精選版 日本国語大辞典 「国籍」の意味・読み・例文・類語
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国家の構成員であることを示す資格。
国籍をいかなる者に与えるかは各国の主権に深く関係する問題であって、国内管轄事項とされる。したがって、各国は、国家形成の歴史を背景としつつ、人口政策、移民政策、同化政策などの観点から、それぞれの国籍法を制定している。各国の国籍法を比較すると、出生による国籍取得に関して、血統主義と(出)生地主義のいずれを原則とするかによって大きく分けることができる。血統主義とは、旧大陸の諸国で採用されているものであり、親がその国の国民である場合には子もその国の国民とするという原則である。日本も血統主義を採用している。これに対して、生地主義とは、新大陸の諸国で採用されているものであり、その領域内で生まれた子はすべてその国の国民とするという原則である。新大陸諸国(南北アメリカ大陸)は、移民の受入国として国家が形成されていったため、血統主義によったのでは、帰化しない限り移民の子孫は外国国籍のままになってしまうので、少なくとも2世以下の世代については自国で生まれたという事実によって自国民となるという生地主義が採用されている。ただ、いずれの立法原則も例外を認めている。すなわち、血統主義をとる国でも、親が知れない子は自国領域内で生まれたことによって自国国籍を与え、生地主義をとる国でも、自国民が外国で産んだ子に対しても一定の要件のもとに自国国籍を与えている。ただ、例外的な状況下では、生地主義国の国民の子であって、血統主義国で生まれた子が無国籍になってしまう場合もなくはない。
なお、血統主義には、父系優先血統主義と父母両系血統主義とがある。父系優先血統主義とは、父が自国民である場合に子を自国民とするものであり、父母両系血統主義とは、父または母のいずれかが自国民であれば、子を自国民とするものである。かつては父が家族の中心であるという観念が強く、また、社会実体としても父を中心とする家族生活が営まれている例が多かったことを反映して、多くの国が父系優先血統主義を採用していた。しかし、家族関係が多様化し、また、男女平等の観念が強くなったため、まずヨーロッパ各国で父系優先から父母両系への国籍法改正が次々と行われ、日本でも、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女性差別撤廃条約、昭和60年条約第7号)の批准に伴い、この条約の第9条2項の「締約国は、子の国籍に関し、女子に対して男子と平等の権利を与える」との規定を実施すべく、1984年(昭和59)に国籍法が改正され(1985年施行)、父母両系血統主義に移行した。そして、その結果として多発することになる重国籍者について、国籍選択制度を導入した。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍法については、いくつかの基本原則がある。
まず、「国籍唯一の原則」(「国籍単一の原則」ともいう)とは、すべての個人がかならず1個の国籍を有し、かつ2個以上の国籍を有することがないようにするという原則である。無国籍の発生の防止については、「世界人権宣言」第15条1項および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(国際人権規約B)第24条3項で、国籍を保有することが人権の一内容をなすものとされている。また、重国籍の防止についてもいくつかの条約が作成されているが、その締約国は少ない。このうち、重国籍をめぐっては、かつては国籍を有する複数の国の間で戦争が発生した場合に国家に対する忠誠義務が問題となるといった観点で議論されていたことであるが、現在では、重国籍であることは個人にとって格別の害はないので、これを放置してもかまわないのではないかとの主張もある。
19世紀前半までは、ひとたび国民となれば永久に国民であるという「忠誠非解消の原則」が広く認められていたが、その後、「国籍自由の原則」が認められるようになっている。これは、日本国憲法第22条2項のように、基本的人権の一内容として国籍離脱についての個人意思の尊重を認めるものである。しかし、徴兵制度などとの関係から国籍離脱を制限している国も少なくない。なお、日本でも、日本国籍を離脱して無国籍になる自由は認められず、外国国籍を有する場合でなければ、国籍離脱は認められない(国籍法13条1項)。なお、国籍の剥奪(はくだつ)は個人の権利を著しく害することになるので、世界人権宣言第15条2項は、「何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない」と規定している。他方、国籍の取得には各国とも一定の要件を課しており、けっして自由にいずれの国の国籍でも取得できるというわけではない。
かつては、婚姻、認知、養子縁組などの身分行為により、夫婦または親子関係が形成された者は同一国籍を有するべきであるという「家族国籍同一の原則」が一般的に妥当とされ、日本でも1899年(明治32)の旧国籍法ではこれを規定していた。現在でも、イスラム諸国の国籍法では、自国民と婚姻した外国人妻には自国国籍を自動的に与えることとされている。しかし、多くの国では、そのような身分行為によって本人の意思にかかわりなく国籍が与えられたり、剥奪されることは個人意思の尊重の思想に反するとされ、「家族国籍独立の原則」が認められている。もっとも、後述の最高裁判所の判例とこれに従ってされた日本の国籍法の改正は、日本人父による認知という身分行為により日本国籍を与えるものであり、この原則の例外を認めたことになる。なお、日本の国籍法では、一定の身分関係のある者については、本人が望めば、届出による国籍取得や簡易帰化(同法6・7・8条)を認めることによって、家族の国籍を同じくしたいという希望をかなえる途(みち)を用意している。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国憲法第10条は、日本国民の要件は法律でこれを定めることとし、それを受けて、国籍法が制定されている。現行憲法の制定の後、1899年制定の旧国籍法は廃止され、1950年(昭和25)に現在の国籍法が制定された。その後、1984年に既述の父母両系血統主義の採用を中心とする大幅な改正がなされ、また、後述のように、日本人父に認知された子の日本国籍の取得について2008年(平成20)に改正された。
