翻訳|propagation
水産増殖ともいう。水産生物の繁殖と成長を助長しようとする人間の試みであるが,養殖を含む広い意味で使われる場合と,養殖を除外した狭い意味で使われる場合とがある。ここでは後者について述べるが,この場合は公共水面において漁業資源の維持・増大を目的として行われるもので,漁業管理,環境改善,移殖・放流の三つを柱とする。そして,自然の生産力に多くを依存し,生産物は漁業によって収穫され,それまでは所有者が決まっていない点などに養殖との相違がみられる。養殖が私企業として営まれるのに対し,増殖はその性格上,公共的な事業として国や地方自治体の補助を受けて漁業協同組合によって実施されることが多い。
水産生物の繁殖保護のために,漁獲を法律や規則によって制限するもので,次のような規制が行われている。(1)漁具・漁法の制限 水域全体の水産生物を根こそぎ採るような漁具・漁法の使用を禁止または制限する(たとえば,毒流しの禁止,網目の制限)。(2)漁期の制限 産卵期や幼若期を禁漁期として親や稚子を保護する(アユ,イセエビ,アワビ,ナマコ,テングサなど)。期間を決める際に総漁獲量の制限を組み込むこともある。(3)漁場の制限 禁漁区,保護水面,育成水面などを設け,産卵場や稚仔の生育場所を保護する。禁漁区にはあらゆる漁業を禁止するものと,特定の生物種,期間,漁具・漁法に限って禁止するものとがある。間引きのためにときどき解禁する〈口開け〉とか,一連の漁区を順番に利用していく〈輪採(りんさい)〉などは後者に属する。保護水面とは水産資源保護法に基づき農林水産大臣が指定した水域である。現在,天然種苗の確保を目的とした稚貝保護水面,自然産卵を促進するためのサケ・マス保護水面,産卵場の保全のためのアユ・ワカサギ保護水面,沿岸魚類の稚仔の生育場の保全のための藻場保護水面などが設けられており,それぞれの目的に合わせた処置がとられている。育成水面は種苗放流後も地先水面で生育するマダイ,クルマエビ,ガザミなどの放流効果を高めるために,放流後一定期間それらの漁獲を地元漁業者が自主的に規制する水域で,漁業協同組合などが都道府県知事の許可を受けて設定する。(4)漁獲物の大きさの制限 稚仔を保護するためそれぞれの生物種に制限体長を設け,それ以下の体長のものの漁獲を禁止するもので,都道府県ごとに定められている。たとえばイセエビの制限体長は東京都や千葉県などでは13cm(全長),愛媛県や長崎県などでは15cm(全長)である。
ある水域の生産力を増強しようとするもので次のようないろいろの方法がある。(1)投石 コンブ,ワカメ,テングサなど藻類の付着面を増すことを目的とする場合と,イセエビ,ウニ,ナマコなど無脊椎動物の生育場所を造ることを目的とする場合とがあり,それぞれの生物種に応じて,場所,時期,材料,数量などが決められる。(2)岩礁爆破 有用藻類の着生を妨げる雑藻を除去したり,新しい着生面を造り出すために行われる。(3)磯掃除 有用藻類の間に生えている雑藻を除去して有用種の生育を促すことを目的とする場合と,既存の付着生物を取り除いて新しい着生面を造成することを目的とする場合がある。(4)岩面造成 岩面にコンクリートを塗って凹凸をなくしたり,藻類の着生しやすい岩を岩面に固定したりして,イワノリやフノリなどの有用藻類の着生しやすい環境を人工的に造る。(5)人工魚礁 沈没船の周囲に魚などが集まって新しい漁場ができることは漁民が古くから気づいていたことで,これを積極的に行ったものが人工魚礁であり,その歴史は古い。人工魚礁の素材は土俵,岩石,廃船,コンクリート工作物などさまざまである。近年,国の助成事業として工作物による大型人工魚礁が各地に造られている。人工魚礁は集魚を目的とした副漁具的性格をもっているが,魚以外にイカ,タコ,アワビ,イセエビ,ナマコなども繁殖するので増殖にも役だたせることができる。(6)魚道 ダム建設によって河川が寸断されると,サケ,アユ,ウナギなどの河川と海を往来する魚の繁殖が妨げられる。