一定の条件を具備する者の志望に基づいて,国家がこれに国籍を取得せしめること。今日,いかなる国の国籍立法でも,帰化を認めないものはない。国籍の得喪に関してなるべく個人の自由意思を尊重すべきであるとする国籍自由の原則の一つの表れである。古代には帰化はきわめてまれであったが,19世紀後半以来ヨーロッパ諸国から南北アメリカに移住する者が現れるにいたり,以後諸国において頻繁に認められるにいたった。日本において帰化の歴史を考えるとき,まず思い浮かぶのが古代における渡来人(帰化人)であるが,これは事実上中国人,朝鮮人のみであった。1899年に制定された日本の旧国籍法は帰化について人種,宗教のいかんを問わない立場を採った。しかしアメリカは従来,帰化について人種的差別主義をとり,1802年,42年および70年の法律はいずれも東洋人に帰化資格を与えなかったが,1943年の法律により中国人にもこれを与え,さらに50年いわゆるマッカラン法の制定により日本人の帰化も認められるにいたった。アメリカのこのような帰化に関する人種的差別主義は,諸国の帰化の歴史上,きわめて特異で注目に値すべきものである。
ひとたび喪失した旧国籍を再び取得する国籍の回復も法的には帰化の一種で,再帰化とも呼ばれる。1950年制定の国籍法の一部を改正した新国籍法(1984年公布,85年施行)には国籍の回復という言葉はないが,実質的にこれに相当する規定はある(8条3号)。諸国の国籍立法のうちには,アメリカのように,帰化の条件を具備する外国人は当然に帰化する権利を有し,一定の裁判所がその条件を判定するにすぎないとするものもあるが(1952年の移民及び国籍法310条以下),多くの国は帰化の条件を具備する外国人に対しても当然には帰化の権利を認めず,帰化を許可するか否かはもっぱら国家の自由として行政機関の権限に属するものとしている。日本の国籍法も後者の立場を採り,帰化を法務大臣の自由裁量に属せしめている。かような帰化の不許可処分が抗告訴訟の対象となるか否かについて,日本では従来これを否定する説が主張されてきたが,最近では肯定する説がむしろ有力である。なお,上述の帰化とは別に,取得しようとする国籍の所属国と当事者が一定の特別な関係にある場合に,志望者の意思だけに基づいて国籍の取得を認める制度がある。1945年のフランス国籍法中の国籍取得の意思表示,81年のイギリス国籍法における登録による簡易な国籍の取得がこれにあたり,日本の国籍法も届出による国籍の取得の場合を定めている(3条,17条)が,これらは帰化とは異なる。
帰化の条件は各国が国籍法によって定めているが,その内容は千差万別である。また一国の国籍法においても,帰化の種別により条件に差異が認められる。日本の国籍法は普通帰化と特別帰化とを認めているが,帰化条件はそれぞれ異なる。普通帰化とは一般の外国人の場合の帰化をいい(5条),特別帰化は簡易帰化とも称し,血縁,地縁その他なんらかの意味で日本と密接な関係のある外国人につき,普通帰化のときに要求される条件が緩和または免除される場合の帰化をいう(6~9条)。国籍法は,普通帰化につき,外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において,日本国民との親族関係または境遇につき特別の事情があると認めるときは,その者が重国籍防止条件(5条5号)を備えないときであっても帰化を許可することができるとしている(5条2項)。そして,日本国民の配偶者の帰化条件に関し男女の差異を解消するとともに(7条),日本で生まれた者が無国籍のままであるケースをできるだけ解消するためその者も特別帰化の対象としている(8条4号)。日本に特別の功労のある外国人につき法務大臣が国会の承認を得てその帰化を許可する制度がある(9条)。これも特別帰化の一つであり,大帰化grand naturalizationと呼ばれる。帰化の許可の申請は帰化しようとする者が15歳未満であるときは,法定代理人が代わってする(18条)。また法務大臣が帰化を許可したときは《官報》にその旨を告示しなければならず,帰化はその告示の日から効力を生じる(10条)。帰化により日本国籍を取得した者は,生来の日本国民とまったく区別されない。日本への帰化が増大したのは1952年以降であり,1990年までの帰化許可者の総数は20万余を数えるにいたったが,その大部分は韓国人・朝鮮人および中国人の帰化者が占めている。とくに最近,帰化者が増加しているのは,在日韓国人・朝鮮人のほかに,日本の国際化に伴い急増した定住外国人(主として2世,3世)や日本に永住帰国した中国残留邦人およびその親族の帰化事件が増加していることによるものである。
→国籍
執筆者:山田 鐐一
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個人の意思により国籍を取得すること。自国の国籍を有しない者に対していかなる要件で国籍取得を認めるかについては、各国の法政策により大きく異なる。
日本の国籍法では、申請者の資格に応じて、普通帰化(同法5条)、簡易帰化(同法6・7・8条)、大帰化(同法9条)の三つに分けて帰化条件を定めるとともに、外国人の申請に対する帰化の許可を法務大臣の裁量にゆだねている(同法4条)。
普通帰化は、(1)引き続き5年以上日本に居住すること、(2)18歳以上で、本国法による行為能力者であること、(3)素行が善良であること、(4)自己または配偶者その他の親族によって生計を営むことができること、(5)国籍を有しないか、日本の国籍の取得によりその国籍を失うべきこと、(6)日本国憲法施行日以後に日本政府等を暴力で破壊することを企てる等の行為をしていないこと、などの要件を必要とする(国籍法5条1項各号)。ただし、(6)の要件は、徴兵制度等のために外国国籍を離脱できないこともあることから、特別の事情が認められれば障害事由としないとされている(同法5条2項)。簡易帰化は、日本国民の子などについて、前記の居住要件や年齢要件などを緩和したものであり、大帰化は、日本に特別功労のある外国人について、国会の承認を得て許可されるものである。帰化とは別に、国籍留保の意思表示をしなかったため日本国籍を失った者が、法務大臣への届出による日本国籍の再取得が認められている(同法17条)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
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…これらのことによって,地球上の生物の地理的分布域が大きく変化させられた。人類の生産や交通の諸活動によって人為的に,本来の生活域とは地理的にかけ離れた地域に運ばれ,そこに自然な生活域を確立した生物を,帰化生物という。人工的な環境を生育場所としていても,その生物が自然な分布能力で分布域を広げたものは,帰化生物とはいわない。…
…すなわち,子は,(a)出生の時に父又は母が日本国民であるとき,(b)出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき,(c)日本で生まれた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないときに限り,日本国籍を取得するものとしている(2条)。(2)帰化による国籍の取得 一般には一定期間の居住その他,法定の条件を備えた外国人の志望に基づいて,国家がこれに国籍を付与することを帰化というが,日本の国籍法も帰化を認め,その条件について規定している。帰化は,その条件の寛厳の差異により,普通帰化と特別帰化に区別される。…
※「帰化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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