1919年(大正8)倉敷(くらしき)紡績社長大原孫三郎(まごさぶろう)によって大阪に設立された民間学術研究所。大原は、初代所長高野岩三郎(たかのいわさぶろう)を信頼して研究所運営のいっさいをまかせたという。高野のもとに櫛田民蔵(くしだたみぞう)、大内兵衛(ひょうえ)、森戸辰男(たつお)、久留間鮫造(くるまさめぞう)らが所員となり、社会問題を学問的に研究した。内外の文献の収集にも努め、マルクス自署のある『資本論』などの稀覯(きこう)書や現在も刊行中の『日本労働年鑑』(1920創刊)作成のため労農団体の関係資料も収集した。財政難のため37年(昭和12)に東京に移転し、第二次世界大戦のとき空襲で約6万冊の蔵書を失った。幸い貴重書と原資料は残り、49年(昭和24)に法政大学に移管されて再建された。
戦後も資料収集に努め、産別会議、東芝労連などの組合資料や、メーデー事件、松川事件などの資料も収蔵した。労働・社会問題の調査研究と同時に、戦前に収蔵された原資料をもとに、1969年以来、社会運動団体の機関紙誌類の復刻刊行も行っている。1995年には『社会・労働運動大年表』、1999年には『日本の労働組合100年』を刊行した。
『法政大学大原社会問題研究所編・刊『大原社会問題研究所五十年史』(1970)』▽『法政大学編・刊『法政大学百年史』(1980)』▽『法政大学大原社会問題研究所編『社会・労働運動大年表』(1995・労働旬報社)』▽『法政大学大原社会問題研究所編『日本の労働組合100年』(1999・旬報社)』
倉敷紡績社長大原孫三郎によって,1919年(大正8)大阪に設立された民間学術研究所。第1次大戦後米騒動勃発にみられる社会問題の深刻化のなかで,社会を科学的に調査研究するための機関として設立された。大原は初代所長高野岩三郎を信頼して,20年にわたって私財を投じつづけた。高野のもとに,櫛田民蔵,大内兵衛,森戸辰男,久留間鮫造,細川嘉六,笠信太郎らが所員となり,研究嘱託の長谷川如是閑ほか多くの研究者が参加し,日本の社会科学研究・社会調査に大きな貢献をした。アナーキズム文献では世界有数の〈エルツバッハ文庫〉や,年鑑編集のため社会運動団体の原資料などを収集したほか,講習会や研究生の育成も行った。37年東京に移転,45年空襲を受けるが,土蔵にあった貴重書と原資料は助かった。49年法政大学に移管され,現在は財団法人法政大学大原社会問題研究所と称する。戦後も資料収集に努め,松川事件関係資料,産別会議本部資料などの組合原資料を収蔵した。研究成果は《大原社会問題研究所パンフレット》(1922-29),《大原社会問題研究所雑誌》(1922-36),《資料室報》(1949創刊。80年《研究資料月報》と改題)などに公表されている。また,《日本労働年鑑》を1920年以来刊行しているほか,戦前日本の社会運動の機関紙誌や原資料の復刻刊行も行っている。
執筆者:梅田 俊英
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1919年(大正8)2月9日,大原孫三郎の発意と出資により設立された民間研究機関。労働問題の研究が中心。初代所長は高野岩三郎。櫛田民蔵・森戸辰男・大内兵衛(ひょうえ)らが参加。当初は大阪にあったがのち東京に移転し,法政大学の機関となり,法政大学大原社会問題研究所となる。定期刊行物に「日本労働年鑑」「日本社会事業年鑑」などがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…1904年,家督を継ぎ,06年倉敷紡績の社長として,工場労働者の労働条件の改善や福祉向上に努める一方,倉敷絹織,三豊紡績,日本莚業,倉敷電灯,中国合同水力電気,中国銀行,岡山合同貯蓄銀行,中国信託,京阪電鉄などの社長,取締役に就任して,岡山県産業の振興に尽くし,広く関西財界にも重きをなした。しかもこの間,石井十次の志を継いで大阪に石井記念愛染園を設立したのをはじめ,19年には私財を投じて大原社会問題研究所,大原農業研究所(1914年発足した前身を25年改称。現在は岡山大学農業生物研究所),倉敷労働科学研究所(1921年創立。…
※「大原社会問題研究所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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