経済的・社会的には,営業とは,継続的・反復的に行われる営利活動およびその活動を実現するための財産的組織体を統合したものを指す。すなわち行為的側面と組織的側面があるが,営利活動は組織体を離れてはなしえず,財産的組織体は営業活動の沈殿にほかならないから,両者は内在的に関連している。この営業を規制する最も重要な法律は商法である。商法の条文中(すなわち商法典上)に用いられる営業の語は前記の二つの側面に対応し,営利活動を意味する場合(これを主観的意義における営業と呼ぶ)と,その活動のための財産的組織体を意味する場合(客観的意義における営業)とがある。〈営業をなす〉(5,23条),〈営業の部類に属する契約〉(509,510条)などは前者の用例であり,〈営業の譲渡〉(25,245条),〈営業の賃貸〉(245条)などは後者の用例である。営業は以上のように定義されるが,営利目的の活動が,すべて商法にいう〈営業〉であるわけではない。医師・弁護士・画家などの自由職業は,そのあるべき性質から,商法の営業にはあたらないと解されている。また,封筒はりなどの賃仕事・手内職も商法の適用をうけない。ところで,営業に類似する語に企業があるが,商法学上この両者の関係は次のように理解されている。学説では商法(商法典にこだわらず体系的・理論的に構成される実質的意義における商法)は一般に企業に関する法として把握されている(商法=企業法説)。この立場にたてば,本来商法典もまた企業概念を中心にして編纂(へんさん)されるべきことになる。ところが,現行法は企業という語を直接用いず,それに相応するものとして営業なる語を設けている。したがって,営業と企業は実質的に同一の概念であるといっても基本的には差支えない。とはいえ,現行商法典は企業主体および企業取引をとらえるために商人および商行為なる概念を設け,しかもこれらの概念を定義するにあたり後者に重点をおいたため,完全には商法=企業法とはいいきれない部分を残している。つまり,一面では実質上企業活動といえるものであっても商法上の〈営業〉にあたらないとされるものがある。農林水産業などの原始産業(鉱業を除く)は,店舗またはその類似施設で販売活動をしないかぎり(商法4条),商法の適用をうけない。反面,絶対的商行為(501条)のごとく,企業を前提としない行為であっても商法に取りこまれているものがある。これらの問題を解決するには,スイス債務法やドイツ商法のごとく商人概念を中心とするのが望ましい。
フランス革命以来,営業の自由は資本主義経済社会の根本原則とされている。日本国憲法22条は〈職業選択の自由〉としてこの自由を保障するが,次のような理由から種々の営業制限がなされている。まず公法上の制限として,(1)公益上の理由(阿片煙等の販売禁止),(2)保健衛生(飲食業),危険予防(火薬等販売)などの産業警察的理由,(3)事業の公共性(銀行,ガス),(4)国家財政上の理由(タバコ),(5)身分上の理由(判事,国家公務員)などがある。私法上でも,営業譲渡人,支配人,代理商,無限責任社員,取締役の競業は禁止されている(競業避止義務)。なお,営業は禁止・制限されなくても営業の態様が制限される場合がある(商標法,特許法,不正競争防止法,独占禁止法などによる制限)。
商人が営業活動を円滑に行うためには営業に関する人的施設(商業使用人,代理商)および物的施設(営業所,商号,商業帳簿)が必要である。この物的施設のうち,営業活動の中心たる場所が営業所である。それはその活動を指揮命令しその結果を統一する場所でなければならないから,工場や倉庫は営業所ではない。また,ある程度の継続性が必要であるから,一時的な売店や移動的な夜店は含まれない。1個の営業につき数個の営業所を有することができるが,その場合,主従関係により本店と支店に区別される。営業所は債務の履行場所または裁判管轄等を定める基準となる(商法516条,民事訴訟法4条)。
営業活動の成果を計算するための区切りとなる期間のことで,会計年度ともいう。商人は毎年1回一定の時期に貸借対照表を作成しなければならないし,株式会社であれば1年に1回は定時株主総会で計算書類の承認をうけなければならないから(商法33,234,283条),営業年度は1年を超えることはできない。1年より短い期間を定めることは自由である。日本では,旧盆と歳末に貸借の決済を行う社会的慣習があるため,従来営業年度を半年とする企業が多かった。しかし最近では,決算手続と経費を軽減するために営業年度を1年とする傾向が強い。ただし利益の中間配当を行うことはできる(293条ノ5)。営業年度の末日は決算期とも呼ばれる。
