精選版 日本国語大辞典 「太鼓」の意味・読み・例文・類語
たい‐こ【太鼓】
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木や金属などの堅い物質でできた胴の片面ないし両面に、動物の革などの膜状の物質を強い張力で取り付けた楽器の総称。楽器分類学上は膜鳴楽器にほぼ一致する。しかし、オセアニアなどにみられるスリット・ドラム(割れ目太鼓)のように、膜をもたず胴体を直接たたく体鳴楽器を太鼓とよぶこともある。
太鼓の起源は「がらがら」(ラットル)と並んで古く、紀元前2500年ごろのシュメールの浮彫りにみられる。現在でもあらゆる地域で、儀礼における音表現、日常的な信号や合図の発信などに用いられている。また、太鼓の本体そのものが、社会的価値や権力の象徴として人格化してとらえられたり、神聖視されるなど、楽器を超えた役割を果たす場合がある。
日本語の太鼓の起源は不明である。古くは膜鳴楽器の総称として鼓(つづみ)が使われたが、中国文化との接触・交流の結果、胴にくびれがある両面太鼓を鼓、それ以外のものを太鼓とよぶようになった。しかし両者の区別はかならずしも明確ではない。
[藤田隆則]
太鼓は振動を生み出す膜と、膜を支えかつ空気振動をつくりだす胴からなる。
[藤田隆則]
皮ともよばれる。振動を生じさせるために強い緊張を強いられるため、薄くて強度の高い素材が各地域の生態的条件のなかで選び取られてきた。一般に牛や羊などの獣皮が多いが、ハワイ諸島では魚の皮、ミクロネシアではサメの胃袋やうきぶくろなど、ニューギニアではトカゲの皮が広く用いられている。日本では雅楽の大太鼓(だだいこ)や能・歌舞伎(かぶき)の締(しめ)太鼓には牛革、鼓類には馬や鹿(しか)などのなめし革を用いる。近年、合成樹脂の膜が欧米や日本で用いられるが、伝統的な素材と比べて音色などの微妙なニュアンスを表現しにくいきらいがある。
膜の形は円形が多い。これは膜の緊張度に偏りをなくし、長もちさせることにつながる。
膜の取り付け方には、にかわ、釘(くぎ)などで胴に完全に固定する方法、胴の直径にあった枠を用意し、その枠で膜を挟み込んで胴に固定し、さらにくさびなどを差し込むことで微調整をする方法の二つがまずあげられる。この方法によれば、比較的安定した音高が得られる。また、膜の何か所かに紐(ひも)を通して、それを引っ張って胴に固定する方法もある。この方法では、張力の調節が容易となる。
[藤田隆則]
さまざまな形態があり、これに基づいて膜鳴楽器の分類がなされているが、大きく枠形、釜(かま)形、筒形の三つに分けられる。
(1)枠形 浅い輪形の枠に膜を張ったもの。中東起源と思われる西洋のタンバリンやインドのカンジーラなどが含まれる。日本の団扇(うちわ)太鼓もこれに分類される。
(2)釜形 釜の上部を覆うように膜が張られているもの。構造上、音高が比較的固定されているので、しばしば異なる音高の大小を対にして演奏される。西洋のティンパニ、その祖先とされるアラブのナッカーラ、北インドのタブラ・バヤのバヤンなどが含まれる。
(3)筒形 種類が多く、さらに円筒形、円錐(えんすい)形、樽(たる)形、砂時計形、ゴブレット形に下位分類される。それぞれ、膜が両端についている両面太鼓と、一方のみの片面太鼓の2種類ある。
円筒両面太鼓には、ヨーロッパの大太鼓(おおだいこ)(バス・ドラム)、小太鼓(サイド・ドラム)、里神楽(さとかぐら)で使われる大拍子(だいびょうし)、歌舞伎囃子(はやし)で用いる桶胴(おけどう)などがある。両面太鼓であっても、設置の仕方に応じて片面のみを打奏する場合がある。桶胴を例にとれば、太鼓踊りなどの舞い手が胸につけて、両面を桴(ばち)で打ちながら踊る場合もあれば、歌舞伎囃子では台に置いて、片面を1本の桴で打奏する場合もある。またサイド・ドラムは、身体の前面に取り付け、歩行しながら片面だけを打奏するので、他方の面にはワイヤ弦などを張り渡し、響きをよくするくふうが添えられている。円筒形片面太鼓は、ハワイ諸島のパフをはじめ、地面に立てて奏するタイプがポリネシアに広く分布している。円錐形両面太鼓の典型的なものは、ウガンダのテンガなどアフリカに多くみられる。円錐形片面太鼓には北インドのタブラが含まれる。しかし、円筒形と円錐形、樽形には発音上の大差はなく、タブラは円筒形でも円錐形でもありうる。
