問屋(読み)といや

精選版 日本国語大辞典 「問屋」の意味・読み・例文・類語

とい‐や とひ‥【問屋】

〘名〙
高野山文書‐寛正六年(1465)一〇月五日・南部庄年貢支配日記「下用分〈略〉五百文 問屋
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)二「馬をからんといへば、宿より宿の問屋(トヒヤ)にあんなひをいふて、問屋の手形をとり」
品物を買い集めて、卸(おろし)売りする商家。とんや。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)一「銭ざしをなはせて両替屋、問(トヒ)屋に売せけるに」
④ 自分の名で他人のために物品販売または買入をすることを業とするもの。取次商の一種。とんや。
商法(明治三二年)(1899)三一三条「問屋とは自己の名を以て他人の為めに物品の販売又は買入を為すを業とする者を謂ふ」
江戸時代大坂堂島の米市場での浜方の一つ。正米及び帳合米を売買するもの。帳合方や積方に対していう。
⑥ 遊里の揚屋のこと。大和国木辻遊廓(奈良市東木辻町・鳴川町)でいわれた。
※浮世草子・五箇の津余情男(1702)四「此所のあげやは、所言葉とて問屋といふ」
[語誌](1)船で商品を扱う人の宿所で、その荷の販売斡旋をしていた「問丸」が、陸上輸送集積所をもいうようになり、「丸」が「屋」となった。
(2)遠国との取引きが多いものは松前問屋、土佐問屋のように地名を冠して呼ばれ、専業的で近国との取引きが多いものは油問屋など品名を冠して呼ばれる傾向があった。
(3)「問屋(トイヤ) 江戸でとんやといふはなまり也」〔浪花聞書〕とあり、近世期は東西で異なった言い方をしていた。

とん‐や【問屋】

〘名〙
① 「といや(問屋)」の変化した語。
随筆・皇都午睡(1850)三「江戸にて問屋(といや)を問屋(トンヤ)と云」
② ある事柄を、一手に引き受けてでもいるような人。そのことを専門としている人。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「おめへは虚誕(うそつき)の問屋(トンヤ)だから、的(あて)にならねへ」

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デジタル大辞泉 「問屋」の意味・読み・例文・類語

とい‐や〔とひ‐〕【問屋】

商法上、自己の名で他人のために物品の販売や買い入れをするのを業とする者。→とんや(問屋)
江戸時代、荷主から委託された貨物を販売したり、または、商品を仕入れて販売したりした卸売商人。中世の問丸といまるが分化・発達したもの。

とん‐や【問屋】

《「といや」の音変化》
生産者・輸入業者・一次卸売業者などから商品を仕入れ、主として最終消費者以外に対して販売を行う流通業者。卸売商。→といや(問屋)
あることを一手に引き受けている人。「悪事の問屋
[類語]ブローカー

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百科事典マイペディア 「問屋」の意味・わかりやすい解説

問屋【とんや】

〈といや〉とも。自己の名義で他人のために物品の販売,買入れを行う業者(商法551条)で,取次商の一種。損益はすべて売買を委託した他人(生産者,小売商,仲買商等)に帰し,問屋は手数料のみを得る中間商である。現代の問屋は卸売市場の卸売業者,証券会社,商品取引員などが該当する。問屋取引は元来遠隔地間の商業に発生。中世の問丸が江戸時代から問屋といわれ,扱い商品も米,油,木材等と専門分化し,江戸や大阪には連合組合(十組問屋(とくみどんや),二十四組問屋)もできた。また宿駅の問屋は伝馬や人夫なども提供し,問屋場を形成。1923年の中央卸売市場法による市場統合に伴い,卸売商や卸問屋(卸売商との兼業)になったものが多く,問屋専業者は減少。俗に問屋と卸売商は同義に扱われている。→問屋(といや)制家内工業
→関連項目伊勢商人牛窓津江戸地廻り経済上諏訪河内木綿絹一揆行徳塩田蔵前相場塩津下津井湊宿・宿駅世間胸算用仲買人奈良井番場宿福島府中干鰯問屋松山(岡山)

問屋【といや】

問屋(とんや)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「問屋」の意味・わかりやすい解説

問屋
とんや

「といや」ともいう。江戸時代の卸売業者。鎌倉,室町時代には問,問丸 (といまる) といわれた。江戸時代,運送や宿泊については専業者ができたので,問屋の営業内容はもっぱら商品の取扱いだけとなった。問屋の種類もいろいろあり,荷主の委託を受け,一定の口銭を取って貨物を仲買人に売りさばく荷受問屋,特定の商品を取扱う専業問屋などがあった。さらに仕切込問屋と称する専業問屋もあって,荷主から商品を買取り,損益は自己負担で仲買に売渡すものであった。これらは,多く株仲間を組織し,共通の利害のもとに団結した。大坂の二十四組問屋,江戸の十組問屋 (とくみどんや) などが有名である。天保の改革後,廃止され,のち復活したが,明治になって卸売商人一般の呼称となった。なお江戸時代に問屋場の業務を司った宿場役人も問屋 (または問屋役) と呼ばれた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「問屋」の解説