営業の譲渡・賃貸借・担保というとき,その営業は一定の営利目的のために組織化された有機的一体としての財産を意味する。それは単なる物または権利の数量的集合体に限らず,得意先関係,ノウ・ハウ等の営業上の秘訣,創業の伝統ならびに経営組織など,営業活動の沈殿物ともいうべき事実関係(のれん)をも含むものである。財産的組織体としての営業は,それを構成する個々の物または権利の単純総計よりは高い価値を有し,それ自体独立して譲渡・賃貸借契約の対象とされる。しかし,法律上は特別財産として取り扱われているわけではない。会社形態をとらない個人企業の場合,営業は対債権者の関係ではなんら独立性をもたず,私用財産と区別して強制執行や破産の対象となるわけではない(わずかに商業帳簿上,営業財産と私用財産は区分経理されるにすぎない。なお会社の場合,私用財産はないからこの問題は生じない)。次に,営業は物または権利の単純総計より高い価値を有しても特別法により財団抵当や企業担保(企業担保権)が認められている場合を除き,そのようなものとして抵当権や質権の目的とすることはできない。日本では,ドイツ,フランスとは異なり,営業それ自体について独自の権利(所有権などの物権)は認められていないからである。もっとも,商法も国民経済的観点からかかる財産的組織体の無益な解体を回避させるため,商号,会社の合併・継続,組織変更など企業の維持をはかるための制度を設けている。
次のように多義的に用いられる。(1)企業会計上,営業権とは〈のれん〉を指す。(2)営業に対する侵害から救済をはかる法理として営業権の概念がもちだされることがある。(3)財産的組織体としての営業自体に対する権利を営業権と呼ぶことがある。いずれの用語法も営業を構成する得意先,営業上の秘訣などの事実関係(のれん)がもつ経済的価値または法益としての価値に注目し,その事実関係((1)(2)の場合)または事実関係を含む営業自体((3)の場合)を権利と同一視している点で共通する。しかし(2)(3)の用語法は必ずしも定着しているとはいえない。財産的価値ある事実関係に対する侵害も不法行為を構成すると解すれば,ことさら(2)のように権利概念をもちだす必要はないからである。また(3)については立法論としてはともかく現行法の認めるところではない(前述の〈組織体としての営業〉参照)。
営業の譲渡とは組織体としての営業を契約によって移転することである。会社の合併とともに企業結合の重要な手段であるが,営業譲渡は合併と次の点で異なっている。合併は団体法上の契約で全財産が包括的に承継される。したがって財産の個別的移転行為は不要(対抗要件手続は個別的に行う)であるが,同時に一部の財産を移転から除外することもできない。債務も当然相手方会社に引き継がれる。また,被合併会社は解散し消滅する。これに対し営業譲渡は取引法上の契約であるから,財産の移転は個別的に行わざるをえないが,反面,特約により財産の一部を譲渡の対象から除くことができる。債務についても譲渡会社は債権者の承諾をえて譲受会社に債務引受けをさせない限りその債務を免れることはない。たとえ営業全部を譲渡しても,会社は当然には解散しない。また使用人との間の雇用関係については,合併の場合法律上当然に合併会社に引き継がれるが,営業譲渡の場合には当然には引き継がれるものではないとする見解が有力である。営業はその一部が譲渡されることもある。たとえば工場の譲渡が営業の一部の譲渡かそれとも単なる営業用財産の譲渡にすぎないかは,それが組織体としての営業の一部といえるような有機的一単位の移転であるかどうかにより判断される。営業譲渡の譲渡人は譲渡した営業と同一の営業をしてはならない(競業避止義務,商法25条)。個人商人の場合営業譲渡に際して特別の手続を必要としないが,会社の場合には総社員の同意(合名・合資会社)または株主(社員)総会の特別決議(株式・有限会社)が必要である(商法72,147,245条,有限会社法40条)。ただし,この承認手続を要する営業譲渡とは,譲渡人の競業避止義務を伴うものに限られるか否かについては見解が分かれる(判例は肯定)。なお,独占禁止法は実質的に競争を制限する営業譲受けまたは〈不公正な取引方法〉による営業譲受けを禁止し,また違反行為の事前審査のためその届出を要求している(独占禁止法16,15条)。
