暦の雑節の一つ。中国では、1年春・夏・秋・冬の四季に、木・火・土・金・水の五行をあてようとしたが、四季に五つを割り当てるのはむりである。そこで春・夏・秋・冬の四季に木・火・金・水をあて、各季の終わり18日余に土気をあてた。これを土用といい、土曜用事を略したものである。現行暦では、太陽の視黄経がそれぞれ27度、117度、207度、297度に達したときが、それぞれ春の土用、夏の土用、秋の土用、冬の土用の入りで、その期間はおよそ18日間で、各季の土用があけると、立夏、立秋、立冬、立春である。今日では夏の土用だけが用いられており、夏の土用に入って(だいたい7月20日ごろ)、最初の丑(うし)の日が「土用丑」である。
[渡辺敏夫]
夏の土用は気象のうえからは7月下旬から8月上旬にかけての真夏の晴天時にあたり、例年は一年中でもっとも暑気が甚だしく、蒸し暑い天気が続く。また雷雨の発生もこのころに多い。ただし近年は気候の変動を反映して年による土用の天気の違いが大きい。梅雨(つゆ)のあがりが思わしくなく、曇雨天の日が8月上旬まで多かったり、また梅雨明け以後の猛暑は長続きせず、8月に入ると、気温が低下して早くも秋風が吹くといった年が少なくないのである。夏の土用は、本土では台風の影響を受けやすくなるシーズンであることも忘れてはならない。
[根本順吉]
夏の土用に入った3日目を土用三郎といって、この日の天候でその年の豊凶を占った。このころは1年でもっとも暑いときなので、土用干しといって衣服や書物などの虫干しをする。また土用の丑の日(うしのひ)に丑湯といって薬湯に入ったり、夏負けしないためウナギの蒲(かば)焼きやどじょう汁を食べる風習がある。中国地方では、牛の祇園(ぎおん)といって牛を引いて行って海に入れる。また薬草は、夏の土用にとったものがとくに薬効があると、昔からいわれている。
岡山県の各村では、夏の悪疫を退散させるために土用祈祷(きとう)を行う例がある。土用念仏ともいって大数珠(じゅず)を繰り回して念仏を唱える。同県高梁(たかはし)市備中(びっちゅう)町西山地区では、土用入りの日に家内安全と虫送りの祈祷のため、寺から僧がきて道中念仏を唱えて家々を回り、『般若心経(はんにゃしんぎょう)』を読誦(とくじゅ)するという。
[大藤時彦]
雑節の一つ。年4回各季にあるが,一般には太陽の黄経117°に達した夏の土用を指す。立秋前18日間をいい,初日を土用の入りという。極暑のためその暑さを利用したり,また暑気負けを防ぐ各種の習俗が行われている。利用するほうでは,衣類や書物に風を通して虫干しする土用干しの風が全国的である。
夏負け防止では土用丑の日の伝承が多く,ウの字のつくウナギ,ウリ,牛の肉や土用餅を食べる風習がある。静岡市にはユリの根を入れた土用粥を食べる所もある。海水浴をするとじょうぶになるといったり,薬草が流れてくるといって川で水浴したり,ショウブや薬草を入れた湯に入る所も少なくない。土用の灸治は薬効があるともいう。温泉祭をする所も多く,丑の日のふろは千日の入浴に価するなどともいう。その他,熊本県水俣市地方では土いじりを忌み,新潟県三条市地方では土用血といって馬の血取りをしたという。3日目を土用三郎といい,この日の晴雨によって豊凶を占う農村も多い。
執筆者:田中 宣一
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