山腹や川底にある石や土砂が集中豪雨によって一気に下流へと押し流される。時速20~40キロにも達して、巨大な石も押し流す。一瞬のうちに人家や畑を壊滅させてしまう。2018年の西日本豪雨でも多くの地域で発生した。
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急勾配(きゅうこうばい)の渓流に発生する土砂や石礫(せきれき)と水とが混合して一体となった流れ。流水の作用によって砂礫を輸送するものとは性質がかなり異なる。多量の土石が急激に流下し、強大な破壊力をもつため、家屋の全壊や人命の犠牲を伴うことが多い。日本では豪雨時に毎年どこかで発生しており、社会的にも注目されている。土石流には巨石や砂礫を多く含むものから、泥流を主体とするものまで各種の形態があり、それぞれ流れの特徴を異にする。巨石や砂礫を多く含む土石流は一般に先端部に巨礫や石礫が集まって段波状を呈し、高濃度の土砂流や泥流が後続流として続く。先端部の巨礫による衝撃力は大きな破壊力をもっている。泥流を主体とする土石流では先端部にはかならずしも石礫を有しないが、段波状を呈することが多い。土石流の到達前の流水量は普通非常に少なく、土石流は津波のように押し寄せるので山津波ともいわれる。
土石流の発生は、勾配が15~30度くらいの渓床に存在する堆積(たいせき)物に、豪雨などにより多量の水が供給されて表面流が生じ堆積物が安定性を失うことによるが、崩壊した土砂礫が引き続いて土石流に発展する場合もある。土石流の発生には短時間の強雨が関係する。土石流は勾配が10度程度以下になると減速、堆積過程に入り、石礫は勾配が10~3度程度の所で停止するが、この付近が土石流による被害が集中する場所である。後続流(土砂流)はさらに流下して堆積し、これまた災害の原因となる。微細土砂を多く含む泥流は、第三紀(新・古)層の地域や活火山地帯に多く発生し、流動性が高く流下速度が速い。土石流の堆積物は大粒径から小粒径まで混合して層状を呈しないのに対して、流水の作用によって輸送される土砂の堆積物では層状を呈するため区別しやすい。実際の土石流では一般に高濃度の土砂流を伴い、両者相まって災害の原因となっている。
土石流対策として、従来から用いられてきた砂防ダムのほかに、平時の小出水による砂礫は通下させ、土石流による土砂だけを止めるスリットや格子形式の透過型ダムが環境保全と土石流をくいとめる容量の維持という利点から増加している。泥流などに対しては流路工(護岸・床固めなどの工事)や導流工(土石流を安全に流下させて海など安全な場所まで導く渓流保全工事や導流堤など)も有効である。土石流の危険区域は数多く、このような直接的な方法のみでは対応できず、危険区域の予測、発生の予知などに基づく避難予警報も重要であって、国土交通省や地方自治体を中心としてそれらの努力が払われている。
[芦田和男・水山高久]
『芦田和男著『河川の土砂災害と対策――流砂・土石流・ダム堆砂・河床変動』(1983・森北出版)』▽『大浦ふみ子著『土石流』(1994・光陽出版社)』▽『池谷浩著『土石流災害』(岩波新書)』
谷の源流部や上流部で,谷底や谷壁斜面に堆積していた大量の岩屑(がんせつ)が,水を含んでそれと混然一体となって一挙に谷や斜面を流下する現象。マス・ムーブメントの一種で,その中では最も含水比が高く,流速の大きなものの一つである。土石流中の水は川の水のように土石を流送する媒体として働いているわけではなく,土砂を含んで密度を増して岩塊を浮きやすくし,堆積物のすき間を埋め,重力によって流下する岩屑のいわば潤滑剤としての役割を果たしている。土石流は岩屑流とほぼ同義であるが,広義には岩屑が急斜面をなだれ落ちる岩屑なだれや,土砂を主体とした泥流を含めて,水を含んだ高速度の土石の流動現象全体をさすこともある。山崩れや岩屑なだれが途中から土石流に移行したり,土石流が泥流に変わることもある。慣用語で山津波とよばれているものの大半と,鉄砲水といわれるものの一部もこれではないかとみられる。
土石流の大半は,豪雨によって谷頭部に起こった崩壊によってもたらされる土砂や岩塊がそのまま水とともに流下したり,崩壊した岩屑が流れをせき止めた後,それが一気に決壊して異常な洪水流とともに流下したり,谷床の堆積物が急激な出水で一斉に動き出すような形で発生する。いずれにせよ突然発生し,継続時間がきわめて短いので実態がとらえにくく,運動の詳細については不明の点が多い。そのなかには直径数十cm以上の巨礫や大木,場合によっては家ほどもある巨大な岩塊をも巻き込むことがある。大きな礫ほど先端に集まって盛り上がり,秒速数mないし数十mの速度で流下するので,直進性が強く破壊力が大で谷底や谷壁を浸食して大量の岩屑を次々に取り込みながら流れる。1回の土石流で動かされる流出土砂量は数万m3から数十万m3に達することがある。谷を一気に流下した土石流は,本流の広い谷や山麓の平地に出ると広がったり,小さく枝分れして流速が衰え,泥水が抜けて流れ去ると停止し,長くのびた舌状の堆積地形を残す。個々の土石流堆積物は平面的にみると先端部に巨礫が集まり,断面では下層から上層へ粒径が小さくなるような堆積構造を示す。土石流によって押し出される岩屑は,支谷の出口に次々に堆積して小さな沖積錐をつくるほか,山麓の扇状地の形成にも関与している。また,土石流によって埋積された谷が,その後流水によって下刻されてできた河岸段丘を土石流段丘とよぶことがある。
土石流は山間部まで人が住み,観光開発が進んでいる日本では,しばしば大きな災害を引き起こす。全国でその危険性のある河谷は7万近いとみられているが,数十年,数百年に1度という記録的な豪雨で,比較的小さな谷に発生することが多いので,予測がきわめてむつかしい。
執筆者:小疇 尚
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[急速な流動]
火山灰や砂,粘土など細粒の堆積物やそれらを多く含んだ岩屑層に,降雨,融雪,地下水の湧出,火山活動などで急に多量の水が加わると,速度の大きな斜面物質の流動が起こる。物質の性質と含水量の多少によって土砂流earth flow,泥流mud flow,土石流,岩屑なだれdebris avalancheに分けられる。いずれもその発生は一時的かつ偏在的である。…
…泥流という語は日本語,英語ともに泥という字が誤解を与えやすいのでラハールとして一括した方がよいという意見もある。日本の火山斜面で,崩壊物や谷の堆積物が急速に流下し,先端部に巨礫が集中し,衝撃力の大きな特有な流れ方をするとき土石流という。これは山麓に大きな災害をもたらす。…
…日本やハワイ諸島は,この地震や1868年と1877年のペルー・チリ国境沖の地震などによる津波で大きな被害をこうむっている。1970年のペルーの地震(M7.6)は氷河なだれに端を発した土石流による大災害が発生し,7万に近い死者が出た。
[南太平洋の地震]
ニュージーランドからケルマデク,トンガ,ニューヘブリデス,サンタ・クルーズ,ソロモンの各諸島を経てニューギニアに至る地帯は,太平洋プレートとインドプレートの境界に当たり,島弧型の地震活動が活発で,M8.0程度以下の地震の発生数はかなり多い。…
※「土石流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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