デジタル大辞泉 「壁」の意味・読み・例文・類語
かべ【壁】
2 前進を阻むもの。進展の妨げとなるもの。障害。「記録の
3 登山用語で、直立する岩壁。
4 《壁を「塗る」に「
「まどろまぬ―にも人を見つるかな
5 《白壁に似ているところから》豆腐をいう女房詞。おかべ。
[補説]書名別項。→壁
[下接語]荒壁・石壁・板壁・大壁・
[類語](1)白壁・白亜・粗壁・なまこ壁・城壁・塁壁・防壁・外壁・内壁・障壁・隔壁・胸壁・壁面/(2)難しい・
翻訳|wall
建物の内と外を区画したり,建物内部の空間を区画するために鉛直またはそれに近い角度で設けられる構築物をいう。屋根,床,天井なども同じく空間を区画するものであるが,空間の容積を決定するうえでは壁のほうがはるかに重要であり,建築設計においても壁の配置計画から始めることが多い。
壁はその考えている対象によって,空間の仕切りとして壁全体を指す場合と,片側の壁面だけを指す場合の二つの見方がある。前者の見地に立てば,二つの外部空間を仕切る外部壁,外部空間と内部空間とを仕切る外周壁,二つの内部空間を仕切る間仕切壁,間仕切壁のうちとくに共同住宅などで二つの住戸間を仕切る戸境(こざかい)壁(界壁ともいう)などの分類が可能である。一方,後者の見地に立てば,外部空間に面する外面壁,内部空間に面する内面壁などの分類が可能で,さらに,外面壁と内面壁とを有する壁を外周壁というといった内容の定義づけも考えられる。壁の位置に関する名称としては,このほかに,窓台の高さより下部の腰壁,鴨居の高さより上部の小壁などがある。また,開口部まわりについて,開口部の上部のたれ壁,側部の袖壁などがあり,重層建物においては,上下階の開口部にはさまれる部分をスパンドレルspandrelと呼ぶことがある。
壁の機能は,適切な空間をつくり出すために音や熱,風,雨などのさまざまな因子を遮断したり反射したり,必要に応じ制御することである。壁の機能に対する要求は,因子の種類とその制御の程度で表すことができ,それは壁の種類,隣接する空間によって異なる。例えば外周壁では雨,風が重要な因子であるのに対し,間仕切壁では音が重要なことが多い。また,外面壁といっても,例えば北極圏にある場合と赤道直下にある場合とでは,要求に差のあることは容易に想像がつく。間仕切壁などは両側の空間の用途によってさまざまな要求が考えられる。
防火壁,防煙壁など機能を示す言葉が冠せられたものは,その機能を特別に補強した壁を指すことが多い。ちなみに防火壁とは,建物内の延焼を防ぐための防火区画を形成しうる耐火性の高い壁をいい(ただし,単なる防火構造の壁を指すこともある),防煙壁は天井に沿って広がる煙を防ぐため,不燃性のたれ壁とする(防煙たれ壁)のがふつうである。こうした壁の種類としては,このほかに録音スタジオの周囲などに使われる壁で,二重壁などにして遮音性を高めた防音壁(遮音壁),音楽ホールなどで反響を防ぐために設けられる凹凸などを有する吸音壁,冷凍室の周囲など外部の温熱環境を遮断する目的で,断熱材を豊富に用いた防熱壁や防寒壁,高い防水性を要求される地下室などに用いられる防水壁(外周壁は原則としてすべて防水性が要求されるが,これは除く),間仕切壁などで収納の機能を一体としてもっている収納壁,レントゲン室など放射線を扱う室の周囲に放射線の遮断を目的に設けられる放射線シールド壁,太陽熱などを時間をおいてとり出すための熱容量の大きい蓄熱壁,ガラスブロックのように光は通すが,他のほとんどの因子は遮断する採光壁などがある。
