中国、山西・陝西(せんせい)両省出身の商人、金融業者。明(みん)・清(しん)時代に南方の新安商人と並んで、中国商業界に二大勢力をなした。明朝ではモンゴル防衛のために長城線一帯に九辺鎮(ちん)とよばれる北辺の軍事基地が置かれ、多数の常備軍を駐屯させ、これに補給する軍餉(ぐんしょう)問題は政府の緊急課題であった。山西商人は初めこの軍糧の輸送を担当して巨利を得、政府権力と結んで江淮(こうわい)にも進出し、塩商および穀物商として市場を独占し、莫大(ばくだい)な利益をあげたばかりでなく、彼らの営業種目は絹織物、綿布、木材、運輸、典当(てんとう)(質屋)、鉄、茶、染料など多彩であり、その活動範囲も華北、華中から西域や遼東(りょうとう)方面にまで及んだ。明の滅亡後は清朝政府と密接な関係を結び、とりわけ、その富で票号(為替(かわせ)業)、銭鋪(せんぽ)(銭荘)などの金融業を独占した。その活動は北京(ペキン)を中心として華北、華中に及び、清末の1905年ごろには、北京の金融業界の約半数が彼らの旧式銀行による山西系店舗に占められていたという。
山西商人はまたこの旧式銀行から融資または出資を受けて、各種の商工業を経営し、北京での米穀商、搾油業をはじめ酒、たばこ、染料などの営業はほとんど彼らの活躍舞台であった。さらにその経営は、同郷関係によって団結を強め、相互扶助のギルドを組織し、至る所に同郷同業の会館、行所(こうしょ)を建てて活動の根拠地にし、北京ではそれも業種別、出身県別に細分化されていた。
[佐久間重男]
中国,明・清時代をつうじて,商業界を代表した商人で,主として山西省出身の商人をさすが,一部には,隣省である陝西省出身の商人を含む場合もある。彼らの活動は古い時代からはじまっていたと考えられるが,彼らが勃興したのは明代,とくに北辺の兵站を確保するために実施された開中法(塩法)と密接な関係があり,地の利をえて巨富を蓄積した。ついで明代中期に,開中法が運司納銀制へ切りかえられると,その有力者は両淮・両浙地方に移動し,有名な揚州塩商の主力となり,新安商人とともに,商業界を二分する大勢力となった。山西商人の主たる業務は塩商をはじめとして,穀物商,綿布商,絹織物商などにおよび,ほとんど全中国を活動範囲としたほか,一部は海外にまで進出した。ただ,彼らは手工業とかかわりをもつことが少なく,その利潤は,もっぱら流通部門から生みだされた。彼らはまた金融業者としても有名で,典当業(質屋)あるいは票号の経営者として金融界をリードし,清朝と密接な関係をもち,国庫の代理業務をまかされるほどの実力をもっていた。しかし,彼らは,塩商も含めて,国家権力と結びついた旧式の政商であり,清朝の崩壊によって支柱を失い,新時代に対応する能力を欠いたため,20世紀の初めには,ほとんど没落してしまった。彼らの経営方式は,徒弟制度をつうじて同郷性を固く守る点に特徴があり,各地に山西会館を建てて活動の拠点とした。
執筆者:寺田 隆信
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明代以後の中国経済界に主要な地位を占めた山西省出身の商人層。明初の北方経略に政商として活躍し,富を貯えて発展の基礎を築いた。以後金融業を中心に商業,手工業など多方面にわたって同郷的結合を支えに全国的に活動した。その勢いは質屋業による融資などを通じ農村にも及んだが,江南では新安商人の進出などによりしだいに後退した。
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…塩の販売は大きな利益があるので,商人は競ってこれに参加したが,北辺に接する山西・陝西の商人が,地の利を得て大きく力を伸ばすことになったのである(塩法)。かくて明代前半期には,山・陝商人が商業界で最大の勢力を占めた(山西商人)。ところが中期になると,流通経済のいっそうの発展にともない,開中法に変更が加えられ,辺境に糧米を納める代りに,直接産塩地(おもに両淮(りようわい)地方)の主務官庁に銀を納入して,販売許可を得る方法が主流となった。…
※「山西商人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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