(読み)な

精選版 日本国語大辞典 「名」の意味・読み・例文・類語

な【名】

〘名〙
[一] 個、または集合としての事柄や物を、他から区別するために、対応する言語でいい表わしたもの。なまえ。
① 一般に物事の名称。呼び方。
万葉(8C後)三・三三九「酒の名を聖(ひじり)とおほせしいにしへの大き聖の言(こと)のよろしさ」
② 固有のものとしてつけられた呼称固有名詞
※土左(935頃)承平五年一月七日「このいけといふは、ところのななり」
③ 特に、人やその集団につけられた名称。
(イ) 家や家系としての呼称。血縁集団名としての氏(うじ)や職名としての姓(かばね)など。氏姓(しせい)
※万葉(8C後)二〇・四四六五「惜(あたら)しき 清きその名(な)そ おぼろかに 心思ひて 虚言(むなこと)も 祖の名絶つな 大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴」
(ロ) 一個人の呼称。名前
※古事記(712)中「兄(いろね)の名(な)は蠅伊呂泥(はへいろね)
(ハ) 仏などの名号、または、経典題目
今昔(1120頃か)七「汝、般若の名を聞き奉れる善有り」
[二] (一)に伴う事柄、または、その属性を象徴するものとしての名称。
評判うわさ
※枕(10C終)六二「名取川、いかなる名を取りたるならんと聞かまほし」
② 特に、よい評判をいう。名声。また、名誉。
※万葉(8C後)六・九七八「士(をのこ)やも空しくあるべき万代に語り続ぐべき名は立てずして」
③ 名称だけが実体から離れて先行すること。評判だけの名称。実体を表わしていない名前。虚名。
※万葉(8C後)一五・三七一八「家島は奈(ナ)にこそありけれ海原を吾(あ)が恋ひ来つる妹もあらなくに」
④ 名前に伴って守るべき分際名分。「名をただす」
[三] (形式とその実際の内容とを対比して) 表面的な理由や体裁名目
(イ) 表面上の名誉や体裁。
※肉体の悪魔(1946)〈田村泰次郎〉「こんなときは名よりも実をとった方がいいと思ふな」
(ロ) 表向きに出す形式上の名義。「社長の名で寄付をする」
ノリソダ騒動記(1952‐53)〈杉浦明平〉四「福江の日農支部を勧誘して、日農の名で許可をとった」
(ハ) 何かするためにつける理由。口実。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)六「汝等ばかり芝居見物に行けと、皆の衆へと名がついたら」
※福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉老余の半生「客来を名にして飲んで居たのを」
[四] (助詞「の」を伴って用いる) 名声の高いこと。有名。名代。
※浮世草子・椀久一世(1685)上「誠に昔男の植へ置きし名の桜散らぬうちに見に行かぬかと、さそふ水」
[五] 文字。古く、その物に対する名称の意から転用したもの。真名(まな)、仮名(かりな・かな)など。
※書紀(720)敏達元年五月(前田本訓)「表䟽(ふみ)(からす)の羽(は)に書(か)けり。字(ナ)、羽の黒き随(まま)に、既に識る者(ひと)無し」
[六] 「なごり(名残)の折」の略。
※浪化宛去来書簡‐元祿七年(1694)五月一三日「初折の裏より名の表へむけて此元にて仕」
[補注]上代にあっては、言霊信仰によって、名すなわち物、ことばすなわち実体というとらえ方や意識が強く残っていたと思われる。

みょう ミャウ【名】

〘名〙
① 仏語。物質(色(しき))に対する心のはたらきをいう。〔倶舎論‐四〕
② もののなまえ。な。名称。
※永平道元禅師清規(13C中)赴粥飯法「法若菩提、食亦菩提、名等義等、故言等」
③ 名聞、名声。
※台記別記‐久安三年(1147)一二月一一日「文章博士永範朝臣〈四位〉頗有博学之名
④ 「みょうでん(名田)」の略。人名などの固有名詞を冠し、何々名と呼ぶ。
※百巻本東大寺文書‐四七・貞観元年(859)一二月二五日・近江国依智荘検田帳「今即勘取、令地子、而前々付家継之名、未進巨多」
⑤ 「みょうだい(名代)」の略。
※虎明本狂言・筑紫奥(室町末‐近世初)「わたくしも、在所のみゃうにさされてまいった程に」

めい【名】

[1] 〘名〙
① 人や物につけて、他と区別するための名前。名目。名(な)。〔管子‐心術・上〕
※李陵(1943)〈中島敦〉二「博く儒士法、名諸家の説にも通じてゐたが」
[2] 〘接尾〙 人数を数えるのに用いる。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「局員四十有余名と言やア大層のやうだけれども」 〔荘子‐則陽〕
[3] 〘語素〙 (名詞の上について) 良い、すばらしい、定評のある、などの意を添える。「名選手」「名演技」など。
※咄本・都鄙談語(1773)鸚鵡「近所に名(メイ)蕎麦が出来た。〈略〉その名代蕎麦を取寄せて、あなたへ上い」

