唾液(読み)だえき

精選版 日本国語大辞典 「唾液」の意味・読み・例文・類語

だ‐えき【唾液】

〘名〙 唾液腺から口腔内に分泌される無色無味無臭液体総称食物をやわらかくし、消化を助ける働きをする。粘性のある液体で、表皮細胞、唾液小体を含むため多少にごる。弱酸性で、ムチン、尿素、アミノ酸カルシウムカリウムナトリウムなどや、アミラーゼマルターゼオキシダーゼリパーゼなどの酵素を含む。唾液の分泌中枢延髄にあり口腔に食物が入ると反射的に分泌が起こる。つばき。しばしる。
※医語類聚(1872)〈奥山虎章〉「Insalivation 食物ノ唾液ニ混和スルコト」

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デジタル大辞泉 「唾液」の意味・読み・例文・類語

だ‐えき【唾液】

唾液腺から分泌される無色・無味・無臭の液体。大部分水分で、ムチンやでんぷん分解酵素プチアリンなどが含まれる。つば。つばき。
[類語]つばよだれつばき生つばかたず

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「唾液」の意味・わかりやすい解説

唾液
だえき

口腔(こうこう)内に開いている諸種の唾液腺(せん)から分泌される混合液をいう。哺乳(ほにゅう)類の唾液腺には普通三対の大唾液腺(耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)、舌下腺)と多数の小唾液腺(口唇腺、舌腺、頬(きょう)腺、口蓋(こうがい)腺)がある。耳下腺はタンパク質や酵素に富んだ粘性の低い漿液(しょうえき)性のものを分泌し、顎下腺、舌下腺は漿液性のものと、タンパク質や酵素の少ない粘液性のものとの両方を分泌する。唾液は無味、無色、無臭で、多少粘稠(ねんちゅう)性があり微アルカリ性で、水素イオン濃度(pH)はウマ、ブタで7.4、イヌで7.5、ウシで8.3。比重は1.004~1.007。成分は水、ムチン、プチアリン(アミラーゼ)、アミノ酸、尿素、尿酸などのほか、ナトリウム、カルシウム、カリウムなどの無機塩である。デンプンを分解する消化酵素のプチアリンは、ウマ、ヒツジ、ヤギなどを除く草食動物にはあるが、肉食動物にはほとんど認められない。唾液のおもな生理作用は、口腔の乾燥を防ぐ、食物のそしゃくや嚥下(えんげ)を円滑に行うのに役だつ、消化を若干行う、食物中の味質を溶解して味覚を誘発し、そしゃく運動や消化液の分泌を促進する、などである。鳥類の唾液腺は一般に小さく簡単で、唾液は食物に湿り気を与えたり飲み込みやすくするにすぎないが、キツツキや食肉鳥類ではかなり発達している。キツツキが長い舌に粘い唾液をつけて穴に差し込んで餌(えさ)の昆虫をなめ取ったり、アマツバメ類が唾液で巣を固めたりするのは唾液の変わった作用である。ヘビ類はよく発達した唾液腺をもつが、毒ヘビの場合、唾液腺のあるものは毒を製造する。

 無脊椎(むせきつい)動物では唾液腺は口腔または咽頭(いんとう)に開口する。ある種の貝の唾液腺からの分泌物には塩酸や硫酸が含まれ、また吸血昆虫やダニでは血液凝固物質や溶血素が含まれる。

 このように唾液の組成や機能は動物の種類によってさまざまに異なっている。

[内堀雅行]

ヒトにおける唾液

唾液腺からの分泌物で、俗に「つば」「つばき」ともいう。口腔(こうくう)には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の三つの大きな唾液腺(大口腔腺)のほか、小さな口腔腺(小口腔腺)が分布しており、分泌物を出している。これらの分泌物の混合したものが唾液である。唾液は粘り気のある無色の液体で、99.3%の水分、0.3%のムチンのほか、有機物、無機物がそれぞれ0.2%ほど含まれている。比重1.002~1.008、pH5.4~6.0であり、放置すると二酸化炭素を出し、アルカリ性となる。このときリン酸カルシウムが沈殿して歯に歯石ができる。なお、分泌速度が増すとpHは7.8にもなる。無機物のうちナトリウム、重炭酸塩、クロールは、唾液の分泌量が増えるにつれて含有量も増すが、カリウムは分泌量と関係なく含量も少ない。有機物をみると、耳下腺からの唾液には糖質分解酵素であるプチアリンが含まれており、舌下腺や顎下腺ではムコタンパク質が含まれている。したがって、耳下腺からの分泌液は漿液性で、消化酵素を含み、舌下腺、顎下腺からの分泌液は粘性のある液となる。唾液腺は、漿液を分泌する漿液細胞と、粘液を分泌する粘液細胞とからなるが、耳下腺は漿液細胞だけからなり、顎下腺、舌下腺は両者の細胞からなる混合腺である。

