中国山地の南側から瀬戸内海に至る地方をいい,行政的には岡山・広島両県および山口県の大部分をさす。名称は古代の地方行政区画,五畿七道の一つである山陽道に由来し,旧播磨,美作,備前,備中,備後,安芸,周防,長門の8ヵ国を含むが,一般にはこれら諸国を通り,都と九州大宰府とを結ぶ官道沿い,つまり瀬戸内海北岸の土地をさすことが多かった。岡山,福山,広島,防府などに,やや広い平野が形成され,藩政時代には各藩によって干拓や埋立てが行われてきた。また瀬戸内式の温暖少雨の気候に恵まれ,古くから産業や文化が発達し,なかでも備前,備中,備後の吉備(きび)3国はもっとも早く開けていた。瀬戸内海の水運が発達した中・近世には街道の利用価値は相対的に低下したが,街道筋に姫路,岡山,福山,広島などの城下町や尾道,下関などの港町が発達した。山陽地方では瀬戸内水運の活況と大坂の市場に近いという地の利によって,江戸時代からワタ,アイ,イグサなど多様な商品作物が導入され,またそれらを加工する農村工業が発達した。明治以降その多くは衰退したが,岡山県南部における綿紡績などの繊維工業,広島県呉の海軍工厰設立を契機とする造船および関連機械工業,山口県宇部,小野田のセメント,化学工業など近代工業へと転換発展したものも多い。
満州事変前後からの軍備拡充期および1960年代の高度経済成長期に急成長して瀬戸内工業地域に発展し,いわゆる太平洋ベルト地帯の一環をなすに至った。しかし反面,日本最初の国立公園である瀬戸内海国立公園の環境を悪化させることとなり,〈瀬戸内海環境保全特別措置法〉を必要とするほどの危機を招いた。事態は徐々に改善されているが,なお一層の努力が必要である。瀬戸内海沿岸の発展に比べて,北部にある津山,三次(みよし)などの山間盆地や吉備,世羅などの高原・台地は開発から取り残され,過疎化が進んでいたが,83年中国自動車道が全線開通,97年度までに山陽自動車道の主要部分が開通し,内陸型工業の進出や京阪直送型の特産地形成が進んでいる。
→中国地方
執筆者:藤原 健蔵
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国地方の瀬戸内斜面にあたり、岡山県、広島県と山口県南部を含む地域で、日本海側の山陰地方に対する呼称。兵庫県南部まで含めることもある。古代の山陽道は、播磨(はりま)、美作(みまさか)、備前(びぜん)、備中(びっちゅう)、備後(びんご)、安芸(あき)、周防(すおう)、長門(ながと)の諸国が属し、畿内(きない)と北九州を結ぶ回廊地域として政治、文化、交通上重要な役割を果たしてきた地方である。
中国脊梁(せきりょう)山地の南側には吉備(きび)高原や周防高原が広がり、その間に津山、三次(みよし)、山口などの盆地が並ぶ。内海沿岸は沈水して島の多い複雑な海岸線となり、わずかに岡山、福山、広島、防府(ほうふ)などに小平野がみられる。おおむね瀬戸内式気候に属し、北側の中国山地と南側の四国山地に遮られて、降雨は少なく温暖で、冬は晴天が多い。
開発の古い地方で、人口密度が高く、近世には児島(こじま)湾をはじめ各地で盛んに干拓新田が開かれ、明治以降も機械化農業や製塩業、果樹・野菜の園芸農業の先進地となった。また紡績、造船、化学の諸工業もおこり、第二次世界大戦後、とくに水島、福山、岩国、徳山などは鉄鋼や石油化学を中心に発展し、特色ある瀬戸内工業地域を形成している。沿岸には岡山、広島、山口の県庁都市のほか、倉敷(くらしき)、尾道(おのみち)、下関(しものせき)など多くの商工業都市があり、これらを結んで山陽本線、東海道・山陽新幹線が走り、JRの陰陽連絡線、内海航路も発達している。瀬戸内海国立公園、秋吉台(あきよしだい)国定公園は優れた自然公園として知られる。
[三浦 肇]
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