以上述べたような機能をもった壁のほか,建物を支えるという機能を最優先する壁があり,これを耐力壁あるいはベアリングウォールbearing wallと呼ぶ。耐震壁は風や地震など水平方向の力に対してとくに強い抵抗要素をもった耐力壁である。これに対して,建物を支えるような機能をとくにもっていない壁は非耐力壁あるいは帳壁と呼ばれる。非耐力壁をカーテンウォールと総称することもあるが,狭義には非耐力壁のうち,構造体に直接取りつけられる,工業製品化された壁をとくにカーテンウォールと呼んでいる。石や煉瓦を用いた組積(そせき)式構造においては,壁は元来が耐力壁であるのに対し,日本で行われてきたような木材による軸組構造では,壁は非耐力壁が原則である。このように西欧建築と日本建築とでは壁に対する考え方はまったく異なっている。とくにカーテンウォールについて西欧建築ではまったく異質なものの出現であったのに対し,日本建築では単に工業製品化された壁という受止め方でしかなかった。
壁の構成材料については,壁自身を支えている軀体(くたい)に相当する部分,直接,空間に面している仕上げの部分,軀体部分と仕上部分とにはさまれた下地の部分の三つに分けて考えることができる。もちろん,コンクリート打放しの壁のように軀体から仕上げまでが一体で,分けることのできないものもあり,逆に下地が何層にも分けられるものもある。
軀体部分の構成方法には上述の石,煉瓦,ブロックなどによる組積式のほか,木材や鋼材などを使った軸組式,現場でコンクリートを打ち込んでつくる一体式,あらかじめ工場で版材を形成し現場で建て込むパネル式などがある。ティルトアップ工法による壁などは現場でパネル化して建て込むわけで,パネル式の一種と考えてよい。軀体部分を構成する材料の種類により,石造,煉瓦造,木造,鉄骨造,鉄筋コンクリート造の壁などと呼ばれることもある。仕上部分の構成方法に着目すると,石,煉瓦を積む壁,板やボード類を張る壁,タイルなどを張る壁,プラスターなどの左官材を塗る壁,紙,布をはる壁などに分けることができる。また下地部分の構成方法としては,板やボード類を受ける胴縁,板胴縁など線状の下地,木ずり,小舞壁の下地,ラスボードなど左官材の食込代(くいこみしろ)をもった面状の下地,紙,布やタイル類を受けるボード類,モルタルなどの面状の下地などがある。下地としては,このほかに積まれた石類とコンクリートとの間に充てんされるモルタルのように,あるいは壁の機能を補強する目的で挿入される断熱材や防湿材のように,結果として下地に相当する位置を占めるものもある。いずれにせよ,建物全体から軀体部分の構成が決まり,各空間の目的,用途により仕上げが決まった後,適切な下地構成が選ばれることが多い。
壁の構成方法に関連して,現場でコンクリートやモルタルなど水を混合した材料を用いるものを湿式壁,それ以外のものを乾式壁と区別していうことがある。また,壁は本来,建物に固定された不動のものであるが,室の使いかってにあわせて移動ができると便利なことがある。建設後も移動可能な間仕切壁を可動間仕切りと呼ぶ。
執筆者:大野 隆司
種類は素材や製法によって多く,一般的な板壁,土壁のほか貼付壁,網代(あじろ)壁,茅(かや)壁,石壁,煉瓦壁などがある。板壁は横板を柱の溝にはめ込む横嵌(よこはめ)板壁,比較的薄い竪板を貫(ぬき)や胴縁に打ち止める竪板壁,薄い横板を羽重ねにはり,押縁や簓子(ささらこ)で押さえた下見壁などに分けられる。横嵌板壁は古代の神社建築以来用いられ,竪板壁は中世に伝来した禅宗様(唐様)によってもたらされた。下見板壁は近世になって城郭や民家に用いられたものである。開口部をあまり必要としない倉などでは,柱を立てずに厚い横板を井籠(せいろう)に組んで積み上げる板倉や,板ではなく三角の校木(あぜぎ)を積み上げる校倉なども古くから用いられた。