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デジタル大辞泉 「名」の意味・読み・例文・類語

な【名】

ある事物を他の事物と区別するために、それに対応するものとして与える、言語による記号。名前。
㋐一般に、その事物の呼び方。「人との付く生き物」「花の
㋑ただ一つしか存在しないものとしての、その事物の固有の呼び方。「富士というの山」「もない島」
㋒その人の、固有の呼び方。氏名。姓名。また、姓に対して、家の中でその人を区別する呼び方。「初対面でを名乗る」「子にを付ける」
㋓その集団・組織などの呼び方。「学校の
集団・組織などを代表するものとして、表向きに示される呼び方。名義。「会社ので登記する」

㋐評判。うわさ。「好き者のが広がる」
㋑名声。名誉。「世にの聞こえた人物」「家のを傷つける」
㋒守るべき分際。名分。→名を正す

㋐うわべの形式。体裁。「会社とはばかりの個人経営」
㋑表向きの理由。名目。「福祉事業ので営利をむさぼる」
[下接語]あだあだあて家名一名浮き名うじ烏帽子えぼしおお贈り名おさな男名替え名隠し名から国名源氏名小路こうじしこ通り名殿名暖簾のれん又の名物の名大和やまと呼び名わらわ
[類語](1)(2名前名称めい名義呼び名しょう呼称称呼称号とな名目ネームネーミング/(3信用評判名誉英名名聞美名盛名令名栄冠栄光栄誉光栄誉れ栄え光輝栄名声誉名声勇名雷名威名英名佳名驍名高名嬌名好評有名著名名うてしん信頼信任信望人望定評暖簾のれん覚え名望声望徳望人気魅力受け面目体面面子メンツ一分いちぶん沽券こけん声価

めい【名】[漢字項目]

[音]メイ(漢) ミョウ(ミャウ)(呉) [訓]
学習漢字]1年
〈メイ〉
人や物の呼び名。「名刺名称名簿名目家名改名学名偽名国名氏名指名書名署名除名姓名題名地名知名匿名売名病名品名別名命名連名
世に知られた名前。ほまれ。評判。「名声名誉悪名栄名汚名虚名声名盛名著名文名有名勇名
名高い。すぐれている。「名案名医名曲名作名士名手名所名勝名人名店名物名文名門
言葉で言い表す。「名状
名古屋。「名神
〈ミョウ〉
な。「名字名跡名代異名戒名称名俗名本名
ほまれ。評判。「名利悪名功名
昔、所有者の名を冠した荘田。「名田小名大名
〈な〉「名前渾名あだな宛名あてな仮名かな真名
[名のり]あきら・かた・なずく・もり
[難読]名残なごり

めい【名】

[名]
なまえ。な。「姓と
名詞の上に付いて、すぐれている、評判が高い、などの意を表す。「文句」「校長」「ピアニスト」
[接尾]助数詞。人数を数えるのに用いる。「40
[類語](1名前名称呼び名しょう呼称称呼称号とな名目名義ネームネーミング/(

みょう〔ミヤウ〕【名】

名田みょうでん」の略。
名代みょうだい」の略。
「夫は所の―にさされて」〈虎寛狂・筑紫の奥

みょう【名/命/明/冥】[漢字項目]

〈名〉⇒めい
〈命〉⇒めい
〈明〉⇒めい
〈冥〉⇒めい

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「名」の意味・わかりやすい解説


みょう

平安後期から中世にかけて、荘園(しょうえん)・国衙(こくが)領における年貢(ねんぐ)・公事(くじ)などの収納単位。名に編成され、管理・徴税責任者たる名主(みょうしゅ)によって統轄される田地が名田(みょうでん)。名には、一般に最初の名主の名前がつけられた。

[編集部]

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世界大百科事典 第2版 「名」の意味・わかりやすい解説

みょう【名】

平安時代から中世にかけての荘園,国衙領(公領)にあって,その内部を構成した基本単位。領主はこの名を単位として農民を支配したが,その実態・性格については,古くから論じられてきたにもかかわらず,今もって確たる定説はない。名の責任者が名主(みようしゆ)である。名の初見は,859年(貞観1)の史料で,以後,戦国時代までみられる。古くは名田と同一視されたが,最近では若干意味が異なると解されている。
[名についての学説史]
 名(名田)には,ふつう人名が冠されている。

な【名 name】

われわれをとりまく森羅万象,そのすべてに名があるわけではない。名付けられたものもあれば,名付けられていないものもある。それは当該の文化と強い相関関係を持っている。 名を与えるという行為には,名付ける人と名付けられる対象とが関与している。そしてその行為の主体は,それぞれの文化を背負った名付ける人の側にある。つまり,名はある意味で名付ける人の側の〈世界像〉を示すものであり,典型的には世界のさまざまな神話にみられる〈名まえを持たぬものに対して名まえを与える状況=創造の状況〉といった多くのテキストが,命名という行為の本質を雄弁に物語っているとみることもできる。

