大気(読み)たいき(英語表記)atmosphere

精選版 日本国語大辞典 「大気」の意味・読み・例文・類語

たい‐き【大気】

〘名〙
① 主天体を取り巻く気体のガス。主に地球のものをいう。地球では、引力に引かれ、地球を取り巻いている気体で、窒素酸素を主成分とし、ほかに二酸化炭素・ネオンヘリウムメタン水素などを少量含む混合物。温度や成分によって垂直的に下方から対流圏成層圏中間圏(化学圏)・電離圏熱圏)・外気圏に分けられる。
暦象新書(1798‐1802)下「混沌未分の時唯太気のみなり」
② (形動) (「だいき」とも) 小さなことにこだわらないで気が大きいこと。度量の広いこと。また、そのさま。おおよう。おおふう。大度(たいど)。〔日葡辞書(1603‐04)〕
浮世草子好色一代男(1682)六「情あって大気(タイキ)に生れつき、風俗太夫職にそなはって、衣裳よくきこなし」

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デジタル大辞泉 「大気」の意味・読み・例文・類語

たい‐き【大気】

[名]天体の表面を取り巻いている気体の層。普通は地球の空気をさし、地上1000キロまで存在して太陽の強烈な紫外線X線を遮るとともに保温の役割などを果たす。その95パーセントは地上20キロ以下にあって、上層ほど希薄。
[形動][文][ナリ]心が広く、こせこせしないさま。
「―な人で…さつを撒いて歩いたという話を」〈秋声
[補説]作品名別項。→大気
[類語]空気外気エア圧縮空気液体空気真空夜気山気熱気冷気草いきれ人いきれ

たいき【大気】[絵画]

《原題、〈イタリア〉L'Ariaアルチンボルドの絵画。「四大元素」と総称される寄せ絵の連作の一。1566年制作。原画は失われ、現存する作品は画家本人または他の画家による複製と考えられている。現存の作品は制作年不明。カンバスに油彩。孔雀くじゃくわしなど、さまざまな鳥で構成される。個人蔵。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大気」の意味・わかりやすい解説

大気
たいき
atmosphere

地球を取り巻いて存在している気体の層。大気の広がっている空間を大気圏または気圏とよぶ。大気圏の外縁で、大気が希薄となり、宇宙空間に移り変わってゆく部分を外圏とよぶ。大気を構成している気体分子は、地球の重力によってとらえられているが、外圏では気体分子の一部が重力を振り切って宇宙空間に向けて逃げ出している。大気圏の厚さはおよそ500キロメートルである。

[松野太郎]

地球大気の起源

地球大気の起源に関してはまだ不明な点が多い。地球形成の初期には現在の1000倍くらい厚い大気があったと思われるが、それが星間ガスが集まってできたものが主なのか、微惑星の衝突時の熱によって岩石から放出されたものが多いのか明らかでない。この原始大気が変化して現在の大気になったと思われているが、一方原始大気が吹き払われた後に、火山活動によって現在の大気がつくられたという考えもまったく否定はされず、今後の研究に待つ部分が多い。

[松野太郎]

大気の量と圧力

大気の質量は、地球表面1平方センチメートル当り約1キログラムである。地表の大気は、この重さを支えるだけの圧力をもっている。その大きさを1気圧とよび、およそ1000ヘクトパスカル(=ミリバール)である。どの高さでも、大気の圧力はそれより上にある大気の重さを支えている。逆にみれば、大気が圧力をもっているのに宇宙空間に向かって膨張して逃げ出さないのは、それより上の大気の重さで押さえ付けられているからである。このつり合いのため、大気の圧力と密度は、高さとともに指数関数的に減少する。その割合は、およそ15キロメートルごとに10分の1である。したがって、高度30キロメートルでは気圧は地表の100分の1で10ヘクトパスカルである。つまり、大気の99%は30キロメートル以下にある。さらに、高度100キロメートル以上の大気の量は、全量の100万分の1である。地表での大気の密度は、1立方メートル当り約1キログラムである。

