デジタル大辞泉
「役」の意味・読み・例文・類語
やく【役】
1
㋐受け持ちの任務。役目。「仲裁の役を買って出る」
㋑組織の中で、責任のある地位・職務。「役に就く」
2 演劇などで、俳優が扮する人物。配役。「せりふのある役がつく」「役になりきる」
3 花札・マージャン・トランプなどで、ある条件がそろって特定の点数などを加える権利が生じること。また、そのような札や牌の組み合わせ。「高い役で上がる」
4 もっぱらのつとめ。唯一の仕事。
「そこはかなきことを思ひつづくるを―にて」〈更級〉
5 官が人民に課す労役。公役。夫役。
「かやうの―に催し給ふはいかなることぞ」〈宇治拾遺・四〉
6 物品に課す税。
「山中の関にて―をせよといふ」〈咄・醒睡笑・七〉
[類語]役目・役割・役所・お役・役回り・ひと役・勤め・用・任・任務・義務・責任・責務・本務・使命・役儀・分・本分・職分・職責・責め・課業・日課
え‐だち【▽役】
1 税の一種として公用の労働に従事すること。え。夫役。
2 《人民が徴発されて戦争に従軍する意から》戦争。戦役。役。
「新羅の―に由りて、天皇を葬ること得ず」〈仲哀紀〉
え【▽役】
古代、人民に割り当てられた肉体労働。夫役。えだち。「えよぼろ(役丁)」のように他の語と複合した形で用いられる。
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やく【役】
- 〘 名詞 〙
- ① 国家が人民に課した労役。公役(くやく・こうえき)。賦役(ぶやく・ぶえき)。えだち。えき。
- [初出の実例]「篤昌を役に催しけるを」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)四)
- ② 所有する物品や通行に対して課す税。
- [初出の実例]「牌をかいて高う舟にさしあげてとをったぞ、舟のやくなどをのがれたか」(出典:玉塵抄(1563)二〇)
- ③ 江戸時代、伝馬役・助郷役・百姓役など課役の略。
- [初出の実例]「鎰役之事鎰役と云は、古昔は総て役を掛るに物の訳定らざるを、石高免状と云事もなく」(出典:地方凡例録(1794)五)
- ④ 受持の仕事。役目。つとめ。官職。職務。任務。
- [初出の実例]「公卿たちに、やくつかうまつらせん」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
- 「おめへがたのむつごとをきく役(ヤク)だね」(出典:洒落本・傾城買四十八手(1790)やすひ手)
- ⑤ 唯一の仕事。もっぱらのつとめ。→役(やく)と。
- [初出の実例]「しほ垂るることをやくにて松島に、年ふるあまもなげきをぞつむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
- ⑥ 能楽や演劇などで各役者の受け持って扮する役目。芸の担当。
- [初出の実例]「面箱のやく 幼きには 斟酌せさすべし」(出典:申楽談儀(1430)勧進の舞台、翁の事)
- ⑦ 婦人の月経。月のもの。月役。
- [初出の実例]「『ゑてになるといつでもあれよ』〈略〉ゑてといふはやくになっているといふ事也」(出典:洒落本・南極駅路雀(1789))
- ⑧ 花札・マージャンなどで、一定の点数を得るための特定の条件にかなった札がそろうこと。
えき【役】
- 〘 名詞 〙
- ① 人民を強制して公用に使うこと。夫役(ぶやく)。やく。えだち。
- [初出の実例]「其比までは、府の役力なしとて、きらはざりけれども」(出典:古今著聞集(1254)一六)
- ② 割り当てられたつとめ。役目。職務。やく。
- [初出の実例]「かりにも権を厚くするは、皆民に上たる役(ヱキ)にして、人を治むる為にあり」(出典:浮世草子・近代艷隠者(1686)三)
- ③ ( 人民を徴発する意から ) 戦争。
- [初出の実例]「二十七八年の役(エキ)何んが故に父祖の子孫を殺して、高麗半島の山河 空しく北夷の蹂に委(い)したる」(出典:紫(1901)〈与謝野鉄幹〉日本を去る歌)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐桓公一三年〕
え【役・】
- 〘 名詞 〙 ( 「え」は元来ヤ行のエ ) 古代、朝廷が人民に課した労役。えだち。「えつき(役調)」「えよほろ(役丁)」のように、多く他の語と複合した形で用いられる。