土壁は寺院建築とともに中国,朝鮮半島からもたらされたものと思われ,以来,日本建築の壁の主流となる。柱の間に貫・間渡しを通し,これに小(木)舞を縦横に細かく縄でかきつけ,下塗(荒壁),中塗,上塗の順に塗りつけていくもので,上塗の違いによって漆喰(しつくい)壁,土物壁,大津壁,砂壁などの種類がある。小舞は中世以前では木材を挽(ひ)き割った際の残材を用いた木小舞であったが,近世には割竹を用いた竹小舞となった。近世の大壁式塗籠(ぬりごめ)の場合は木部に縄を巻きつけたり,小割板を打ちつけたりする。明治以降には洋風の木ずり下地も用いられるようになった。下塗には粘土質の土を用い,中塗はこの土をふるって小砂利を除き,砂を混ぜて用いる。いずれも苆(すさ)を加え,水で練って塗るが,練り合わせて長くねかせてから塗るほうが粘性がよい。民家では荒壁あるいは中塗仕上げのものも多い。上塗は,古くは白土または消石灰に苆,のりを加えて水練りしたものであったが,近世にはこれに砂を混ぜた漆喰壁が用いられるようになった。白土や消石灰だけの壁は仕上面が平滑で美しいが,耐久性に欠けるのに対し,漆喰壁は平滑な面をつくることはむずかしいが,耐久性を増す。漆喰壁には灰墨を混ぜた黒漆喰もある。近世の茶室の内部では消石灰を使わず,山土に砂を混ぜて塗る色のついた壁をつくることが行われ,それが赤褐色の大阪土や茶褐色の聚楽土(じゆらくつち)などの色土を使った土物壁へと発展し,民家にも普及していった。さらに,色土に消石灰を混ぜて苆を加え,のりを使わず水練りをした大津壁がでてくる。大津壁は色によって白土,浅黄,黄大津があり,漆喰と同様の仕上りでしかも色がつくという利点があり,おおいに普及した。このほか,色砂に苆を加え,のりで練った砂壁がある。なお,近年は種々の繊維に着色した木粉を混ぜてのりで練った繊維壁が手軽な日本壁として用いられている。繊維壁の場合は下地にボードを用い,下塗や中塗なしに直接塗りつける。また,土壁は柱との納まりの関係から,柱の露出する真壁(しんかべ)式と柱を外側から塗り込んでしまう大壁式とに分けられる。大壁式塗籠の一種である土蔵造は耐火用として中世から倉に用いられ,近世には城郭に用いられておおいに発達した。しかし,この土蔵造は長い間庶民の家には禁じられていたもので,1720年(享保5)出火と飛火防止のため〈土蔵造あるいは塗屋と瓦屋根は,これからはかってに町中の普請で用いてよい〉とされて以来,ようやく民家にも普及した。民家の塗屋造は簡易土蔵造というべきもので,土蔵造より壁厚が薄く,柱形などを見せるが,土蔵造との違いはあまり明確でない。土蔵造や塗屋造の腰に平らな瓦をはり,目地を漆喰で盛り上げたものを生子(なまこ)(海鼠)壁という。
貼付壁は書院や客殿の室内に用いられるもので,柱間にふすまと同じように格子状の木枠を組み,古紙で下張りをしてから鳥の子紙をはりつける。ふすまとの一体性を増し,連続して絵をかくこともできる。網代壁も数寄屋建築や茶室に用いられ,檜皮(ひわだ)や竹などを網代に組んで壁とする。茅壁は民家の外壁に用いられるもので,茅を束ねて取りつける。秋山郷(長野県,新潟県)など限られた地方に見られる。石壁は,日本建築では倉などに用いられる程度であったが,幕末に洋風建築が伝えられてからは,用いられることが多くなった。煉瓦壁も洋風建築とともに伝来したものである。
執筆者:浜島 正士