[松野太郎]

大気の組成

大気を構成する気体、すなわち空気は、各種の成分からなる混合気体である。主要成分のうち、水蒸気を除いたもの(乾燥空気とよぶ)の組成比は、高さ100キロメートルあたりまで一定している。ただし、オゾンは、高度25キロメートルを中心としたオゾン層の中に大部分が存在しており、また、メタン、一酸化二窒素は、高度30キロメートル以上では急速に減少する。

 都市域などでは、工場からの排煙や、自動車、家庭からの排気のため、自然には存在しない成分が付け加わったり、自然に存在する成分も濃度が著しく変化したりしている。このような状態を大気汚染とよぶ。大気汚染によって変化した組成も、大気自体のもつ浄化作用や、周囲の空気との混合によって自然の状態に戻る。しかし、石油や石炭など化石燃料の消費によって生じた二酸化炭素は、大気中にとどまり、本来の濃度よりしだいに大きくなっている。

 大気は、基本的には気体からなるが、ごくわずかながら、液体または固体の微粒子を含んでいる。海水のしぶき、地表から風で舞い上がった微粒子、燃焼による煙、火山噴煙などを起源とするもので、一般にエーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質。エアロゾルともいう)とよばれる。高度10キロメートル以下に多いが、成層圏中の高度20キロメートル付近には、火山噴煙から生じた硫酸液滴が層状をなして存在している。

 大気を構成するおもな成分は、比重が異なるにもかかわらず、重さの違いによって上下に分離することなく、高度90キロメートル以下では同一の割合を保っている。これは、大気の運動によってつねにかき混ぜられているからである。高度100キロメートル以上の超高層大気の組成は異なり、高さに応じて著しく変化する。太陽からの紫外線の作用によって光化学変化をしたり、比重の差によって分離したりするためである。

[松野太郎]

大気の層構造と区分

大気の性質は、同一高度では場所によって大きな相違はないが、高度が変わると著しく異なり、一方、ある高度範囲では共通の性質をもつ。そこで、大気を高度別にいくつかの層に分け、名前をつけて区別している。どのような性質に着目して区別するかによって異なる区分ができるが、もっとも基本的なものは温度による区分である。この区分では、地上から高度11キロメートルまでを対流圏、そこから高度48キロメートルまでを成層圏、次に高度80キロメートルまでを中間圏、それより上を熱圏とよぶ。これら各圏の境界は、下から順に、対流圏界面(11キロメートル)、成層圏界面(48キロメートル)、中間圏界面(80キロメートル)とよばれる。ただし、対流圏界面は単に圏界面ということも多い。

 温度分布に基づく大気層の区分名と並列して用いられている重要な呼称は、電離圏と磁気圏である。電離圏は、地上70キロメートルから500キロメートルぐらいまでの範囲である。この高度の大気は、太陽からの紫外線やX線の作用により一部分が電離し、電気を帯びた粒子(荷電粒子)である電子とイオンになっている。電子密度の極大に着目して、高度90キロメートル以下のD領域、90~140キロメートルに広がるE領域、140~400キロメートルに広がるF領域に分けられる。以前は、これら三つの高度に電離気体の層が分かれて存在すると考えられ、それぞれD層、E層、F層とよばれた。慣用として、この呼び方もまだ使われている。

 磁気圏は、荷電粒子に対する地球磁場の効果が著しくなる領域の名で、高度数百キロメートルから始まり、外側は大気の外の数万キロメートルあたりまで広がっている。荷電粒子は、磁力線にまとわりつく性質があるので、重力の作用のみ考えれば地球から脱出してしまう高度でも、地球磁場の作用によってとらえられているのである。つまり、磁気圏は、荷電粒子に対する地球磁場の勢力範囲をさすもので、したがって、大気圏とは別個の存在である。磁気圏の底部が大気圏と重なり、そこでは荷電粒子が中性の大気から電離によってつくられ、また、荷電粒子と中性気体分子が衝突することによって両圏は相互に影響を及ぼし合っている。

