生没年不詳。従来は、中国古代の兵法家で春秋時代の呉(ご)の将軍孫武(そんぶ)、またはその著作になる13編の兵法書をさす。あるいは孫武の子孫で戦国時代の斉(せい)の孫臏(そんぴん)(前340ころ)、またはその著書をいう。
ところが、1972年、銀雀山(ぎんじゃくざん)(山東省臨沂(りんぎ)県)の紀元前2世紀初頭のものと推定される漢墓から出土した兵書の竹簡によって、『孫子』には、在来の『孫子』と『孫臏』の2種類があったことが判明した。中国側のその後の報告によれば、『孫子』の竹簡305枚(2300余字)、『孫臏』の竹簡440枚(1万1000字以上)が解読されている。古書に名をとどめるのみで、姿を隠していた幻の兵書『孫臏』の出現は、『史記』の記載(孫武と孫臏の伝記)や『漢書(かんじょ)』「芸文志(げいもんし)」の記録(『呉孫子兵法』82編・図九巻、『斉孫子』89編・図四巻)の正しさを立証したばかりか、『孫子』の著者をめぐる論争にも終止符を打つことになった。
[篠田雅雄 2015年12月14日]
在来の『孫子』は兵法書のなかでも古典中の古典と高く評価され、次の13編からなる。「計」「作戦」「謀攻」「形」「勢」「虚実」「軍争」「九変」「行軍」「地形」「九地」「火攻」「用間」。「彼を知り己を知らば百戦あやうからず」「その疾(はや)きこと風のごとく、その徐(しずか)なること林のごとく、侵掠(しんりゃく)すること火のごとく、動かざること山のごとし」などの名句は有名であるが、戦略・戦術について総合的に論じた兵法書で、道家的色彩を帯びた深い思想性をもつものといえよう。著者孫武については『史記』によれば、斉の人、兵法書13編を著すとある。呉王闔閭(こうりょ)(在位前515~前496)に仕え、西は楚(そ)を破り、北は斉、晋(しん)を脅かして、天下にその勇名をとどろかせた。呉王が諸侯の覇となりえたのも、孫武の力に負うところが多かったという。
[篠田雅雄 2015年12月14日]
臨沂銀雀山漢墓発掘調査団の「竹簡整理小組」の解読、整理によれば、次のように、上下、全30編に分かれる。上編――擒龐涓(きんほうけん)、〔見威王(けんいおう)〕、威王問(いおうもん)、陳忌問塁(ちんきもんるい)、簒卒(さんそつ)、月戦(げっせん)、八陣(はちじん)、地葆(ちほう)、勢備(せいび)、〔兵情〕、行簒(こうさん)、殺士、延気、官一(かんいつ)、〔強兵〕。下編――十陣、十問、略甲、客主人分(かくしゅじんぶん)、善者、五名五恭(ごきょう)、〔兵失〕、将義、〔将徳〕、将敗、〔将失〕、〔雄牝城(ゆうひんじょう)〕、〔五度九奪(ごどきゅうだつ)〕、奇正。
解説によれば、〔 〕付きの編名は、原文にはなく整理者が補ったものである。この書は、現行の『孫子』より成立年代が新しいはずなのに、文体はかえって古めかしく、原始的とさえ感じさせる部分もある。内容は、社会状況の推移による戦争形態の変化を反映して、城市攻略、陣地戦に重点が置かれ、『孫子』に比べてより具体的であり、実際的である。
著者については、『史記』に、「斉の人。孫武の後裔(こうえい)。鬼谷子(きこくし)の弟子。同学の龐涓(ほうけん)(?―前341)にその優れた才能をそねまれ、欺かれて罪に陥(おと)され、両足を切断される。のち斉に逃れて威王(いおう)(在位前356〜前320)に仕え、謀(はかりごと)によって魏(ぎ)軍を破り、龐涓を自害させる。その兵法を後世に伝える」とある。
[篠田雅雄 2015年12月14日]
『村山吉広編『中国古典文学大系4 老子・荘子・列子・孫子・呉子』(1973・平凡社)』▽『山井湧編『全釈漢文大系22 孫子・呉子』(1975・集英社)』▽『村山孚訳『孫臏兵法』(1981・徳間書店)』▽『金谷治編『孫子』(岩波文庫)』▽『佐藤堅司著『孫子の思想史的研究』(1962・風間書房/1980・原書房)』▽『佐藤堅司著『孫子の体系的研究』(1963・風間書房)』▽『郭化若編・訳『孫子今訳 附「宋本十一家注孫子」』(1961・中華書局)』
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『史記』孫子列伝には二人の兵法家の孫子が登場する。一人は春秋時代斉人の孫武(そんぶ),もう一人は孫武の子孫の戦国時代の孫臏(そんぴん)である。ふつう孫子といえば孫武をさす。孫武は呉の闔閭(こうりょ)に仕え,将軍となり,兵法書13編を著した。孫臏も斉の威王に仕えて,魏を攻めるのに功があった。現在の『孫子』13編は,三国魏の曹操(そうそう)の注釈本までしかさかのぼれないが,山東省から漢代の竹簡(ちくかん)の『孫子』が出土した。『孫子』には,敵を事前によく知り,機先を制すべきことなど,具体的な戦術論が展開されている。
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