多発性動脈炎(読み)たはつせいどうみゃくえんけんびきょうてきたはつけっかんえんけっせつせいたはつどうみゃくえん

家庭医学館 「多発性動脈炎」の解説

たはつせいどうみゃくえんけんびきょうてきたはつけっかんえんけっせつせいたはつどうみゃくえん【多発性動脈炎(顕微鏡的多発血管炎/結節性多発動脈炎) Polyarteritis】

◎中・小動脈に強い炎症がおこる
[どんな病気か]
[原因]
[症状]
[検査と診断]
薬物療法が基本
[治療]
[日常生活の注意]
 ※結節性多発動脈炎は、「結節性動脈周囲炎」として厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))に指定されています。保険医療以外の費用を除いた治療費の自己負担分は、国や都道府県から補助されます。

[どんな病気か]
 動脈は血液を送るはたらきをしていますが、からだの中には、太いものから細いものまで、さまざまな太さの動脈がくまなく走っています。
 多発性動脈炎は、そのなかで中くらいの太さの動脈、小さな動脈、細かい血管に炎症が生じる病気です。
 最近では、細かい血管に炎症が生じる顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん)といわれるものが多くみられるようになっています。この病気は、中・小動脈がおかされる結節性多発動脈炎(けっせつせいたはつどうみゃくえん)と呼ばれるものとは区別されることがあります。
 多発性動脈炎にかかると、動脈に炎症が生じるために、血液の流れが悪くなり、さまざまな症状が出てきます。
 なかでも、とくに傷害を受けやすい動脈があります。腎臓(じんぞう)、脳、心臓、肺、腸管、皮膚などの動脈がそれです。

[原因]
 原因はまだわかっていませんが、ウイルスの感染(とくにHB肝炎ウイルス)や、薬の過敏症(サルファ剤ペニシリンなど)などによっておこることがあります。
 患者数にあまり男女差はなく、中年から高齢者にかけて発病することの多い病気です。日本における患者数は少なく、約1400人とされています。

[症状]
 原因のわからない高い発熱がある、体重が減る、疲れやすくだるい、関節や筋肉が痛む、などの症状で発病することが多くみられます。
 皮膚の症状としては、青紫色の網目状の発疹(ほっしん)、しこりのある紅斑(こうはん)、じんま疹(しん)のような発疹、皮膚の潰瘍(かいよう)、指先の組織の壊死(えし)などがみられます。
 小ないし中くらいの太さの血管がおかされている場合には、小さなしこりが数珠(じゅず)状につながって現われることがあります。
 腎臓がおかされることが多く、そのため、むくみや高血圧が現われます。
 心臓では、血液(酸素)の供給がうまくいかなくなって心筋が障害され、狭心症(きょうしんしょう)の発作や心筋梗塞(しんきんこうそく)がおこることがあります。また、心臓や肺をおおっている膜に炎症(心外膜炎(しんがいまくえん)、胸膜炎(きょうまくえん))が生じたり、肺の中に炎症がみられることもあります。
 腸管に血液を送っている動脈に炎症がおこると、腸管が壊死におちいり、腸の動きが悪くなって激しい腹痛や吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、下血(げけつ)などがみられます。こうなると、多くの場合、壊死した部分を切除する外科的手術が必要です。
 脳の血管に病変がおこると、けいれんや意識消失、精神症状などがみられます。ときに、脳出血や脳梗塞(のうこうそく)のために、片(へん)まひ(いわゆる半身不随(はんしんふずい))や脳神経まひ(感覚機能など、からだのさまざまなはたらきが失われる)をみることもあります。
 頭痛や視力の低下が現われることもあります。さらに、手足のしびれや運動障害、筋肉の萎縮(いしゅく)などもよくみられます。
 これらは、この病気にともなう高血圧によってもおこります。