 観測手段の不十分な1940年代ごろまでは大気を漠然と上下に分けて、下層大気、高層大気、超高層大気という呼び方も行われてきた。このうち、前二者は歴史的なもので、山地を含む地表面近くの直接観測のできる範囲(対流圏下部)と、ラジオゾンデによる探査によって初めてつかむことのできる高層といった意味の区分である。高層の上限はかならずしも明瞭(めいりょう)でない。超高層大気は、天気や気象に関係のない電離圏以上をさす。1970年代以降、成層圏と中間圏をあわせ、さらに熱圏底部までを含めた高度10キロメートルから100キロメートルの範囲を中層大気とよぶようになった。この領域は、化学組成、エネルギー収支、大気運動の特色に関して共通する点が多く、ひとつながりとなっていることが明らかとなったからである。

 以上の諸区分とは別に、地表から高度1~2キロメートルの範囲を大気境界層という。この高度範囲の大気の温度、運動は地表の影響を強く受け、著しい地域性を示す。これに対して、大気境界層より上は自由大気とよばれ、地表の不均一性はあまり影響を及ぼさない。

[松野太郎]

大気の観測

地表近くの気象要素(気圧、気温、風向、風速など)は、地上に設置した機器で測定できる。大気境界層内の諸現象の観測には、観測塔、係留気球、音波レーダー、電波を用いて風を測るウィンドプロファイラなどを用いる。高層気象の観測には、ラジオゾンデが用いられる。これは気球に気圧計、温度計、湿度計をつけたものを飛揚させて上昇しながら測定を行い、観測値を電波で送ってくる。電波が到来する方向を指向性のよいパラボラアンテナで追ったり、気球自身に搭載された機器によって地上や衛星からの電波を受信することにより気球の位置を求め、それによって気球を流している上層風の向きと速さもわかる。このような高層気象観測は、定常観測として1日2回、世界中数百か所で行われている。ラジオゾンデの到達高度は普通20~30キロメートルである。気球でも研究目的のために飛揚させる大型のものは約50キロメートルの高度まで観測可能である。

 気球の届かない高度の直接観測には、ロケット、人工衛星が用いられる。1970年(昭和45)岩手県三陸町(現、大船渡(おおふなと)市)に開設された気象庁気象ロケット観測所では毎週1回ロケットを打ち上げ、温度計をつけたパラシュートを落下させて高度60キロメートルまでの気象観測を行っていた。しかし、その後の気象衛星など観測体制の充実に伴い、2001年(平成13)3月打ち上げを終了した。これ以上の高度のロケット観測は、研究を目的としたものである。300キロメートルぐらいまでの高度の密度、温度、組成、電子密度などの観測を行う。人工衛星は、高度200キロメートル以上の電離圏の観測に用いられる。

 高層大気の観測には、直接観測ではない遠隔観測(リモート・センシング)が重要である。地上からレーザー光を発射し、散乱して戻ってくる光を測って高層大気の密度やエーロゾル、オゾンの濃度などを知ることができる。波長を変えながら電波を発射し、反射して戻ってくるまでの時間と、反射しなくなる波長を測って、電離圏の高度と電子密度を知ることができる。この装置はアイオノゾンデとよばれ、これによって定常的に電離圏を監視している。強力なレーダーで高度200キロメートルぐらいまでの風や電子温度の観測を行うこともできる。さらに1990年代以降は日本を含む世界の宇宙機関によって地球観測衛星が打ち上げられ、大気中のオゾン、水蒸気、微量ガス、エーロゾルなどの観測や大気温度の鉛直分布の観測が行われている。

[松野太郎]

大気の大循環

大気はつねに動いており、ひとかたまりの空気をとってみると、大気圏内のいろいろな場所を動き回っている。体内の血液が決まった経路で循環するように、空気塊も統計的平均としては決まった形の動きをしている。これを大気の大循環(大気環流)という。大気の大循環の駆動源は太陽から得る日射エネルギーと、大気自身が熱放射によって失うエネルギーの量の場所による違いである。すなわち、対流圏においては、低緯度地域では日射による加熱が熱放射を上回り、逆に高緯度地域では熱放射による冷却が著しい。このため、赤道と極との間に気温の差が生じ、それによる浮力が原因となって大規模な運動がおこる。運動によって気温の違う空気が交換され、エネルギーのバランスが保たれる。

