平衡機能検査(読み)へいこうきのうけんさ(その他表記)equilibrium test

改訂新版 世界大百科事典 「平衡機能検査」の意味・わかりやすい解説

平衡機能検査 (へいこうきのうけんさ)
equilibrium test

めまいや身体のふらつき(平衡障害),あるいは歩行障害などを訴える患者に行われる検査。めまいや平衡障害を起こす場所としてよく知られているのは,耳,目および足の筋肉,腱などである。たとえば,耳の内耳にある前庭三半規管に病気が起こると,ひどいめまいや平衡障害を起こす。目が関係していることとしては,高いビルの屋上から下を見ると身体がふらつく感じが起こったり,めまいのする人が目を閉じるとめまいがひどくなるというような現象がある。また足の筋肉や腱の知覚深部知覚系という)が異常になると,平衡感覚がみだれてくる。このように身体の平衡には,耳,目,深部知覚が関係し,しかも,これらが無意識のうちに深く結びついて,いわゆる反射系路を形成している。たとえば内耳に障害が起こると,その情報の一つは内耳神経を伝わって脳(とくに脳幹小脳)に入り,眼を動かす神経に行く。この反射系路を医学的に前庭動眼反射と呼び,現象的には眼球振盪(しんとう)(眼振という)となって,異常な眼の動きとしてあらわれてくる。これは,正常健康人にはみられない眼の動きで,めまいのある人にはよくみられる現象である。また内耳に起きた障害を伝えるもう一つの情報は,前庭脊髄反射といって,内耳神経を伝わった情報は脳に入り,次に手や足を支配する神経を出している脊髄に伝わる。このため,めまいや平衡障害のある人が,字がうまく書けなかったり,上手に直立したり歩行したりできなくなる。このような解剖的・生理的事実を背景にして,内耳,内耳神経,脳幹,小脳などの,どこにどのような病気があるのかを明らかにするために行われるのが平衡機能検査である。

 したがって,眼振があるかどうかを調べる眼振の検査とか,眼球の運動に異常がないかどうかをみる検査は,きわめて重要な平衡機能検査である。眼振をみる検査には,注視眼振検査,フレンツェルの眼鏡を用いて行う頭位眼振・頭位変換眼振の検査がある。また,体温より低い温度の水や温かい温度の湯を外耳道に注入して,内耳や内耳神経を刺激してその反応をみる検査(温度刺激検査),あるいは身体を回転させて起こる眼振の反応をみる検査(回転検査)が行われる。さらに,眼の前を動くものを見させて,眼の動きに異常がないかどうかをみる検査(視運動性眼振検査,視標追跡検査など)がある。このような眼振あるいは眼球運動は,電気眼振計を用いて記録し,その異常の有無あるいは程度を詳細に検討する。身体の平衡状態をみる検査には,直立検査,足踏検査などがあり,目を開いた状態や閉じた状態でふらふらしないかどうかをみる。また目を閉じて字が書けるかどうかをみる書字検査も行われている。

 歴史的に平衡機能検査が確立されてきたのは20世紀に入ってからで,とくにバーラーニR.Bárányが温度刺激・回転刺激による検査法を発表して以来である。近年,身体の平衡を研究する学問は神経耳科学と呼ばれ,内耳や内耳神経ばかりでなく,脳や脊髄に至るまで幅広く研究されるようになり,器械発達とともにめざましい進歩を遂げている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

関連語 野末 道彦

世界大百科事典(旧版)内の平衡機能検査の言及

【三半規管】より

…無脊椎動物では,前庭だけが存在し,半規管は欠如している。
[三半規管と平衡機能検査]
 三半規管はヒトが頭位を通常の状態で正面を向いているときは,外側半規管は水平面より約30度上方を向いている。したがって,頭を約30度前屈して,外側半規管をほぼ水平の状態として身体を回転させると,外側半規管の中の内リンパの流動が起こり,それが膨大部の感覚細胞に伝わり,さらに前庭神経をへて脳幹や小脳および外眼筋に伝えられる。…

※「平衡機能検査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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