宣伝(読み)センデン

デジタル大辞泉 「宣伝」の意味・読み・例文・類語

せん‐でん【宣伝】

[名](スル)
商品の効能や主義・主張などに対する理解・賛同を求めて、広く伝え知らせること。「新聞を使って宣伝する」
事実以上に、また、事実を曲げて言いふらすこと。「自分の手柄のように宣伝してまわる」
[類語]広告PR広報プロパガンダ触れ込みアナウンス周知コピーコマーシャル

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精選版 日本国語大辞典 「宣伝」の意味・読み・例文・類語

せん‐でん【宣伝】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 述べ伝えること。ひろく伝えること。
    1. [初出の実例]「中務省。宣伝勅語。必可信。故改為信部省。式部省。惣掌文官考賜。故改為文部省」(出典:続日本紀‐天平宝字二年(758)八月甲子)
    2. [その他の文献]〔北斉書‐元文遙伝〕
  3. ある物の存在や効能または主義主張などを人々に説明し、理解を求めること。また、その運動や活動。プロパガンダ。
    1. [初出の実例]「兵士等の間にコムミュニズムの理想を宣伝する、好個の地点であった」(出典:ロシアに入る(1924)〈荒畑寒村〉西比利の汽車旅行)
  4. 事実以上に大げさに言いふらすこと。
    1. [初出の実例]「細君の宣伝もいつの間にか事実だと思ってしまはねばならぬほど」(出典:機械(1930)〈横光利一〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「宣伝」の意味・わかりやすい解説

宣伝
せんでん

プロパガンダpropagandaの訳。不特定多数の大衆を、一定の方向に導き、行動をおこさせるために、暗示、誇張、賞罰、デマなどの社会心理的なテクニックを使って、特定の考え方や価値観を植え付ける組織的なコミュニケーション活動をいう。元来はラテン語の「接ぎ木」という意味から転化したものである。プロパガンダということばは、1622年に設立されたローマ・カトリック教会の「布教聖省」Congregatio de Propaganda Fideの名称に由来するという説が一般的である。このように宣伝は発生史的には宗教上の布教宣伝に起源が求められるが、近代のマス・メディア社会を経て、高度情報社会へと移行した現代においては、宣伝とそれに関連する諸活動(たとえば、報道、教育、布教など)との境界は不明瞭(ふめいりょう)であり、相対的なものである。今日の宣伝活動の行われる場は、人間生活の特定の分野に限られることなく、宗教、倫理、政治、思想、商業、経済など社会の全分野にまたがっている。

 現代社会に浸透している、消費者大衆に対する購買心をそそるための商業宣伝は、とくに広告advertisingとよんで区別される。現代の広告は宣伝の一つのタイプであることは間違いのない事実である。それは、もしそれがなかったなら、人々が行動しなかったであろう方向に向けて、多くの潜在購買者へ働きかけ、説得する試みである。ビジネスにおける宣伝活動は、広告主によって行われ、そのメッセージの目的は、市場のなかの消費者が、特定の商品を受容するように働きかけることにある。したがって広告が効果を発揮するためには、本質的に偏見としての性格をもたざるをえないとの見方もある。人間の感情や心理あるいは世論を操作するコミュニケーション活動には、このような宣伝や広告以外にPR(パブリック・リレーションズ)、広報、扇動(アジテーション)、説得などとよばれるものがある。これらはすべて一種の社会的なコミュニケーション過程を形成するものであるため、学問的には、宣伝の主体、内容、回路、客体、効果という構成要素ごとに研究が積み重ねられている。

[島守光雄]

宣伝の歴史

古代中国の兵書『孫子』には、夜戦において篝火(かがりび)や太鼓が、昼間の戦闘では幟(のぼり)や旗差し物が、敵の戦意を失わせるうえで役割の大きいことが説かれている。古代ギリシア・ローマ時代には、弁論で相手を圧倒し、選挙で勝利する技術として宣伝の発達がみられ、とくにアリストテレスの『雄弁術』(レトリカ)は、宣伝について書かれた最古の手引書といえる。また宣伝で成功したもっとも古い例は『旧約聖書』にみることができる。本来、預言書の諸編は、その本質からみても宣伝のためにつくられたものといわれているが、とくにそのなかの、ヨナがニネベの王とその住民とに対し、将来災害が起こることを信じ込ませることによって改宗させた物語は有名である。さらにローマ帝国初期に始まったキリスト教宣教師による「福音(ふくいん)伝道」活動は、その教義に耳を傾ける者を改宗させる広範で組織的な宗教宣伝であり、これは現代でも世界各地で展開されている。ギリシア・ローマ時代の遺跡である建造物などにみられる彫刻や壁画、またローマ共和制に端を発する貨幣は、政治宣伝に大きな役割を果たしたと指摘する人も多い。統治者の業績が記された建造物は、特定の場所以外設置することはできないが、貨幣はどんな僻辺(へきへん)の農村へも侵入していくことができる。それには統治者の名が刻まれ、統治者が変わるにしたがって随時その名が更新され、王統の承継を告げると同時に、統治に対する公認を押し付ける。

