化学式HCl。無色の刺激臭のある気体で,その水溶液を塩酸という。実験室では,濃塩酸に濃硫酸を滴下したり,塩化ナトリウムと濃塩酸を反応させて得る。工業的には塩酸の製造過程でつくられる。融点-114.2℃,沸点-84.9℃。臨界温度51.4℃,臨界圧力81.5気圧。湿った空気中で発煙する。H-Cl結合距離は0.1274nmで,その結合は共有結合性83%,イオン結合性17%と考えられており,気体ではむしろ極性のある共有結合性分子とみなされるが,水にきわめてよく溶け,水溶液中ではH⁺(水分子と結合してオキソニウムイオンH3O⁺として存在している)とCl⁻とに事実上完全に解離する。0℃,1気圧における水に対する溶解度は,容積で517.4倍,重量で82.3g/100gに達する。メチルアルコール,エチルアルコール,エーテルなどにも溶けやすい。酸素とは電気火花や,触媒の存在下で反応を起こす。
4HCl+O2─→2Cl2+2H2O
フッ素とは激しく反応してフッ化水素と塩素とを生ずる。多くの金属は塩化水素と常温または高温で反応し,水素を発生して塩化物となる。過酸化水素により酸化され塩素を生ずる。塩酸や塩化ビニルの原料となる。
執筆者:大瀧 仁志
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水素と塩素の化合物。天然には火山ガスに含まれることがあり、実験室では濃硫酸に濃塩酸を滴下(てきか)して発生させるか、塩化ナトリウムに濃硫酸を加え熱してつくる。工業的には塩素と水素との気流を噴出、衝突させて点火すると連鎖反応によって塩化水素を生成する。無色で、刺激臭のある発煙性の気体。吸湿性が強く、空気中の水分を吸収して塩酸を生じ、金属を腐食する。冷却すると、無色の液体から固体になる。水によく溶けて塩酸になる。水溶液から一水和物HCl・H2O、二水和物HCl・2H2O、三水和物HCl・3H2Oなどの結晶が得られる。アルコール、エーテル、ベンゼンなどにもよく溶ける。完全に乾いた塩化水素は不活性であることが多いが、水溶液である塩酸は非常に反応性が高い。塩酸の製造のほか、無水和物は塩化ビニルや塩化エチレンの原料となる。吸湿性が強いので、有機合成における脱水剤や非水溶媒中では縮合剤として用いられる。
[守永健一・中原勝儼]
HCl | |
式量 | 36.5 |
融点 | -114.2℃ |
沸点 | -84.9℃ |
密度 (比重) | 気体 1.639g/L(0℃,1気圧) 液体 1.265(測定温度-113℃) |
溶解度 | 82.31g/100g(水0℃) |
原子間距離 | H-Cl, 1.274×10-8cm |
臨界温度 | 51.4℃ |
臨界圧 | 83atm |
HCl(36.46).塩化アンモニウム,アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物に硫酸を加えて加熱すると得られる.工業的には,食塩水の電解により生成する塩素と水素を反応させてつくられる.無色の刺激臭のある発煙性の気体.融点-114.2 ℃,沸点-85 ℃.水に易溶(0 ℃,82.3 g/100 g).水溶液を塩酸という.メタノール,エタノールおよびエーテルに易溶.フッ素とはげしく反応してフッ化水素と塩素とを生じる.多くの金属と反応し,水素を発生して塩化物を生じる.アルカリ金属およびアルカリ土類金属は燃焼する.塩化水素は過酸化水素によって酸化されて塩素を生じ,アンモニアと反応して塩化アンモニウムを生じる.塩酸の製造,塩化ビニル,塩化アルキルの原料などとして広く用いられる.劇物で鼻や眼の粘膜をおかす.吸入は危険.[CAS 7647-01-0]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…大気汚染防止法では,燃焼に伴い発生する硫黄酸化物とばい塵,電気を熱源に使ったときにでるばい塵および物の燃焼,合成,分解に伴い発生する有害物質がばい煙とされている。ここで有害物質とは,カドミウム,鉛とこれらの化合物,塩素,塩化水素,フッ素,フッ化水素,フッ化ケイ素および窒素酸化物である。 硫化水素H2S無色腐卵臭のある有毒気体で,火山ガスや鉱泉に含まれ,硫黄を含むタンパク質の腐敗でも生ずる。…
…フッ化水素HF,塩化水素HCl,臭化水素HBr,ヨウ化水素HIおよびアスタチン化水素HAtの総称。ハロゲン原子と水素原子との結合はフッ化水素を除いてはイオン性よりもむしろ共有結合性で,結合のイオン性の程度はつぎのようである。…
※「塩化水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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