壁は,その発生期には木や草などの有機質の材料によってつくられたであろうが,古代から残るものはなく,無機材料によるもののみが残されている。先史時代における壁は土を積んだもの,巨石をわずかに加工して並べたもの,扁平な石を積み上げたものであったが,のちに土を水でこねて成形乾燥させた日乾煉瓦,切石,焼成煉瓦などの壁がつくられるようになった。古代ローマ時代には,石灰モルタルをつなぎ材として,小さな四角柱形の石を横にしてひし形に積む網目積み,小割り石を積む乱積み,切石積みなどが行われた(石積み)。また,この時代にはローマのパンテオンに見られるように,天然セメントを用いた無筋コンクリート壁も築かれた。ローマ建築が壁を主要な構造とすることは,ギリシア建築が石の円柱やはりを用いて神殿の外観を構成する柱梁(ちゆうりよう)構造をとるのに対比され,二大構築原理と考えられるようになった。壁体は石や煉瓦を積む組積造によるものが圧倒的に多く,組積造による構造を建築の基本としてきた西洋建築は,壁による建築の伝統を築くこととなった(組積式構造)。組積造の壁は窓や扉口などの開口部が設けにくく,上部に石や木の横架材(楣(まぐさ))を置くか,アーチ構造としなければならない。アーチは壁と同じ組積造であり,同じようにドームやボールト架構も組積造なので,これらは壁の建築に不可欠の要素として,ともに発展を遂げた。壁は開口部がなければ空間として利用できないので,壁の歴史は開口部とのたたかいの歴史でもあった。ゴシック様式は組積造による壁を極限にまで減少させた例である。開口部にはさまれたピア(角柱)は,厚さと見付幅の等しくなった壁であり,角柱一般を構造上の必要から残された壁体として,円柱と区別することがあるのも,西洋における壁の伝統を物語っている。近代建築の成立以降は,こうした壁の観念は変わり,間仕切装置としての意味が強まった。
執筆者:鈴木 博之
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建物の周囲に用いて外界から居住空間を区画し、およびその空間を建物の使用目的に応じ適宜に分割する固定した仕切りの総称であり、前者を外壁、後者を間仕切り壁という。なお地盤または床面から高さ90センチメートル程度のところまでを腰壁、窓から上の部分を小壁(こかべ)とよぶことがある。また、壁面に柱などの建築部材の露出しているものを真壁(しんかべ)、そうでないものを大壁(おおかべ)という。
壁は構造的に耐力壁と非耐力壁とに分かれる。耐力壁は建築構造上必要不可欠の部位として床、屋根その他の荷重を負担するもので、その崩壊はただちに建物全体の崩壊につながる。一般に組積式(石造、れんが造、ブロック造など)構造や壁式構造をもつ鉄筋コンクリート造の壁がこれに属する。非耐力壁は柱、梁(はり)などによって組まれた軸組(躯体(くたい))の間をふさぐもので、荷重は原則として軸組が負担する(このような構造を架構式という)ので、壁の崩壊はかならずしも建物全体の崩壊にはつながらない。わが国の木造建築(校倉(あぜくら)式のものを除く)の壁はすべてこれに属し、なお鉄骨造や普通の鉄筋コンクリート造でもおおむねこれに準じる。ただし非耐力壁であっても、これを多く設けたものほど結果的に安定した建物となる。耐力壁のうちとくに地震力に対抗する目的で設けられるものを耐震壁(へき)という。この壁を有効に設ければ、柱、梁などの負担を軽減することができる。高層建築において、最下階から最上階まで連続するエレベーター室、階段室などを囲む壁がしばしばその目的で活用される。
