( 1 )「すこし」「すこしき」「すこしく」などの形を合わせ考えると、シク活用「すこし」の存在も考えられそうであるが、次のような( イ )~( ハ )の理由から認めにくい。( イ )「すこし」は単独で副詞として用いられるのに対し、訓点語などでは「すこしき」が副詞的に用いられる。( ロ )「すこしき」には名詞としての用法や、「に」「なる」を伴った形容動詞としての用法もあり、これらは、通常の形容詞にはみられないところである。( ハ )「すこしく」の形は「今昔物語集」に数例あるが、その他の確例は新しいものばかりである。
( 2 )漢文訓読文では、「おほきなり(大)」などに対応した形として「すこしき(なり)」を用い、これを名詞もしくは形容動詞として用いた。さらに、「すこしき」を形容詞とも解し、「コンテムツスムンヂ(捨世録)‐二」の「sucoxiqi(スコシキ) コトニ アラズ」のように形容詞連体形として用いたものも生じた。
( 3 )[ 一 ]①の挙例のように、漢文訓読文の用例には、副詞に転用したものも多く見られるが、副詞用法としては、漢文訓読文で「すこし」「すこしき」を用い、和文で「すこし」のみを用いるという対立がある。なお、「すこしき」が「すこし」と違って、「小さい」という意味を持つのは、漢文の「小」の字義にひかれたものである。
「すこしき」が中古に生じていたのに対し、「すこしく」は、挙例のように「今昔物語集」に数例あるほかは確例がなく、その一般化は近世以降のようである。形容動詞の「すこしき」が「わずかだ」という意味のほか「小さい」という意味でも用いたのに対して、「すこしく」は「わずかに」という意味でのみ用いる点が異なる。
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