居住,営業,工場,倉庫などの目的で利用される,土地に定着した建造物であって,屋根,周壁を有するものをいう。民法はこれを土地と別個独立の不動産としている(86条1項)。ある建造物をもって民法上の建物とみるかどうかの判断は結局社会通念によることになる。ガード下の店舗,地下街の建造物,農耕用の温室などは建物とされ,他方,ガスタンク,仮小屋などは建物とはみられない。建物については建物登記簿が設けられ(不動産登記法14条),その登記簿には物理的現況や権利関係が表示されている。また,建物上の権利の変動は登記することではじめて第三者に主張しうる(民法177条)。1個の建物とは通常1棟のものをいうが,別棟である湯殿,茶室などを母屋に含めて1個として扱う(登記する)ことができ,他方,マンションの場合のように,1棟の建物の中に数個の建物(専有部分。〈建物の区分所有〉の項参照)を内包することが認められる(〈建物の区分所有等に関する法律〉1条)。建物を建築する場合,建築基準法の規制に服する。建築基準法上は建築物という用語が用いられており,法の目的の相違から建物概念と少しのずれがある(建築物のほうがやや広い概念である)。地方税法は家屋という用語を用い,家屋に対し固定資産税を課しているが,これは,住家,店舗,工場(発電所および変電所を含む),倉庫その他の建物をいうとされる(341条3号)。建物登記簿は家屋課税台帳の基礎になるので(同条12号),基本的には建物と重なりあう概念であるといえよう。
→不動産
執筆者:安永 正昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
建物は土地の定着物であるが、欧米諸国の法の下では、土地と一体をなすものとされているのに対し、わが国の民法の下では、土地とは別個の不動産とされている。その個数は、土地とは異なり登記簿によって定まるのではなく、社会通念によって定められる。一般的には、物理的な連続性が基準とされて、一棟、二棟という数え方をする。もっとも、「建物の区分所有等に関する法律」第1条は、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所または倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分をそれぞれ独立の所有権(区分所有権という)の客体となることを認めている。建物は元来、動産である複数の物が一定の構造物を形成して土地に定着しているものであるから、その建築過程のどの段階から土地とは独立の不動産たる建物となるかが問題となる。この点については、工事中の建物であっても、すでに屋根および囲壁を有し、土地に定着した1個の建造物として存在するに至れば足り、床および天井などはこれを備えていなくてもよいとした判例(大審院判決昭和10年10月1日)が参考となる。
[竹内俊雄]
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