屋号(読み)ヤゴウ

デジタル大辞泉 「屋号」の意味・読み・例文・類語

や‐ごう〔‐ガウ〕【屋号】

家屋敷各戸につける姓以外の通称先祖名、職業名、家の本家・分家関係などによって呼び分けた。家名いえな門名かどな
商店の商業上の名。生国や姓の下に「屋」をつけたものが多い。「越後屋」「三好屋」など。
歌舞伎俳優などの家の称号。「音羽屋」「成田屋」「成駒屋」など。

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精選版 日本国語大辞典 「屋号」の意味・読み・例文・類語

や‐ごう‥ガウ【屋号・家号】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 個々の家屋敷の通称。家屋敷の状態・初代の名前・出身地などをもとにした種々の名称がある。家名(いえな)
    1. [初出の実例]「高政が惣本寺と名付たる家号は、何方より御赦免ありけるぞや」(出典:俳諧・破邪顕正返答(1680))
  3. 歌舞伎俳優などの家の称号。成駒屋・成田屋の類。

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改訂新版 世界大百科事典 「屋号」の意味・わかりやすい解説

屋号 (やごう)

家を特定するために付けられた呼称。イエナ(家名),カドナ(門名),コナなどともいう。名字は家々の系譜関係に基づいて付けられるので複数の家が同じものを名のることが多く,また近世には農民は名字を公的に使用することができなかったので,家を示すのに屋号が日常的に用いられた。屋号の付け方はさまざまであるが,4種類に大別できる。(1)人名の屋号化したもの。惣四郎,長兵衛など。これは家を創設した初代の先祖の名前や近世初頭の検地に際して屋敷を名請(なうけ)した先祖の名前であることが多い。(2)方位地形位置など家の立地による屋号。ニシ(西),ヤト(谷戸),カミ(上)など。(3)家の系譜関係での位置を示す屋号。オオヤ(大屋),シンタク新宅),インキョ(隠居)など。(4)家業を示す屋号。カジヤ(鍛冶屋),コウジヤ(糀屋)など。これらの屋号は同一村落に併存するのが普通であるが,大きくは地域差があり,近畿地方では(1)の人名の屋号が顕著に発達しており,関東地方や東北地方では(3)の系譜関係による屋号がめだつ。屋号は村落内で各家を特定するものであるから,それを名のるのは1軒のみであるが,他村落へ行けば同様の命名法による同一の屋号があることが多い。近年は,家を示すのにも世帯名や家族員の氏名を用いることが多くなり,屋号の使用はしだいに少なくなってきている。
執筆者:

商家の屋号は室町時代に始まるとされ,江戸時代に一般化した。屋号は,酒屋,米屋など取扱品目によるもの,大黒屋,えびす屋など福神の名を冠するもの,伊勢屋,近江屋,越後屋など出身地にちなむものなど多様であった。暖簾分けによって別家となった商家は,営業上の信用を象徴する主家の屋号を名のることが恩恵的に許された。
商号
執筆者:

江戸時代の歌舞伎役者は,一般庶民より身分が低いとされ,名字が公式には許されていなかったため,屋号で呼ばれた。元禄(1688-1704)ごろからあったらしく,出身地,商い店の屋号からとったものなど,さまざまである。観客がかける掛声には,普通,屋号が用いられる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「屋号」の意味・わかりやすい解説

屋号
やごう

「家」の通称。家名(いえな)、門名(かどな)、屋敷名(やしきな)ともいい、商店の通称も同類で、近代の企業体の名称にもその跡をとどめる。都に集住した平安貴族が同系(氏)の「家」を居住地名で呼び分け(一条・三条・姉小路など)、あるいは中世武家がその所領の在所名で同流の「家」を区別したのはその先蹤(せんしょう)で、これらはのちにいわゆる「苗字(名字)」として「家」の正式な呼び名に転化した。近世の村々には同姓(同苗字)の家が多かったこともあって、日常は屋号(屋敷名)を呼び習わし、累代それが受け継がれていまに至っている。屋号の呼び方はいろいろであるが、およそ次の型に類別できる。つまり、〔1〕先祖名(久作・太郎兵衛など)、〔2〕家の本末関係(大屋・本家・新屋など)、〔3〕屋敷の所在(東・中・南など)、〔4〕屋敷や家の特徴(門屋・板屋・柿(かき)の木屋敷など)、〔5〕特殊職業名(油屋・酒屋・紺屋など)、〔6〕嘉名(かめい)(寿屋・栄屋などで新しい傾向)などで、「村住み」の由緒を示すものも多く、移動性の少ない村ではこうした「屋敷名」が久しく伝流されてきたのである。

