大麻(読み)タイマ

デジタル大辞泉 「大麻」の意味・読み・例文・類語

たい‐ま【大麻】

ぬさを敬っていう語。おおぬさ。
伊勢神宮などで授ける神符。
アサの別名。また、その葉や樹脂から製する麻薬。麻酔・鎮静・催眠・幻覚などの作用がある。日本では大麻取締法で規制されている。マリファナハシシュ。

おお‐あさ〔おほ‐〕【大麻】

の別名。たいま

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精選版 日本国語大辞典 「大麻」の意味・読み・例文・類語

たい‐ま【大麻】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 伊勢神宮で毎年一〇月一五日から歳末にかけて頒布される神札。
    1. [初出の実例]「大麻と云は祓の具也。今しでを付檜をはりたるを祓と云、是大麻也」(出典:常基古今雑事記(17C中)(古事類苑・神祇三六))
  3. (ぬさ)を尊んでいう語。おおぬさ。
    1. [初出の実例]「次宮主献大麻」(出典:玉葉和歌集‐仁安三年(1168)一二月二六日)
  4. 武具。指物の名。
  5. 植物「あさ(麻)」の漢名。〔薬品手引草(1778)〕
  6. アサの茎から取る繊維。丈夫で長いため魚網、船舶用の綱、蓆(むしろ)、夏の洋服地などに使用される。
  7. アサの変種、インドタイマのこと。また、それから得られる麻薬。〔薬品名彙(1873)〕

おお‐あさおほ‥【大麻】

  1. 〘 名詞 〙 麻。たいま。《 季語・夏 》

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大麻」の意味・わかりやすい解説

大麻(麻薬)
たいま
hemp

アサの別名タイマのことで、植物としての解説を中心に一般的な利用、栽培史、文化史などについては「アサ」の項目に譲り、ここでは含有成分とその作用を中心に述べる。

 タイマは中央アジアから西アジア、カスピ海沿岸からシベリア南部、ヒマラヤ地方、北インド、さらには西インド諸島からアメリカなど広い地域に分布しており、タイマから得られる樹脂状浸出物を含め、古くからいろいろの名でよばれてきた。中東や北アフリカではハシシュhashishといい、東南アジアなどではチャラスcharasとよぶ。さらにはバンbhangとか、ガンジャganjaともいい、1960年代からアメリカで急激に流行したマリファナmarijuanaの名はよく知られている。一般には、これらを含めて大麻と総称する。

 大麻の主成分はカンナビノール、カンナビジオール、カンナビノール酸などテトラヒドロカンナビノールTHC)の異性体である。乾燥した大麻の葉などを切り刻んで、たばこに混ぜて喫煙すると、これらの成分が吸入されて数分以内に効果が発現するが、持続時間は比較的短い。しかし、精製された樹脂またはTHCを経口的に投与した場合には、作用発現までに30分から1時間を要し、その作用は3~5時間持続する。

 大麻の作用は、脈拍の増加、結膜の充血、口腔(こうくう)や咽頭(いんとう)の乾燥感がみられ、めまい、悪心(おしん)、ときに嘔吐(おうと)がおこる。食欲は著しく増進する。血糖値、呼吸数、血圧などには変化がない。作用は服用者によって個人差があり、用量や投与経路によっても異なるが、意識がだんだん変化して夢幻状態になってくる。すなわち、思考に前後の関連性がなくなり、自由奔放に思考が駆け巡るようになる。数分が数時間に感じられたり、近くのものが遠くにあるように見えたりする。大量に服用すると、幻覚を経験する。極端な安寧感や喜びの興奮がおこり、笑いが止まらなくなったりする。ちょっとした刺激で愉快にはしゃぎ回ったりするが、そのあとはぼんやりと考え込むようになる。1人の場合は鎮静的であるが、仲間といっしょになると多弁で陽気にふるまう現象もみられ、大量投与では死の恐怖感が観察される。しかし、犯罪的行為や攻撃的行動はあまりおこらない。禁断症状としては、ふたたび吸入したくなる精神的依存がみられるが強いものではなく、吸わないと身体的な障害がおこるといった身体的依存はない。また、大麻中毒者ではなんらかの心理的要因によって喫煙時と同じ症状を発する再現症状がみられることがあり、フラッシュバック現象とよばれる。

