多肉植物(読み)たにくしょくぶつ

精選版 日本国語大辞典 「多肉植物」の意味・読み・例文・類語

たにく‐しょくぶつ【多肉植物】

〘名〙 茎や葉が肥厚し多量の水分を貯えた植物総称。一般に、乾燥地や塩分の多い地域に生育する。体表にはクチクラが発達したものが多く耐乾性が強い。茎が多肉質となるサボテン・トウダイグサや、葉が多肉質となるリュウゼツランなどがある。多漿植物。肉質植物。

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デジタル大辞泉 「多肉植物」の意味・読み・例文・類語

たにく‐しょくぶつ【多肉植物】

茎や葉が肥厚して多量の水分を蓄える植物の総称。乾燥地や塩分の多い土地に生え、表皮クチクラが発達したものが多い。サボテンアッケシソウリュウゼツランベンケイソウアロエなど。多漿たしょう植物。肉質植物。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「多肉植物」の意味・わかりやすい解説

多肉植物
たにくしょくぶつ

植物体の一部(果実を除く)、または全体が肥厚し、多肉質の貯水組織となり、乾燥に強い植物。ただし塊茎植物や塊根植物の一部、および球茎植物、鱗茎(りんけい)植物は慣習的に含めない。トウダイグサ科ガガイモ科ユリ科リュウゼツラン科などに多く、またツルナ科ベンケイソウ科、サボテン科、スベリヒユ科ではほとんどが多肉植物である。ほかにもキク科、キョウチクトウ科フウロソウ科、ブドウ科なども多肉植物を含むが、裸子植物、シダ植物にはほとんどみられない。サボテンやトウダイグサ科のユーフォルビアなど、おもに茎の多肉化したものを多肉茎植物、アロエやメセン類など葉の多肉化したものを多肉葉植物、茎の下部や胚軸(はいじく)、または根の肥大したものをコーデックスとよぶ。また、多肉化の程度の著しいものを高度多肉植物、あまり多肉化せず一般の草木に近いものを低度多肉植物と称する。

[林 雅彦]

形態

形態がおもしろいため、多くは園芸植物として扱われるが、その場合、とくに大きなグループであるサボテン科植物を他と区別し、「サボテンと多肉植物」というように並列的に扱うことが多い。またサンセベリアのように観葉植物として扱われているものや、ウェルウィッチアのように本来多肉植物ではないが、便宜的に多肉植物として扱われているものもある。

[林 雅彦]

多肉茎植物

多くは葉が退化し、多肉化した茎の表面に葉緑素をもち、そこで光合成を行う。サボテンのようにしばしば茎には刺(とげ)がある。ユーフォルビアなどにはサボテンと形態のよく似たものがあるが、サボテンには刺の付け根に刺座とよばれる器官がかならずあり、刺は刺座といっしょにまとまって抜けるので簡単に区別がつく。代表的な多肉茎植物にはサボテン、ディディエレア科、ユーフォルビア、パキポディウム(キョウチクトウ科)、ペラルゴニウム(フウロソウ科)、スタペリア類(ガガイモ科)がある。

[林 雅彦]

多肉葉植物

茎が退化して無茎のロゼット状となるものが多い。しかしアロエやカランコエのなかには有茎で丈高くなるものもある。葉の色と形態はきわめて変化に富み、刺や繊毛その他の突起物や、種々の斑点(はんてん)や模様がみられる。またリトープスやコノフィタム(コノフィツム)などの玉型メセン類では2枚の葉が融合してほぼ球状となり、その頂端部の一部が透明な窓となっている。窓をもつ植物としてはほかにハオルチア属などがあり、その多くは葉先の窓面のみを地表に出し、そこから取り入れた光で光合成を行う。代表的な多肉葉植物としてはリュウゼツラン(リュウゼツラン科)、アロエ類(アロエ、ハオルチア、ガステリアなど)、ベンケイソウ科(クラッスラ、エケベリア、コチレドン、カランコエ、センペルビブム、セダムなど)、およびメセン類(ツルナ科、コノフィタム、リトープスなど)がある。

[林 雅彦]

コーデックス

地上茎の下部が肥大した壺(つぼ)型植物と、胚軸または根の肥大したイモ型植物とがある。代表的なコーデックスにはユーフォルビア、パキポディウム、アデニア(トケイソウ科)、イポメア(ヒルガオ科)、ホッケア(ガガイモ科)などの一部がある。

[林 雅彦]

生育地

多肉植物は一般に温帯から熱帯にかけての乾燥地域に産するが、アッケシソウのように寒冷地に生育するものもまれにある。南アフリカ共和国とその周辺、ケニア、ソマリアなどの東アフリカ諸国、マダガスカル、カリフォルニアやメキシコなどの北アメリカ南西部、ペルー、ボリビアなどのアンデス諸国に多い。他方、サハラ砂漠や中央アジア、オーストラリアなど、大砂漠とその周辺にはあまり多くない。また真正の砂漠よりも、乾燥した高原地帯、とくに地中海性気候帯に隣接する半乾燥地域に多い。

