徐霞客遊記(読み)じょかきゃくゆうき(その他表記)Xú xiá kè yóu jì

改訂新版 世界大百科事典 「徐霞客遊記」の意味・わかりやすい解説

徐霞客遊記 (じょかきゃくゆうき)
Xú xiá kè yóu jì

中国,明末の徐弘祖(1586-1641)の著作。徐弘祖は,号を霞客,字を振之という。江蘇省江陰の生れ。生家は代々官僚を出した家柄であったが,一度科挙に失敗したあとはみずから読書に努め,特に地理書に関心をもった。しかし古典の字句の机上解釈に終始する従来の学問にあき足らず,自分の眼で実際の自然を観察しようと,22歳より旅行を始め,死の前年の55歳に至るまでの30年間,その足跡は当時の14省,東北,西域,四川チベットなどを除くほとんど全国にわたった。51歳までは,泰山,天台山,黄山など,いわゆる天下の名山大川を尋ね歩いたが,それより4年間は当時でも未開の西南地方の旅行に費やされ,野外生活を交えながら雲南の西端まで至ったが,ついに病を発して帰郷した。《徐霞客遊記》はこの間に観察したことを日記体で記したもので,最初の一部が51歳までの各名山旅行について記されるほかは,西南旅行,特に雲南の記述に充てられている。版本により若干の相違はあるが,一般には10巻,60万字余からなる。

 内容はいわゆる文人趣味の,古典的詩文を列挙したりするものではなく,みずからの観察にもとづいて,地形地質,水文,植生などの自然から,鉱産工業集落民俗にまで及ぶ広範な地域叙述となっている。またその態度もあくまで科学的で,事実を具体的,客観的に記している。特に西南地方の石灰岩溶解(カルスト)地形については,その成因の分析にまでいたり,世界でも最も早い正確な記述であるといわれる。このように,この書は中国の科学史,特に地理学史において画期的な意味をもつものであることはいうまでもないが,同時代の李時珍,王夫之などと並んで,中国における近代的思想の一つの具体的な展開であるとも評価できる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の徐霞客遊記の言及

【雲南[省]】より

…山脈の南には騰衝県城を中心に半径30kmの範囲に打鷹(だよう)山など20余の新生代火山群が集中している。明の徐弘祖(霞客)はこの地域を調査し《徐霞客遊記》のなかで,水と蒸気の噴出するさまは虎がほえるよう,泡は弾丸のようであると描写している。雲南東部は平均標高1400~2000mの高原である。…

【旅行記】より

…旅行の大衆化とともに遊記も大衆化した時代であった。この中でとくに注目されるのは徐宏祖《徐霞客遊記》で,地形,地質,水文,生物など,これまでの文人の遊記ではほとんど関心が示されなかったことがらについての新しい発見に富み,のちの自然科学的踏査の先駆者ともいえる。また清末,洋務運動の産物として行われた海外派遣の記録である薛福成(せつふくせい)《出使四国日記》,張徳彝(ちようとくい)の海外遊記八部作などは,西洋社会の実情を一般に啓蒙するのに大きな役割を果たした。…

※「徐霞客遊記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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