営業の賃貸借とは,営業の全部または一部を他人に賃貸する契約をいう。実際には,経営の破綻(はたん)した企業が大企業に営業を賃貸する形をとることが多い。この方法を利用すれば容易に営業を拡大できるばかりではなく,営業の縮小も簡単となる。賃貸借契約を解消するだけで足り,営業設備の処分や従業員の解雇といった面倒な手続がないからである。このように営業の賃貸借は企業結合の一手段として利用されるので,営業の譲渡の場合と同様独占禁止法上の制約がある。営業の賃貸借については会社における手続(商法245条)以外とくに規定はないが,賃貸人の競業避止義務等については営業譲渡の規定を類推適用すべきである。
執筆者:森 淳二朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主観的には営利の目的で同種の行為を反復継続すること、すなわち商人の営業活動を意味し(商法5条・6条・14条・23条1項1号・502条)、客観的には商人が一定の営業目的のために組織づけた営業財産をいう(同法16~18条など)。なお、2005年(平成17)6月に成立した会社法では、この意味の営業を「事業」と改称した(21~24条・467~470条など)。後者の意義における営業は、単なる物や権利の集合体ではなく、事実関係(創業の年代、得意先、のれんなど)をも含み、それらのものが組織化された有機的一体としての機能財産である。営業財産は構成上、積極財産と消極財産からなる。積極財産は、動産・不動産、物権・債権・知的財産権などの権利はもとより、得意先や営業上の秘訣(ひけつ)のような財産的価値のある事実関係をも包含する。消極財産は、営業上の取引その他営業に関連して生じたいっさいの債務である。
営業財産は商人の財産のなかでも私用財産と区別される。会社の場合は、それが一定の営業目的のためにのみ存在するものであるから、営業財産のほかに私用財産はないが、自然人たる商人の場合、私用財産と区別して営業の用に供される財産が存在する。同様に、商人が数個の営業を営む場合には、それぞれ独立の営業財産が構成される。また、同一商人が営業所を別にして(たとえば本店と支店の営業)数個の営業活動を営むときも、これに応じてある程度独立した数個の営業が存在する。その結果、貸借対照表その他の商業帳簿上も、営業財産と私用財産とははっきり区別して記載される。なお、営業の譲渡の場合には、私用財産は譲渡の対象にはならない。このように営業財産は事実上特別財産として取り扱われているが、それは単に経済上の関係にとどまり、法律的には、たとえば営業上の債権者の権利行使は営業財産の範囲だけが対象になるわけではなく、また、商人が破産した場合に、破産財団は営業財産のみをもって構成されるわけではないから、営業上の債権者は商人の私用財産からも弁済を受けることができる。したがって、通説は、営業を法律上の特別財産とは解していない。
営業は組織的一体としての機能的財産であり、それを構成している各種財産の単なる数量的な合計ではない。これらの要素が営業目的を中心に組織化された統一的な機能財産である。なかんずく、営業の有機的一体性を基礎づけるものは財産的価値ある事実関係であって、これにより営業は、これを構成する各要素の価値の合計よりも高い財産的価値を帯びることになる。
なお、企業と営業とはかならずしも同一の概念ではないが、商法はその規律の対象とする企業を営業とよんでいるから、その意味では両者間に本質的な差異はなく、いわば企業は営業の上位概念ということができよう。
[戸田修三]