[道垣内正人 2022年4月19日]
既述の父母両系血統主義により、出生時に父または母が日本国民であるときは、子は日本国民とされる(国籍法2条1号)。この規定により、母が日本人である場合には、出生の事実により子は日本国籍を取得する。父が日本人である場合には、胎児認知をしておけば、出生時に父子関係が確定していることになるので、同じくこの規定により子は日本人となる。しかし、事情により胎児認知ができなかった場合の子の日本国籍取得をめぐる裁判の結果、一定の場合には、生後認知であっても胎児認知の場合と同様に扱われることとされた。すなわち、最高裁判所平成9年10月17日判決(民集51巻9号3925頁)は、父Aと母Bとの間の子の出生当時にはBには夫Cが存在し、Aは父としては胎児認知ができなかったために、BがCと離婚した後に遅滞なく子を認知したという事件において、このような場合には胎児認知に準じて国籍法第2条1号により子は出生により日本国籍を取得したものとするとの判断を示した。
また、生後認知については、国籍法第3条第1項(平成20年法律第88号による改正以前のもの)は、「父母の婚姻及び認知により嫡出たる身分を取得した子」は、認知をした父が子の出生時に日本国民であった場合において、その父が現に日本国民であるとき、またはその死亡時に日本国民であったときは、法務大臣への届出によって日本国籍を取得すると定めていた。しかし、この規定について最高裁判所平成20年6月4日判決(民集62巻6号1367頁)は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子につき、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した場合に限り日本国籍の取得を認めていることにより国籍の取得に関する区別を生じさせていることは、遅くとも平成17年には憲法第14条1項に違反する状態にあったと判示した。これを受けて、国籍法第3条第1項で要件とされていた父母の婚姻という要件は削除された。もっとも、この改正により、日本国籍取得のために多発することが予想される偽装認知に対処するため、偽装の届出をした者は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処することとした(国籍法20条)。以上のことにより、既述のように、日本では「家族国籍独立の原則」は一部修正されたことになる。
日本の国籍法は、純粋な血統主義をとった場合に生じうる無国籍者の発生を防止するため、補充的に生地主義を取り入れている。すなわち、子が日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、または国籍を有しないとき、子は日本国民とされる(国籍法2条3号)。この「父母がともに知れない」という要件の適用にあたって、日本国籍の確認を求める側がいちおうの立証をすれば、国の側でこの要件の不具備を立証しない限り、この要件の具備が認められるというのが判例である(最高裁判所平成7年1月27日判決、民集49巻1号56頁、アンデレちゃん事件)。これは、フィリピン人らしき女性が日本国内で出産し、その後、この女性が行方不明になった場合において、その子の国籍が問題となった事件である。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国民でない者は、自由意思に基づき、法務大臣の許可を得て、日本の国籍を取得することができる(国籍法4条)。この帰化はそれを申請する要件に応じて、「普通帰化」(同法5条)、日本と一定の関係のある者についての「簡易帰化」(同法6・7・8条)、日本に特別の功労のある者についての「大帰化」(同法9条)に分けられる。普通帰化の要件は、引き続き5年以上日本に住所を有すること、18歳以上で本国法により行為能力があること、素行が善良であること、自己または生計を一にする配偶者その他の親族の資産または技能によって生計を営むことができること、無国籍であるかまたは日本国籍の取得によって外国国籍を失うべきこと、日本国憲法施行後に政府を暴力で破壊すること等を企てたり、そのような主張をする団体に加入等をしていないこと、である(同法5条)。簡易帰化は、日本国民であった者の子や日本で生まれた者であれば、居住要件は引き続き3年以上であればよいこととされる(同法6条)。また、日本国民の配偶者で引き続き3年以上日本に住所または居所を有していれば、18歳未満であっても帰化が認められる(同法7条)。大帰化については、日本に特別の功労があったことが要件とされ、法務大臣が国会の承認を得て帰化を許可することができる(同法9条)。もっとも、これまで実際の例はない。