耐力壁は荷重を負担するという性格上、強度の削減につながる広い開口(窓、出入口など)をつくることは困難である。非耐力壁ではそれが自由につくられ、極端な場合、柱と柱の間をすべて開口にとることすら可能である。酷熱または酷寒の地域では、厳しい外気から屋内を隔離するため、窓は比較的小さくつくられる。耐力壁的発想による組積式はこのような所に発達し、北欧などで、れんが造や石造による重厚な壁の目だつ建物の多いのはこの理由による。しかし多湿の風土では、屋内の通風が重視されるから、窓を大きくとれる非耐力壁を用いる架構式のほうが適している。とくにわが国のように多湿に加えて地震の頻発するような所では、建物強度と通風の両立しない組積式は不適当である。良質の森林資源に恵まれていたわが国の建築が木造架構式に終始してきたのもそのためで、明治時代、文明開化の象徴として積極的に導入された赤れんが建築が関東大震災(1923)以来、事実上建てられなくなり、それまでこの種の構造をとっていた建物が鉄筋コンクリート造に置き換えられていったのも同じ理由による。なお世界的にみれば、硬葉樹林地帯では耐力壁をもつ建物が、照葉樹林地帯に非耐力壁をもつ建物が、それぞれ多く分布しているといわれる。
[山田幸一]
耐力壁において強度の必要なことはいうまでもないが、非耐力壁をも含めて壁にはなお次のような機能が要求される。(1)視線の遮断、(2)耐火、(3)耐水、(4)断熱、(5)遮音、(6)吸音、(7)破壊力に対する抵抗、などである。これら諸機能をすべて具備するものが優れた壁であるが、現実にはそのようなものは得がたく、建物の目的に応じて必要な機能をもつ壁がつくられる。
以上のうち(1)(2)はあらゆる建物に要求されるが、たとえば酷熱、酷寒の地域では(4)が、城塞(じょうさい)や倉庫では(7)がとくに重視されるなど、それぞれに適合した壁が用いられる。
壁の構成は壁面と壁体に分けて考えると理解しやすい。壁面とは壁の表面の状態をいい、壁体とは表面を含めた壁の全層をいう。組積式構造やコンクリート造では壁体の素地をそのまま壁面とするものもあるが(赤れんが積みやコンクリート打放しの壁がこれにあたる)、一般には別の材料で壁面に仕上げ(化粧)を施すことが多い。架構式では躯体を骨格として壁下地を組み、それに壁材料を取り付けて壁体をつくるのが普通である。しかし下地を組むかわりにコンクリートブロック、れんが、ALC(発泡コンクリート)版、PC(プレキャストコンクリート)版などを積み上げることもある。ここでのブロック積みなどは、形は組積式であっても、非耐力壁として扱われることはいうまでもない。
[山田幸一]
左官工事は、壁下地を組み壁体を構成する場合でも、コンクリートなどの素地を化粧する場合でも、古今東西を通じて壁の構成にもっとも広く採用されてきた工法である。それは、小舞(こまい)下地土壁のように一見もろく弱い仕様でも、非耐力壁ないし化粧用としては十分な力をもち、なお前述の諸機能をひととおり備えているからで、日本でも法隆寺遺構以来現在まで豊富に用いられてきた。左官工事は、それ自身多様な仕上げが可能であるが、なお材料を選ぶことによって、さらにその壁面を下地として壁画、塗装、吹付け、タイル(モザイクタイルを含む)、壁装(壁紙やクロス張り)などの化粧を施せる。また近年はコンクリート型枠の精度が向上しているので、その壁面に左官工事を省略して塗装以下の仕上げを行うこともある。
壁下地に木や石(擬石を含む)の板あるいは各種成型板(合板、合成樹脂板、ボード、金属板など)などの乾式材を取り付け壁体をつくり、あるいはコンクリート壁面などを化粧することもある。これらは左官工事に比べて工期が早く、かつ仕上げの均一性を確保しやすい利点がある。反面、乾式材はある特定の機能に対しては優れていても、他の機能をほとんどもたないものが多く、左官工事ほどの汎用(はんよう)性はない。たとえば、金属板は化粧材としての美しさはあっても断熱性や遮音性はないに等しく、少なくとも断熱材を併用した複合材料として用いなければならない。
[山田幸一]
