎、トリコモナス腟炎(ちつえん)、トキソプラスマ症が代表的。日本の家畜や家禽(かきん)の寄生種は約250種で、とくにトリパノソーマ、トキソプラスマ、サルマラリア、バベシア、ノセマなどは、人獣共通感染症をおこすので重要である。水産生物、とくに養殖魚に致命的な被害を与える鞭毛虫、繊毛虫、各種の胞子虫類も有名であるが、ことに漁業被害が大きいのは、渦鞭毛虫類、ユウグレナ類、ヘテロクロリス類、クロロモナス類などの異常増殖が原因となる赤潮現象である。
[石井圭一]
生殖は有糸二分裂が一般的で、鞭毛虫を代表とする縦分裂と、繊毛虫の横分裂とがある。両方とも、原生動物特有の多種多様な細胞器官の複製過程は非常に複雑である。胞子虫類では多分裂、繊毛虫類では不等分裂も珍しくない。分裂の結果生じた娘(じょう)個体が分離せずに群体を生じるもの、群体内で多細胞的な分業のみられるものもある。親とまったく形態を異にする幼生を生じ、変態して成体となる例も多い。有性生殖は同型接合から受精に至るまで各段階の生殖法が行われる。接合にも配偶核だけを交換する場合(ゾウリムシ)と、性の異なる2細胞が完全に融合するもの(クラミドモナス)とがあり、自家生殖や自系接合などの変わった方法も繊毛虫類でよくみられる。有性世代と無性世代とが分かれている細胞性粘菌や胞子虫類などでは、胞子やシスト(胞嚢(ほうのう))形成が組み合わさって変化に富んだ生活史を示している。
[石井圭一]
最新の分類体系は、1980年に国際原生動物学会議の専門部会の討議を経て発表されたもので、原生動物を肉質鞭毛虫類、ラビリンツラ類、アピコンプレックス類、微胞子虫類、アセトスポラ類、ミクソゾア類、繊毛虫類の7門に大別している。アピコンプレックス以下の4門は従来の分類では胞子虫類に一括されていた群である。この大系は専門的でかなり難解であるばかりでなく、原生動物のなかでも人間生活と関連が深くて比較的なじみ深い放散虫類、胞子虫類、有孔虫類、粘菌類、有殻アメーバなどの名称が消失あるいは数群に分割されているため、現在の実用には不便をきたし、なじむのに長年月を必要とすると思われる。したがって、便宜的かつ過渡的には、鞭毛虫類、アメーバ類、胞子虫類、繊毛虫類の4群に大別するのが便利である。もともと原生動物は確立された定義がなく、系統を異にした各グループの雑居群で、各群の相互関係もほとんど不明である。そのうえ、裸アメーバやその近縁群のように分類学的にほとんど未知のものもある。近年、粘菌、ラビリンツラ類、渦鞭毛虫類、ユーグレナ類を含む大部分の植物性鞭毛虫を原生動物から分離する傾向もあり、今後も分類体系に幾多の改変が予想される。
[石井圭一]
『猪木正三編『原生動物図鑑』(1981・講談社)』▽『柳生亮三著『動物系統分類学1 原生動物』(1962・中山書店)』▽『柳田友道他著『微生物科学』(1980・学会出版センター)』
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出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…もちろん動物も種々の方法で生殖し,特殊な生殖器官が発達するが,この点は基本的には植物と異ならない。しかしこのような動物と植物の違いは,原生動物,細菌など,単細胞の下等生物では明らかでないことが多い。たとえば,原生動物の鞭毛虫類には,植物のように独立栄養のものと,動物のように従属栄養のものがみられ,動物とも植物ともつかないものが少なくない。…
…土壌中に存在する微生物で,細菌,放線菌,糸状菌,藻類,原生動物などをいう。肥沃な表土には,土壌1g当り細菌数が数十億,糸状菌の菌糸長が数百m,微生物の生体重が土壌有機物量の数%に達することがある。…
※「原生動物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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