出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
里見弴(とん)の長編小説。1922年(大正11)12月から翌年12月まで『時事新報』に連載、24年4月(前編)および8月(後編)新潮社刊。自分の「一生の仕事」を、「本気で惚(ほ)れ、女にも本気で惚れさせることだつた」と確信する弁護士藤代信之(ふじしろのぶゆき)が主人公。多彩な女性遍歴を重ねながらも、真心を尽くして生きてきたと自負する彼は、関東大震災の日の明け方に、「心からしたいことをする分には、何をしたつていゝのだ」と言い遺(のこ)して安らかな臨終を迎える。「多情乃(すなはち)仏心」という句に想を得て、作者のいわゆる「まごころ哲学」=「誠実至上主義」を具象化し、強引と思われるほど縦横に展開した作品。2000枚に及ぶ大作で、大正末年の享楽的な風俗描写が生彩を放っている。
[宗像和重]
『『多情仏心』(新潮文庫)』
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