近代民法は,相続人の権利の平等を基礎とした相続制度を設定する。すなわち数人の相続人は共同で相続し,相続順位の同じ者の間では相続分を均等にして相続財産を分割することを原則とする。日本民法も,戦後改革による1948年の改正以来,均分相続制をとっている。しかし,現行民法は,嫡出子と非嫡出子,父母の双方を同じくする兄弟姉妹と一方を同じくする兄弟姉妹との相続分を均分としない。また,配偶者の相続分もまったく別に定めている。均分相続制においては家族内部で遺産が平等に分けられるから,諸子,配偶者の経済的地位を高め,家父長的支配の物質的基礎を失わせる意義がある。その反面,相続の際に零細な資産が分散し,家族経営における資本の給付力が低下するという批判が,明治民法典編纂(へんさん)のころからつねにつきまとっていた(〈家督相続〉の項を参照)。1887年の身分法第1草案が,遺産相続については均分相続制の志向を実現しえなかったのも,主として戸主に資産を集中し〈家〉の資本給付力を強化する大勢に抗しえなかったからである。戦後改革においては,家族制度民主化のたてまえから均分相続は当然とされた。しかし,均分相続の貫徹による農地の零細化,農業経営資本の分散化が危惧された。このため,農業資産相続人に農業資産を帰属させ,他の共同相続人に民法による相続分に応じた求償権を与える〈農業資産相続特例法案〉が第1国会と第5国会に提案されたが,いずれも審議未了で終わっている。その背景には,大多数の農家は,主要な農業資産は相続放棄などであととりに集中させるが,他方では,あととり以外の子にも財産を分ける共同相続ないし分割相続を実行していたことがあったと思われる。
→相続
執筆者:依田 精一
中国において伝統的に均分相続が行われていたことは顕著な事実として注目されている。ただしその意味は,人が死亡すると一時的に持主を失った遺産が生じ,その遺産を相続人たちが均等に分けあう--相続人が従来から持っていた各自の財産に加えて遺産の分前を取得する--ということではない。中国では〈同居共財〉と呼ばれた家族共産制が行われていたので,通常は,人が死んでも遺産が生じない。父と子どもらから成る家において,父も子も各自の個人財産を持っていない。ただ一つの共同の財産,共同の会計によって生活している。ここで父が死亡すれば子どもたちの間に従来どおりの共財関係が続く。父の個人財産というものはもともと何もなかったのであるから,遺産相続という問題は起こらない。そして将来,家産分割を行うときになって,その時点において存在する総財産を兄弟は均等に分けあう。兄弟のうちにすでに死亡した者があればその者の息子または養子が代位する。未婚の姉妹があれば兄弟がこれを扶養し嫁入仕度として財産を与える。姉妹が兄弟と並んで均分権者のうちに数えられることはない。以上が,中国において均分相続といわれるものの実体である。換言すれば,父の死亡後,息子たちのあいだに総財産の共有関係が続き,その総財産すなわち家産に対して兄弟はつねに平等の持分を持つということなのである。
中国において均分相続は普遍的な慣習でありきわめて根強い伝統であった。農民の生計が貧しいゆえに均分相続が行われるのであるという説があるけれども,それはまったく当たらない。富者においても均分相続が行われる。それは中国の家族法の理念に立つかぎり至極当然のことなのであった。何らかの社会的条件から均分相続が生まれたというよりも,均分相続がもととなって中国社会のあり方を規定していたと見る方が妥当である。
→家族法
執筆者:滋賀 秀三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
数人の相続人が共同で相続する(共同相続)場合、それぞれの相続分が均等である相続形態。
[編集部]
…さまざまな家族制度を兄弟姉妹関係を視点としてみれば,兄弟姉妹間の連帯をなんらかの形で強調もしくは尊重するものと,兄弟姉妹間の分離を促進し,そのかわりに親子関係や夫婦関係を強調もしくは尊重するものの二つに大別できる。 兄弟姉妹関係を強調する家族制度としてとくに注目されるのは大家族制(拡大型家族),同族組織,オナリ神信仰,均分相続制,レビレート婚(兄弟逆縁婚),ソロレート婚(姉妹逆縁婚)である。日本における大家族制の最も一般的な形態は兄弟姉妹のうち複数の男の兄弟が結婚後配偶者をともなって生家にとどまり(多子残留),同一の家族を形成するものであり,親子関係に加えて兄弟間の連帯が強調される家族といえる。…
…こうした相続原理は当時の婚姻とも大いに関係があろう。奈良時代の庶人の財産相続法については,大宝令の注釈書に〈均分〉とある以外は不明だが,平安前・中期の在地の諸階層の実際の処分例からは,ほぼ男女均分相続であったことが明らかにされている。嫡子優位の相続が広範に見られるのは平安後期以降のことであり,それも主として職の継承とかかわる財産についてである。…
※「均分相続」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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