翻訳|character
生物のもっている体の形や特徴をいう。目で見える形や色、大きさなどのほか、生化学的、生理的な特徴、さらには行動や運動などの特徴も含まれる。
メンデルの法則を発見した(1865)オーストリアのメンデルがエンドウを用いて交雑実験を行ったときに用いたのも、エンドウの種子の形や色、子葉の色、サヤの形や色、花のつき方、茎の高さなど7対の対立形質である。
このような遺伝的な形質は、生物の体を構成している各細胞の核の中の染色体に存在している遺伝子DNAの遺伝情報に基づき、伝令リボ核酸(メッセンジャーRNA=messenger RNA、mRNA)に転写され、さらにタンパク質に翻訳されて発現する。生物のもつ遺伝的形質は、このようなタンパク質や酵素によって決まるので、それらが可視的な体の形や色、大きさなど形態的な特徴として現れるほか、特殊なタンパク質や酵素活性として現れる場合もある。さらに神経や運動器官にその遺伝子の作用が発現すれば、特殊な運動や行動として現れる場合もある。
高等生物の遺伝的形質は、常染色体または性染色体上の遺伝子によって支配されるが、性染色体上の遺伝子によって支配される形質は、雌雄、男女によって異なる伝達、分離を行うため伴性形質といわれる。また動植物の長さ、重さ、あるいは色調など量的な形質は、多数の遺伝子によって支配されるものが多く、量的形質という。発生の過程で、環境の影響を受けて発現する形質で遺伝子の変化を伴わないものは、その個体のみに発現し子孫には伝わらない。このような形質を獲得性形質という。
[黒田行昭]
『駒井卓著『人類の遺伝学』(1966・培風館)』▽『高橋隆平編『植物遺伝学3 生理形質と量的形質』(1976・裳華房)』▽『加藤泰安・中尾佐助・梅棹忠夫編『今西錦司博士古稀記念論文集 形質 進化 霊長類』(1977・中央公論社)』▽『藤尾芳久・谷口順彦著『水産育種に関わる形質の発現と評価』(1998・恒星社厚生閣)』▽『黒田行昭編著『21世紀への遺伝学1 基礎遺伝学』(1995・裳華房)』▽『山岸高旺編著『淡水藻類入門 淡水藻類の形質・種類・観察と研究』(1999・内田老鶴圃)』▽『鵜飼保雄著『量的形質の遺伝解析』(2002・医学出版)』▽『アーサー・ケストラー著、石田敏子訳『サンバガエルの謎――獲得形質は遺伝するか』(岩波現代文庫)』
生物の分類群の指標となる特徴。分類学における標徴となる形質と,遺伝的性質を示す形質とがある。
分類の指標となる形質は標徴ともいわれ,分類学的形質と限定して用いられることもある。かつては形態上の形質が主なものであったが,最近では染色体などの細胞学的形質や,代謝系や生体内物質などの生化学的形質も重視されているし,動物の行動なども形質としてとり扱われるようになっている。類縁をあとづけるためには,できるだけ多くの情報が得られることが望ましいので,生物のもっている属性のすべてが分類学的形質となるべきであるが,多様に分化した生物の分類の指標になるように広く比較観察された形質にはまだまだ限りがあるといわねばならない。
種や属などの分類群を識別するために,その分類群を代表する形質がとり上げられるが,分類群に固有でそれだけでその分類群を限定できるような形質を指標形質という。形質のすべてを記述したものが記載で,指標形質を記述したものが記相である。指標形質のうち,分類群の識別に有効なものだけを選んで検索表keyをつくる。ここで選ばれる指標形質は分類群の差を標徴するものだから,検索表は人為的なものになるのがふつうである。類縁をあとづけるためには,どのように重要な形質を共有しているかの判断が重要であり,指標形質だけを頼りに類縁をたずねようとすれば誤りをもたらすことになる。
遺伝学の用語で形質という場合は,表現型に現れる遺伝的性質を指し,そのうちの単位となる形質を手がかりにして遺伝現象を解析する。遺伝情報としてもっている性質が表現型として現れてくることを形質発現phenotypic expressionという。
執筆者:岩槻 邦男
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