 中世になると、ローマ法王庁とその規範から脱しようとする諸皇帝との争いは大宣伝戦を伴って展開される。フリードリヒ2世は、ローマ法王庁からの破門に対して、宣伝を計画的かつ大規模に利用し、効果をあげたドイツ最初の皇帝として記録されている。その宣伝檄文(げきぶん)には、ありとあらゆる雄弁術が適用されており、単に目に訴えるだけでなく、朗読に際して耳に訴えるような修辞学的要素が巧みに取り入れられている。1445年ごろ活字印刷機が発明され、以降、印刷術の発達によりパンフレットや大判印刷物が宣伝の手段として使用され、三十年戦争(1618~48)ではこの印刷物による対内・対敵宣伝が活発に行われた。

 フランス最大の統治者ナポレオンは、軍事的・政治的天才であるだけでなく、新聞記者的才能や新聞宣伝の支配者的才能をも有していた。彼は「新聞の記事は間接的に世の中を変えることができる。しかしサーベルではそれはできない」と述べ、積極的な新聞操縦政策をとった。ナポレオンは、新聞のさまざまな形式を借りて、対内的には『軍隊公報』宣言および声明を、対外的には外交文書を最大限の武器として利用した。また文書秘密化の政策として新聞統制をも試みている。ナポレオンがヨーロッパを席巻(せっけん)しているころ、イギリスでは、防衛宣伝としてナポレオンの風刺画が新聞などに登場し、イギリス人の憎悪と戦意をかき立てるのに大いに利用されていた。さらに宣伝の一形態である扇動が、ペインの『コモン・センス』(1776)という形をとってアメリカ独立の際に威力を発揮する。フランス革命時の行進曲『ラ・マルセイエーズ』も革命兵士の士気を高める目的でつくられた。このように18世紀のころまでは、もっぱら宗教・政治上の宣伝に終始したのであるが、19世紀に入って資本主義が発達するにつれて、近代的商業宣伝といわれる広告が通信、交通などの発達に伴ってこれに加わってくる。

[島守光雄]

現代の宣伝

1898年のアメリカ・スペイン戦争は、国内で激しい競争をしていたアメリカのイエロー・ジャーナリズムがその端緒をつくった事件として有名であるが、第一次世界大戦の際も計画的な宣伝攻防戦が相互の交戦国で行われている。第一次世界大戦の敗戦国ドイツでは、相手側からの敗戦思想を植え付ける対敵宣伝によって富裕なユダヤ人の一部が動揺したことが最大の敗因であるとの分析が信じられ、これが、従来からのゲルマン人反ユダヤ主義と結合してヒトラーのユダヤ人弾圧の口実ともなった。その後、ソビエト連邦の成立とともに社会主義型の宣伝が脚光を浴びてくる。指導者レーニンは、政治宣伝と扇動とを区別した。つまり、扇動とは大衆をたとえ話や情緒的スローガンを用いて、デモ、ストライキ武装蜂起(ほうき)などの具体的行動にたたせるための組織化の手段である。これに対して、政治宣伝は直接それを目的とせず、むしろ指導的立場にある者への理論武装化のための言論活動である、という。そこで、かつての社会主義国家においては、マス・メディア、学校、組合その他すべての集会が宣伝のためのチャンネルと位置づけられていた。しかし、世界が国際化、情報化の波にさらされる現代では、さすがに事情が変わってきている。

 これと対照的なものがファシズムの政治宣伝である。ヒトラーの指令によりゲッベルスによって主として行われたナチスの政治宣伝の特質は、不安定な社会状況を巧みについたものであった。ナチスは、つねに国民の組織化運動や仲間集団を暴力(親衛隊、秘密警察など)で破壊し、個人を孤立させ不安な感情状態にさせる。このばらばらで非合理的な欲求不満の大衆に対して、マスコミや集会演説で暗示をかけることによって、ドイツ民族エリート主義のイデオロギー支配をねらったが、敗戦により崩壊した。

