元が朝鮮の高麗に設置した機関。正しくは征東等処行中書省。1287年に設置。名称は同じだが,それ以前に間欠的に存在した,日本侵略遂行のための臨時的軍事機関たる征東行省とはまったく別個のもので,歴代高麗王を長官(丞相)とし,左右司,理問所ほかの付属官司と官吏を備えて,地方統制機関としての性格をもつ常置の機構であった。ただ,長官補佐の官は原則として空位のまま置かれた。元は同行省の設置によって,平時には自己に対する高麗の隷属的地位を明示してその動向を牽制し,しかも,忠烈王時にみられたように,有事の際には随時元人を長官補佐の官として派遣して,それを高麗の内政監督用の機関に転換させることを図ったのである。元来,元の高麗統制のための機関だった征東行省は,同時に高麗王朝の保身用機関としての側面を有していた。長官の高麗王は,一般行省官の推挙を認められていたので,自己の欲する者を行省官に任じて国政を補佐させた。また,対外的には,征東行省を窓口に元との結びつきを強化して自己の地位の保証を得,対内的にも,同行省を自己の背後にある元の巨大な権勢の象徴として利用し,支配の貫徹と反対勢力の抑圧を図った。恭愍(きようびん)王による1356年の反元運動後も征東行省は存続したが,まったく高麗王朝の保身用の,形式的な機関となった。ときには倭寇(わこう)をめぐる対日折衝にそれが利用されたりもしたが,李成桂の威化島回軍に始まる1388年の政変を機に完全に廃された。
執筆者:北村 秀人
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