客観的意義における営業、すなわち、一定の営業目的のために組織づけられた有機的一体としての機能財産のうえに認められた一個の権利を営業権、あるいは企業権という。ただ、日本では、財団抵当とか企業担保法の適用がある場合に、例外的に認められるにすぎない。すなわち、現行法上、営業財産は集合物であり、一個の物権の対象とはならないから、このうえに一個の質権(しちけん)や抵当権を設定することはできない。したがって、営業に対する強制執行も認められず、営業を構成するそれぞれの財産のうえに質権や抵当権を設定し、個別的に強制執行するほかない。しかし、営業は一定の目的によって組織づけられた有機的な機能財産であり、社会的活力をもち、独立の交換価値をそれ自体もっているから、そのもっている担保価値を十分活用させるためには、法律上も営業全体のうえに一個の権利を認め、それを担保権の対象とし、これにつき強制執行をなしうるような方法を講ずることが要請される。フランスやイギリスなど外国の立法例には、これを取り入れたものもあるが、日本では従来、特別法による財団抵当制度があっただけである。そこで、1958年(昭和33)に営業全体を一個の財団とし、そのうえに抵当権を設定する方法として、イギリスの浮動担保floating charge制度に範をとった「企業担保法」が制定された。
[戸田修三]
企業活動を指揮統一するうえで中心となる場所、いいかえれば企業に不可欠の物的設備であり、商人や会社の営業活動の本拠たる場所をいう。したがって、商人の営業に関する指揮命令がそこから発せられ、その成果がそこで統一される場所であるとともに、外部的にも営業活動の中心として現れる。そのために、単に商品の製造や受け渡しをするにすぎない工場や倉庫、他所で決定された事項を機械的に行うにすぎない鉄道の各駅や、博覧会の売店などは営業所ではない。また、営業所は営業活動の中心的場所であるから、相当期間継続して固定していることが必要で、移動的な夜店のようなものは営業所ではない。ある場所が営業所であるか否かは客観的に先に述べた実質を備えているか否かにより識別すべきであり、単なる形式的な表示(たとえば○○交通○○営業所)や当事者の主観的な意思だけで決定すべきではない。商人や会社が同一の営業について数個の営業所をもつ場合、その主たる営業所を本店といい、従たるものを支店という。営業所は商人の住所とはかならずしも一致しない。また会社の住所は、本店たる営業所の所在地となっている(会社法4条)。
営業所は、商人の営業上の法律関係につき、債務履行の場所となり、商業登記に関する管轄登記所を定める標準となり、営業に関する訴訟についての裁判管轄決定の標準となり、さらに民事訴訟法上の書類送達の場所となるなど、重要な意味をもつ。
[戸田修三]
商人が数個の営業を営む場合には、各別に営業所をもちうることはいうまでもないが、同一の営業についても数個の営業所をもつことができる。その場合、営業所相互間に主従の関係を生ずるのであるが、その主たる営業所を本店といい、従たる営業所を支店という。支店はそれ自体営業所たる性質を有するから、一定の範囲において独自に営業活動の決定をなし、対外的に独立の営業をなすことができる。しかし、支店は従たる営業所であるから、本店の指揮命令に服し、基本的な業務執行は本店において決定しなければならない。
商法上、営業所は先に述べた本店と支店だけであって、これらの構成部分にすぎない分店、出張所、売店などはそれ自体営業所ではない。
支店についての法律上の効果としては、営業所一般につき認められているもののほか、本店の所在地において登記すべき事項は、支店の所在地においても登記しなければならず、また、支店だけの支配人を置くことができ、支店においてなした取引については原則としてその支店が債務履行の場所となり、さらに、支店の営業は独立してこれを譲渡できることなどの効果が認められている。
[戸田修三]
何人(なんぴと)も公共の福祉に反しない限り自由に営業を営み、商人資格を取得することができる(憲法22条)。しかし、この営業の自由は絶対的なものではなく、公法上・私法上における幾多の制限に服するが、営業をなすこと自体に関する制限としては、一般公益上の理由、警察取締り上の理由、事業の公共性に基づく営業免許(銀行、信託、保険、ガス事業、地方鉄道事業など)、国家財政上ないし国家の独占事業などによる公法上の制限のほか、私法上における営業の制限がある。それには、当事者間の契約による場合と、法律の規定による場合とがある。法律の規定による場合は、たとえば、営業譲渡人(商法16条)、支配人(同法23条)、代理商(同法28条)、持分会社の業務執行社員(会社法594条)、取締役(同法356条1項1号)等の競業禁止などである。
[戸田修三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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