精選版 日本国語大辞典 「変圧器」の意味・読み・例文・類語
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
電圧を所用の値に変換する装置。略してトランスともいう。電圧の変換は同時に電流の変換を意味し、電流を所用の値にしたいため変圧器を使用する場合もあるが、多くの場合は電圧の変換が目的であると考えてよい。
電気は交流と直流に大別できるが、変圧器は交流専用で直流には使えない。電力系統の大部分に交流が採用され、直流は電気鉄道など一部にしか採用されていないが、その理由は交流は変圧器が使えるからである。送電線で輸送できる電力には限界があり、その限界値は送電電圧の2乗に比例し、送電距離に反比例する。近年の電力系統は、主力となる大発電所が需要地から遠ざかる傾向にあり、長い送電線で大きな電力を輸送する必要がある。このため送電電圧はしだいに高くなり、日本では50万ボルトも採用されている。一方、工場なり一般家庭ではこのような高い電圧では不都合であるから低い電圧に変換する必要があり、このために変圧器が用いられる。
[岡村正巳]
鉄心に二つのコイルを巻いた二巻線変圧器を例に原理を説明する。鉄心は磁束の通路となる。二コイルの場合は、一つを一次コイル、他を二次コイルとよぶ。いま一次コイルに交流電源を接続すれば電流が流れ、鉄心には交番磁束が発生する。この磁束は二次コイルとも鎖交し、かつ交流電流の周波数にしたがって交番的変化をするため二次コイルに電圧が発生する。それぞれのコイルの巻数をn1、n2とすれば、一次コイルの電圧V1と、二次コイルの電圧V2とは、おおよそ次の関係がある。
したがって、所用のV2を得るためにはn1とn2の関係を調整すればよい。また一次コイルの電流をI1、二次コイルの電流をI2とすれば、おおよそ次の関係がある。
これは電圧と逆の関係にある。いずれの式も若干の誤差を無視した場合に成り立つ。また、二次端子にZ2の値のインピーダンスを接続した場合、一次端子からみたインピーダンスの値Z1とは、おおよそ次の関係が成立する。
したがって、一次端子側からみたインピーダンスは巻数比(n1/n2)を変化させることによって変えられる。電気通信の回路では、変圧器はこのようなインピーダンスの変換用として用いられる場合が多い。
[岡村正巳]
しかし、このような構造では一次コイルと二次コイルの磁気的結合がよくない。すなわち、一次コイルと鎖交した磁束のすべてが二次コイルと鎖交することが望ましいが、このような構造では一次コイルと鎖交しても二次コイルと鎖交しない磁束や、その反対に二次コイルと鎖交するが一次コイルと鎖交しない磁束が増える。このような磁束を漏洩(ろうえい)磁束とよぶが、これが増えると変圧器の効率が悪くなる。このため実際にはコイル配置として漏洩磁束を少なくするようにしている。また、鉄心とコイルの位置関係で、内鉄型と外鉄型がある。
[岡村正巳]
変圧器は運転中、コイルの抵抗によるジュール損失(I2R)、鉄心中の交番磁束によるヒステリシス損失、鉄心やケース内に発生する渦電流損失などのため熱を発生し、放熱が十分でないと温度が上昇して絶縁物の劣化を早める。このため放熱装置が必要となる。
変圧器は鉄心とコイルを鉄函(てつばこ)内に収め、鉄函を油で満たしたいわゆる油入(ゆにゅう)変圧器がもっとも多い。密封タンク内に六フッ化硫黄(いおう)ガスなどを封入し、内部送風機により巻線内を循環冷却させるガス冷却変圧器や、鉄心とコイルをケースに収めることなく空気中で使用する乾式変圧器などもあるが数は少ない。もっとも多く採用されている油入変圧器では、油は原油から精製した鉱油で変圧器油ともよばれている。油の任務は二つあって、一つは絶縁材としてであり、他の一つは冷却材としてである。したがって変圧器油は絶縁耐力が高いこと、粘度が低い流動性の高いものであることが望ましい。発生した熱は油に伝わり、温められた油は対流をおこす。自冷式では変圧器外箱の表面積を大きくして冷却効果を高めるため、ひだをもたせたり、放熱器を取り付けたりする。風冷式ではファンで風を放熱器に当てる。水冷式は水冷管を油中に設けて冷却水を通す。送油式は温められた油をポンプで導き出し、自然冷却、風冷、水冷などの方法で冷却する。