そこで,これらの魚の通路として設けられるのが魚道である。魚道にはいろいろの様式があり,対象種の生態や能力に合わせて設計される。(7)産卵場の造成 有用種の産卵を助長するために産卵場所や産卵しやすい施設を造ることが行われている。アユが産卵しやすいように河口付近の川底を改修したり,琵琶湖でホンモロコの増殖のために浮きいかだ式の産卵床が造られたりしている。また,浅海ではマダコの増殖のために蛸壺(たこつぼ)様の構造物を多数海底に沈めたり,コウイカやアオリイカの産卵を促進するために樹枝やそだを投入したりしている。(8)内湾や浅海・干潟の改良 アサリ,ハマグリ,カキ,ノリなどを対象に,内湾や浅海・干潟の生産力を増強する目的で,耕耘,整地,客土,作澪(さくれい)などが行われる。耕耘は硬くなった底土の軟化,還元層の酸化,栄養塩類の底土から水中への放出,害敵や雑藻の除去などの効果をもつ。整地は海底地盤の高さを調節したり,凹凸をなくすために行われ,それによってアサリやノリなど水深や干出時間が生産性に大きな影響を及ぼすものの増産をもたらすとともに,収穫時の作業もしやすくなる。客土は硬さを調整するために軟泥質の海底に砂を入れたり,還元層から出る硫化水素を除去するために鉄分の多い赤土を入れたりすることである。作澪は海水の交換の悪い水域の海底に溝を掘って潮流の疎通をよくすることである。また,内湾の狭い湾口を広げるために,湾口を形成している砂州の一部を掘削する場合もある。(9)消波工 浅海に設置された増養殖施設を波浪から守るための工作物で,さらに潜堤式消波工,浮き消波工,防波柵などの区別がある。
以前にはそこに生息していなかったり,数量の著しく減少した水域に外部から有用生物種の稚仔あるいは成体を導入し,その生育あるいは繁殖をはかることを移殖ないしは放流と呼んでいる。移殖と放流は言葉としてのニュアンスが若干異なるものの本質的差異はない。また,海藻の場合には播種(はしゆ)という表現も使われる。移殖・放流されている水産生物の種類は数多いが,代表的なものにサケ,ワカサギ,アユ,クルマエビ,ホタテガイ,アワビなどがある。
→移殖
執筆者:若林 久嗣
原子炉における転換で転換率が1を超えるのを増殖という。増殖の起きている原子炉の中では核分裂性物質が燃焼とともに増えていく。増殖の起こる原子炉を増殖炉といい,その転換率を増殖率という。
執筆者:近藤 駿介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…生物が後継ぎを残して種族を維持すること。日本語でも英語でも〈生殖reproduction〉や〈増殖multiplication(またはproliferation,propagation)〉との区別があいまいで,しばしば混用されるが,概念上の整理が必要であろう。種族が維持されるためには,一つの世代が次の世代を,次の世代はさらに次の世代を生じなければならない。…
…生物が自分と同じもしくは共通する遺伝子組成をもつ個体を新たにつくること。繁殖という語は家畜学などの分野で,また増殖という語は水産学の分野で,ほぼ同じ意味に使われている。
[植物の生殖]
植物の生殖は,体の一部または無性の生殖細胞である胞子から新しい個体ができる無性生殖と,性的に異なる2種の配偶子が合体する有性生殖の二つに大別される。…
…生物が後継ぎを残して種族を維持すること。日本語でも英語でも〈生殖reproduction〉や〈増殖multiplication(またはproliferation,propagation)〉との区別があいまいで,しばしば混用されるが,概念上の整理が必要であろう。種族が維持されるためには,一つの世代が次の世代を,次の世代はさらに次の世代を生じなければならない。…
※「増殖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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