問屋
といや

1近世宿駅の宿役人の長。問屋場で年寄の補佐のもと,帳付・馬指(うまさし)などを指揮して宿駅業務を遂行する。名主などの地方役人・町役人を兼務することが多い。

2「とんや」とも。江戸時代に発達した商品流通機構において,倉庫業を兼務して生産者・荷主と仲買・小売商人の売買・取引を仲介する商人。自己資金で取引せず,荷主から預かった商品を保管し,販売を委託され口銭を受け取る荷受問屋や,自己資金で商品を購入し仲買や小売商人に卸売りを行う仕入問屋,また海上輸送を請け負う廻船問屋などがある。国問屋・諸色(しょしき)問屋などの荷受問屋や廻船問屋の方が,中世の問丸に通じる問屋本来のあり方だが,しだいに特定の商品を扱う専業の仕入問屋が多くなり,生産地や買付けを担当する仲買に資金を前貸しするなどして,商品流通の中枢を担った。近代以降は店舗を持つ卸売り商人を一般に問屋とよぶようになった。

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世界大百科事典 第2版 「問屋」の意味・わかりやすい解説

といや【問屋】

自己の名をもって,委託者の計算において(委託者のために),物品の販売または買入れをなすことを業とする者(商法551条)。委託者の物品を第三者に販売し,または委託者の欲する物品を第三者から買い入れるのであるが,その際,委託者でなく受託者自身が売買契約の当事者となる。物品には有価証券を含む。他人の名をもって他人の計算で法律行為をなす代理(民法99条)に対して,自己の名をもって他人の計算で法律行為をなすことを取次ぎといい,問屋は取次ぎの引受けを業とする取次商人の一種で(商法502条11号,4条1項),その営業を問屋営業という。

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旺文社日本史事典 三訂版 「問屋」の解説

問屋
といや

江戸時代の卸売業者
「とんや」とも読む。中世の問・問丸 (といまる) から出た名称。荷主から商品を委託され口銭(手数料)をとって仲買人に売るか,または直接買い取って仲買人に売った。商品の流通機構の中心的存在で,仲間を組織して活動した。大坂の二十四組問屋,江戸の十組問屋が代表的。天保の改革の株仲間解散令で問屋の名称も禁じられたが,嘉永年間(1848〜54)に株仲間が復活した。

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世界大百科事典内の問屋の言及

【委託売買】より

…所定の手数料を支払い,他の業者に委託して行う商品の売買のことであり,販売を委託する〈委託販売〉と,買付けを委託する〈委託買付〉に分けられる。委託売買において委託を受ける業者,すなわち受託者は,おおむね日本における商法上の問屋に該当し,自己の名義で取引を行うが,取引から生ずる損益はあくまでも委託者に帰属するのが通例である。したがって委託販売では,委託者からゆだねられた商品を自己の名義で販売し,その代金から手数料を差し引いたものを委託者に支払い,また委託買付では,買付けを委託された商品を自己の名義で買い付け,その代金に手数料を加えた金額を委託者に請求する。…

【卸売】より

…また取扱商品の範囲によって総合卸売業・業種別総合卸売業・専門卸売業(限定品目卸売業)に,流通経路上の役割や位置によって収集卸売業(産地卸売業)・仲継卸売業(集散地卸売業)・分散卸売業(消費地卸売業),ないしは一次卸(大卸)・二次卸(中卸)・三次卸(小卸)に,発揮する機能の範囲によって全機能卸売業full‐function wholesalersと限定機能卸売業limited function wholesalersに,そして,それぞれの商圏の広がりによって全国卸売業・地方卸売業に分けられる。これらの中で,代理卸売業と限定機能卸売業については,日本ではこれまでごく限られた事例しかみられなかったが,アメリカなどの事例も含めれば,代理卸売業には,ブローカー,コミッション・ハウス(ほぼ商法上の問屋に相当するアメリカの卸売業),駐在買付代理業resident buyers,せり売買会社auction companiesや日本の商法上の問屋などがあり,限定機能卸売業には,ラック・ジョバーrack jobbers(小売店の店頭の一つのコーナーのいっさいの管理をゆだねられ,専門性を発揮する卸売業),現金払い持帰り制卸売業ないしは現金問屋cash‐and‐carry wholesalers,車積巡回卸売業truck wholesalers(wagon jobbers),直送卸売業drop shipment wholesalers,通信販売卸売業mail‐order wholesalersなどがある。 ところで現在では,問屋といえば一般の卸売業(とくに自己卸売業)という概念とほぼ同義に解する傾向がある。…