 消化酵素であるプチアリンによって、糖は加水分解される(デンプンやグリコーゲンは87%がデキストリンに、13%が麦芽糖に変化する)。しかし、食物が口の中で唾液と混じり合う時間はごく短いため、この消化はおもに胃の中に入ってから行われることとなる。ところが、プチアリンがもっともよく働くのは、pHが6.8のときであるため、この消化作用も、酸性の胃液が食塊の中にしみ込んでくるまでの間となる。また、ムコタンパク質は、食塊を包み、飲み込みを助ける作用がある。このほか、唾液には歯、粘膜からの食物のかすを洗い去り、口腔を清潔に保つ作用や、舌、口唇を潤して発音を助ける作用もある。

 唾液の分泌は、食物の種類によって異なるが、1日に約1~1.5リットルが分泌される。食物の量が多いと唾液の分泌量も多く、含まれる酵素も大となる。また、酸味の強い食物ほど分泌量は多くなる。これに対して、乾燥した食物を摂取するときは、粘液の多い唾液となるが、その量は少ない。唾液分泌はおもに反射によって行われる。その中枢は延髄にある唾液核といわれるところであり、口腔粘膜が食物によって刺激されると分泌が始まる。また、唾液分泌は条件反射によっても行われる。食事とは無関係な刺激、たとえばベルを鳴らしたあとに食物を与えるという状態にイヌを訓練すると、やがて、ベルを鳴らしただけで、食物を与えなくてもイヌは唾液を出すようになる。この実験から、パブロフが条件反射をみいだしたのは有名な話である。唾液を口腔に排出する導管に、石ができることがある。これを唾石症(だせきしょう)と称するが、この疾患では、唾液の排出が悪くなり、唾液腺が腫(は)れてくる。治療法としては、小さく切開して石を取り去る方法がとられる。

[市河三太]

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百科事典マイペディア 「唾液」の意味・わかりやすい解説

唾液【だえき】

唾液腺から口腔に分泌される消化液。唾液の成分は食性と関連があり,動物によって異なる。肉食獣ではアミラーゼは少ないかほとんどなく,肉食性の巻貝にはタンパク質分解酵素が含まれる。毒ヘビなど有毒動物では毒が,吸血動物には抗凝血物質が含まれる場合がある。ヒトの唾液は無味,無臭,無色。プチアリン(唾液アミラーゼ)を含み,デンプンを麦芽糖に分解する。
→関連項目消化唾液腺

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世界大百科事典 第2版 「唾液」の意味・わかりやすい解説

だえき【唾液 saliva】

俗に〈つば(唾)〉〈つばき〉ともいい,口外に流れ出た唾液を〈よだれ(涎)〉という。大部分は耳下腺,顎下腺,舌下腺から,一部は口腔内の多数の小唾液腺から分泌される無色・無味・無臭の液体。唾液の分泌速度は,食事などによりかなり変動するが,正常成人では約1~1.5l/日である。とくに食物をとらなくとも,ある程度の唾液はつねに分泌されており(約0.4ml/分),その約70%が顎下腺,25%が耳下腺,5%が舌下腺に由来する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「唾液」の意味・わかりやすい解説

唾液
だえき
saliva

口腔内に分泌される液体。唾液腺その他の粘膜腺から分泌される。ムチンを含むため粘稠であり,ヒトの唾液には消化酵素 (プチアリン) が含まれている。ホルモン (パロチン) を含むとの説もある。

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普及版 字通 「唾液」の読み・字形・画数・意味

【唾液】だえき

つば。

字通「唾」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「唾液」の解説

唾液

 唾液腺から分泌される液体.アミラーゼを含む.

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世界大百科事典内の唾液の言及

【消化酵素】より

…炭水化物からできた二糖類は膜酵素の二糖類分解酵素により,タンパク質からのジペプチドは同じくジペプチダーゼにより小腸細胞上皮の細胞膜で分解され,それぞれ単糖類,アミノ酸として吸収される。 唾液の中にはデンプン分解酵素である唾液アミラーゼ,胃液中にはタンパク質分解酵素であるペプシンがあり,酸性の環境ではたらく。膵液中にはデンプン分解酵素として膵アミラーゼ,タンパク質分解酵素としてトリプシン,キモトリプシン,カルボキシペプチダーゼ,エラスターゼなど,脂肪分解酵素としてリパーゼ,ホスホリパーゼなどがある。…

【唾液腺】より

…(1)爬虫類,鳥類,哺乳類の口腔腺のうちで,消化液(唾液)を分泌する腺の総称。唾腺とも呼ばれる。…

【分泌型】より

…ヒトの遺伝的多型形質の一種。ABO式血液型を決める物質(ABH物質)は,赤血球だけでなく唾液,精液その他の分泌液中にも含まれているが,分泌液中のABH物質の量には著しい個人差があり,その量が比較的多い群(分泌型secretor)と少ない群(非分泌型nonsecretor)とに大別される。この状態は遺伝的に決定され,ABO式血液型とは独立して遺伝する。…

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