樽形は胴の中央部に膨らみをもつもので、たいていは木をくりぬいて製作する。樽形両面太鼓の典型例は、歌舞伎囃子や盆踊りなどに多用される大太鼓(おおだいこ)(長胴太鼓)やインドネシアのガムランに使用するクンダンである。クンダンは日本のものより細長い形をしている。日本の大太鼓(だだいこ)や締太鼓も樽形両面太鼓であるが、その形は円筒形に非常に近い。また、インドにはひょうたん製のほとんど球形に近いものもみられる。樽形片面太鼓は、床に置いて奏するタイプが西アフリカなどにみられる。
樽形に対して、胴の中央部にくびれのあるものは砂時計形とよばれる。砂時計形両面太鼓には日本の鼓、朝鮮の杖鼓(じょうこ)(チャンコ)、西アフリカのカルンガなどがあり、いずれも両面の膜の縁に紐を何往復も渡して張力を加え、音色や音高に変化をつける。砂時計形片面太鼓は、ニューギニア、インド、アラブに広く分布している。
ゴブレット形はコップのゴブレットに似ているためつけられた名であるが、大地に据え付けて奏する片面太鼓が多い。脚部は、空洞で本体と続いているもの、人間や動物などの足をかたどって装飾と台の機能を兼ね備えているものがある。前者は西アジアや北アフリカに広く分布するダルブカなど、後者はアフリカ、ポリネシアに多くみられる。
[藤田隆則]
一般に、膜面を桴や棒または素手で直接たたいて発音するタイプが多い。打つことによって膜が振動し、胴内に空気振動がつくられる。胴の大きさや形、膜の材質や張りの強さによって、音量や音色、音高が決まる。音色は打奏箇所によっても変化し、膜の中心部では鈍い音、周辺部では鋭い音が出る。さらにインドやメラネシアなどでは、粘着性の物質を膜につけることによって、音色に変化をつける。
このほか、日本のでんでん太鼓やインドのダマルなどのように紐付きの小球を振ることによって間接的に膜面を打奏するタイプ、ヨーロッパのロンメルポットのように膜面から出た棒や紐を引っ張り、膜をこすって発音する擦奏(さっそう)タイプ、インドのコモックのように膜の中央部から垂直に張られた弦をはじいて、膜に振動を伝える摘奏(てきそう)タイプがある。なお、ミルリトンなどは歌奏太鼓ともいうが、形態上は笛の類に似ている。
[藤田隆則]
太鼓は、音高が明瞭(めいりょう)に表現できないし、擦弦楽器や吹奏楽器と違って音の減衰が速い。しかし逆に、拍節を明確に表現しうる点には優れているので、独奏よりもむしろ合奏のなかで使われることが多い。またオーケストラのティンパニのように合奏音量の増減を表現するのにも適している。以上のような長所から、太鼓の演奏者は合奏のなかで統括的役割を果たしていることが多い。
逆に、単独で用いられる場合には、信号や合図などのメッセージを発信する音具となる。ヨーロッパ中世から近世にかけて、小太鼓は軍隊の信号、船上でのあらゆる合図に使われた。日本でも軍楽器の総称として陣太鼓があり、鉦(かね)や法螺(ほら)貝とともに用いられ、いくつかの合図を使い分けた。
信号とまではいかなくても、特定の場や時間に、一定の奏法で太鼓を打ち鳴らして場の雰囲気を高める、いわば儀礼的な使われ方もある。相撲(すもう)の触れ太鼓はその一例といえよう。また、歌舞伎囃子などで、特定の情景を表出するために一連の打奏のパターン(手)を使うことがある。たとえば、雪の場面には雪を象徴する特定の手があり、そのほか波、雨、風などの擬音的な描写も定式化されている。また、舞台の進行状況とあわせて、一番太鼓、打出しなどの手を打ち、聴き手に劇場の時間構造を伝達している。これらの太鼓の手は、音型と伝えられる意味内容との間に恣意(しい)的な連合関係がある。
太鼓の打奏と意味内容がより直接的な形で結び付いているのは、アフリカの太鼓ことば(トーキング・ドラム)であろう。太鼓ことばは、話しことば固有のリズムやイントネーションを直接的に模倣して楽器音に置き換えることが多い。聴き手はその場合、楽器音からもとの話しことばを読む。太鼓ことばへの変換は、より遠くまでメッセージの通達が可能であり、しかもそのメッセージは話しことばよりも秘儀性を帯びるという特徴をもっている。
太鼓の演奏において、話しことばの音韻やリズムの影響は大きい。日本のほとんどの太鼓の教授で使われる口唱歌(くちしょうが)は、民俗芸能では口太鼓ともよばれる。テレツクテンテンというような音韻の連続で音型のまとまりを記憶し、かつスムーズな打奏を導き出すことに役だっている。北インドのタブラにも、ボルとよばれる口唱歌に似た記憶法がある。
[藤田隆則]
