塑性加工(読み)そせいかこう(その他表記)technology of plasticity

改訂新版 世界大百科事典 「塑性加工」の意味・わかりやすい解説

塑性加工 (そせいかこう)
technology of plasticity

物体の塑性を利用して,素材から製品を製造する加工法。金属の加工に関して古くから用いられ,発展してきた方法で,この項では金属の塑性加工について述べる。プラスチックについては〈プラスチック成形加工〉の項を参照されたい。

 塑性加工という名称は比較的新しく,第2次大戦以後用いられるようになったものである。それ以前は,冶金の一部の製造冶金とか,機械工作とか呼ばれている分野の中におかれていた。鍛造圧延押出加工引抜加工など主として素材の製造の一次加工と,プレス加工などの二次加工とを総称して塑性加工というようになった。とくにプレス加工は伝統的に鋳物と競合関係にある技術であり,材料をいったん溶融して型に流し込んで成形するか,材料を型の中で固体のままで圧力の作用で変形させて成形するかの選択がつねに問題となってきた。現在では,粉末冶金ダイカスト,レオカストと呼ばれるプレス成形と鋳物との中間的な方法が開発され,われわれの選択の幅は大いに広まってきている。そして,これらの手法の特徴を理学的,経済的,環境衛生的な側面から総合的に検討する工学によって,それぞれのよい面をとり入れた,より合理的な複合加工法も開発されてきている。レオカスト,半融体鍛造と呼ばれる新技術が実地に試され,その評価の定まるのを待っている状況にある。

 塑性加工は,理学的側面からいえば三つの重要な基本の上に成り立っている技術である。第1は,材料の変形についての力学的知識である。材料が圧延の場合にはロールの間で,鍛造の場合には型の中で,引抜加工や押出加工の場合にはダイスコンテナーの中で,プレスの場合にはダイスやポンチの間で,どのような力の作用のもとでどのように変形するかという研究が,20世紀に入ってから非常に進歩した。弾性変形の学問はフックの法則として知られているように,その基本はすでに19世紀の間に確立していたのであるが,塑性変形の学問は現在でもまだ基本が確立していない。しかし,現実には塑性加工が行われており,そこにおける力と変形とを定量的に認識し制御していかなければならない。塑性変形の学問はこのような現実からの大きな刺激をうけながら進歩しつづけている状況にある。第2は,材料の挙動についての知識である。この知識の不足が第1に述べた学問の遅れの原因にもなっているが,材料がどのように塑性変形をするかということを十分包括的,定量的に表現する数学的モデルが確立していないのである。それは,金属材料に塑性変形が生ずる機構の性格に一つの原因がある。つまり金属材料の塑性変形は,金属を構成している金属元素結晶粒の中で起こる結晶面どうしのすべりによって生ずるので,塑性変形の挙動はまずこの結晶粒の性質,すなわち大きさ,すでに生じたすべりの量,不純物の量,他の微小な物体の介在の有無やその量などによって大きく影響をうける。このような因子の影響を普遍的な形式で表現することはかなり困難であるが,多くの研究者が問題の解決に当たっている。塑性変形の挙動の解明が必要とされるもう一つの理由は,塑性加工により製造された物品の性質,すなわち強さ,耐食性,美観などにも塑性変形の挙動を支配する因子がやはり大きな影響をもっているからである。第3は,システムの問題である。塑性加工に用いられる工具にはロール,型,ダイス,ポンチなどがあり,これらの維持管理と,加工に際しての工具の弾性変形の問題は重要である。次には,工具を支えている機械の枠組みの弾性変形が重要である。これらの弾性変形を計算に入れて工具の設計や加工中の工具の運動を決定したり制御しなければならない。もとより機械の運動部分の摩耗や損壊も重大な問題である。技術の問題において絶対に摩耗しない,損壊しない,狂わないというようなことはありえないので,塑性加工を行う場合にも,これらのことを計算に入れて制御し維持管理していく体制をとる必要がある。また,工場の立地,各技術の評価,労働環境の問題という経営工学的な面での検討も必要である。