 地中海性気候帯周辺では沖合いを流れる寒流によって空気が冷やされ、同程度の年間降水量がある他の乾燥地域に比べて空中湿度(相対湿度)が非常に高くなる。このため夜間に気温が低下すると大量の露や霧が発生し、これらのわずかな水分でも生育できる小形の多肉植物が地中海性気候帯周辺ではとくに多い。地球上で生物多様性のとくに高い地域Hot Spotの約半数は熱帯雨林などであるが、残りのさらに半分(全体の約4分の1)は地中海性気候帯周辺の半乾燥地域である。そしてそこに生育する植物種の多くが多肉植物である。すなわち多肉植物は地球上の生物多様性にとって非常に重要な構成要素となっている。

 多肉植物には属内に多数の種のある大きな属が多い。たとえばアロエ属では1000種以上が記載されている。しかも、その多くが狭い地域にのみ生育する固有種である。また類似種が多いうえに群落内の個体変異も大きく、いわゆる分類困難群が多い。これらの特徴はその多肉植物のグループが比較的最近に爆発的に進化、種分化してきたものであることを示唆している。たとえばカリフォルニアにはマミラリアなど、多数のサボテンの固有種が生育しているが、氷河期にはロッキー山脈は氷河に覆われていたので、そこに隣接するカリフォルニア地方は乾燥地域ではなく、針葉樹林帯だったと推定される。当然、当時そこにはサボテン類は生育していなかった可能性が高い。したがって現在カリフォルニア地方に生育しているサボテンの固有種は最終氷期以降にカリフォルニア地方が温暖化し、乾燥化する過程で種分化したと推定される。

 大形の多肉植物(大形のサボテン、リュウゼツラン、アロエ、柱型のユーフォルビア、パキポディウムなど)は山地の斜面にまばらな群落をつくることが多い。小形草本状のメセン類(花ものメセン)は海岸近くの平地に大群落をつくり、花時は壮観である。玉型メセン類はとくに乾燥した裸の台地上に生育し、小石によく似た擬態植物としても有名である。ベンケイソウ科の多肉植物は岩山の急斜面に多い。小形のサボテン類を含むその他の高度多肉植物は藪陰(やぶかげ)や岩の割れ目に群落をつくることが多い。また、多肉植物には水分の蒸散を防ぐため、昼間は気孔を閉じるCAM型光合成を行うグループが多い。

[林 雅彦]

利用

リュウゼツラン属の葉からは繊維がとれ、また茎部を発酵させてテキーラなどの酒の原料ともする。アロエの葉にはアロインという成分があり、やけど、外傷、潰瘍(かいよう)などに有効である。薬事法ではアロエ・ベラAloe veraが指定されているが、一般にはより寒さに強いアロエ・アルボレッセンスA. arborescens(医者いらずとよばれる)が民間治療薬として広く用いられている。ユーフォルビアの乳液は有毒であるが、テルペン系炭化水素が含まれており、石油植物として注目されている。オプンチア類(ウチワサボテン)は家畜の飼料としても栽培されている。最近ではガガイモ科のホーデア属Hoodiaからダイエット用の薬品が開発され、注目されている。また、ペラルゴニューム・シドイデスPelargonium sidoidesからはかぜ薬がつくられ、そのために乱伐されて問題となっている。栽培は一般に十分陽光を当て排水のよい培養土を使う。ただし、ハオルチアは陰性植物なので、十分な遮光が必要である。玉型メセン類は夏の高温時に休眠し、やや栽培がむずかしい。コーデックスにはきわめて栽培困難なものも少なくない。

[林 雅彦]

園芸的発展

サボテンも含め、多肉植物の多くは園芸植物として扱われ、多くの愛好家がいる。日本にはおおむね明治以降に植木商などによって輸入され、おもに収集の対象として珍重された。

 多肉植物は栽培法が一般植物とはかなり異なり、また収集の対象がいわゆる原種(原産地に生育する植物学的種)であり、交雑種が厳しく排斥されるなど、交配種が中心である他の園芸分野とはかなり隔絶された分野となっていた。ただし、サボテンのうち、クジャクサボテンやシャコ葉サボテン、あるいは松葉菊(ツルナ科、花物メセン)など、花を観賞するものは交配種が中心で、他のサボテン・多肉植物とは異なる園芸分野を形成している。

