精選版 日本国語大辞典 「大陸移動説」の意味・読み・例文・類語
たいりくいどう‐せつ【大陸移動説】
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大陸が水平方向に移動することによって、大陸どうしの相対的位置関係が時代とともに変わるという説。大陸漂移説ともいう。今日では、プレートテクトニクス理論のなかに組み入れられている。
この説を初めて体系的に展開したのは、ドイツ人気象・地球物理学者ウェゲナーである。彼は1912年に大陸移動に関する二つの学会講演を行ったのち、1915年に『大陸と海洋の起源』を著して大陸移動説を世に発表した。この本は、その後新たなデータを加えつつ、1929年の第4版まで出版された。深海によって遠く隔たれている大陸どうしの間に、かつて陸地のつながりがあったという古生物学的な証拠は、20世紀初頭にはすでに多数知られていた。その陸地のつながりの実態を説明するものとしては、現在深海となっている地域に、かつて、大陸もしくは大陸どうしを結ぶ細長い陸地があったという考え(陸橋説)が当時は主流であった。ウェゲナーは、陸地のつながりを、陸橋説ではなく、現在遠く隔たれている大陸がかつては接合していたと考えることによって説明しようとしたのである。ここにウェゲナーの学説の新しさと鋭さがあった。
[伊藤谷生]
ウェゲナーによれば、古生代末期には地球上には巨大な大陸(彼はこれをパンゲアPangaeaとよんだ)があって、これがその後分裂し水平方向に移動して現在のような大陸の配置になったのである(
)。彼がこうした大陸の移動を思い付いた端緒は、大西洋の両岸の海岸線の凹凸がよく合致することであるが、それを科学的な体系にまで高めるうえで、いくつかの重要なステップがあった。その第一は、古生物学的証拠を含めて大陸の連結を示す多数の事実を吟味し、大陸の分裂と移動を明快に示したことである。もっとも有名なものに、古生代後期の石炭紀からペルム紀(二畳紀)の大陸氷河の問題がある。この大陸氷河は、アフリカ南部、南アメリカ、オーストラリア、インドに分布するが、現在の諸大陸を
の(1)のように集めれば、大陸氷河の分布域は、アフリカ南部を中心として半径30度以内に収まる( )。ここを当時の南極とすると、大陸氷河の分布はきわめて合理的に説明される。さらに、当時の赤道はヨーロッパ大陸の中・南部を通ることになるが、実際そこでは熱帯の泥炭(トロピカルピート)沼地の植物遺骸(いがい)からつくられた大量の石炭が分布する。第二は、大陸と深海底の関係にアイソスタシーの原理を導入したことである。地球表面の高度の出現頻度を調べると、大陸と深海底のそれぞれに対応して二つの極大をもつ曲線が描かれる。このことと、アイソスタシーの原理を結び付けると、相対的に軽い大陸塊が深海底をつくる重い物質の中に浮かんでいるということになる。したがって、大陸どうしを結び付けていた大陸もしくは陸橋が沈んで深海底となることを主張する陸橋説は、アイソスタシーと矛盾するので退けられなければならない。こうして、大陸は深海底をつくる物質の上に浮きながら、水平方向に移動するとウェゲナーは主張した。
ウェゲナーの大陸移動説は、しかしながら移動の原動力を説明できなかったために、1930年代になると下火となった。それでも、スイスのアルガンE. Argand(1879―1940)、南アフリカのデュ・トワA. L. du Toit(1878―1948)、イギリスのホームズなどの少数の研究者が、大陸移動説に基づく造山運動論や移動のメカニズムについての研究を発展させていた。
[伊藤谷生]
1950年代後半、古地磁気学の進歩に伴い、世界各地で地質時代の極の位置が決められるようになってきた。そして、測定した地域を固定した場合、極の位置が時代とともにどのように移動したかを示す極移動(極漂移)曲線が描かれ始めた。こうして求められたヨーロッパ大陸および北アメリカ大陸についてそれぞれの極移動曲線を比べると、両者が系統的にずれていることがわかる。そこで、ウェゲナーがいうように、かつて大西洋が閉じていたとして、両大陸を移動させると、二つの曲線はほぼ一致する。このことから、イギリスのアービングE. Irving(1927― )とランコーンS. K. Runcorn(1922―1995)は、二つの曲線の系統的なずれを大陸移動によるものと考えたのである。こうして、大陸移動説は、ウェゲナーの時代とは別の新しい事実によって劇的な復活を遂げた。
さらに、海洋底に関する地学的研究の著しい進捗(しんちょく)に基づいて、アメリカのヘスおよびディーツによる海洋底拡大説が1960年代初めに提出され、1960年代後半にはプレートテクトニクス理論が登場する。今日の段階からみれば、ウェゲナーの大陸移動説のなかには間違っている部分もあるが、大陸の水平移動と、それによる相対的位置関係の変化という根本的思想は、プレートテクトニクス理論の一部を構成している。なお、現在では、人工衛星を用いた測量技術によって、大陸移動を直接測定できるようになった。
[伊藤谷生]
『A・ヴェーゲナー著、都城秋穂・紫藤文子訳『大陸と海洋の起源』全2冊(岩波文庫)』
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…ドイツの地球物理学者。大陸移動説の提唱者として知られる。牧師の子としてベルリンに生まれ,ハイデルベルク大学,インスブルック大学で学び,1905年に惑星運動の計算によってベルリン大学で学位を得た。…
…極移動が地球磁場の一側面の現れであると考えると,地域差はないはずである。極移動曲線が一致するように地域の相対位置を移動させる大陸移動説が出されてきた。A.L.ウェゲナーは1912年に大陸移動説を唱えているが,この説が古地磁気学によって復活し,動かぬ事実となった。…
…地質時代の一区分で,化石に残りやすい生物が出現した以降の顕生累代を三分した第2の地質時代をいう。放射性同位体による絶対年代の推定では,約2億4800万年前から約6500万年前までの約1億8300万年の期間に相当する。これよりも古い古生代Paleozoic era,これよりも新しい新生代Cenozoic eraとの境界はそれぞれ動物界に起こった大きな変革によって引かれる。すなわち,古生代末には三葉虫,四射サンゴ,フズリナなどが絶滅し,その他の海生の動物分類群も大きな打撃を受けて内容が一新している。…
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