改訂新版 世界大百科事典 「帰属理論」の意味・わかりやすい解説
帰属理論 (きぞくりろん)
theory of imputation
Zurechnungstheorie[ドイツ]
帰属理論は,19世紀の終りころのC.メンガー,F.vonウィーザーなどのいわゆるオーストリア学派の経済学の基礎的な考え方を定式化したものである。さまざまな生産過程を通じて生産される財の価値は,それが消費されるときに生ずる経済主体の主観的効用によって決まってくるというのがオーストリア学派の考え方であり,また当時の限界効用学説の教えるところでもあった。このように,財の価値が,それが最終的に消費されるときに生ずる経済主体の主観的価値判断によって決まると考えるとき,このような財の生産に用いられるさまざまな生産要素,労働・資本・原材料などの価値をどのように評価するかという問題が起きてくる。オーストリア学派の帰属理論においては,生産財の最終価値はその生産のために用いられた生産要素に帰属させることができると考えられ,その大きさはそれぞれの生産要素が最終的価値を生み出すためにどれだけ貢献したかに依存すると考えられた。このとき,生産された財の総価値が,生産要素に対する帰属価値の合計にちょうど等しくなっているかという問題が起きてくる。生産に関する規模の経済が一定のとき,生産が時間をかけずに行うことができれば,各生産要素に対して,その貢献分に見合う帰属価値が与えられたとき,その合計がちょうど生産財の最終価値に等しくなることがオイラーの同次関数についての定理(略してオイラーの定理ともいう)により示すことができる。しかも,もし仮に生産財も生産要素もどちらについても完全競争的な市場が存在しているとすれば,それぞれ市場価格に基づく評価と帰属原理に基づく評価とは一致する。このようにして帰属理論はさらに一般に,一般均衡理論のなかに包摂されることになった。しかし,生産過程が長く,その時間的経過を考慮しなくてはならないときには,オイラーの定理を適用できなくなり帰属理論の修正が必要となってくる。この修正は主としてE.vonベーム・バウェルクによって導入された。時間的要素を集計して,それを〈資本〉という生産要素とみなし,迂回生産による生産力の増加と結び付けようとした。このような考え方は必ずしも限界生産力説の枠組みには吸収されず,オーストリア学派の考え方は帰属理論を通じて現代的展開への可能性を残しているということができる。
執筆者:宇沢 弘文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報