改訂新版 世界大百科事典 「富豪層」の意味・わかりやすい解説
富豪層 (ふごうそう)
平安時代初期に律令制支配を変質・解体させ,王朝国家および荘園制支配へと転換する推進力となった在地有力者の階層をあらわす歴史学上の用語。当時の官符や正史が民間において律令行政を阻害する張本人を〈富豪の輩(ともがら)〉と呼んでいることにもとづく。一種の地方豪族であるが,必ずしも郡司層のような伝統的豪族ではなく,むしろ〈富豪浪人〉ともいわれるような外来新興の勢力である場合が多く,それゆえに旧体制を攪乱し破壊する活動も激しかった。彼らの経済的な経営基盤は,土地所有よりも稲穀に代表される動産の蓄積にあり,これを営料に投下して行う営田(佃)と,高利貸の元本として運用する私出挙(しすいこ)がその主たる経済活動であったから,その点でも〈富豪〉と呼ぶにふさわしい。彼らが営田や私出挙を通じて隷属民を編成し,開発所領を獲得すれば中世在地領主となり,農業の大経営を展開すれば〈大名田堵(たと)〉へ転化するのである。
執筆者:戸田 芳実
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