【株仲間】より


[成立]
 願株の成立以前に,都市においては各種商人,手工業者の私的な仲間が結成されていた。町内に同職種の者が集住する場合には町単位に仲間を結んだり,同じ地方からの出店どうしが仲間となることもあったが,多くの場合,商人は同種類の商品を扱う問屋・仲買層が,手工業者は同職種の者が,数人ないし数十人を単位に仲間を形成した。仲間は行司や年番,年寄などの役員を互いに務め,定期,臨時の寄合を開き,諸種の申合せを行った。…

【宿駅】より

…また社寺への参詣や商人の往来などで宿泊者が増加するにつれ,その施設も充実した。宿には問屋(といや)がいて,伝馬を供給したり,物資の輸送を扱うようになったが,彼らはその地域の有力者が多く,大名の被官であったり,開発地主であったりした。
[近世]
 伝馬制や関所の撤廃は織田信長や豊臣秀吉によって強力に推し進められたが,徳川家康によって全国的に整備されたものとなった。…

【宿場町】より

…また城下町の場合は,宿に該当するのはその一部分であることが多く,伝馬町と呼ばれた区域がそれに相当した。 宿の長を古くは長者といったが,江戸時代には問屋といい,1名または2名ぐらいいて,人馬の継立てや休泊に関する業務をつかさどった。その事務をとる所を問屋場という。…

【商業】より

…また市の発展は貢納物の代銭納と因果関係をもっている。戦国期には問屋と小売の分離,製造と販売の分離が進行し,山城,大和では農間副業の生産者に対する都市問屋の問屋制前貸制度まで行われた。市も毎日開催されるものや,定住店舗の市町も成立し,中心集落に収斂する傾向をもった。…

【商人】より

… 平安末期の京都では,東・西市が衰え,三条,四条,七条通りと,町通りの交差点に店舗ができ,定住店舗をもつ商人が増えはじめた。これらは原料仕入れ,製造・販売を一手に行うもので,問屋と小売も未分離であった。商人の多くは,院宮諸家の権門や寺社に奉仕して,供御人,神人,寄人,散所雑色などの身分を獲得し,諸国通行自由,関銭免除,治外法権の裁判特権などを獲得しており,諸国と京都を往反して,商品の交易に従事していた。…

【問屋場】より

…伝馬所または会所ともいう。宿役人の長である問屋の屋敷の一部をあてることもあり,別に設置する場合もあった。問屋が2人いれば問屋場も2ヵ所になり,問屋の数に応じた。…

【仲買】より

…一般には問屋(といや)と小売店の中間にあって問屋から仕入れた荷を小口にして販売する中間商人をいう。問屋どうしの取引の際,中間に立って売買契約を取り次ぎ,自分の意思での売り買いはせず在庫ももたないブローカーをも含める。…

【買宿】より

…江戸時代,大都市問屋商人のために,生産地にあって商品の仕入買集めの補助をなした商業組織の一種。絹,生糸,木綿,繰綿,麻,紅花などの繊維製品およびその関連原料を扱ったものにみられる。…

【市中相場】より

…取引が個々に進められても,自由な競争を通じ,取引は一定の線に固まるため,その商品の指標的な相場が形成される。市中相場は,問屋どうしの荷の融通を目的とする問屋仲間相場と,商品流通の川上から川下への経路のうちで最も需給実態に忠実な段階の取引価格を抜き出した一般卸相場に大別できる。仲間相場の対象商品は,鋼材,原糸,非鉄金属,米,雑穀などで,大部分の商品は生産者から流通業者を経て需要家へと流れるため,一般卸が市中相場の多数派である。…

【問屋】より

…物品には有価証券を含む。他人の名をもって他人の計算で法律行為をなす代理(民法99条)に対して,自己の名をもって他人の計算で法律行為をなすことを取次ぎといい,問屋は取次ぎの引受けを業とする取次商人の一種で(商法502条11号,4条1項),その営業を問屋営業という。 問屋の起源は,世界各地で遠隔地との取引の始まったときに求めることができ,たとえば商人が遠方へ旅行する別の商人に販売すべき商品または購入にあてる金銭を預け,この者に当事者として売買することを依頼し,また旅行する商人が常宿の主人に,または外国での通訳に,当事者として売買することを依頼した事実が認められている。…

※「問屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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