木彫仏の主要部分に複数の材を用いた像、またはその構造。一木(いちぼく)造でも、腕や坐像(ざぞう)の膝(ひざ)などの付加的部分は別材を継ぐのが普通だが、寄木造は頭や胴などの主要な躯幹(くかん)部を計画的な規則正しい用法(木寄(きよせ)法)によって、前後または左右に二材、あるいは前後左右の田の字形に四材を継ぎ合わせて構成したものである。木寄法の完成者と伝えられる仏師(ぶっし)定朝(じょうちょう)作の平等院鳳凰(ほうおう)堂の阿弥陀如来(あみだにょらい)坐像(1053)では、前後左右の四材を頭体のほぼ中央で継ぎ、背面二材のみを首筋で割り矧(は)いでおり、膝は前後二材からなるという典型的な寄木造となっている。寄木造の先駆的技法は、すでに奈良時代前期(白鳳(はくほう)時代)の中宮寺弥勒菩薩(みろくぼさつ)像にみられるが、これが多用されるようになるのは一木造全盛期を経た11世紀初めごろからで、12世紀には簡便化が進んで細かい材を組み合わせるようになり、鎌倉時代には、それまで割矧(わりはぎ)によって頭部と胴部を離していたのを、頭部だけ別材にして胴部に差し込む方法(差首(さしくび))がとられるようになった。
寄木造はもともと大像の場合に効果があるが、室町・江戸時代になると材の節約のためか小像にまで用いられた。寄木造は、仮組みした材に像の輪郭などを墨入れしたうえで、いったんばらばらに解いて彫刻し、組み上げて仕上げるという方法をとるため、各材を何人かの仏師が担当する人海作戦も可能で、おびただしい造像の注文にも効果的に応ずることができ、さらに、材の肉をごく薄く仕上げることで重量の軽減や干割(ひわ)れを防止できるという特長がある。
寄木造の基礎は、奈良時代の乾漆像に用いられた木心(もくしん)制作の技法が発展したものとも、中国の造像技術から得たものともいわれるが、日本の寄木技術は中国でさえ及ばないような極度の発達を遂げている。
[佐藤昭夫]
木彫像の主要部分を複数の材から作る技法およびその構造をいう。主要部分を一つの材で作る一木造に対応する語である。像の根幹部分である頭,体が前後の二材で寄せ合わされた〈前後矧ぎ(はぎ)〉,左右二材を矧ぎ付けた〈正中(せいちゆう)矧ぎ〉,前後左右に田の字型に四材を矧ぎ付けたもの,さらにそれ以上の材を用いるものなどがある。像の根幹部を複数の材で作ることは白鳳時代の中宮寺弥勒菩薩像に例があるが,これは特異な木寄法である。上述の一般的な寄木造があらわれるのは,平安初期の一木造全盛期を経た後である。10世紀後半の六波羅蜜寺薬師如来像が正中矧ぎの早い例であり,1053年(天喜1)の定朝作平等院阿弥陀如来像はその完成した形である。この技法は大きな内刳(うちぐり)を施すことが可能で,干割れの防止,像の軽量化など木彫像の耐久性の向上に多大の効果があり,また用材の節約,製作の分業化にも便があり,以後の時代を通じて広く用いられた。
→木彫
執筆者:副島 弘道
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一木(いちぼく)造に対するもので,頭体の幹部を前後あるいは左右に2材,または前後左右に4材を矧(は)ぐなど二つ以上の材で造る技法。ただし材の大きさが不均等である場合は寄木造とはいわない。ふつうこの幹部に小材を矧いで全体を造るが,そこにも一定の規則がある。10世紀半ばに頭体部全体を2材で造る初期的な寄木造が現れ,1053年(天喜元)に定朝(じょうちょう)が造った平等院鳳凰堂阿弥陀如来像(国宝)ではほぼ完成した木寄法がみられる。寄木造はその後も発達し,用材の大きさを細かく指定した仏師の注文も残る。複数の材で造るこの技法は,材の確保が容易で分業が可能であり,平安後期の貴族の膨大な需要に応えるために発達した技法といえる。
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…それはたしかに奈良時代の古典様式とたたえられる調和的な様式から,それを破る方向への移行としてとらえられる。しかしその時期は短く,時代様式とするには少し統一性に欠けるなど,問題もあり,またこの時期に特徴的な一木彫像を技法的にみた場合,それは木彫技法の完成態である寄木造への過渡的なものとする見方も可能であろう。そう考えるならば,平安時代美術は11世紀における貴族文化を背景とした和様ないし国風美術の完成を頂点に,それ以前は奈良時代の外来様式影響下に完成された古典様式からの脱皮と和様化の時期であり,それ以後は和様美術の展開と推移の時期として,およそ前,中,後の3分期でとらえられるのである。…
※「寄木造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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