 大気の大循環は、本質的には熱対流であり、部屋にストーブを置いたとき、規則的な対流運動が生じて熱を部屋全体に運ぶのと同じことである。しかし、大気の運動は地球自転の影響を受けているので、大循環の形態は単純ではなくなる。中高緯度地域の上空にみられる強い西風(ジェット気流)も大循環の現れであり、また、温帯低気圧も大循環の一部として生じているものである。

 大気の大循環の結果、地球上の空気は広く動き回る。かりに中緯度地域の地表付近を出発した空気に着目すると、1か月余りで極から赤道までの範囲に広がり、上下方向にも対流圏全体に広がる。赤道を越えて出発地と逆の半球を含めた全地球に広がるには約1年を要する。

[松野太郎]

各高度における特色

地球大気の各高度領域での主要な性質、現象は次のとおりである。

(1)対流圏 大気全量の80%が存在し、雲、雨、雷などの天気現象がおこっているところである。気温は高さとともに減少し、その割合は平均的には1キロメートルにつき6℃強である。このような気温分布は、水蒸気を含んだ大気としては不安定な状態であり、上下の空気が入れ替わるような対流運動が盛んにおこっている。そのために対流圏とよばれている。対流圏の上端である対流圏界面は、高緯度地方では低く、8~10キロメートルであるが、熱帯地方では高く、17キロメートルに達する。晴れた日に見られる積雲や、夏によく見られる積乱雲(入道雲)は対流の現れである。

 対流圏には、熱帯低気圧、温帯低気圧、高気圧のような大規模な大気の擾乱(じょうらん)が存在する。熱帯低気圧は積乱雲の巨大集団であり、対流が集中しておこっているものである。温帯低気圧は、極と赤道との間の温度差が原因となって発生し、暖気を高緯度向きに、寒気を赤道向きに輸送してエネルギーのバランスをとっている。

 雲や雨、雪などの天気現象は、空気中の水蒸気が凝結して生じるものであるが、凝結の原因となる上昇気流は大規模な擾乱に伴っておこる。したがって天気の分布は大規模擾乱と一定の関係をもっており、たとえば温帯低気圧の東側には層状の雲が広がり、中心に近い部分では雨が降る。

(2)成層圏 下部成層圏(20キロメートル以下)では気温はほぼ一定であるが、中・上部では気温は高さとともに上昇し、高度48キロメートルの成層圏界面では約0℃となる。このような温度分布のため、対流圏とは対照的に大気の層序はきわめて安定であり、上下の空気を混合する対流運動はまったく生じない。観測が十分でなかった時代には、成層圏は静穏であり、したがって空気を構成する各気体は重さの差によって分離し、酸素層、窒素層というようになっていると想像され、成層圏と名づけられた。実際にはこのような分離はおきていないが、上下の混合が弱いため、オゾン層、エーロゾル層のように、鉛直方向に薄いが水平面内には大きく広がった層状構造がみられる。オゾン層は、高さ20~25キロメートルを中心としたオゾン(O3)の豊富な領域である。日射中の紫外線によって酸素分子が解離され、生じた酸素原子が酸素分子と結合してオゾンがつくられる。生成されたオゾンがやや波長の長い紫外線を強く吸収するので、上部成層圏は高温になる。エーロゾル層は、微小な硫酸液滴(エーロゾル)が漂っている層で、高度20キロメートル付近に形成される。火山噴煙に由来する亜硫酸ガスからいくつかの反応を経てつくられるもので、きわめて希薄であるが全地球を覆っている。

