精選版 日本国語大辞典 「家事審判」の意味・読み・例文・類語
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家庭に関する事件について、家庭裁判所が家事事件手続法(平成23年法律第52号)に則って行う裁判手続。また、その裁判。家事審判事件は、家事審判の申立てまたは職権により審判の手続が開始された事件および家事調停から移行して審判の手続が開始された事件である。
[伊東俊明 2016年5月19日]
家庭は人の生活の拠点であるとともに、社会を構成する基本的単位である。したがって、家庭を健全な状態に維持し発展させることは、個人にとって必要であるとともに、社会や国家にとっても重大な関心事である。しかし、現実の社会においては、失業と貧困等が恒常的に存在し、社会のひずみが家庭に関する事件(家庭事件)を頻発させている。この頻発する家庭事件を解決するために、公開の法廷で行われる、権利関係を画一的な基準で判断する訴訟手続を用いることがかならずしも適切ではない場合がある。なぜなら、家庭事件では人間関係が問題となることがほとんどであり、事件の性質も家庭ごとにそれぞれ個性をもち、家庭内のプライバシーに関することも多く、その結果、公開の法廷で審理することが望ましくない場合があり、解決のための方策も家庭ごとに最適なものでなければならず、画一的な基準によって判断することは避けられねばならないからである。そこで、裁判所の合目的的かつ裁量的な判断による処理が必要となる。また、家庭事件の解決にとどまらず、争いのある家庭の問題点を除去し紛争を予防し善後策を講じて、健全な家庭を育成することも必要となり、そのためには、国家の後見的関与が要求されることになる。このような事情にかんがみて、家庭生活そのものの保護・維持・育成を目的とする、訴訟制度とは性質の異なる裁判手続として、家事審判制度が設けられている。
なお、家事事件手続法が公布される前に家庭事件の裁判手続を規律していた旧家事審判法(昭和22年法律第152号)第1条には、「この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする」という内容の目的規定があったが、家庭事件の処理においてこのような趣旨を尊重すべきことは自明のことであるため、家事事件手続法では、このような目的規定は設けられていない。
[伊東俊明 2016年5月19日]
家事事件手続法では、家事調停をすることができない事項と家事調停をすることができる事項とに区別したうえで、前者を別表第1に、後者を別表第2に掲げるという分類方法が採用されている。
別表第1に掲げる事件は、比較的公益性の高い事件、すなわち、当事者が自らの意思で自由に処分することのできない権利または利益に関する事項に係る事件である。成年後見開始、成年後見人の選任、保佐開始、不在者の財産の管理に関する処分、失踪(しっそう)の宣告、夫婦財産契約による財産の管理者の変更等、子の氏の変更についての許可、子に関する特別代理人の選任、未成年後見人の選任、扶養義務の設定、推定相続人の廃除、相続の承認または放棄をすべき期間の伸長、財産分離、相続人の不存在の場合における相続財産の管理に関する処分、遺言(いごん)書の検認、遺留分の放棄についての許可などがこれにあたる。
別表第2に掲げる事件は、比較的公益性の低い事件、すなわち、当事者が自らの意思によって自由に処分することのできる権利または利益に関する事項に係る事件(調停によって解決することができる事件)である。夫婦間の協力扶助に関する処分、親権者の指定または変更、扶養の順位の決定およびその決定の変更または取消し、遺産の分割、寄与分を定める処分などがこれにあたる。
家事審判の手続によるものは、(1)別表第1および別表第2に掲げる事項についての審判、(2)遺産の分割の禁止の審判の取消しまたは変更、(3)各種審判前の保全処分、(4)財産の管理者の改任、(5)財産の管理者の選任その他の財産に関する処分の取消し、(6)審判に対する即時抗告が不適法でその不備を補正することができないことが明らかであるときに原裁判所がする却下の裁判である。
なお、旧家事審判法においては、同法第9条1項において、いわゆる甲類審判事項として第1号から第39号まで、いわゆる乙類審判事項として第1号から第10号までが規定され、審判事項の整理がなされていた。おおむね、旧家事審判法の甲類審判事項が家事事件手続法の別表第1の事件に、旧家事審判法の乙類審判事項が家事事件手続法の別表第2の事件に対応しているが、乙類審判事項であったもので別表第1の事件とされたものがある。夫婦財産契約による財産の管理者の変更等、扶養義務の設定と扶養義務の設定の取消し、推定相続人の廃除と推定相続人の廃除の審判の取消しに係る事件がそれである。
[伊東俊明 2016年5月19日]
(1)管轄、機関
家事審判は、家庭裁判所が管轄する。土地管轄(所在地を異にする同種の裁判所の間での事件分担に関する定め)は審判事項ごとに定められている(たとえば、家事事件手続法117条1項)。家事審判事件は、合議体で審判する旨の決定がなされた場合や合議体で審判する旨の法律の規定がある場合を除き、原則として、裁判官が単独体として取り扱う。
(2)家事審判の当事者等
家事審判においても、民事訴訟と同様に、自然人、法人、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」は、「当事者(申立人・相手方)」となる資格(当事者能力)を有する(家事事件手続法17条1項、民事訴訟法28条、同法29条準用)。家事事件において、手続上の行為をすることのできる能力は「手続行為能力」(民事訴訟における「訴訟能力」に照応する)と称される。手続行為能力に関しても、原則として、民事訴訟法が準用される。家事審判事件で訴訟代理人に相当する者は「手続代理人」と称される。手続代理人は、原則として、弁護士に限られるが、家庭裁判所の許可があれば、弁護士以外の者が手続代理人となることができる。