 塑性加工によって製造される製品をあげる。まず厚板から箔に至る板類の製造である。これは主として圧延により行われる。次に棒・条・線の製造で,これは圧延や押出加工によるが,線の場合はさらに引抜加工により棒を素材として製造される。金属管には,圧延や押出加工によって製造される継目なし管と,板材の曲げを主体として成形し溶接または鍛接して製造するものとがある。これらの製法には,マンネスマン法(継目なし管,圧延),ユージン=セジュルネ法(継目なし管,押出加工),フレッツムーン法(鍛接管,ロールフォーミング・鍛接),UOE法(厚肉大径管,プレス・電気溶接),電縫管法(ロールフォーミング・電気溶接),スパイラル法(大径管,電気溶接),ケージフォーミング法(大径管,電気溶接)などがある。形材は圧延と押出加工で作られる。H形鋼や鋼矢板など土木・建築用鋼材は圧延によって,アルミサッシュなどのアルミニウム形材は押出加工により製造される。軽量鉄骨は薄板や条鋼からロールフォーミングにより製造される。ボルト,釘,ローラーベアリング,その他小型の金物など,プレスや回転成形により作られているものも多い。なべややかんの類は薄板をろくろにのせ,へらで押しながら絞って形を作るスピニングという方法によって製造される。貨幣は昔は鋳造された鋳貨であったが,今日では薄板をプレスで刻印して造る鍛造貨幣であり,この加工法を圧印加工coinningと呼んでいる。自動車の外板や内装,ステンレス鋼やホウロウの浴槽などはほとんど薄板をプレスで成形して製造されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「塑性加工」の意味・わかりやすい解説

塑性加工
そせいかこう

一般に固体物体に力を加えて変形させるとき、力が小さいうちはその力を取り除くと物体の形は元に戻る。固体のもつこの性質は弾性とよばれる。力をしだいに大きくしていくと、ついには力を取り除いても物体の形は元に戻らなくなる。すなわち塑性変形する。固体のもつこの性質が塑性であり、塑性を利用して材料を所定の形状、寸法の製品に成形する手段を塑性加工という。日常生活で目に触れる金属製品のきわめて多くのものが塑性加工の工程を経て製品となっており、この加工は金属加工の重要な分野を占める。塑性加工には圧延、押出し、鍛造、引抜き、剪断(せんだん)、プレス加工、矯正とよばれる各種の加工法があり、それぞれの加工名を冠した機械装置によって加工が行われる。圧延、押出しおよび鍛造は高温に加熱した状態でも、また室温でも行われるが、その他は主として室温で行われる。金属材料は塑性加工によって強度その他の性質が改善される。加工熱処理とよばれ、加熱温度と塑性加工をうまく組み合わせることによって一段と製品強度を高める方法も開発されている。塑性加工は同一形状・寸法の品物の多量生産に適した手段であり、機械装置および使用工具の高精度化によって高精度の製品を能率よく生産する方向に発展してきた。とくに圧延加工においては自動制御技術の導入が著しい成果をあげてきた。製品の形状によっては切削加工でつくれるものもあるが、塑性加工は削り屑(くず)を出さない加工なので材料の有効利用の点で切削加工より有利である。しかし、製品精度の点では切削に劣る。一方、板、管、線材のように塑性加工でなければつくれないものもあるが、たとえば管が圧延によっても押出しによってもつくれるように、同じ品物を別種の塑性加工でつくれる場合も多い。近時、用途の多様化で多品種少量生産の要求が塑性加工の分野においても強まってきており、これに即応できるようコンピュータを導入し、ロボットを活用する自動化技術が圧延以外の分野にも取り入れられて成果をあげ、省力化の実もあがっている。塑性加工は金属に対してのみでなく、プラスチックや金属と非金属との複合材料に対しても行われている。土や岩石の変形は学問的には塑性変形として取り扱われるが、粘土や陶土の成形は塑性加工とはいわない。

[高橋裕男]

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百科事典マイペディア 「塑性加工」の意味・わかりやすい解説

塑性加工【そせいかこう】

材料の塑性を利用して変形させる加工法。金属の塑性加工には熱間加工と冷間加工があり,圧延,鍛造,押出加工引抜加工などの一次加工とプレス加工などの二次加工を総称していう。現在では粉末冶金ダイカスト,レオカストなど鋳物とプレス成形の中間的な方法も実用化されている。
→関連項目加工硬化塑性鍛造熱間加工

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知恵蔵 「塑性加工」の解説

塑性加工

物質に力を加えて塑性変形させ、各種形状に加工する方法。常温で行う冷間(れいかん)加工は寸法精度が高い。熱間(ねつかん)加工は大型品や粗加工に用いる。圧縮力主体の変形では、2個のロールを用いる圧延(あつえん)加工、工具で押し潰す鍛造(たんぞう)加工、ダイスを用いる押出(おしだし)加工がある。引抜(ひきぬき)加工では、引っ張り力を用いて細線材を作る。パイプを作る回転加工、しわを作らずに板を成形するプレス加工などもある。

(岡田益男 東北大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塑性加工」の意味・わかりやすい解説

塑性加工
そせいかこう
plastic working

素材の可塑性を利用して,荷重によって所定の形状の製品を得る加工法。主として金属材料に適用される。 (→金属の塑性加工 )

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