 このようななか、サボテンの兜(かぶと)やランポー玉など有星類(Astrophytum属)、あるいは牡丹(ぼたん)類(Roseocactus属、Ariocarpus属)では選抜した優良個体や実生苗に出現した突然変異個体を基に日本で改良がすすめられ、また真っ赤なサボテンとして世界的に有名な緋牡丹(ひぼたん)が作出されるなど、サボテン類の品種改良では日本が最先端となっている。ただし、サボテン類では品種的改良はもっぱら原種の範囲内で行われ、交配種はあまり人気がない。サボテン以外の多肉植物では、1980年代(昭和55~64)以降、日本においてハオルチアの選抜育種が盛んになり、2000年(平成12)以降は優れた交配種が次々と作出されている。一方、アメリカやオーストラリアではエケベリアEcheveria(ベンケイソウ科)の交雑による品種改良が盛んに行われている。

[林 雅彦]

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世界大百科事典 第2版 「多肉植物」の意味・わかりやすい解説

たにくしょくぶつ【多肉植物 succulent plant】

植物体が多汁(多肉)質で,乾燥に耐える植物を総称する。多肉質であっても,慣用的にはサボテンは別格に扱い,球根類,パイナップル科やラン科も一部を除いて含めない。熱帯を中心に世界各地の乾燥地域で進化した50科8000種以上の大群である。系統的にはまったく異なった植物群で,独立的に多肉化が起こっていて,ほぼ全種が多肉植物で構成される代表的な科には,ベンケイソウ科(35属1300種),ツルナ科(リトープス属Lithops,マツバギク属Lampranthusなど130属2000種),スベリヒユ科(アナカムプセロス属Anacampseros50種,スベリヒユ属Portulaca30種,レビシア属Lewisia20種など16属500種),ディディエレア科(ディディエレア属Didierea2種,アルアウディア属Alluaudia6種など4属11種)がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多肉植物」の意味・わかりやすい解説

多肉植物
たにくしょくぶつ
succulent plant

貯水組織が発達し多量の水分を含む植物。貯水は,乾燥や環境の高塩分への適応なので,多くは砂漠や海岸の植物であり,表面にクチクラ層が発達し,気孔は数が少く陥没しているなどの特徴をもち,葉や茎が著しく肥厚している。葉は退化したもの (アッケシソウ) ,とげ状になって代りに茎が光合成するもの (サボテン) ,逆に葉が多肉化したもの (リュウゼツラン) などがある。これらの植物は,吸水力が弱く,水分の蒸散も低くなっているが,クチクラ層が発達しているため,気孔を閉じると蒸散量が少くなり,数年間の乾燥状態にも耐えられる。なお,多肉植物は夜間の呼吸作用に際して,炭水化物を分解するとき有機酸の状態で体内にとどめ,それを昼間の炭酸同化作用に用いるので二酸化炭素として放出する量は一般の緑色植物よりも少い。

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百科事典マイペディア 「多肉植物」の意味・わかりやすい解説

多肉植物【たにくしょくぶつ】

肥厚した葉や茎の貯水組織に多量の水をもつ植物。系統的には全く異なった植物群の総称で,50科以上の植物が含まれる。乾燥地や塩分の多い地域にみられ,耐乾性が強い。葉が多肉化したものにベンケイソウの類,スベリヒユ,リュウゼツランなど,茎が多肉化したものにアッケシソウ,サボテンなどがあり,葉は退化するものが多い。多肉化した組織には夜間気孔から取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸などの有機酸にして蓄え,昼はそれを使って光合成をするという特別な代謝がある。これは昼間気孔を閉じ,水分の蒸散を防ぐという意義をもつ。観賞用が多い。
→関連項目アロエ

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世界大百科事典内の多肉植物の言及

【生活形】より

…多年生植物については,地上部が残るか残らないかを,越冬芽(耐乾芽など,植物の生活にとって不適当な条件を切り抜けるための抵抗芽一般を含む)が地表面からどれくらいの高さにあるかによって区別する。ラウンケルの生活形を整理すると,まず,地上植物(芽が地表より30cm以上高いもの),地表植物(芽の位置が地表30cmより低いもの),半地中植物(芽が地表にあるもの),地中植物(芽が地中にあるもの),夏緑性一年生植物(不適な時期を種子で過ごすもの)の区分ができ,さらに地上植物は,芽の位置が地表から30m以上の高さのもの(巨大地上植物),8~30mの高さのもの(大型地上植物),2~8mの高さのもの(小型地上植物),0.3~2mの高さのもの(矮小(わいしよう)地上植物)や,多肉植物,着生植物などに,地中植物は土中植物,水生植物などが区別されている。ラウンケルはこの類型化をもとにして,世界のさまざまの地域に生育する植物各1000種を無作為に選び出し,類型化された生活形がそれぞれどのような割合で分布しているかをパーセントで示した生活形標準表normal spectrum of life formを作成した。…

※「多肉植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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