[岡村正巳]
油入変圧器は、負荷の変動や周囲温度の変化により油の温度が変化する。このため油の容積も変化するので、タンクに開口部があれば空気が出入りする。これを呼吸作用とよんでいる。呼吸作用があると、外界の湿気が吸入されることと、空気中の酸素が油と反応して不溶解性のスラッジを生成することにより、油の絶縁耐力と冷却作用を低下させ故障の原因となる。このため種々の油劣化防止装置が実用されている。開放式は、呼吸口に吸湿装置(シリカゲル)を置いて吸い込む空気から湿気を取り除く方式である。密封式は、コンサベーター上部に窒素を封入密閉する。したがって油温の変化に伴い窒素の圧力が変化することになる。隔膜式は、コンサベーター内部に柔軟な耐油性ゴム膜で油と外気との接触を遮断する方式である。
[岡村正巳]
油入変圧器は長い使用歴を有する信頼性の高い機器であるが、万一の絶縁破壊故障に備えてタンク上部に安全管を有している。これは、タンク内部で絶縁破壊が生じ、アークのため油圧が異常に高まった場合、タンクが破壊する前に安全管から油を放出し、油圧を低下させるものである。安全管から放出される油は高温の可能性があるため、空気と接触して発火したり他物に被害を及ぼしたりしないよう、地下タンクに導かれる構造のものもある。
[岡村正巳]
電力用変圧器はすべて鉄心を有している。鉄心は磁束を発生しやすくして変圧器の効率を高めるために使われる。使われる鉄心はケイ素を含んだケイ素鋼板とよばれるものであるが、渦電流損失を少なくするために0.3ミリメートルくらいの薄板を重ね合わせる。重ね合わせる面も電気的に絶縁されている。大型変圧器の鉄心は短冊型のケイ素鋼板で閉磁路を形成するが、ケイ素鋼板の突き合わせ部分にギャップがあると効率低下の原因となるので慎重に組み立てられる。
[岡村正巳]
単巻変圧器は巻線が一つだけの変圧器で、小型にすることができ、テレビやラジオの受信機などに広く用いられている。
計器用変圧器は高電圧の測定に用いるもので、低電圧に変換したときの変圧比から元の電圧を求める。負荷時電圧調整器は、負荷を遮断することなく電圧を調節するもので、電力系統で広く用いられている。
[岡村正巳]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…トランスホーマーtransformerの略。変圧器,または変成器のこと。…
…計測,制御用または電子回路の直流分離やインピーダンス変換用などに用いられる電磁結合素子の総称(図1)。原理的にも構造的にも電力用の変圧器とほぼ同じものである。共通の鉄心に2組以上のコイルを巻いたもので,各コイルの電圧がその巻回数に比例することを利用して電圧を変える目的で用いるのが変圧器,コイルが2組の場合,電流は巻回数に反比例することを利用して電流を変える目的で用いるのが変流器である。これらのことから,一方のコイルにあるインピーダンスを接続して他方のコイルから見ると,これが(巻数比)2倍になって見えることを利用するのがインピーダンス変換器で,インピーダンス整合(最大電力を伝達するために電源の内部インピーダンスと負荷のインピーダンスとを一致させること)のために用いるものをとくに整合用変成器という。…
…オーストリア・ハンガリーの電気技術者。変圧器を実用化して交流技術の確立に貢献した。ウィーン工科学校で水力技術を学んだ後,ブダペストのガンツ社に入って,ブラティO.T.BlathyおよびツィペルノフスキーK.Zipernowskyと協働した。…
…トランスホーマーtransformerの略。変圧器,または変成器のこと。変圧器はその名の示すように交流電圧を変えることを目的とする。…
※「変圧器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
送り状。船荷証券,海上保険証券などとともに重要な船積み書類の一つで,売買契約の条件を履行したことを売主が買主に証明した書類。取引貨物の明細書ならびに計算書で,手形金額,保険価額算定の基礎となり,輸入貨...
9/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新