- [初出の実例]「 エタス エ」(出典:観智院本名義抄(1241))
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
役 (やく)
〈役〉は古くは〈エ〉と訓まれ,統治権力による人民の賦課,公用の課役・天役を意味していた。調(つき)が物品による税であるのにたいして,役(え)は労力によるものであり,両者を含めて〈課役(えつき)〉といった。この役(え)と役(やく)の関連(いずれも漢音)は不明だが,平安時代以降は,役(やく)の用例が多く,その範囲も公用の夫役ばかりでなく,支配-被支配の関係を含まない一般的な役割,役目を意味する言葉としても用いられている。芸能における〈役〉〈役者〉はその例だが,同時に,課役を意味する役も〈国役(こくやく)〉のように存続しており,併せて公共性のありかたを示唆する言葉として興味深い。近世幕藩体制は,〈役〉の編制をもって支配統治の機構としたといわれ,大名・武士の家,町や村,宗門の組織,商人,町人,職人の集団まで,役を務めているかどうかが,ある集団の一人前の成員として認められるかどうかの決め手となっていた。
執筆者:山田 武
演劇における役
俳優が舞台で演じる登場人物を役という。役を演じる俳優は役者とも呼ばれる。役者は古くは祭祀の際などに,ある役目をする人,役人の意に用いられたが,祭りを母体として発展した日本の芸能では,神に芸能を奉仕する役の者として,役者と呼ぶようになった。役者の語が芸能用語として使われるのは中世ころからと思われる。役を冠した語には,役の機能を示す〈役まわり〉,俳優に役を割りあてる〈配役〉〈役割〉,役柄などがある。また登場人物は立役(たちやく),敵役,子役などと分類する。能ではシテ方以外のワキ方,囃子方,狂言方を三役と称する。
執筆者:三浦 広子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
役
やく
中世~近世の人身的労役賦課および奉仕の総称。労役の内容から軍役・陣夫役・人足役・伝馬役,労役の担い手から大名役・侍役・百姓役・町人役・職人役,負担の枠組・単位から国役(一国平均役)・郡役・所役・村役・町役,負担の基準から軒役・高役などの用例があげられる。当該社会の主要な構成員は,所属する社会集団を介して役を負担しつつ,社会の中に身分として公的に位置づけられたが,役はこうした位置およびそれに付随する職務(役務)などをも同時に含意することになる。この用例としては,役人・役所・役割などがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
役
えき
古来,中国で支配者が被支配者に課した無償の労力奉仕
徭役 (ようえき) は中央の土木建設工事に従事するものであったが,そのうち雑徭 (ざつよう) は,地方の土木工事のほか,臨時の労働を強いた。職役 (しよくえき) は徴税・警防などの労役奉仕で,特に中央政府の命令による割当てを差役といった。この運用のしかた(役法)は,つねに民衆との間に多くの問題を発生させた。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の役の言及
【課役】より
…〈かやく〉ともいう。課は割り当てて徴収する,役は労役に徴発する意味の動詞,名詞で,これを組み合わせて公課の主体を指称した。その内容は[租](丁あたり粟2石)と[調](丁あたり絹2丈,あるいは麻布2丈5尺,それに付属物として絹糸,綿(まわた)あるいは麻糸が加わる)および役(年間20日間の力役,中央政府が徴発し主都の建設,土木工事等に使われる)の3種よりなる。…
【課役】より
…〈かやく〉ともいう。課は割り当てて徴収する,役は労役に徴発する意味の動詞,名詞で,これを組み合わせて公課の主体を指称した。その内容は[租](丁あたり粟2石)と[調](丁あたり絹2丈,あるいは麻布2丈5尺,それに付属物として絹糸,綿(まわた)あるいは麻糸が加わる)および役(年間20日間の力役,中央政府が徴発し主都の建設,土木工事等に使われる)の3種よりなる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」