日本古代律令制の官職の一つ。諸司の四等官の下に属する下級官職で,公文書を浄書・複写・装丁し,四等官の署名を集めることを職掌とする。交替勤務する内分番の官で,8年(のち6年)ごとに成績が審査される雑任(ぞうにん)の一つ。律令制のもとでの行政上の命令・報告の伝達は公文書で行われるのを原則としたから,上記のような職掌をもつ史生の事務は繁忙であった。しかし文書による行政方式をはじめて採用した大宝令(701成立)が編纂されたころは,まだそうした繁忙さが十分に予測されず,また職・寮・司などの下級官司の公文書はこれを管する省で作成する方針であったらしく,大宝令官制での史生は太政官および八省,諸国などの限られた官司に所属するにすぎなかった。だが和銅~養老のころ(710年代~720年代)より文書行政が本格的に実施されはじめると,各官司から増員・新置の要求が出され,ほぼすべての官司に置かれるにいたった。
執筆者:早川 庄八
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「しじょう」ともいう。令制(りょうせい)の各官庁四等官の下で文書を書写・整備したり、文書に上官の署判を受けたりすることに従事した下級の書記。員数は官司の繁閑によって差があり、太政官(だいじょうかん)、中務(なかつかさ)・式部(しきぶ)省に各20人、治部(じぶ)・民部(みんぶ)・兵部(ひょうぶ)・刑部(ぎょうぶ)・宮内(くない)省に各10人、大蔵(おおくら)省に6人が置かれ、諸国では大宰府(だざいふ)に20人、大国・上国・中国・下国に各3人であった(「職員(しきいん)令」)。その任用は「選叙(せんじょ)令」に式部省の判補(はんぽ)と定められ、『延喜式(えんぎしき)』(式部省)では、各省が書算に巧みな雑色人(ぞうしきにん)(雑役に従事する下級職員)を試験し採用するとある。庸(よう)・調(ちょう)・雑徭(ぞうよう)を免除され(「賦役(ぶやく)令」)、8年間の勤務評定を総合して叙位され(「選叙令」)、その年数には変遷があった。
[井上 薫]
律令制下の諸官司で書記にあたる下級官人。四等官の下にあって,公文書を浄書・書写し,また文案に主典(さかん)以上の署名をとり,公務の遅怠・過失などを指摘することを職掌とする。雑任(ぞうにん)の一つで,式部省から判補される。養老令では,太政官・八省・在外諸司など特定の官司のみに定員が規定されるが,文書行政の進展にともない増員され,寮・職・司などの諸司にも広くおかれるようになった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…こうして令制的な国司制は斉明朝ころには全国的に成立し,その国司の下で編戸,里制の整備,戸籍の作成,班田の実施などが着々と進められたが,大税の管理権など,その権限はまだ制限されていた面もあったようで,国司制が完成の域に達したのは,大宝律令の制定(701)によってであった。
[制度]
表のごとく,全国約60の国は大・上・中・下の4等級に分けられ,国司はその等級によって定員を異にしたが,その官制は守(かみ)(長官),介(すけ)(次官),掾(じよう)(判官),目(さかん)(主典)の四等官と史生(ししよう)(書記)から成っていて,これらは中央官人が6年(のちに4年)の任期で赴任し,その下に多数の現地出身の属吏がいた。職員令の規定によると一般の国の守は,祠社,戸口,簿帳,百姓の字養,農桑の勧課,所部の糺察,貢挙,孝義,田宅,良賤,訴訟,租調,倉廩,徭役,兵士,器仗,鼓吹,郵駅,伝馬,烽候,城牧,公私の馬牛,闌遺の雑物および寺,僧尼の名籍のことをつかさどり,とくに陸奥,出羽,越後等の国はそのほかに饗給,征討,斥候をつかさどり,壱岐,対馬,日向,薩摩,大隅等の国は鎮捍,防守および蕃客,帰化を惣知し,また三関国(伊勢,美濃,越前)は関剗および関契のことをつかさどることになっている。…
…諸官庁の構成のなかで,雑任(ぞうにん)クラスの下級職員は,いずれも番上である。すなわち,中央諸官庁,大宰府,諸国などの史生,中央の伴部,使部,官掌・省掌などの掌類,大舎人・東宮舎人・中宮舎人らの舎人(とねり),兵衛,および親王の公的従者である帳内(ちようない),貴族官僚の公的従者である資人などは,いずれも番上であり,また大宰府や諸国府に勤務した下級職員たちも番上であった。そして式部省に籍を置く散位六位以下は散位寮に番上し,地方諸国の外散位は国府に番上したのであり,国府に番上した下級職員たちとともに外分番ともよばれた。…
※「史生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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