(1)防火壁、(2)吸音壁、(3)透光壁、(4)耐酸壁、(5)耐食壁、(6)放射線遮蔽(しゃへい)壁など、特殊な用途にあてられる壁がある。(1)は多人数を収容する建物または一定規模以上の建物で防火区画を必要とするところに、(2)は奏楽室などで残響時間の調整を必要とするところに、(3)は一般の壁とは異なり光の透過を必要とするところに、(4)(5)は薬品を扱うところに、(6)は放射性物質を扱うところ(医療機関や原子力発電所など)に、それぞれ用いられるもので、いずれもその目的に見合った特殊な構成となる。たとえば(1)は壁体全層を不燃材料で構成し、もし開口をとる場合は防火戸で随時密閉できるようにしておかなければならず、その仕様は建築基準法に規定されている。
壁という語は、また文芸作品で「塗る」と「寝る」をかけて夢の異称として用いられることもある。例「ねぬ夢にむかしのかへを見つるよりうつゝにものそかなしかりけり」(『後撰(ごせん)和歌集』)。また女房詞(ことば)の「おかべ」は豆腐の異称で、豆腐を白壁に見立てて、いいかえたものである。
[山田幸一]
『山田幸一著『壁』(1981・法政大学出版局)』▽『山田幸一編『日本の壁』(1982・駸々堂)』
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…しかし彼の名前は,それ以前にすでに小説《嘔吐》(1938)で知られていた。これは発行と同時に好意的な批評に迎えられ,その直後には短編集《壁》(1939)を著し,たちまち彼は前途有望な作家として注目されるにいたる。第2次大戦中はドイツの捕虜になったがやがて釈放され,長編小説《自由への道》(1945‐49)や戯曲などを書きつつ,ひたすら連合軍の勝利を待ちこがれていた。…
…同じ木造であっても,材木を横にして積み重ねる校倉(あぜくら)のような構造は,倉庫その他のごく一部の建築にしか使われなかった。骨組みのなかで最も重要なのは,柱と,これをつなぐ梁(はり),貫(ぬき),長押(なげし)で,壁は単なる仕切りにすぎず,構造的に重要な意味をもたない。そのため,壁をまったくもたない建築も可能であり,また一般に窓や出入口は煉瓦造,石造に比べてはるかに大きい。…
…それらの屋内諸室は床(とこ),棚,付書院,納戸構(なんどがまえ)の座敷飾を装置した座敷(上段間につくる場合が多い)を上座とし,二の間,三の間などの下座,納戸などを付属した構成をもち,四周に広縁,入側縁をともなった。これらの諸室の間仕切には襖障子をたて,鴨居(かもい)の上は欄間または小壁につくる。室内は畳を敷きつめ,上座は一段高く上段につくって下座と区別した。…
…その結果として,自然,建物の大きさはある程度に制限され,大規模なものはごくまれである。柱と梁とが主要な構造材であるから,壁は仕切りにすぎず,構造的な意味はない。したがって,柱と柱との間はすべて開放とすることができる。…
…屋根葺き材の種別では,茅葺き(かやぶき)(藁葺き),杉皮葺き・板葺き(ともに石置屋根),桟瓦(さんがわら)葺き,本瓦葺きがある。外壁の種別では柱を外に見せた真壁(しんかべ)式と,壁の中に柱を塗り籠めた大壁式に大別される。真壁式は東日本,大壁式は西日本の民家に多い。…
…建築空間の下部にあって,その上に人がのり,物を置き,種々の生活を繰り広げる目的で設けられる水平な面をいう。屋根,壁などとともに,生活のための空間を直接つくりあげているもっとも基本的な建築の一要素といえる。屋内にあるものに限って床という場合もあるが,現代の建築学では,屋内外を問わず,前述の定義に合致するものを床としてとらえるのが一般的である。…
※「壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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