 第二次世界大戦後のアメリカは、典型的な自由主義型の政治宣伝に類別される。つまり、既存の政治的な価値体系である自由と民主を中核として、この価値あるものを外敵の侵略から守りつつ、国民の信条や生活感情の共通部分をつくりあげていくという方法である。「マッカーシズム」がその極端な一典型である。しかし、これを他国に強制するようになると、ベトナム戦争のような悲劇を引き起こすことになる。

[島守光雄]

宣伝の五原則

宣伝ということばには、大別して宗教的、政治的、商業的な三つの立場があるが、これらに共通する宣伝の原則というべきものをあげるとすれば次のようなものになる。

(1)宣伝は個人の心理に働きかける。宣伝は対象とする集団や民衆に働きかけるとはいえ、その目的は個々人の行動や思想に影響を与えることにある。宗教宣伝では個人の魂の救済を訴え、商業宣伝では購買のための行為を、政治宣伝ではある特定思想への行動を、それぞれ個人に強いる。アメリカの社会心理学者ラスウェルは、コミュニケーションによる反応効果を、注意attention、享有enjoyment、了解comprehension、評価evaluation、行動actionの五つに分けている。政治・宗教宣伝と商業宣伝との効果の差違は、一般的に次のように分けられる。すなわち、政治・宗教上の宣伝では、個々人の性格や思考様式まで変えることは可能であるが、商業宣伝では、個々人の従来までの考え方の枠組みを広げるか、補強するにとどまるだけで、それより以上の変改を求めることはできないという。

(2)宣伝は相手の感情に訴える。宗教宣伝の際に、相手が信仰したとすれば、得心したからではなく、情緒や感情などへの働きかけに成功したからである。政治宣伝でも、受ける側の感情にアピールするようなスローガンやモットーがきわめて重要になる。商業宣伝でも、キャッチフレーズ、シンボル・マーク、キャラクターおよびイラストレーションにコピーを組み合わせた広告表現技術が肝要である。また、見せかけの論理性をもたせるため、グラフ、統計数字のほか、知名人のことばなどを引用する場合もある。このように、宣伝は直接間接に受け手の感情に強く訴えるわけであるが、訴求の対象となるものは特定のものではなく、恐怖感、名誉心、冒険心、貪欲(どんよく)、同情心、自尊心、野心、博愛心、家族愛などすべての感情にわたっている。日本の商業宣伝で印象広告が喜ばれるのは、外国との文化的基盤の差からきているとはいえ、単一言語民族のため、感情やムードによって動きやすい気質であることをうかがわせる。

(3)宣伝は情報性をもつものである。宗教宣伝では、これまでは比較的情報性は乏しかったが、政治宣伝ではもちろん商業宣伝においても非常に重要な要件となっている。商業宣伝における企業が協賛してスポンサーの社名や商品名をかぶせた「冠(かんむり)スポーツ大会」やフォーラム(公開討論会)などは、ホットな社会的・時事的テーマを先取りすることによって成功している。この場合受け手は、それぞれの関心や態度に応じてメッセージを選択的に受容するため、イベント誘導の媒体の組合せがポイントになる。送り手が受け手に働きかける誘導手段としていろいろなものがあげられる。おもなものではラジオ、テレビ、新聞、雑誌、映画、録音テープ、ビデオ、フィルム、スライド、ポスター、パンフレット、リーフレットブックレット、写真、教科書、書籍、絵、歌、音楽、演劇、風刺、小説、漫画、公開演説、講義、討論、商談、私的な会話、うわさ話などのほか、徽章(きしょう)・勲章、貨幣、切手、標識、建築物・記念碑、儀式、パレード、会議に加えて、最近ではCD-ROM、DVDなどの電子媒体やパソコン通信、インターネットによる電子メールやホームページ、新型の携帯電話などがある。

(4)宣伝とは相手を説得するものである。宗教宣伝では異教徒や異端者に対する折伏(しゃくぶく)があり、政治宣伝としては、戦争協力のための説得、また階級的・民族的・宗教的対立の際に行われるイデオロギー宣伝がそれである。説得が教育と異なるのは次の点にある。つまり、教育の場にあっては、論争のすべての側面を提示し、当面の問題の価値判断に関しては受け手に結論がゆだねられるのに対し、説得は、相手の抵抗を予想しながらも、一方的に受け手をある方向に導いていく点である。説得は絶えず継続されるのを常態とするが、即席で行われるときは扇動となる。また説得の形式は、宗教・政治宣伝にみられるように、どうしても高踏的、独善的になるきらいがある。戦時中の政治宣伝においては必要悪として誇張や虚偽が強調されるということもあった。このような上下関係を避けて、民主的な場をつくって対等の話し合いを試みようというのが、広告界でのパブリック・リレーションズである。