 なお海外では、マリファナの喫煙は合法となっている国もあるが、日本では大麻取締法によって栽培、所持、譲受、譲渡などが規制され、不正取引や不正使用などが禁止されている。

[幸保文治]


大麻(神道)
おおぬさ

大幣とも書く。「ぬさ」とは『万葉集』や『古今集』に奴佐(ぬさ)、幣(ぬさ)とみえ、本居宣長(もとおりのりなが)が『古事記伝』に「奴佐は神に手向(たむけ)る物をも云(いう)、又祓(はらえ)に出す物をも云」と解したように、麻(あさ)や木綿(ゆう)などでつくった神に奉る供え物、また罪穢(つみけがれ)を祓う祓串(はらえぐし)や贖物(あがもの)を意味する。『古事記』の仲哀(ちゅうあい)天皇条に「国之大奴佐」をもって、生剥(いきはぎ)・逆剥(さかはぎ)・阿離(あはなち)などの罪ごとを清める国の大祓(おおはらい)をなすとある。大麻とは、不浄を清める祓麻(はらいぬさ)にこもる神霊の働きをとなえたもの。さらに大麻とは、伊勢の神宮大麻(じんぐうたいま)をさす。『吾妻鏡(あづまかがみ)』によれば、1180年(治承4)源頼朝(よりとも)が神宮祠官(しかん)に千度祈祷(きとう)を依頼したとある。そのように神宮の御師(おんし)が祈りを込めた御祓大麻(おはらいたいま)を全国の檀家(だんか)に配り歩く風俗は、江戸時代に最盛期を迎えた。しかし1872年(明治5)、神宮制度の変更に伴い従来の御祓大麻を神宮大麻と改称。広く全国の崇敬者に対して、伊勢神宮を朝夕に礼拝するよりどころとなるように、神宮司庁から頒布(はんぷ)されている。

[中西正幸]


大麻(民俗)
たいま

「おおぬさ」ともいう。神道(しんとう)儀礼における祓(はらえ)の具。現在普通にみるものは、榊(さかき)のやや長めの枝に麻苧(お)と白幣とを取り付け、あるいは略して白幣だけを取り付けたもので、これを参拝者の頭上で振ることによって罪穢(つみけがれ)を祓(はら)うというものである。しかしもともとヌサとは神に捧(ささ)げる布類のことであって、それが多くは麻地であったところから、その文字を麻とするようになった。日本人は神も人と同じように生活していると信じたから、神祭りには食物とともに衣料も捧げねばならぬと考えた。それがヌサのおこりであった。それで、旅をするときにもつねに麻を小さく裁断して携行し、これを行く先々の神に手向けた。これが切麻(きりぬさ)である。一方、罪穢を祓うには、これを人形(ひとがた)に負わせて流しやればよいという考えがあったため、やがて人形のかわりに衣装、さらには布地を用いる風も生じた。祓の具としての大麻は、これがさらに形式化され、整備されたものと考えられる。

[石塚尊俊]

