カントの主著の一つで、いわゆる「三批判書」の2番目にあたり、倫理、行為を論じたものである。『純粋理性批判』では対象認識に向かう理論理性が吟味されて、経験を超えた物自体を扱おうとする従来の独断的形而上(けいじじょう)学が否定された。意志を規定する実践理性を検討する本書では、不可知の物自体は道徳的行為のなされる場としての英知界であり、したがって新しい道徳形而上学が可能であることが示された。カントはここで、われわれは経験的要素に左右されずに義務にだけ基づいて行為すべきである、という厳粛で形式主義的な道徳を確立した。また道徳法則の根底には自由があり、人間は自由で自律的な人格の共同体としての目的の国に属すること、徳と幸福とが一致するためには魂の不滅と神とが要請されねばならぬことなどが論究された。しかし現象界と英知界との厳しい二元的対立を統合する課題は『判断力批判』にゆだねられる。本書は道徳哲学の最高傑作の一つとして不滅の価値をもつものである。
[藤澤賢一郎]
『『実践理性批判』(波多野精一・宮本和吉訳・岩波文庫/豊川昇訳・角川文庫)』▽『深作守文訳『実践理性批判』(『カント全集 第7巻』所収・1965・理想社)』▽『樫山欽四郎訳「実践理性批判」(『世界の大思想 第11巻 カント』所収・1965・河出書房)』
から成り,原理論が本書の大半を占める。分析論では純粋理性による意志の決定の可能性が考察され,意志が実践 (道徳) 的原理に従うことが論証される。すなわち行為者の意志を規定する実践的原理は行為者の主観にのみ妥当する主観的原理すなわち格率にすぎず,したがって普遍的必然的に妥当する原理が考えられなければならず,それが道徳的法則である。道徳的法則は仮言的命法ではなく,絶対的に従うことを命令する定言的命法であり,それに従うときに意志の自律としての自由が成立するとされ,行為の道徳性は義務のためにのみ義務を果すことによってしか成立しないとされた。かくて道徳的法則は自由の認識根拠であり,自由は道徳的法則の存在根拠であり,弁証論では徳と幸福との一致としての最高善を目指す無限の前進のために,霊魂の不滅と自由と,道徳と幸福との一致を保証する神の存在が実践理性の要請の形で積極的に説かれるのである。
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…81年,10年の沈黙ののちに主著《純粋理性批判》刊行。さらに,88年の《実践理性批判》,90年の《判断力批判》と三つの批判書が出そろい,いわゆる〈批判哲学〉の体系が完結を見る。ほかに主要著作として,《プロレゴメナ》(1783),《人倫の形而上学の基礎》(1785),《自然科学の形而上学的原理》(1786),《たんなる理性の限界内における宗教》(1793),《人倫の形而上学》(1797)などがある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
[名](スル)二つ以上のものが並び立つこと。「立候補者が―する」「―政権」[類語]両立・併存・同居・共存・並立・鼎立ていりつ...