なお、帰化はあくまでも法務大臣の裁量によるものであるので、前記の条件を具備しているからといって、権利として帰化を求めることはできない。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国籍を喪失した者に対し、一定の喪失原因に基づく場合であり、かつ所定の要件を充足しているときは、法務大臣への届出によって日本の国籍を取得することができる(国籍法17条)。第一に、後述の「国籍留保」の意思表示をしなかったことにより日本の国籍を失った者(同法12条)で18歳未満のものは、日本に住所を有するときは、届出による国籍の再取得ができる(同法17条1項)。第二に、後述の「国籍選択の催告」を受け、国籍選択をしなかったことにより日本国籍を失った者は(同法15条2・3項)、外国国籍を失うべきことを条件として、国籍喪失を知ったときから1年以内に、届出による国籍の再取得ができる(同法17条2項)。これらの者は届出のときに日本国籍を取得する(同法17条3項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍唯一の原則を国籍立法の理想とするときは、重国籍の発生自体を防止するだけでなく、発生した重国籍を解消することも必要となる。1984年(昭和59)の国籍法改正により、出生による国籍取得につき父母両系血統主義が採用された結果、韓国人父と日本人母の間の子のように、血統主義をとる国の国籍を有する両親から生まれた子も重国籍を有することになり、急増することになる重国籍者について国籍選択制度が導入された。これによれば、外国の国籍を有する日本国民は、重国籍となった時点が18歳以前の場合は20歳に達するまでに、重国籍となった時点が18歳に達した後である場合はその時点から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない(国籍法14条1項)。これは、大人として2年間国籍選択について考える期間を与えるという趣旨である。そして外国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う(同法11条2項)。日本の国籍を選択するには、外国国籍の離脱をする方法と、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(選択の宣言)をする方法とが認められる(同法14条2項)。この選択の宣言という方法が認められているのは、外国の国籍法上、たとえば徴兵制度との関係から一定期間はその国の国籍の離脱が認められていない場合があるからである。したがって、選択の宣言をしても、重国籍の状態は継続することになるが、選択の宣言をした日本国民は外国の国籍の離脱に努めることが義務づけられており、自己の志望により外国の公務員に就任し、その就任が日本国籍を選択した趣旨に著しく反するときは法務大臣はその者に対して日本国籍喪失の宣言をすることができるとされている(同法16条1・2項)。さらに、この国籍選択制度を実効性あるものとするため、第14条1項に定める期限までに日本の国籍の選択をしない者に対し、法務大臣が書面により国籍の選択をすべきことを催告することができ(同法15条1項)、催告を受けた者は、催告を受けた日から原則として1か月以内に日本国籍を選択しなければ、その期間が経過したときに日本の国籍を失うこととされている(同法15条3項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
「国籍唯一の原則」から、日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは日本の国籍を失う(国籍法11条1項)。第二次世界大戦後ソ連に抑留され、同国へ帰化した元日本人について、自己の志望によるか否かが問題となり、ソ連への帰化が強迫その他やむをえない事由によるもので自由な意思に基づくものではないとして、日本国籍の保有を認め、就籍を許可した事例がある。また、既述のとおり国籍選択制度により外国国籍を選択した場合や、日本国籍を選択した趣旨に反して外国公務員の職に就任したときにも日本国籍を失う(同法11条2項)。生地主義の結果であれ、父母両系血統主義の結果であれ、出生により外国の国籍を取得した日本国民であって国外で生まれたものは、出生届とともに戸籍法の定めるところに従って、国籍留保の意思表示をしなければ(戸籍法104条)、その出生時にさかのぼって日本国籍を失う(国籍法12条)。ただし、既述のように、国籍の再取得の途(みち)が用意されている(同法17条1項)。さらに、外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる(同法13条1項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍法による日本国籍の得喪のほか、領土の変更などに伴い、国際法によって国籍の変動が生じる場合がある。明治以後の日本では、樺太(からふと)、台湾、朝鮮の併合に際し、一定範囲の者が、日本の国籍を取得した。また、第二次世界大戦後の平和条約(対日講和条約)締結に伴って一定範囲の者が日本国籍を喪失した。後者については、終戦から平和条約締結までに7年もの年月を要し、その間に多くの身分変動が生じたにもかかわらず、条約上は国籍に関する規定が設けられなかったので、国籍変動が生ずる者の範囲について解釈が分かれ、多数の裁判が行われた。判例によれば、平和条約発効時までに朝鮮・台湾の戸籍に入籍すべき事由の生じた者は日本国籍を喪失するとされている。
[道垣内正人 2022年4月19日]
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(宮崎繁樹 明治大学名誉教授 / 2007年)
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…民法728条,戸籍法96条),復氏を欲する場合も戸籍への届出を要する(民法751条,戸籍法95条)。離婚【泉 久雄】
【国際的な婚姻】
国籍の違う男女の婚姻(いわゆる国際結婚)や同じ国の国籍をもつ男女の婚姻でもその婚姻の挙行地や婚姻生活の場所が本国以外の国にある婚姻を国際的な婚姻,または,渉外的な婚姻(渉外婚姻)という。このような婚姻については,その成立や効力がどの国の法によって規律されるかという国際私法上の問題が発生する。…
…同一の人が複数の国籍をもつこと。国籍の決定は国際法上原則として国内管轄事項とされ,各国の国籍法の規定が異なる結果,国籍の抵触が発生する。…
※「国籍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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