初めは振動皮がなく、のちに動物皮が張られ種類も多くなった。紀元前2500年以前の古代オリエント、シュメールの彫刻の太鼓が最古の記録とされる。太鼓はもっとも早くに発明された楽器の一つで、世界のほぼ全域で使用され、利用目的も多様である。そのリズムと音響は娯楽や芸術としての音楽表現のほか、敵や動物を威嚇したり、撃退したり、また神秘性を帯びたものとして呪術(じゅじゅつ)や祭祀(さいし)にも用いられる。太鼓自体や太鼓の音を神聖化することも多い。種々のシグナルとしても利用され、また上記した諸機能がしばしば複合的に用いられる。その神秘性、神聖性、魔術性により、凝った装飾が施されたり、タブーが課せられたりする。諸儀礼のなかでは、宗教的職能者が奏者になる場合、専門職の奏者がいる場合、任意の者がなる場合などがある。いずれにしろ、音とリズムを主要な媒介として憑依(ひょうい)やトランス(脱我)状態を導くことが多い。
西アフリカでは王朝の系譜語りにも使われ、かつてアメリカ大陸の黒人奴隷の間では反乱計画の伝達にも用いられた。一般に太鼓は女性の身体、ばちは男性器の象徴ともされる。
[長嶋佳子]
『田辺尚雄著『日本の楽器――日本楽器事典』(1964・柏出版)』▽『網代景介・岡田知之著『打楽器事典』(1981・音楽之友社)』
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…神道系祭式芸能(大和歌を除く)では和琴(わごん)が用いられる。〈打ちもの〉には鼓類,鉦鼓類,太鼓類の3種があり,鼓類に羯鼓(かつこ)(唐楽の新楽で用いる),壱鼓(唐楽の古楽などで用いる),三ノ鼓(高麗楽),鉦鼓類に釣鉦鼓(管絃),大鉦鼓(舞楽),太鼓類に楽太鼓(がくだいこ)(管絃),大太鼓(だだいこ)(舞楽)の別がある。大太鼓はまた特に壮麗な火焰飾をもつことから,火焰太鼓ともよばれる。…
…
【起源と発生史】
音楽の起源に対しては,言語起源説,労働起源説,模倣起源説,呪術起源説などがあるが,これらの諸説は楽器の起源にもかかわっているとみられる。 言語の代りに楽器によって特定の通信文を伝達したり物語を語ったりする例は,現在でもオセアニアのスリット・ドラム(割れ目太鼓)やアフリカのトーキング・ドラム(太鼓話法)などにみられる。そのもっとも単純な形態は時刻や非常事態などを鐘などによって告げ知らせるものである。…
…中国の都市の中央部に設けられた楼閣で,中につるされた太鼓をうって標準時刻を知らせた。その付近に鐘楼もあるのが普通で,宋代の初め洛陽の宮城の前面東南隅に鼓楼,西南隅に鐘楼を設けたのが起源かといわれ,近世中国都市のシンボルのようになった。…
…また伝書バトによる通信も広く用いられた。一方,聴覚による通信としては,たとえばアフリカなどの原住民によって用いられてきた太鼓があり,太鼓の音によってかなり複雑な情報でも伝達されうるといわれている。そのほか,鐘やホラガイ,らっぱなどによる通信も各地で用いられてきた。…
…皷とも書く。張った膜面を振動させて発音する膜鳴楽器は,日本で古くは〈鼓〉と総称されたが,現在は〈太鼓〉といわれ,そのうち胴の中央部が細いタイプを〈鼓〉と呼ぶ。いずれも鉄輪に張った2枚の円型革を胴にあてて,ひも(調緒(しらべお))で締めたものである。…
…次に関係者一同に神酒が回されて土俵祭が終わる。土俵祭が終わると控えていた呼出し連中が,西の花道から〈触(ふれ)太鼓〉をたたきながら2組入場し,土俵下を左回りに3周したうえ,市街に繰り出して,明日から相撲が始まることを触れ歩く。町へ出るのは2柄(がら)の太鼓であるが,途中に待機している5柄の太鼓は,それぞれの受持ちの区域に分かれて,夕暮れまで市中を触れ歩く。…
…構造面では能本(のうほん)の詞章やその小段(しようだん)構成など,技法面では謡の美を息扱いとリズムの細かな変化に求めることなどがそれである。なお,囃子は,世阿弥のころすでに笛,鼓(つづみ),太鼓(たいこ)が用いられていたが,小鼓(こつづみ),大鼓(おおつづみ)の区別があった確証はなく,現在の囃子の楽型が確認できる資料は,江戸時代初頭のものまでしかさかのぼれない。狂言猿楽
【能本】
能の脚本を古くは能本と呼んだ。…
※「太鼓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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