[検査と診断]
 強い炎症が生じる病気ですので、赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど)(赤沈(せきちん))が速くなり、炎症があると血中に増えるCRP(C反応性たんぱく)が強陽性になります。
 炎症によって、白血球(はっけっきゅう)と血小板(けっしょうばん)が増加し、血液中のγ(ガンマグロブリン(抗体などの免疫グロブリンたんぱく)も増加します。
 腎臓が障害されたときは、尿にたんぱくがみられ、尿の沈降成分をみる尿沈渣(にょうちんさ)でも、赤血球や円柱(えんちゅう)(尿細管に腸詰めのようになった血漿成分(けっしょうせいぶん)や血球成分(けっきゅうせいぶん)、尿細管(にょうさいかん)からの分泌物など)などが現われるなどの異常がみられます。また、腎臓のはたらきが低下して、急速に全身の状態が悪化することもありますから、注意が必要です。
 HB肝炎ウイルスにかかっている人では、肝臓の機能障害がみられます。
 細い血管に炎症が生じる顕微鏡的多発血管炎では、細菌などをとらえて食べる好中球(こうちゅうきゅう)(白血球の一種)の細胞質に含まれている酵素に対する抗体が現われることが多いのです。
 この抗体をもっていると、腎臓や肺の毛細血管(もうさいけっかん)に炎症が生じることが多くなるため、急速に進行する糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)(「急性腎炎症候群」)や肺臓炎をおこしてきます。
 この抗体は、診断に役立つだけでなく、その抗体価の推移が、治療のうえでよい指標になります。
 中・小動脈に炎症が生じていることが疑われる場合には、造影剤を注入して血管のX線写真を撮り(血管造影(けっかんぞうえい))、血管の走行の異常や動脈瘤(どうみゃくりゅう)があるかどうかを調べます。
 また、組織の一部をとり、顕微鏡で調べて(生検(せいけん))、細胞や組織の状態から、血管炎があるかどうかをみるのも重要な検査です。
 生検では、血管の組織が壊死する血管炎がみられるのが特徴です。しかし、全部の動脈が連続して炎症をおこしているわけではありませんので、生検をすれば、必ず血管炎が証明されるというわけではありません。
 生検で調べられることの多い組織は、皮膚、筋肉、神経、腎臓などで、診断は、前記の症状と検査の結果によってつけられます。
 症状のなかでは、発熱、体重減少、関節の痛み、皮膚の網目状の発疹、皮膚の潰瘍、高血圧、腎臓の障害、手足のしびれ、筋力の低下といったものが重要です。
 検査では、血沈、尿沈渣などの炎症所見とともに、好中球の細胞質に対する抗体、血管のX線造影、生検による病理学的検査が重要で、これらが診断の決め手となることがあります。
 また、厚労省の調査研究班から、この病気の診断基準が発表されており、その基準にも照らし合わせて、診断します。

[治療]
 診断がついたら、ステロイド薬と免疫抑制薬が治療に使われます。病気の程度や重さによっても異なりますが、通常、ステロイド薬は、プレドニゾロン製剤(プレドニン)で1日60~80mg、免疫抑制薬ではシクロホスファミド製剤(エンドキサン)またはアザチオプリン製剤(イムラン)が用いられます。とくに早期に治療を始めると、非常に効果があり、その後の経過も良好です。
 効果がみられない場合には、ステロイドやシクロホスファミドを大量使用するパルス療法(短期間の大量、間欠投与法(かんけつとうよほう))が行なわれ、必要な場合は自己抗体を除くために、血漿交換療法が行なわれることもあります。
 軽い場合は、ステロイド薬の少量使用だけで治療されることもあります。
 いずれにしてもステロイド薬は、症状と検査所見の改善をみながら、ゆっくりと使用量が減らされます。
 ほかの病気を合併しているときは、その治療が同時に行なわれます。
 高血圧がある場合は、血圧をよい状態にコントロールすることが重要で、降圧薬で治療しつつ、塩分制限などの食事療法が行なわれます。
 腎臓のはたらきがひどく障害された場合は、人工透析(じんこうとうせき)が行なわれます。
 手足のしびれや、筋力の低下、運動障害がみられる場合は、リハビリテーションが行なわれます。

[日常生活の注意]
 寒冷、過労、ストレスを避け、十分な睡眠時間をとります。また、清潔にするように心がけ、かぜや感染症にかからないように注意し、食事はバランスよくとるようにします。
 腎臓や心臓に障害のある場合は、その程度に応じて、適切な食事療法を行ないます。
 薬は、自分勝手な判断で加減してはいけません。歯の治療や外科的な治療が必要な場合は、主治医に相談してください。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多発性動脈炎」の意味・わかりやすい解説

多発性動脈炎
たはつせいどうみゃくえん

結節性動脈周囲炎」のページをご覧ください。

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