デジタル大辞泉
「回帰熱」の意味・読み・例文・類語
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かいき‐ねつクヮイキ‥【回帰熱】
- 〘 名詞 〙 シラミやダニの媒介によって感染する病気。伝染性がある。スピロヘータが体内に侵入すると、悪寒、ふるえ、高熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、黄疸(おうだん)などを生じる。熱は四~一〇日間続いていちおう下がり、他の症状も消失するが、約一週間の平熱期間をおいて、同じ症状を繰り返す。再帰熱。回帰チフス。
- [初出の実例]「目下回帰熱蔓延の兆あるに依り」(出典:東京日日新聞‐明治三〇年(1897)五月一日)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
回帰熱
かいきねつ
Relapsing fever
(感染症)
齧歯類小動物(ネズミやリスの仲間)、鳥類などを保菌動物とし、野生のヒメダニ(オルニソドロス属ダニ)やシラミによって媒介される細菌感染症で、回帰性の発熱を主な症状とする全身性の疾患です。病原体は回帰熱ボレリア(スピロヘータの一種)と呼ばれています。
アメリカ大陸、アフリカ、中東、ヨーロッパの一部で患者の発生が報告されていますが、日本では、少なくともここ数十年、報告例はありません。海外の流行地域での野外活動や、不衛生な環境での生活による感染に注意が必要でしょう。
菌血症による発熱期、および感染は持続しているものの菌血症を起こしていない状態(無熱期)を数回繰り返す、いわゆる回帰性の発熱が特徴です。治療を行わない場合の致死率は、病原体の種類や健康状態などによっても異なりますが、数%程度といわれています。
①発熱期
感染後5~10日をへて菌血症による頭痛、筋肉痛、関節痛、羞明(まぶしがること)、咳などを伴う発熱、悪寒がみられます。またこの時、髄膜炎、点状出血、紫斑、結膜炎、肝臓や脾臓の腫大、黄疸がみられることもあります。発熱期が3~7日続いたあと、いったん解熱し無熱期に移行します。
②無熱期
無熱期では血中からは菌は検出されなくなります。発汗、倦怠感、時に低血圧症や斑点状の丘疹をみることもあります。この5~7日後、再び発熱期に入るとされています。
前記の症状以外で肝炎、心筋炎、脳出血、脾臓腫脹(はれ)、大葉性肺炎などがみられる場合もあります。
回帰熱には抗生剤による治療が有効です。ダニ媒介性の回帰熱の場合は、ドキシサイクリン(ビブラマイシン)、テトラサイクリンが用いられます。シラミ媒介性の回帰熱の場合は、テトラサイクリンとエリスロマイシン(アイロタイシン)の併用、もしくはドキシサイクリンが有効とされています。治療に伴いヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(抗生剤投与後に起こる、発熱、低血圧を主な症状とするショック)がみられることもあります。
媒介ダニ、シラミとの接触を避けることが重要です。保菌ダニが生息する地域では、ダニが生息する洞窟、廃屋などにはなるべく近寄らないこと、また渡航先で回帰熱発生の情報を得た場合には、シラミやダニの刺咬に注意することが大変重要です。
川端 寛樹
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
回帰熱(スピロヘータ感染症)
発熱と解熱を繰り返す回帰熱はわが国では非常にまれな感染症であり,感染症法では四類感染症である.
原因・病因
病原体はボレリア(Borrelia)でスピロヘータに属し,少なくとも十数種類が確認されている(表4-8-1).菌は齧歯類小動物,鳥類などを保菌動物とし,シラミ(louse-borne relapsing fever)やダニ(tick-borne relapsing fever)によって媒介される.媒介ダニの分布地域とダニ媒介回帰熱発生地域はほぼ一致する.
発熱期には菌体は血流内で増加し10万個/μLに達する.その後免疫の応答により菌体は血流より排除され解熱期に至る.菌は抗原性を変異させることで免疫(特異抗体)から逃避し,再び血流内で菌体量が増え,発熱期となる.
疫学
わが国では数十年報告されていなかったが,2010年にはウズベキスタンで1週間ボランティア活動後に帰国した20歳女性の罹患例(B. persica)が報告されている(忽那ら, 2010).B. recurrentisはシラミを介して人から人に伝播するため,戦争や飢饉など不衛生な状態で人が密集する場合には大発生する.第2次世界大戦時には北アフリカ,欧州で5万人が死亡したと推定されている.現在でもアメリカ大陸,アフリカ,中東,欧州で報告されている.ダニ媒介回帰熱は人畜共通感染症と考えられる.
