形態学(読み)ケイタイガク(英語表記)morphology

翻訳|morphology

デジタル大辞泉 「形態学」の意味・読み・例文・類語

けいたい‐がく【形態学】

生物学の一分科で、生物の体制や構造を研究する学問。対象や目的により、組織学細胞学解剖学発生学分類学などに分けられる。
鉱物の結晶の幾何学的性質を研究する結晶学の一分野。

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精選版 日本国語大辞典 「形態学」の意味・読み・例文・類語

けいたい‐がく【形態学】

  1. 〘 名詞 〙 生物学の一分科。生物の構造やかたちを研究する学問。対象や目的によって組織学、器官学、細胞形態学、発生形態学などに細分される。
    1. [初出の実例]「患者の血液の形態学的研究に熱中した」(出典:ヤゴの分際(1962)〈藤枝静男〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「形態学」の意味・わかりやすい解説

形態学 (けいたいがく)
morphology

通俗的には,生物のからだの全体または部分のもつ形態や構造の研究を指すが,厳密には,発育や進化による生成過程も含めて形態・構造を論ずる生物学の一分野のこと。いいかえれば,個体および個体以下のレベルでおこる生命現象のうち視覚的にとらえられるものを対象とするのが形態学であるが,対象物のレベルや研究目標によっていくつかに類別することができる。

 ある一種の生物についてこのような研究がなされる場合は,多少とも生理的機能との関連があるため生理形態学とも呼ばれ,解剖学組織学細胞学発生学などがこれに含まれる。この種の形態学は,生体内の機能や作用を主対象とする生理学と対比されることが多い。それに対し,異種の生物との間の比較によって,生理機能とは関係なく構造の一般性や進化的意義などを探ろうとする研究分野があり,これを比較形態学という。比較形態学と比較解剖学とは混同されることが多いが,本来は後者は変化や生成の観念を含まない静的・平面的な概念である。

 動物に関しては,上記の2種の形態学は大まかに見て別々の起源をもっている。その一つは基礎医学の系統である。医学は古代ギリシア以来の歴史をもつが,とくに近世以降になって人体を中心とする解剖学が発展し,これが現代の生理形態学の母体となった。18世紀から19世紀にかけて,この流れの中からビク・ダジールF.Vicq d'Azyr,J.メッケル,J.P.ミュラーらによって,多くの脊椎動物の構造を比較研究する比較解剖学と,個体の発生過程を比較する比較発生学が生み出された。

 形態学のもう一つの系統は博物学(ナチュラル・ヒストリー)である。生物界における種類と形態の多様性は人類が最初に興味をもち,科学的研究に着手したものの一つであった。〈万学の祖〉とされるアリストテレスはこの多様性を研究した最初の巨人だったということができる。ギリシア文明が衰えたあと,長い中世の停滞期を経て近世に入ると,博物学の復興が起こる。次いで,西洋諸国の植民地が世界に広がり,珍奇な動植物がそれぞれの本国へもたらされるにつれて,数多くのナチュラリストたちによる生物界の整理,すなわち分類学が盛んになる。そして18世紀中葉にリンネによって近代的分類学の基礎が固められた。この潮流を背景にして,19世紀初めごろE.ジョフロア・サンティレールやG.L.C.F.D.キュビエらが動物界全体の比較解剖学を新しい科学として確立する。他方,このころラマルクにより,次いで19世紀中ごろC.ダーウィンによって生物進化論が創始され,これを転機として形態学と分類学は近代的な展開を見せることになる。この過程でE.H.ヘッケルは,対称性によってすべての動物の体制と外形を幾何学的に分析し,その種別によって動物界を分類しようとする形式的な比較形態学を構想して,これを基本形態学と呼んだ。20世紀に入ってもその流れはダーシー・トムソンなどによって継承された。

 19世紀後半にはK.ゲーゲンバウアやヘッケルにより,進化論を指導原理として医学および博物学に由来する比較解剖学が統合され,さらに古生物学の発展が加わって現代の比較形態学の基盤ができ上がったのである。

