精選版 日本国語大辞典 「往来物」の意味・読み・例文・類語
おうらい‐もの ワウライ‥【往来物】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
平安後期から明治初期にかけて用いられた初等教科書の総称。単に「往来」ともいう。往来とは最初、往復一対の手紙文をいくつも集めて編まれた形式に由来する名称であったが、近世ではおよそ初等教科書として用いられるものをすべて往来物とよぶようになった。平安後期から室町時代にかけての往来を「古往来」と総称する。その代表的なものを編纂(へんさん)形式によって例示すれば、種々さまざまな往復一対の手紙文を収録した『明衡(めいごう)往来』(平安時代。書状27通)、1か月往復2通、1年で24通の模範的手紙文を集めた『十二月(じゅうにげつ)往来』(鎌倉時代)、手紙文に用いられる語句を多数集めて、手紙文学習の基礎を与えることを意図した『雑筆(ぞうひつ)往来』(鎌倉時代。33条目453句)、手紙文とそれについての詳細な解説とを交互に配列して学習の便を図った『庭訓(ていきん)往来』(室町時代。書状12か月25通)、手紙文以外のさまざまな文型からなる『富士野(ふじの)往来』(室町時代)などがある。このように古往来はしだいに初等教科書としての形式・内容を整えていき、その対象も当初の貴族・僧侶(そうりょ)の子弟に加えて、中世以降、武士の子弟も含まれるようになり、実用的色彩を強めていく。また『庭訓往来』をはじめとして、近世の寺子屋においても引き続き用いられた例も少なくない(江戸時代刊行の『庭訓往来』は約170種類)。
江戸時代になると、庶民教育機関としての寺子屋の普及と学習人口の増加によって、往来物の種類も出版部数も飛躍的に増加し、内容にも学習上のくふうが加えられ多様化していく。次にそれらを内容(教科)によって大まかに分類し、代表的なものを例示する。
(1)国語科 「字尽(じつくし)」や「名寄(なよせ)」と総称される往来は、日常生活や生産活動に関係深い語彙(ごい)(漢字)の学習を目的とするもので、『七ツいろは』、『弘法(こうぼう)字尽』『童学萬用(どうがくまんよう)字尽』『百官名尽(ひゃっかんなつくし)』『万花(よろずはな)つくし』『名字(みょうじ)往来』などさまざまなものがあった。日常生活に多用される実用的な短文を集めた『伊呂波(いろは)文章』などのほか、武家用文章や庶民用文章の模範を集めた往来もあり、また『消息(しょうそく)往来』、『風月往来』のように種々の手紙文の範型を編集したものもあった。
(2)教訓科 『実語教・童子(どうじ)教』『今川状』『孝行往来』『寺子教訓書』など。
(3)地理科 全国の国名を列挙した『日本国尽(くにつくし)』、街道とその宿駅の知識を与える『東海道往来』『中山道(なかせんどう)往来』などのほか、『江戸往来』『都名所往来』『竜田詣(たつたもうで)』『鎌倉詣』などがあった。
(4)産業科 都市の寺子屋向けに『商売往来』『問屋(といや)往来』『八百屋(やおや)往来』『本屋往来』『大工番匠(ばんしょう)往来』、農漁村の寺子屋向けに『田舎(でんしゃ)往来』『農業往来』『船方(ふなかた)往来』、そのほか『諸職往来』『質屋往来』から『娼家(しょうか)往来』などに至るまで、職業ごとの需要に応じた諸種の往来が用意されていた。
このほか年中行事に関するもの、法度(はっと)や触書(ふれがき)を集めたもの、伝記や史詩など、近世の往来物は多種多様であり、とくに地理、産業に関する往来には地域社会の実情に即して編まれたものも少なくない。これらは庶民教育としての近世寺子屋教育の多様で充実した展開を物語っている。また女子用の往来も多数出版されていた。
[小股憲明]
『石川謙・石川松太郎編『日本教科書大系 往来編』(1977・講談社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
平安時代~近代前期までに手紙文例集の形態で編纂された初等教科書の総称。往復一対の手紙を編纂した形態をとることからこの名がある。1066年(治暦2)に没した藤原明衡(あきひら)撰の「雲州消息」(「明衡(めいごう)往来」とも)が最古。形態的には,(1)明衡往来型(実際の消息や擬作を集め故実や儀礼に関する知識を与えたもの),(2)十二月往来型(12カ月の月順に時宜折々の消息の模範を示したもの),(3)雑筆往来型(消息に常用される語彙を集めたもの),(4)庭訓往来型(文例集と語彙集とを組合せて諸道の知識を与えたもの),(5)富士野往来型(消息文以外に,種々の文書の書式をあげて武家の教養を目的としたもの)がある。近世には約7000種も出版された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…これは《庭訓往来》の内容を絵で示し,それによってその意味を理解させようとしたものである。教育用に使う往来物だけでなく,民衆の間には絵草紙が普及し,彼らは自らこれを使って学ぶということが多くなった。 いまあげた往来物は,はじめ往復一組の手紙を何通か集めた書物であり,日常生活に必要な手紙文の範とされていたが,江戸時代には初等教科書一般を指し,その内容は地理,実業,教訓など多方面にわたるようになった。…
…それぞれに生の人間の生活をバラエティゆたかに反映していて興味深い。このように本書は人事百般を部類して,それぞれの項目に属する事物を往来物風に列挙して,職人尽し・物尽しの観を呈し,なかには現在意味不明のものも少なくないが当時の社会生活のくまぐまのディテールを知るうえでの貴重な資料となっている。 ところで,往来物とは,初学者の教育のために広範な実用的知識を列挙して,物尽しの形式で示すものが多く,消息の贈答の形式をとる場合もあるが,明衡は,別に《明衡(めいごう)往来》を著して往来物の祖とされている。…
※「往来物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。「推しの主演ドラマ」[補説]アイドルグループの中で最も応援しているメンバーを意味する語「推しメン」が流行したことから、多く、アイ...
11/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/26 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典を更新
10/19 デジタル大辞泉プラスを更新
10/19 デジタル大辞泉を更新
10/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
9/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新