 成層圏には、温帯低気圧、熱帯低気圧のような現象は存在しない。成層圏の大循環は、赤道付近で対流圏から上昇してきた空気が両極に向かって流れ、高緯度地方や極地方で沈降して対流圏に戻る、という単純な形をしている。この大循環によって成層圏の空気が対流圏の空気とそっくり入れ替わるのに1~2年を要する。

(3)中間圏 高度48キロメートルから80キロメートルの中間圏では、気温は高さとともに減少する。その割合は1キロメートルにつき4℃ほどで、対流圏よりも緩やかであり、対流が発生することはない。しかしながら、中間圏では下方から伝わってきた内部重力波が砕け、強い乱流を生み出している。このため、成層圏より上下の混合が強く、とくに上部では著しい。流星の飛跡やロケットから放出された噴煙の形が短時間で複雑に変形することから、激しい乱流の存在が知られてきた。

 上部中間圏から下部熱圏(高度70~100キロメートル)の気温は、季節と逆の変化をする。すなわち夏に低温で冬に高温となる。この原因は、下層大気に起源をもつ内部重力波の引きずり効果が、この領域の大気の大循環に影響を与え、夏半球に上昇流、冬半球に下降流をつくるためであると考えられている。

 高緯度地方では、夏季日没後に中間圏界面近くに白く輝く雲(夜光雲)が現れることがある。極度の低温(零下120℃)のため、微量の水蒸気が凝結して生じたものである。

(4)熱圏 高度90キロメートルまでの領域は、中間圏の延長と考えたほうがよい。90キロメートルを超えると、温度は高さとともに急激に上昇し、160キロメートルで約1000K(ケルビン)に達する。この高度での大気の密度は、地表の10億分の1にすぎず、超高真空の状態にあるから、温度が1000Kといっても触れたものが熱くなるというわけではない。温度は、分子やイオンの運動速度の目安である。

 高度100キロメートルより上では、大気の組成の重さによる分離が現れてくる。アルゴンのように重い成分は他の成分に比べて急速に減少する。また、紫外線による光解離作用によって、酸素分子は2個の酸素原子に解離されるので、原子酸素の割合が高さとともに増え、高度150キロメートルあたりで酸素分子と同程度を占める。

 熱圏では、密度が低く分子の衝突が少ないので、分子運動による拡散が顕著になる。熱も運動量も拡散によって上下に混合し、拡散平衡に近づこうとする。大気の乱流は、高度110キロメートルより上では、ほとんど存在しない。この高度を乱流圏界面とよぶこともある。熱圏は同時に電離圏でもあり、また、外圏とあわせて超高層大気とよばれる。

[松野太郎]

惑星の大気

太陽系の各惑星やその衛星のあるものは、地球と同じように気体の層で取り巻かれている。これを惑星(衛星)の大気という。代表的な惑星の大気は次のとおりである。

 金星は、地球に比べて100倍も厚い大気をもっている。すなわち、金星表面での圧力は90気圧である。温度も高く、表面で750Kに達する。組成は、二酸化炭素が約90%を占める。温度は高さとともに直線的に減少し、高度60キロメートルで約240Kとなる。このあたりに硫酸の微細な液滴からなる雲が存在し、太陽光を強く反射している。

 火星の大気の量は、地球大気のおよそ100分の1である。表面での気圧は約7ヘクトパスカルであり、組成は金星と同じく大部分が二酸化炭素である。気温は、場所、時刻、季節による変化が著しいが、表面で200~240K程度である。激しい風によって砂塵(さじん)が吹き上げられ、大気は混濁している。わずかながら含まれている水蒸気が凝結して雲をつくることがある。主成分である二酸化炭素も、冬季の極域では部分的に昇華(固化)する。

[松野太郎]

