精選版 日本国語大辞典 「嗜好品」の意味・読み・例文・類語
しこう‐ひん シカウ‥【嗜好品】
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栄養摂取を主要な目的とせず、香味や快い刺激などを楽しむため用いるもの。人類はかならずしもその生理的必要性のみから物を摂取してきたのではない。栄養素が含まれているから摂取するという考え方は近代になって支配的になってきたものであり、ある意味で、飲食物はすべて習慣によって摂取されているにすぎないし、人々がそれを好んでいるから摂取するのかどうか判断することも困難な場合がある。したがって、なにかを嗜好品とみなす場合、それはしばしば相対的なものにすぎない。現在では、西欧的な栄養学の尺度に従って、通例、栄養学的に重要な意味をもたないようなものが嗜好品として扱われる。しかし、各民族の用いている「嗜好品」が、かならずしも彼らによって副次的な重要性しかもたないものとして考えられているとは限らない。
[栗田博之]
嗜好品は一般に、刺激性、催酔性、芳香性などをもち、茶、コーヒー、清涼飲料、菓子類などの飲食物のほかに、ガム、噛(か)みたばこなどの噛み料、たばこなどの嗅(か)ぎ料が含まれる。食欲増進を目的とする香辛料も嗜好品に含めることがある。刺激性、催酔性などをもつものは、本来、特別な宗教的・儀礼的な意味、あるいは薬用的な意味をもったものが多く、ほとんどの場合、それが特別の意味合いを失って、嗜好品化してきたと考えられる。
嗜好品の種類は民族や文化によってさまざまであるが、伝播(でんぱ)や交易によって、広範な地域に広がって世界各地で用いられている嗜好品も多い。南アメリカ原産のたばこはほとんどすべての国で喫煙されており、同じく南アメリカ原産のカカオも広く飲食されている。また、アジア原産の茶、エチオピア原産のコーヒーも全世界的に愛飲されている。穀類や芋類を原料とする酒、果実類を原料とする酒、そのほか樹液、乳、蜂蜜(はちみつ)などを原料とする酒など、世界各地ではさまざまな種類のアルコール性飲料が醸造されており、オセアニアと北アメリカの一部の地域を除き、元来アルコール性飲料を飲用していなかった地域は限定されている。
[栗田博之]
これらの代表的な嗜好品以外にも、世界各地にはその地域に固有のさまざまな嗜好品が存在している。東アフリカ海岸部から、インド、東南アジア、オセアニアにかけての地域では、キンマ噛みが行われている。キンマ噛みにはいろいろな方法があるが、ビンロウ(ヤシ科の高木)の実と石灰をキンマ(コショウ科のつる性低木)の葉で包み噛むというのが基本である。これを噛むと口の中は真っ赤になるが、一種の爽快(そうかい)感を伴う刺激がある。また、アルコール性飲料とは逆に、鎮静作用をもったカバとよばれる飲料がオセアニアの一部で飲用されている。カバ(コショウ科の低木)の根を乾燥させたものを突き砕き、成分を水に溶かし出したものが飲用され、アルコール分を含んでいないが催酔性をもつ。カバは集団で共飲するものであり、本来は宗教的・儀礼的な意味をもっていた。そして、その作り方、飲み方にはさまざまな規定がみられる。
南アメリカでは、茶やコーヒーと同様、カフェインを含んだマテ茶やガラナが飲用されている。マテ茶はモチノキ科の低木の葉を乾燥させ細かくしたもので、壺(つぼ)状の容器にマテ茶と砂糖を入れ、熱い湯や牛乳を注ぎ、これをストローで飲む。南米先住民は古くからマテ茶を用いていたが、キリスト教の宣教師によって周辺地域にも広められた。ガラナはムクロジ科のつる性植物で、その種子を乾燥させ突き砕き、水を加えて練り固め、ふたたび乾燥させる。これを削って砂糖を加え水に溶かしたものが飲用される。
コカインの原料となるコカの葉も、南米先住民によって古くから利用されてきた。乾燥させたコカの葉を石灰とともに噛むと、コカインによる強い麻酔作用があり、寒さや空腹と疲労に耐え、労働意欲を高進させるという。アンデス地帯では、インカ帝国以来「聖なるコカ」とよばれ、局部麻酔薬として用いられたこともあった。南米先住民の占いや治療儀礼などにおいても、コカの葉は、タバコと並んで重要な位置を占めている。コカの葉と似た利用のされ方をするものに、エチオピア原産のカート(ニシキギ科の低木)がある。コカの葉のようにカートの葉を直接噛み、その麻酔性を利用するという利用法が主だが、乾燥させた葉を茶と同様に利用することもあり、この場合にはカート茶とよばれることもある。
西アフリカでは、カフェインを含むコーラの実が嗜好品として利用されている。コーラは熱帯アフリカ原産のアオギリ科の高木で、その種子をなまのまま噛み砕き食べる。コーラの実は宗教的儀礼と結び付けられていることが多く、西アフリカ一帯での重要な交易品であり、砂漠地帯まで輸送され、消費されている。
以上のさまざまな嗜好品は、その刺激性、催酔性による宗教的・儀礼的あるいは薬用的な意味合いが薄れ、嗜好品化が進んだものである。このほか催酔性をもつものとして、北米先住民のペヨーテ儀礼で用いられる、ペヨーテとよばれるサボテンの一種、中南米先住民のヨヘ儀礼で用いられるヨヘとよばれる植物、中南米先住民、シベリア先住民などでシャーマンが憑依(ひょうい)・脱魂状態に入るために用いる毒キノコ類、中南米、南アジア、アフリカなどで、やはり憑依・脱魂状態に入るため、あるいは、ある種の呪薬(じゅやく)として用いられるダトゥラ(ナス科の植物)、その他さまざまなものが世界各地から報告されているが、いずれも儀礼的・薬用的な意味で利用される場合がほとんどで、常用されるに至っておらず、嗜好品化は進んでいない。
[栗田博之]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…草本のときには薬草という。広義には古代から経験的に病気の治療および予防に用いられてきたもののほかに,医薬品の原料となるもの,香辛料,嗜好品,薫香料,香粧品や,未開社会において食糧を得るための矢毒や魚毒なども含まれる。したがって薬用植物とは人間および動物に対して,特殊な生理作用を有する植物ということもできる。…
※「嗜好品」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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