臨床症状
臨床症状はシラミ媒介・ダニ媒介で類似している(表4-8-2).症状は突然の発熱で始まり,激しい頭痛,関節痛,筋肉痛を伴い,ときに項部硬直,咳,肺雑音,リンパ節腫脹などの症状を伴う.最初の発熱は3~6日で突然解熱する.最初の発熱が解熱する頃に皮疹を伴うことがある.7~10日の解熱期を経て再び発熱が出現する.シラミ媒介では通常再発回数は1回であり,ダニ媒介では数回である.まれに心筋炎,脳出血,肝不全,急性呼吸促迫症候群(ARDS)を合併するが,これらが死因になりうる.
心筋炎も合併するが,重症例に多い.ダニ媒介では菌体の中枢神経系への直接侵入が多く,髄膜炎や髄膜脳炎を起こし,麻痺などの後遺症を残す場合がある.検査では特徴的な検査値変化はない.
診断
確定診断は発熱期の血液を染色(Giemsa染色またはWright染色)して菌体を同定することであり,70%で可能(菌体10万/μL以上であれば可能)である.しかし解熱期には見つけることはできない.菌の分離培養にはBSK 培地が用いられ,発熱期の血液から病原体分離が可能である(分離用培地は国立感染症研究所で常備されている).5~10%で梅毒血清反応が陽性となる.またPCR法は有用な方法である.
鑑別診断としては,マラリア,エーリキア症,バベシア症,インフルエンザ,腸チフス,ツラレミア(野兎病),ブルセラ症,リケッチア症,デング熱,レプトスピラ症,鼠咬症,髄膜炎菌血症,ウイルス性肝炎など全身性発熱性疾患となる.
治療・予防
ペニシリンやテトラサイクリンが選択される.セファロスポリンやマクロライドも有効と考えられる.シラミ媒介ではテトラサイクリン500 mgまたはエリスロマイシン500 mgの単回投与でよい(再発率は5%未満).ダニ媒介では1回投与では20%以上の再発率があり,ドキシサイクリン100 mgを1日2回またはエリスロマイシン500 mgを1日4回を5~10日間使用する.治療に伴いJarisch-Herxheimer 反応がみられることがある. まだワクチンはなく,予防には,媒介ダニ,シラミとの接触をさけることが重要である.[立川夏夫]
■文献
忽那賢志,笠原 敬,他:輸入回帰熱の一例. IASR, 31, 358-359, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
知恵蔵
「回帰熱」の解説
回帰熱
野生のマダニやシラミが媒介する細菌感染症。病原体はボレリア・ミヤモトイという細菌で、これを保菌するマダニやシラミに咬(か)まれたヒトだけが感染・発症し、ヒトからヒトへの二次感染はしない。発熱を3~5回繰り返すことからこの名前がついた。
保菌しているマダニに咬まれたり、シラミを潰したりすることで感染し、5~10日のうちに頭痛や筋肉痛などを伴う発熱がみられるが、3~7日でいったん平熱に戻る。熱のない期間は血中から細菌は検出されないものの、発汗や全身倦怠(けんたい)感、丘疹などがみられることがある。平熱が5~7日続いた後、また発熱期に入る。
ペニシリンなどの抗生物質が有効だが、適切な治療が行われなかった場合、患者の栄養状態や元々の健康状態によっては、致死率は30%にも上る。予防ワクチンはなく、感染を防ぐためには山野に入る際に、長袖・長ズボンを着用し皮膚を隠し、ダニ除けを塗る必要がある。マダニはヒトの皮膚に数日間咬みついたまま吸血する。潰したり無理に引き剥がしたりすると、マダニの体液から感染することもあるので、皮膚にマダニが付いているのを見つけた場合は、皮膚科で取ってもらうこと。
ダニ媒介性、シラミ媒介性ともに、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸、中央アジアなど世界中にみられる。日本では戦後、衛生状態が向上し、国内感染はここ数十年間起こっていないとされてきたが、厚生労働科学研究班による調査で2013年9月、ダニ媒介性の回帰熱が過去に2例あったことが明らかになった。この2例はいずれも北海道在住の患者で、シェルツェマダニによる媒介例であり、症状のよく似たライム病と診断されて抗生物質により回復したもの。ライム病との重複感染の可能性もあるとされている。
感染症法では4類感染症に指定されており、診断した医師はただちに保健所に届け出ることになっている。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
回帰熱 (かいきねつ)
relapsing fever