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知恵蔵 「大麻」の解説

大麻

「大麻取締法」で規制される大麻草およびその製品のこと。大麻草は中央アジア原産の一年草で、葉や花に幻覚作用や中枢抑制作用をもたらすTHC(テトラヒドロカンナビノール)という成分を含んでいる。乾燥させた大麻は「マリファナ」、葉や花から採れる樹脂を圧縮加工した大麻樹脂は「ハシシュ」「ハシシ」などと呼ばれる。大麻を摂取すると、独特の心地よさやリラックス感があり、からだもほぐれるような気分になるといわれる。薬理的には、心拍数の増加や結膜の充血、食欲の亢進(こうしん)、口渇、頻尿、悪心、嘔吐(おうと)などの作用をもたらす。また、慢性的に使用することにより、喉頭炎(こうとうえん)、慢性気管支炎の原因となったり、男性ではテストステロンの分泌低下、精子数の減少、女性ではプロラクチンの分泌低下、月経異常などの障害を引き起こす。身体的な影響だけでなく、大麻は常習することで精神的な障害を引き起こす。大麻常習乱用者には、(1)忍耐力に乏しく欲求不満に陥りやすい(2)感情の起伏が激しい(3)常に朦朧(もうろう)状態にある(4)うつ状態、自己陶酔、まやかしの行動、病的虚言-などの精神的特徴がみられる。このような身体的・精神的な影響と同時に、大麻はコカインやLSD、ヘロインなどより強力な薬物を使用するきっかけとなる「ゲートウェイ・ドラッグ」であることも問題とされている。大麻は、大麻取締法で規制されており、栽培や所持、売買などは禁じられているが、吸引には罰則規定がなく、種子は規制対象から外れている。そうした法の目をかいくぐり、種子の販売や種子からの大麻の不正栽培を行い、摘発されることが増加している。また、大学生をはじめとする若年者による大麻取締法違反の事例が多く報道され、社会問題となっている。

(星野美穂 フリーライター / 2008年)

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改訂新版 世界大百科事典 「大麻」の意味・わかりやすい解説

大麻 (たいま)

古くは〈おおぬさ〉と言い,伊勢神宮で歳末ごとに頒布する神札のこと。一般神社の神札の名称として用いることもある。古来,寺院では大般若経,仁王経などを何度も読誦し,その回数を記した巻数(かんず)を祈禱依頼者に配ったが,伊勢神宮もはやくからこれにならい,祓詞(はらえことば)を何度も修して千度祓,万度祓のお祓大麻を配った。神宮では〈大御璽(おおみしるし)〉と称し,〈お祓さん〉とも〈大神宮さん〉とも親しみを込めて呼ばれた。鎌倉時代にはすでに記録に見え,神宮に所属する御師の手によって全国に配布された。普通お祓大麻をのし形に包んだ剣先祓(けんさきばらい)で,丁重なものは箱に収めて配った。1871年(明治4)の御師の廃止につづいて御祓の配布廃止の命令が出され,神宮司庁がこれの頒布をすることになった。第2次大戦後は神社本庁を通じて全国に頒布されている。
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百科事典マイペディア 「大麻」の意味・わかりやすい解説

大麻【たいま】

神宮大麻。伊勢神宮が歳末ごとに信徒の家庭に配る神符。家庭では神の形代(かたしろ)として,神棚にまつる。神宮では大御璽(おおみしるし)と呼ぶ。遷宮の際の廃材と和紙で作り,古くは御師(おし)が諸国の檀那(だんな)に配ったが,明治以後は神宮司庁が各府県神社庁を通じて配布した。伊勢神宮以外の神社の神札をいう場合もある。
→関連項目伊勢参り神棚

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大麻」の意味・わかりやすい解説

大麻
おおあさ

北海道南西部,江別市の西方にある地区。地名は野幌(のっぽろ)屯田兵村のアサ畑に由来。1964~70年,新住宅市街地開発法に基づき道営の大麻団地が野幌丘陵に造成されてから,札幌市近郊の住宅地として発展。付近に野幌森林公園道立自然公園北海道博物館,北海道立図書館,酪農学園大学などがある。

大麻
たいま

神の形代 (かたしろ) として神社から授与される神札。伊勢神宮のそれが名高く,特に神宮大麻と称されることもある。毎年 10月 15日から年末にかけて配布され,神棚に祀られる。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「大麻」の解説

大麻 (オオアサ・タイマ)

植物。クワ科の一年草,薬用植物。アサの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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