『小倉義光著『大気の科学』(1968・NHKブックス)』『気象ハンドブック編集委員会編『気象ハンドブック』(1979・朝倉書店)』『松野太郎・島崎達夫著『大気科学講座3 成層圏と中間圏の大気』(1981・東京大学出版会)』『木田秀次著『気象学のプロムナード16 高層の大気』(1983・東京堂出版)』『J・C・カイマル著、光田寧・山田道夫訳『微細気象学――大気境界層の構造と観測』(1993・技報堂)』『多賀光彦監修、田中俊逸・竹内浩士著『地球の大気と環境』(1997・三共出版)』『小林武昌著『地球大気の構造』(1998・丸善)』『有田正光編・著、岡本博司・小池俊雄ほか著『大気圏の環境』(2000・東京電気大学出版局)』『近藤純正著『地表面に近い大気の科学――理解と応用』(2000・東京大学出版会)』『武内延夫編『地球大気の分光リモートセンシング』(2001・学会出版センター)』『秋元肇・河村公隆ほか編『対流圏大気と化学と地球環境』(2002・学会出版センター)』『マイケル・アラビー著、小葉竹由美訳『地球気象探検――写真で見る大気の惑星』(2002・福音館書店)』『ダニエル・ジェイコブ著、近藤豊訳『大気化学入門』(2002・東京大学出版会)』『酒井治孝著『地球学入門――惑星地球と大気・海洋のシステム』(2003・東海大学出版会)』『澤田龍吉著『超高層空間の謎』(講談社ブルーバックス)』


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百科事典マイペディア 「大気」の意味・わかりやすい解説

大気【たいき】

天体の表面をとりまいている気体。地球以外の惑星にも存在するが,地球大気を意味することが多い。大気の全質量は約5.3×1021g,密度は地上の標準状態では1m3当り1.225kg,高さとともに減少し,地上100kmでは地上の約100万分の1程度。多くの気体の混合物で,地上約70kmまでの水蒸気以外の主要成分の組成は不変(空気)。水蒸気量は場所や季節により変動が激しく,空気1kg中1g未満から数十gまでの開きがあり,また高空では急激に減少し,成層圏では1kg中0.01g以下である。成層圏では太陽紫外線の作用によりオゾン層が形成され,その分布や変動は気象学上重要である。気圧は上空ほど低く,高度5kmで約500hPaで,以下5kmごとにほぼ半減していく。気温の3次元的分布は季節により異なるが,中緯度の平均的垂直分布は標準大気により知ることができる。→大気成層
→関連項目気圏月(天体)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大気」の意味・わかりやすい解説

大気
たいき
atmosphere

地球惑星を取り巻く気体の総称。通常は地球大気を意味する。地球大気は多くの気体の混合物で,その化学組成の容積比は窒素 78%,酸素 21%,アルゴン 0.93%,二酸化炭素 0.03%,そのほかには一酸化炭素,ネオン,ヘリウム,メタン,クリプトン,一酸化二窒素,水素分子,オゾンなどを含んでいる。なお,実際の大気には約 0~4%の水蒸気が含まれているが,水蒸気の量は変動するため組成には含まず乾燥空気として示している。大気は地表から上層に行くに従い密度が小さくなり,上層 15kmで全大気量の 90%,30kmで 99%に達し,約 80kmまでは地表と同じ組成となっている。大気は温度の上昇や下降の違いで下層から上層へ対流圏成層圏中間圏熱圏に分けられている。対流圏は地上から高度約 10~15kmで,高度とともに温度は 1kmにつき約 6.5℃低下しており,空気の鉛直混合が活発で水蒸気を多く含み気象の変化はほぼこの対流圏内で発生している。対流圏と成層圏の境が対流圏界面(→圏界面)でここから 50kmくらいまでが成層圏で上層ほど温度は高い。これは成層圏に含まれているオゾンが太陽からの紫外線を吸収しているために温度が上昇している。50km付近に成層圏界面があり温度は極大となり,その上は温度が下がる中間圏となっており,80km付近の中間圏界面で温度は極小となり,その上層は急激に温度が上昇する熱圏となっている。