再帰熱ともいう。ボレリア属Borreliaのスピロヘータが病原体の感染症で,シラミとノミが媒介する2型がある。世界各地に分布するが,日本にはない。潜伏期は4~18日という。皮膚を通して感染したのち臓器に入り,血液中に出るとき発熱する。約1週間後,抗体ができると解熱するが,さらに約1週間後,抗原変異を起こした株が血流に入ると,再び発熱するという病態をくりかえす。2~5回の発作ののち,しだいに発熱期間は短く,無熱期間が長くなって治癒していく。発熱のほか,悪寒,頭痛,嘔吐,肝脾腫,関節痛,筋肉痛,黄疸があり,ときに頻拍,出血傾向,DIC(血管内凝固症候群)を伴う。また貧血,白血球増加のち減少,血小板減少,血液凝固不全,肝障害,心電図異常も伴う。診断は,発熱期に,血液をとり顕微鏡下で染色によりスピロヘータをみつけることによって行う。また,血液をマウスに注射するとスピロヘータが増殖するので,その血液をしらべる。ペニシリン,テトラサイクリンなどの抗生物質が有効であり,予後は良好となっている。病後の免疫はない。
執筆者:深谷 一太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
回帰熱
かいきねつ
relapsing fever
再帰熱ともいい、数日間の発熱期と解熱期が交互に反復しておこる感染症で、病原体はボレリア属のスピロヘータである。感染症予防・医療法(感染症法)では4類感染症に分類されている。回帰熱ボレリアBorrelia recurrentisはシラミ媒介性で、他のボレリアにはダニ媒介性のものがある。前者は流行性に、後者は風土病的に散発性に発生する。オーストラリア、ニュージーランド、太平洋諸島など一部の地域を除き広く世界に分布するが、日本には常在しない。潜伏期は4~18日。通常、悪寒戦慄(せんりつ)に伴う高熱と著明な筋肉痛がみられる。熱型は特徴的で、数日で39℃以上に達し、そのまま高熱が続いて稽留(けいりゅう)傾向を示したのち、ふたたび変化の激しい熱の上がり下がりが数日続き弛張(しちょう)する。3~7日で平熱まで分利(高熱から急に平熱まで下がる)状に解熱する。その後、1か月近く外見上健康状態を保ち、ふたたび同様の発熱がおこる。このような熱発作を3~10回も周期的に繰り返す。治療としてはテトラサイクリンやエリスロマイシンが効果がある。
[松本慶蔵・山本真志]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
かいきねつさいきねつ【回帰熱(再帰熱) Relapsing Fever】
[どんな病気か]
回帰熱スピロヘータの感染によっておこる伝染病で、病人や、このスピロヘータを保有するネズミ、リスなどから、シラミ、ダニの媒介(ばいかい)で人間に感染します。
アジア・アフリカ・アメリカ大陸の熱帯圏の風土病で、これらの地域からもち込まれて小流行することがあるので、日本では感染症予防法の4類感染症に指定されています。
[症状]
潜伏期間は3~9日です。感染後、5~7日で寒け、震えをともなって40℃前後の高熱が出ます。頭痛、腰痛(ようつう)、筋肉痛のほか、嘔吐(おうと)、軽い黄疸(おうだん)、皮下出血(ひかしゅっけつ)などもおこります。重症になると、意識が混濁(こんだく)し、うわごとをいったりします。
熱は、4~7日くらい続いて急に下がり、ほかの症状も回復しますが、1週間前後の平熱の期間をおいて、また発熱をはじめとする症状がぶり返します(この病名の由来)。ときに、3回、4回とくり返すことがあり、この場合は、しだいに間隔がのび、熱が低くなり、そのほかの症状も軽くなります。
症状と血液の顕微鏡検査でスピロヘータが見つかることで診断がつきます。
[治療]
テトラサイクリン系抗生物質やペニシリンが有効です。
シラミやダニの駆除(くじょ)、ネズミ捕殺、病人の隔離(かくり)を励行します。港湾、空港での検疫(けんえき)も行ないます。
出典 小学館家庭医学館について 情報
回帰熱【かいきねつ】
再帰熱とも。スピロヘータによる伝染病。戦争や飢饉(ききん)に際してシラミやダニに媒介されるが,日本にはまれ。高熱と無熱とが1週間ずつ繰り返され,やがて無熱状態になる。肝臓,脾臓,心臓が冒される。治療はペニシリン,アルスフェナミンなど。病後の免疫はない。
→関連項目届出伝染病
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回帰熱
かいきねつ
relapsing fever
再帰熱ともいう。病原性スピロヘータの一つの属 genusであるボレリアの感染によって起る急性感染症。ノミ,ダニ,シラミなどが媒介する。潜伏期は平均7日で,40℃以上の高熱が1週間ぐらい続き,その後約1週間は熱がなく,再び発熱するといった経過を繰返すので,回帰熱という。日本には常在しない。その特殊な熱型と血中の病原ボレリアの顕微鏡による検出によって診断は容易である。治療にはテトラサイクリン系の抗生物質が最も有効で,ストレプトマイシン,ペニシリンも効果がある。
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