太陽を人格化した神。民族や時代により、男神であったり女神であったりする。原始的な文化では、手がたくさんある生物であったり、光り輝く鳥や昆虫であったりして動物形態から離れていないが、文化が発達した段階では擬人化が進み、天上の光り輝く宮殿に王者として住むとか、太陽の球や円盤を舟や車などに乗せて天空を旅する神という形をとる。ほかの自然神に比べ、この神はもっとも顕著な光輝をもつ存在として天界の神々の最高位を占めることが少なくない。またしばしば王権や支配権と結び付けられ、その崇拝はエジプト、バビロニア、ヒッタイト、ギリシア、インド、東南アジア、メキシコ、ペルーなどの古代文明の諸民族で盛んで、ポリネシアやアメリカ・インディアンでも多少行われているが、オーストラリア、ニューギニア、メラネシア、アフリカなどの原始民族では盛んではなかった。
太陽神の信仰が王権と結び付いている民族では、いわゆる「日の御子(みこ)」の伝承が語られて太陽神の神裔(しんえい)が王統を継ぐと考えられ、これはエジプト、インド、インカのほか、日本や琉球(りゅうきゅう)(沖縄)の王室にもみられる。エジプトのラー、バビロニアのマルドゥク、ベンガルのムンダ人のシンボンガなどは、至上神と創造神を兼ねた太陽神であり、創造神話の主役となっている。さらに太陽の光熱による万物の育成という考え方から、太陽神は往々にして農耕の守護神とされ、また太陽が日の入りから日の出までの夜の間地下の世界を旅するという考え方から、太陽神と人間の死霊や冥府(めいふ)を結び付ける観想も生まれた。
太陽神の乗り物としては、ギリシア、北欧、バビロニア、インド、中国などでは馬車が広く知られるが、エジプト、シュメール、オセアニアなどでは舟とされている。日本の太陽神は天照大神(あまてらすおおみかみ)が、皇祖神と同時に高天原(たかまがはら)の至上神として知られるが、『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』や『住吉神代記(すみよしじんだいき)』などによると、舟に乗った太陽神であり、このことはユーラシア大陸南岸に分布する「太陽の舟」の信仰文化の一波であると考えられる。
[松前 健]
『松本信広著『日本の神話』(1958・至文堂)』▽『松前健著『日本神話の新研究』(1960・桜楓社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…記紀神話に登場する太陽神的性格の女神。天照大御神(あまてらすおおみかみ),大日孁貴(おおひるめのむち),天照大日孁尊(あまてらすおおひるめのみこと)などともよばれる。…
…皇后はネフェルティティ。アメンヘテプ4世として即位するが,当初より当時帝国の守護神として王家の尊崇を集め,おびただしい寄進によって経済力を蓄えて,国政に対する影響力を増大させてきたアメン神とその神官団に対抗するため,太陽神アテン信仰の育成に努力した。やがてアテンを唯一の神とし,アメン以下伝統的な神々の信仰を禁止する〈宗教改革〉を断行。…
… ところでこの馬に引かれた戦車に関連して,おそらくインド・ヨーロッパ語系の民族の移動とともに広まった神話が,広く旧大陸には分布している。すぐ思い出されるのはギリシア神話で,天馬があけぼのの女神エオスの車を引き,ファエトンが太陽神ヘリオスの二輪車を御し,天神ゼウスによってうたれる物語であろう。《リグ・ベーダ》でも,英雄神であるインドラは,2頭の名馬の引く戦車に乗って空を駆け,火の神,かつ太陽神であるアグニも輝く車に乗っている。…
…コロナの高温は対流層の運動のエネルギーが熱化されるためであると考えられてきたので,太陽よりも低温の,彩層をもった恒星で,コロナを引きとめるに足る表面重力をもつ主系列星にだけ存在すると想像されていたのであるが,最近のX線の観測で,もっと高温の星にも,また巨星や超巨星にもコロナが存在することが確かめられ,従来のコロナについての考え方に大きな修正を迫られている。光球太陽スペクトル日食フレア【末元 善三郎】
【太陽神話】
太陽については事実上どの民族も何らかの神話や信仰をもっているといってよい。しかし,19世紀末に唱えられたような,すべての神話は太陽神話であるというのは明らかにいきすぎであって,太陽と無関係な神話も多い。…
※「太陽神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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