家事事件手続法では、当事者となる資格を有する者が当事者として参加することができる「当事者参加」(家事事件手続法41条、258条1項)と裁判の結果により影響を受ける者等が参加することができる「利害関係人参加」(同法42条、258条1項)の制度が区別して設けられ、参加をすることができる者の範囲と参加者の権限等に関する規律が明確にされている。
(3)家事審判の申立てと手続の進行
家事審判の手続は、一定の者の申立てまたは職権で開始される。家事審判の申立てとは、家事事件に関して裁判所に対し一定の内容の審判を求める行為であり、書面(申立書)によってなされなければならない(同法49条1項)。
家事審判の手続は、非公開であるが(同法33条本文)、家庭裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる(同法33条但書)。家庭裁判所は、家事審判の手続の期日に、事件の関係人を呼び出すことができ、呼出しを受けた関係人は、期日に出頭しなければならないが、代理人を出頭させることもできる。
家事審判の手続では、公益性があることを考慮し、実体的真実に合致した判断がなされる必要があるため、裁判所の判断の基礎となる資料の収集を裁判所が自ら職権でしなければならないものとする「職権探知主義」(なお、民事訴訟では、原則として、「弁論主義」が妥当する)が採用されている(同法56条1項)。また、職権探知主義を維持しつつ、資料の収集に関する当事者の主体性を確保するために、証拠調べについて、当事者に申立権を認めている。
家庭裁判所は、原則として、参与員の意見を聴いて、審判をする(同法40条1項)。参与員制度の趣旨は、社会常識を家事審判に反映させることにある。国民の司法参加の一態様ということもできる。参与員は、毎年あらかじめ家庭裁判所の選任した参与員候補者のなかから、事件ごとに裁判所が指定する(同法40条4項)。参与員に選任されるために特別の資格はなく、「徳望良識のある者」(参与員規則1条)から選任される。参与員は、審判の期日に立ち会うことができ(同法40条2項)、意見を述べるために、別表第2に掲げた事項についての審判事件を除いて、申立人が提出した資料の内容について申立人からの説明を聴くことができる(同法40条3項)。
家庭裁判所は、事件が裁判をするのに熟したときは、審判をすることができる(同法73条1項)。家事審判については、原則として、審判書を作成しなければならない(同法76条1項)。審判は、判決とは異なり、期日を指定して言い渡す必要はなく、相当と認める方法(審判書の郵送など)で、当事者・利害関係参加人・その他の審判を受ける者に告知すれば足りる(同法74条1項)。家庭裁判所は、審判をした後、その審判を不当と認めるとき(たとえば、事後的な事情により審判の内容が不当になった場合)は、職権で、審判を取り消し、または、変更することができるが(同法78条1項。「再度の考案」と称される)、申立てによってのみ審判をすべき場合において申立てを却下した審判、および、即時抗告をすることができる審判については、再度の考案をすることはできない。
(4)家事審判に対する不服申立て
審判に対しては、特別の定めがある場合に限り、即時抗告をすることができる(同法85条1項)。家事審判に対する即時抗告は、高等裁判所が裁判権を有する。審判に対する即時抗告の期間は、2週間の不変期間である。即時抗告期間の起算点は、審判の告知を受ける者が即時抗告をする場合には、その者が告知を受けた日であり、審判の告知を受ける者でない者が即時抗告する場合には、申立人が告知を受けた日である。高等裁判所の家事審判事件についての決定に対しては、最高裁判所に、許可抗告ないし特別抗告をすることができる場合がある。
確定した審判その他の裁判に対しては、再審の申立てをすることができる(同法103条1項)。
[伊東俊明 2016年5月19日]
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…夫婦間,親子間その他親族間の問題や争いと非行少年の保護を扱う裁判所。日本国憲法の制定,それに基づく親族法,相続法の改正後まもない1949年に家事審判所と少年審判所(少年審判)とを合体してつくられた。家庭内の争いや問題は,民事訴訟を扱う地方裁判所とは別の裁判所で,訴訟とは異なる方式(調停,審判)によって扱われるのが適切であり,また少年非行は少年の家庭の問題と深く関係する場合が多いので,家庭内の争いと少年非行とは総合的・有機的に扱われる必要があるという考えから,通常裁判所から独立した裁判所となっている。…
… しかし,民事訴訟は,法律に従って判断されるのでその解決は一刀両断的に勝負を決める結果にならざるをえず,調停のように多面的視角から双方の利害を微妙に調節した解決を図るには不向きであり,したがって,いわゆる〈隣人訴訟〉にみられるように,紛争によっては,民事訴訟による解決策をとることがかえって当事者間の溝を深める結果に終わることも,訴訟の限界として考えられるところである。 家庭に関する事件については,家庭裁判所に,調停(家事調停)手続を設けて,家庭紛争は,まずここでの調停手続にかけ,それからでなければ訴えを提起できないとする(調停前置主義)ほか,家事審判手続が用意されている。これは,家庭内のプライバシーを尊重し,非公開で,当事者の言い分をインフォーマルな形で聞き,決定という,より簡易な裁判の形式で,適切な措置を迅速に講じることを目ざした手続である。…
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