(5)宣伝には文化性が欠かせない。今日のように高等教育の普及率が高まり、情報化の速度が速まってくると、社会全般に文化的要求が強まってくる。宣伝活動にもサブカルチャー(下位文化)的要素が不可欠となってくる。文化とは、たとえば放送の番組内容を高尚化するというだけではなく、受け手にわかりやすくおもしろく感じられるように、粋をきかせたセンスで娯楽化することをも含んでいる。NHKのラジオ番組『日曜娯楽版』はきわめて風刺のきいた文化的番組として聴取者から喜ばれたが、当時の権力者の圧力によって中止(1954)された。商業宣伝のなかには企業広告というカテゴリーがあって、企業の哲学、信条、文化性、将来性などを語りかけている。これは直接商品を広告するのではなく、会社のイメージアップをねらうものであるが、これと相呼応して企業が共催するコンベンション(大会)、音楽会、セミナーなども多くなった。宗教・政治宣伝にも文化人やタレントが欠かせない理由はこういう点にもある。

[島守光雄]

『A・シュテウルミンガア著、高沖陽造訳『世界政治宣伝史』(1943・岡倉書房)』『J・M・ドムナック著、小出峻訳『政治宣伝』(白水社・文庫クセジュ)』『キャントリル著、原尚武訳『ソ連の大衆操作』(1963・論争社)』『鈴木明・山本明編『秘録・謀略宣伝ビラ―太平洋戦争の“紙の爆弾”』(1977・講談社)』『R・H・ロービア著、宮地健次郎訳『マッカーシズム』(1984・岩波書店)』『佐藤卓己著『大衆宣伝の神話』(1992・弘文堂)』『川上和久著『情報操作のトリック―その歴史と方法』(1994・講談社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「宣伝」の意味・わかりやすい解説

宣伝 (せんでん)
propaganda

他人の考え方や行動を自分に有利な方向に誘導するために行う情報活動で,不特定多数の相手に向けて行う場合が多い。宣伝の起源は明らかではないが,言語の発生と同時に人間はなんらかの宣伝行為をしてきたと思われる。自分が望ましいと思うことに他人を同調させようとするのは,もともと人間の本能に根ざす行為の一種だといってもいいであろう。動機や目的の違いによって,宣伝は批評,報道,教育などの情報活動と区別されているが,実際には報道や教育という名の宣伝もあれば,宣伝の形をとった批評もあって,その境界は必ずしもはっきりしていない。現に日本政府がマス・メディアを通して行っている〈政府広報〉も,行政上の広報活動という立場をとっているが,なかには明らかに政策宣伝と思われる意見広告的な内容も数多く含まれている。

 宣伝はしばしば説得の対極に置かれる。説得が理性的な語りかけであるのに対して,宣伝はもっぱら暗示的な手法によっているというのが,その理由である。チャップリンが《独裁者》(1940)のなかで,ヒンケル(ヒトラー)の演説と,ヒンケルに間違えられた床屋のチャーリーの演説を対照的に演じてみせたのも,またシェークスピアが《ジュリアス・シーザー》のなかで,シーザー(カエサル)の死を市民に伝えるブルータス(ブルトゥス)とアントニー(アントニウス)の演説を対比的に並べてみせたのも,宣伝と説得の違いを表現したものとみることができる。しかし,1930年代のドイツ国民の多くは,チャーリー風の説得よりもヒンケル風の演説に動かされたし,カエサルの死を聞いたローマ市民も,ブルトゥスの説得よりはアントニウスの宣伝に乗って行動を起こした。これらを,宣伝に踊らされやすい大衆の愚かさとみるのは簡単だが,宣伝のなかに人を動かす人間的な何かがあることにも,目を向けておく必要がある。

 宣伝はおもに宗教,政治,商業の三つの分野で大きな発展をみた。現在でこそ,単に宣伝といえば商業宣伝のことをさすことが多いが,歴史上は,宣伝および宣伝技術の発達は,前2者に負うところが大きい。商業宣伝については〈広告〉,政治宣伝に関しては〈政治宣伝〉の項目を参照されたい。
執筆者:

宣伝の歴史は古いが,初めて大量に,印刷された言葉を媒体にして組織的に行われたのは,ヨーロッパの16世紀,ルターをはじめとする宗教改革の諸運動においてであった。それに対抗したローマ教皇庁は,主として海外布教活動を統括する布教聖省Congregatio de Propaganda fide,Congregation for propagation of the Faithなる機構を設置する。プロパガンダという言葉は,この名称に由来する。できるだけ大衆的な媒体を必要とする宣伝の歴史は,マス・メディアが発達して民衆をつかんでいく過程と,大きく重なっている。新聞が大衆化して,総力戦の様相を呈した第1次世界大戦のとき,武力に加えて宣伝を活用する現代型の宣伝戦が始まる。善玉・悪玉への単純化,表現として簡単明瞭なスローガンの繰返し,受け手の情緒的偏見に訴えることなど,宣伝の基本的手法の多くは,すでにこのときにあらわれている。ヒトラーとナチスは,1920年代に急速に発展した映画,ラジオなど最新の媒体を,ドイツ民衆の統合にもっとも巧妙に利用した。また両大戦間のヨーロッパ,アメリカにおける激烈な商品・企業競争は,広告産業を急成長させ,宣伝コミュニケーションの効果,受け手の〈意識〉分析などの実用的諸研究を促進して,宣伝の技術を大いに高度化した。受け手に宣伝を意識させない宣伝というのがその一つの終局理念である。その成果は第2次世界大戦で政治・戦争宣伝の領域にすぐ利用され,また日本では戦後の高度成長期にこのメカニズムが定着する。広告分野の技術革新がすぐ政治宣伝に流入して,相互に補強し合っていく構造はいまも変わっていない。

宣伝は,記号や象徴を操作して多数の人々(その態度,価値意識,意見,行動)に影響を与え,発信主体の意図した一定の方向へ誘導しようとする組織的なコミュニケーション活動であるとも定義づけられるが,多くの共通項を,説得persuasion,教育education,扇動agitationなどとの間にもっている。説得は先述のように,宣伝とは異なって合理的判断に基づく自主決定を求めるものであるとされるが,今日の宣伝技術をもってすれば,相手に操作されていることの自覚なしに自律の幻想をもたせることは可能である。教育も,多様な方向を提示して自主決定にゆだねるという面で宣伝とは一応区別されるが,現実には方向づけのない教育はありえず,宣伝と,説得や教育,PR,広報などとの境界は必ずしも明確ではない。宣伝は密接にからみあった多くの概念をまわりに従えているといえよう。なおマルクス主義的政治運動では,ドイツ社会民主党のカウツキー以来,政治的コミュニケーションの2大類型として宣伝と扇動を区別する。扇動は大衆をデモ,ストライキ,武装蜂起など具体的行動にたたせるものであり,宣伝は直接それを目的としない一般的・理論的な言論活動であるとする。その前提において,すべての政治コミュニケーションには党派性,イデオロギーの主張,なんらかの宣伝が含まれているとしている。

 日用語としての〈宣伝〉という言葉は,とくに大々的に宣伝戦の行われた第1次世界大戦以降,情緒・感情に訴えて黒を白にみせる技術としての悪いイメージが付着し,それを振りはらうために多くの新称が求められた。第2次世界大戦前の日本では,〈宣伝〉の語に代わって〈啓発宣伝〉(内閣情報部官制中に使用),〈普及〉〈普伝〉などをプロパガンダの訳語にあてようとし,戦中にも〈恢弘〉〈弘道〉〈弘通〉が提案されたが,いずれも定着しなかった。ちなみに中国の古語である〈宣伝〉は,《孫子》などにあるように,もともとは上命を下達するという意味であり,プロパガンダが先述のように,〈布教〉〈伝道〉に由来することとは質的な差異を内包している。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宣伝」の意味・わかりやすい解説

宣伝
せんでん

(1) プロパガンダ propagandaの訳。多数の人々の態度や行動に働きかけて,一定の方向に操作しようとする意図的,組織的試み。意見が対立するような政治的・経済的・社会的問題をめぐって,世論を宣伝者に有利な方向に操作しようとする政治宣伝は,過去のいかなる政治社会においても重要な役割を果たしてきた。現代のマス・デモクラシー(大衆民主主義)のもとでは,マス・コミュニケーションの発達と結びつき,ますますその重要性を増しつつある。
(2) →広告
(3) →パブリック・リレーションズ

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普及版 字通 「宣伝」の読み・字形・画数・意味

【宣伝】せんでん

いいふらす。

字通「宣」の項目を見る

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ブランド用語集 「宣伝」の解説

宣伝

宣伝とは製品の便益を多くの人に理解させるために広く情報を伝えることをいう。

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世界大百科事典(旧版)内の宣伝の言及

【ポスター】より

…また印刷によらず手で描いたもの(描きポスター)も見られる。 紙に印刷したポスター(あるいはビラ)は,活版印刷が発明された15世紀にすでに教会や国王による布告や宣伝として登場しているが,ほとんど文字主体のものであった。宣伝媒体としての近代的な機能を備え,また芸術的な効果をねらったポスターがあらわれるのは1830年代ごろ以降のことである。…

※「宣伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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