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世界大百科事典内のの言及

【ラベル】より

…商品名,商標,商号などを表示して商品に付したはり札や印刷物の総称。表示事項は商品によってさまざまであるが,内容,品質,成分,使用法,寸法・量,製造年月日,製造・発売者名,製造番号,原産国表示などである。とくに食品,薬品,化粧品のラベルは食品衛生法や薬事法などに基づいて表示事項が厳しく定められている。表示方法ははり付け,縫付け,商品・容器への直接印刷や焼付けなどさまざまである。ラベルの起源は,古代エジプトでブドウ酒を蓄える壺の栓に,その品質を表示した刻印を施したことに始まる。…

【氏名】より

…特定個人の同一性を社会的に確定する機能をもった,ひとりひとりに付される呼称で,氏(うじ)と名(な)からなる。〈姓名〉〈名字(苗字)と名前〉〈名前〉などの言い方もある。…

【人名】より

…個々人を他の人と区別するために,個人ごとにつけられた名をいう。人名には,個人の所属を明らかにするため氏族,家族,父親,居住地などの名が添加されるといったことがあり,また世界の各民族や地域によって,その社会・文化のあり方とかかわる多様性もみられるので,世界数地域における人名について説明する。…

【請作】より

…しかし,このことは反面請作者の義務不履行がない限り,同一地が同一者によって永続的に請作される可能性を含んでおり,現実には〈年来作手〉〈相伝作手〉などと呼ばれて,作手が世襲される傾向を生んだ。請作地は請作者の貢租負担の単位,領主側からすれば収取単位を示すものとして,請作者たる田堵の名を冠して某名(みよう)と称せられるようになるが,平安末期には,からのより確実な収取をめざす領主側の欲求と,田堵の請作地私田化の意欲とがあいまって,田堵の土地緊縛と反面その私的土地占有権の強化が進行した結果,名田(みようでん)制が成立すると理解されている。中世の荘園は,一般に名主(みようしゆ)が占有用益し年貢・公事(くじ)を負担する名田部分と,一色田(いつしきでん)・散田などと称された領主直属地とから成るが,後者はやはり荘園内居住の小農民(作人)らによる請作により経営された。…

【内得】より

…〈内之得分〉の略称。室町・戦国期の近江,越前,美濃など畿内周辺諸国の田畠売券や寄進状などにしばしば現れる用語で,〈名(みよう)之内得〉〈名内得分〉などと表現され,多くの場合名主(みようしゆ)の私的得分である加地子(かじし)分を指し,売買などで移動した。越前西福寺文書の1515年(永正12)2月9日付春庾田地売券は,平内名(みよう)所属の田地2反を売却したものであるが,それには名の内得分を売るのであるから,本役などは自分(名主)の方で負担するので,この田地には万雑公事(まんぞうくじ)は一切かからない旨記されている。…

【田堵】より

…平安時代にみられる荘園(公領)の請作(うけさく)者。かつては名主(みようしゆ)と同じものとみられていたが,最近では名主の前段階的存在とみられている。9~10世紀の史料では主として〈田刀〉とみえる。…

【東国】より

…672年(天武1)の壬申の乱においても,東国の向背は乱を決する意味をもち,大海人皇子(おおあまのおうじ)(のち天武天皇)は美濃に入り,東国の軍勢を動員しえたことによって勝利することができた。東国が畿内を中心とする国家の支配下に名実ともに組織されたのは,逆にこれ以後ということもできるのである。 東国にも東北北半を除いて国郡制が一応貫徹し,天武朝以後,伊賀以東の東海道,あるいは美濃以東の東山道を〈東国〉とする呼称が新たに用いられるようになり,三関以東は〈関東〉,関東・東北地方は〈坂東〉〈山東〉と呼ばれた。…

【番頭】より

…このため荘園内の番の数は12ヵ月に割り振ることができるよう6の倍数になっているものが多い。これらの番は,地名,人名または数詞を冠して呼ばれた。そのおのおのの番にかけられた公事を勤める責任者が番頭である。…

【負田】より

…租税・雑役や年貢・公事等を出す責務を負っている田地のことをいうが,租税あるいは年貢を納入する責任者(負名)の名前を付し“某負田”と称するのが普通である。この場合,負田は〈名(みよう)〉または〈名田〉とも称される。…

【名抜き】より

…〈抜き地〉ともいう。日本の中世後期,名田畠の寄進・売買などの際,その名田畠に賦課されている年貢,公事(くじ)などの公租を,譲渡者が負担することを契約した田畠。荘園制下の田畠に対する賦課はを単位とし,名主が徴税責任者として名内の田畠の公租を請け負っていたが,室町時代以降,加地子(かじし),内徳(うちとく)などと呼ばれる名主得分が増大して名主職の分割売買が盛んになると,その公租の負担の有無が問題となり,契約状にそれが記されるようになった。…

【人名】より

…個々人を他の人と区別するために,個人ごとにつけられた名をいう。人名には,個人の所属を明らかにするため氏族,家族,父親,居住地などの名が添加されるといったことがあり,また世界の各民族や地域によって,その社会・文化のあり方とかかわる多様性もみられるので,世界数地域における人名について説明する。…

※「名」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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