宇治拾遺物語(読み)うじしゅういものがたり

精選版 日本国語大辞典 「宇治拾遺物語」の意味・読み・例文・類語

うじしゅういものがたり うぢシフヰものがたり【宇治拾遺物語】

鎌倉初期の説話集。二冊。刊本一五巻。作者不明。承久三年(一二二一)頃、一三世紀前半成立か。貴族説話仏教説話民間説話など一九七編を収める。ユーモアに富み、中世初期の人々の生活感情をよく伝える。文体は当時の口語を含む和文。「今昔物語集」「古本説話集」「古事談」などと同文的同話が多い。

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デジタル大辞泉 「宇治拾遺物語」の意味・読み・例文・類語

うじしゅういものがたり〔うぢシフヰものがたり〕【宇治拾遺物語】

鎌倉初期の説話集。15巻。編者未詳。建保年間(1213~1219)の成立か。貴族説話・仏教説話・民間説話など197話を収める。仏教的色彩が濃い。

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百科事典マイペディア 「宇治拾遺物語」の意味・わかりやすい解説

宇治拾遺物語【うじしゅういものがたり】

鎌倉初期の説話集。15巻。編者不詳。1213年−1221年ごろ成立とされる。197話を類別せずに雑纂的に構成。うち80編余は《今昔物語集》と同話,《古事談》と類似の話もある。仏教説話が多いが,こぶとり,腰折雀(すずめ)などの民話的説話もみられる。和文体で書かれ,読物的説話として表現完成度が高いが,なかに口語的要素も多くとりこまれ,国語資料としての価値も高い。
→関連項目宇治大納言物語打聞集瘤取爺古本説話集舌切雀四宮河原説話文学袴垂保輔百鬼夜行平中説話源隆国世継物語藁しべ長者

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「宇治拾遺物語」の意味・わかりやすい解説

宇治拾遺物語
うじしゅういものがたり

鎌倉初期の説話集。作者不詳。1221年ごろ成立か。序文によれば、書名は『宇治大納言(だいなごん)物語』の続編(拾遺編)の意とも、編著にかかわる侍従(唐名拾遺)という官職にちなむものともいわれている。道命阿闍梨(どうみょうあじゃり)と和泉式部(いずみしきぶ)との情事を伝える巻頭第1話に始まり、聖哲孔子が大盗賊にやりこめられるという末尾の第197話に至るまで、長短の説話が自在な連想のもとに書き継がれている。天皇、貴族から僧侶(そうりょ)、武士、盗賊に至るまでのあらゆる階層の人物が登場し、それぞれ、成功談、失敗談、あるいは奇妙な話、不思議な話、笑い話など、さまざまな内容の話が載せられている。また中国、インドなど異国を舞台とした話や、『こぶ取り爺(じじい)』『わらしべ長者』などの昔話に通じる民話風の話もみられ、他の説話集と比べて、素材や内容の面で広がりは著しく、そこには作者の人間や社会に対する自由で柔軟な思考や感覚といったものをうかがうことができる。「今は昔」「是(これ)も今は昔」といった穏やかな語り出しに始まり、全体に平易でわかりやすい和文脈の語り口で語られてはいるが、その内容には鋭い人間批評や風刺、皮肉がきいているものも少なくなく、味わい深い作品である。散逸した『宇治大納言物語』(成立不詳)の影響の下に成立したと考えられ、『古本説話集』(1131ころ成立か)、『古事談』(1215以前に成立か)、『世継(よつぎ)物語』(成立不詳)などとほぼ同文の類話を多く載せ、相互の密接な関係を推定することができるが、80余の共通話をもつ『今昔(こんじゃく)物語集』(成立不詳)とは直接の書承関係は認められない。

[浅見和彦]

『渡辺綱也・西尾光一校注『日本古典文学大系27 宇治拾遺物語』(1960・岩波書店)』『小林智昭校注・訳『日本古典文学全集28 宇治拾遺物語』(1973・小学館)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宇治拾遺物語」の意味・わかりやすい解説

宇治拾遺物語
うじしゅういものがたり

鎌倉時代前期の説話集。編者未詳。成立年は諸説がある。建暦2 (1212) ~承久3 (21) 年の間か。 197話を収録。『今昔物語集』『古事談』『古本説話集』『打聞集』などの説話集と多くの同話を含み,序文には,源隆国の『宇治大納言物語』に漏れた話やその後のことを書き集めたとある。同時代の多くの説話集が,王朝貴族文化への憧憬や,仏教ないし処世上の教訓を意図して編纂されたのに対して,本書は人間の弱点をあばき,権威を相対化することに関心を示している。笑いの要素が顕著であるとともに,貴族や既成宗教の権威が崩れ去った時代の思潮の影が色濃い。『鬼のこぶ取り』『腰折すずめ』『ばくち婿入り』など,民間説話がそのまま採集されていることも,そうした事情のもとに理解される。多くの説話集のなかで本書は最も広く愛読された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「宇治拾遺物語」の解説

宇治拾遺物語
うじしゅういものがたり

鎌倉初期の説話集。編著者未詳。2巻で,1659年(万治2)整板本以降,15冊本となる。雑纂。197話。成立は159段「後鳥羽院御時」の記述から,承久の乱(1221)後まもなくとされる。序文には散逸した「宇治大納言物語」の改訂増補とあるが,隣接話題との有機的な連関性や離れた話題相互の対話的関係性が指摘されるなど,緊密な編纂に独自の作品世界の形成が認められる。話題は内外貴賤聖俗にわたり多様。大半は「今昔物語集」などに同話がみられるが,明確な意味づけを示さずにさまざまな読みを引きだす仕掛けをもつ点が特徴。既成の価値観を相対化しながら笑いに解消する姿勢に,変動期の表現性がうかがえる。「新日本古典文学大系」所収。

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世界大百科事典 第2版 「宇治拾遺物語」の意味・わかりやすい解説

うじしゅういものがたり【宇治拾遺物語】

鎌倉時代の説話集。15巻15冊。ただし,巻を立てない2冊本や3冊本もある。編者は未詳。鎌倉時代初期の成立で,1220年(承久2)前後と見る説が有力。書名の由来は諸説あって一定しないが,古来宇治大納言隆国(源隆国)編,またはそれに取捨を加えたものとされてきたことからの称らしく,中世には《宇治大納言物語》と異称されたこともあった。197話の長短編説話を集録し,ひらがな本位の和文体で記した典型的な読物的説話集。

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旺文社日本史事典 三訂版 「宇治拾遺物語」の解説

宇治拾遺物語
うじしゅういものがたり

鎌倉初期の説話集
13世紀初めの成立。15巻。編者未詳。『今昔物語集』(宇治大納言物語)の後を追った著作で,全編197話のうち84話が共通する。内容は仏教説話が多いが,また人間的な笑いを豊かにとり入れた民話的説話もみられる。

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世界大百科事典内の宇治拾遺物語の言及

【古事談】より

…説話集冒頭に称徳天皇と道鏡の好色説話を置き,花山院と馬内侍,後冷泉院と源隆国にまつわる逸話など,天皇に関する好色秘話を含むことにもその一端が示されている。《宇治拾遺物語》の編纂資料となった。また,本書の強い影響のもとに《続古事談》が成立した。…

※「宇治拾遺物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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