 狭い意味での解剖学は生物体の構造を肉眼で見える範囲内で,つまり器官のレベルで調べ,記述し,一般性を探ることを目的とする。その際,生理機能との関連が重視されることもしばしばあり,そのため生理学とは表裏一体の関係にあるといえる。それに対し組織学と細胞学は光学顕微鏡的な次元で構造や形態を探るもので,生理・生化学的なはたらきとの関係はいっそう深いものとなる。近年は電子顕微鏡によって細胞以下のレベルで構造を解明しようとする傾向がきわめて強いが,この次元での形態研究はもはや独立の形態学とはいえず,生化学的現象の物質的な現れを視覚的に立証する作業にほかならない。他方,発生学は卵細胞から始まる個体の発生過程の研究であるが,発生の因果関係の解明が目的である場合は生理形態学,異種間での比較に基づいて進化機構の解明などが目的にされるときは比較形態学の性格をおびることになる。

 以上とは異なって,人工的条件の下で行われる形態学の一つに,20世紀になってから現れた実験形態学がある。これは,動物の発生過程に実験的操作を加えることにより形態形成の機構を解明しようとするもので,生理学的性格の強いものといえる。また比較的近年に注目されるようになった機能形態学は,生体のある部分が全体としてもつ機能,とくに力学的機能を解明することを目的とし,やはり生理学的色彩が濃厚である。

 このように生理学と対置してみるとき,一般的には,形態学は巨視的な次元のもの,また記述的なものほど独立性が強く,微視的なもの,また実験的なものほど生理・生化学的現象との関係が深いといえる。

 ところで〈形態学〉ということばJ.W.vonゲーテが作ったものである。ゲーテは文学者・哲学者として名高いが,同時に多くの自然現象を研究した博物学者でもあった。1807年《形態学序説》の中で彼はこう書いている。〈学者たちもまた……抑え難い衝動を感じてきた。それは,生命ある形成物そのものをあるがままに認識し,目に見え手で触れられるその外なる部分部分を不可分のまとまりとして把握し,これらを内なるものの暗示として受けとめ,こうしてその全体をいくらかでも直観によってわが物にしよう,という衝動である。……これまでも一つの学問を打ちたて,完成させようとする試みがいく度も繰り返されてきたが,われわれはこのような学問をば形態学と名づけたいと思う。……あらゆる形態,とくに有機体の形態を観察してみると,変化しないもの,静止したもの,完結したものは一つも見いだせず,いっさいは運動して止むことがない。……ひとたび形成されたものはすぐまた変成される〉。つまりゲーテは,自然哲学的な立場から生物体の形成と変成の学を形態学と呼んだ。こうした動的な考え方の一つの現れとして,ゲーテは独自の比較解剖学的観察に基づき,すべての植物および動物の〈原型〉の概念に到達することにもなった。ゲーテ流の形態学の気風は,比較によって多くの種類に通ずる一般性を求めようとする現代のポルトマンなどの比較形態学に受けつがれているといえる。分析によって因果関係の解明を目ざす生理形態学はこれとは異質のものである。
執筆者:

生物学の一分野としての形態学の方法を文化の場面にも適用したところにいわゆる文化形態学が成立する。たとえば第1次大戦後のドイツでベストセラーとなったシュペングラーの《西洋の没落》2巻(1918-22)には〈世界史の形態学の素描〉の副題がそえられているが,その実質的内容は明らかに高度文化の比較形態学であり,シュペングラー自身その方法はゲーテに学んだことを告白している。ここでは,文化とは自然界における動植物と同じく歴史の世界における有機体としてとらえられる。そして文化の諸形態を産み出す基本原理は直観的にのみ把握され比喩的にのみ表現される,と説かれるのである。また哲学者E.シュプランガーは文化有機体説をそのまま容認はしないが,しかもなお文化形態学的思索の必要性を力説している。一方,民族学者L.フロベニウスはより具体的なレベルでの文化所産(弓,矢じりなど)の形態的特質の比較研究,地理的分布から諸民族の文化史の展開過程を明らかにしようとしたが,これはやがてウィーン学派文化圏説へと展開されていった。英米の文化人類学者の中にも形態学的研究への関心はかなり強く認められ,たとえば日本文化論《菊と刀》(1946)で有名なR.ベネディクトも《文化の型》(1934)において三つの相異なる未開文化の特性記述を〈アポロン的〉〈ディオニュソス的〉の2型で試みている。ここでも,統合的全体としての文化の把握のために文化形態学的比較の観点が積極的に活用されているわけである。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「形態学」の意味・わかりやすい解説