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化学辞典 第2版 「大気」の解説

大気
タイキ
atmosphere

天体の表面を覆う気体.狭義には地球大気をさす.地球大気は地球表面から上部に向かって対流圏,成層圏,中間圏,熱圏と温度勾配によって分類される.対流圏では上部にいくほど温度が低く,対流圏界面では-60 ℃ 以下に達する.圏界面は赤道上では16 km 程度,極付近では8 km 程度である.成層圏(50 km 付近まで)では上部ほど温度が高く,中間圏との界面で約0 ℃.中間圏に入るとまた温度は下降し,熱圏との界面では-110 ℃ にもなる.熱圏(80 km 以上)に入ると温度はまた上昇し,500 km 以上では1500 K にもなる.中間圏より低い大気の成分はほぼ均質で,水蒸気や固体粒子を除いて,窒素(78%),酸素(21%),アルゴン(1%),二酸化炭素(0.35%)である.

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世界大百科事典 第2版 「大気」の意味・わかりやすい解説

たいき【大気 atmosphere】

地球や木星など太陽系の惑星を囲んでいる気体を大気あるいは惑星大気という。その中で,地球の重力によって地球とともに回転している気体を地球大気といい,一般には大気といえば地球大気を指す。また,地球表面に近い部分の気体を一般に空気という。われわれをとりまく大気は高さ500km近くまで広がり,窒素,酸素,オゾン,二酸化炭素,水蒸気などが含まれている。大気は太陽からくる生物に有害な紫外線や高エネルギーの粒子をさえぎる一方,地球から宇宙へ熱が逃げてゆくのを防ぐ。

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知恵蔵 「大気」の解説

大気

惑星の重力に捕らえられて、惑星を取り巻いている気体。気象学で扱う地球大気は高度約100kmまで。平均的な組成は、窒素78%、酸素21%、アルゴン0.9%、二酸化炭素0.03%など。地表から約11kmの高さまでが対流圏で、雲や雨などの対流現象が起こる。ここでは気温が高さ1kmにつき約6.5℃の割合で低下している。対流圏の上の11〜50kmの層は上へ行くほど気温が高く、成層圏と呼ぶ。上部成層圏の高温は、大気中のオゾンが太陽からの紫外線を吸収し加熱されるため。対流圏と成層圏の境を圏界面(対流圏界面)という。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)

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普及版 字通 「大気」の読み・字形・画数・意味

【大気】たいき

空気。

字通「大」の項目を見る

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世界大百科事典内の大気の言及

【気圧】より

…すなわち1mmHg=1.333224hPaである。また,上記の水銀柱が0.760mの高さに相当する気圧を標準気圧といい,これを1気圧atmosphere(記号atm)と定められている。これらの諸単位の関係は次式のとおりである。…

【恒星】より

…天文測定の最大の問題点は距離の決定であるから,このような粗い距離決定も役だつことが多い。UBVの三色測光以外に干渉フィルターを用いて有効波長帯をしぼった中間帯域測光やG(緑),R(赤),I(赤外)や,さらに10μmくらいまでの赤外波長域の大気透過波長帯(J,K,L,M,N)を加えた多色測光も行われている。また,電波やX線などはそれぞれの強度を測る受信または受光装置で測定の単位を決めている。…

【植生】より


[植生の機能]
 植生は生態系における一次生産者として,地球上の生命に欠くことのできないエネルギーや物質を生みだしているが,それと同時に植生の存在は地球上の気候環境にも大きく影響している。およそ45億年といわれる地球の歴史の半ばの20億年ころに,植物の働きで大気中に増加したと考えられている酸素は,現在では大気の容量で20.95%を占め,全生物が1年間に大気と交換する量の1万倍程度存在しており,植生の影響による増減はあまり問題にならない。一方,植物の炭素源となる二酸化炭素は大気中に容量で0.035%しかなく,炭素量にすれば約7000億tで,全地球の植物体に現存している炭素総量とほぼ等しい。…

【地球】より

…その固体部分は半径約6400kmのほぼ球形をなし,表面の凹凸は最大10km程度である。地表面積の約70%を海洋()が占め,その全体を大気の層がおおう。地表付近の環境は動植物の生育に適し,進化の過程で多岐にわたる生物が発生した。…

※「大気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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