 近世都市の商家も同じく通称としての「屋号」をもっていたが、とくに越後(えちご)屋・三河屋・近江(おうみ)屋・伊勢(いせ)屋など出身地を名のることが多く、また大丸・角三など「家印」にちなむものや、職種名(油屋・綿屋)や嘉名(大黒屋・栄寿屋・鶴(つる)屋)を選ぶことも広くみられた。明治後の新職種の発生に伴っては、館・軒・堂・荘・楼などをつけることが一般化し、また企業体組織に変わっても「法人名」に古い屋号はかなり残り、また「商標」の形でも若干残存した。近世商家の屋号は、いわゆる「暖簾内(のれんうち)」として伝統ある商家の本末関係をまとめる「象徴」として重くみられ、外に対しては店の由緒を誇り、信用を博する手段ともなった。しかし仲間内では村々の屋敷名と同じく、それぞれの店の所在地を唱えて個別に呼び分けていた。城下に集住した武家団にも同様「屋敷名」が生じて通称となっていたが、その伝流は明治後絶え、いまは一部が都市の町名などにその跡をとどめるにすぎない。近世都市の「居職(いじょく)人」の家にも屋号はあったが、商家ほど同族的組織は発達しなかったので、その伝流はほとんどみられない。

 これに対し芸能の家に即しては、家元制度の発達と関連して、一種の流派名として「屋号」が重んぜられた。とくに歌舞伎(かぶき)役者には、役者名の「名字」(市川・中村など)のほかに「屋号」が設けられ、それは名優の芸の「型」を伝存する象徴ともなり、観客はその名で役者を褒めはやす例も生じた。成田屋(市川団十郎)、成駒(なりこま)屋(中村歌右衛門(うたえもん))、高麗(こうらい)屋(松本幸四郎)の類である。そして現在の家元制度下における凡百の諸芸の流派にもまたこうした「屋号」の伝統はなおその跡をとどめている。

[竹内利美]

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百科事典マイペディア 「屋号」の意味・わかりやすい解説

屋号【やごう】

(1)苗字(みょうじ)とは別に農家や商家につけられた称号。家名(いえな),門名(かどな)とも。坂下,大東,宮の前などといった地形,位置によるものと,新家,紺屋,紀伊国屋,甚兵衛屋敷,鍵屋など本末関係,職業,出身地,先祖名,家印等の家筋によるものがある。明治になって平民に苗字が許されたとき苗字に切り替えられた。商家の屋号は今は商号として用いられるにすぎないが,昔は同一暖簾(のれん)内を表示した。(2)歌舞伎俳優が芸名のほかにもつ称号。市村羽左衛門の橘屋,尾上菊五郎の音羽屋,市川團十郎の成田屋など。
→関連項目家印商標

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「屋号」の意味・わかりやすい解説

屋号
やごう

家の呼び名。1軒ごとに異なるのが一般的であり,家を特定する意味をもつ。そのつけ方にはいくつかの型がある。 (1) 家の系譜関係に基づくもの 大屋,新宅,隠居など。 (2) 先祖の名前によるもの (3) 家業を表示するもの ただし現在は営業していなくても屋号は以前のまま使用されることが多い。糀 (こうじ) 屋,紺屋,豆腐屋など。 (4) 村内における家の位置や方位によるもの 東,西,向い,奥など。 (5) 家のある場所の地形によるもの 平,台,坂本,沢口など。

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とっさの日本語便利帳 「屋号」の解説

屋号

歌舞伎役者の家の称号。見得や演技の切れ目に、後方の一幕見の観覧席(大向こう)から屋号で声を掛けて贔屓役者を激励する。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の屋号の言及

【歌舞伎】より

…それでもなお,加役料,よない金などの名目で給金の上乗せが行われ,実質は700両,800両を取る役者が何人もあり,やがてもとのままに復してしまう。 役者は芸名のほかに,屋号(表1参照)と俳名(はいみよう)を持っていた。市川団十郎を成田屋三升(さんじよう),尾上菊五郎を音羽屋梅幸,沢村宗十郎を紀伊国屋(きのくにや)訥子(とつし),中村歌右衛門を成駒屋芝翫(しかん)というように,通人は役者を屋号と俳名とで呼ぶこともあった。…

【住居表示】より

…中世ヨーロッパの都市では,もちろん規模も格段に小さかったのだが,人々は家に番号を付ける必要を感じていなかった。番号の代りをしていたのが,家々に付された屋号であり,都市空間をわがものとするのに,それで十分だったのである。旅籠や酒場が人目をひくため風変りな屋号をつけたのは当然だが,一般の家屋も,その多くが,なんらかのいわれをもとに,その特徴を示す屋号を持っていた。…

【商号】より

…1794年のプロイセン一般ラント法,1807年のフランス商法,フランス法系諸国および英米法系諸国では会社の商号に関する特別規定しかなく,わずかにドイツ法系の少数国が個人の商号をも含めた全般的規定をもうけているにすぎない。日本ではもともと屋号が商号としての機能を果たしていた。屋号制度が最初に認められたのは大化改新後に制定された大宝律令においてである。…

【のれん分け(暖簾分け)】より

…商家などで奉公人に別家を許すこと。17世紀以降,商人や職人の家屋の軒先に屋号,商品,商標などをデザイン化した暖簾を出すのが一般的になった。商人や職人が暖簾を重視するようになったのは,家業という特定の営業権や技術をもつ経営が成立していったことによる。…

※「屋号」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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