形態学
けいたいがく

形または構造の記述と法則性を探究する生物学の基本的な一分野。形態学とは本来、形成および転成の学という動的な概念に対してゲーテが名づけたものである。

 現在の形態学は研究の対象により、細胞学、組織学、器官学、解剖学などとよばれる。方法としては、形態と機能との関係を結び付ける生理形態学、異なる生物の組織や器官の形態を比較して一般的法則をみいだす比較形態学、形態の形成の因果関係を実験的に追究する実験形態学とに分けられる。

 細胞学の独立は、ドイツの植物学者M・J・シュライデンと動物学者T・シュワンによる細胞説が唱えられてからである。最近の位相差顕微鏡、紫外線顕微鏡、電子顕微鏡の開発により、細胞学は飛躍的に発達した。とくに細胞の超微細構造の研究の発展は、細胞小器官の形態と機能との関係を明らかにし、場合によると生体高分子も直接観察できるようになった。組織学は、ある特定の働きをもつ細胞集団の構造および細胞間の相互依存性を有機的にとらえる、いわば細胞社会学ともいえる。器官学は、器官の構造と相互関係を研究対象とし、葉と花の相同論により基礎づけられた。比較形態学は、記載生物学の発展過程において成立し、動物での集積した資料は進化論の誕生の土台となった。実験形態学は、各種の手術(移植、外植、除去、組織培養)、物理的操作(遠心処理、紫外線やX線照射)、薬品処理などの方法を用い、とくに実験発生学の分野において形態形成の過程やその機構が明らかにされた。また、生物の形態を対称性(有軸性)によって分類する基本形態学という分野もある。

[小林靖夫]

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百科事典マイペディア 「形態学」の意味・わかりやすい解説

形態学【けいたいがく】

生物の形態を研究する生物学の一分科。生理的機能との関連で形態を研究するものと,生物の多様性を形態の面から研究するものとに大別できる。前者は医学に起源をもつもので,研究方法や対象によって,解剖学(肉眼解剖学),器官学,組織学,細胞学,発生学などに分けられる。種々の機能を営む器官を対象とするのが器官学,器官学を構成する組織を顕微鏡で調べるのが組織学,さらに細かく細胞について研究するのが細胞学である。また卵から組織,器官,生物体のできあがる過程を追うのが発生学である。後者は博物学に起源をもつもので,広い意味での比較形態学に当たる。
→関連項目解剖学生物学生理学ポルトマン類型論

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「形態学」の意味・わかりやすい解説

形態学
けいたいがく
morphology

生物学の一分野。生物の形態,全体の形状,部分の構造について研究する学問。植物については外部形態学,内部形態学に分けられ,動物については解剖学,器官学,組織学などに分けることがある。細胞学ももとは生物体の微小構造を研究する学問として興り,発生学も個体の形態の変化を記述的に観察することから興ったが,今日では機能面の研究の進展や,電子顕微鏡の発達によって,高分子レベルまで連続した問題としてとらえられるようになっている面も少くない。なお鉱物学においては,鉱物の結晶の形を研究することをいう。

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世界大百科事典(旧版)内の形態学の言及

【形態論】より

…(1)語形の変化とその構成を記述する言語学の部門。伝統文法では,形態論morphologyは語の配列や用法を扱う統語論(シンタクス)と音韻論と共に文法の三大部門をなしている。(2)構造言語学では形態素の設定と種類およびその配列と構造を扱う部門とされている。…

※「形態学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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