カイコの病気。ノセマ・ボンビシスNosema bombycisという微胞子虫目に属する原生動物の寄生によって起こる。1860年ごろヨーロッパに大発生し,とくにフランスの養蚕業に大きな打撃を与えた。このためパスツールがこの病気の研究を行い,その結果本病防除のために母蛾(ぼが)を個体別に産卵させる〈一蛾別採種法〉を考案したことは有名である。ノセマ・ボンビシスはその生活環の中で,環境変化に比較的安定な胞子を形成する。胞子は大きさが約3.5×2μmの楕円体で,顕微鏡で見ると光っている。この胞子の内部には二つの核をもった原形質(スポロプラズム)と長さ130μmの細長い極糸がらせん状に折りたたまれて入っている。カイコがこの胞子を食下すると,消化管の中でアルカリ性の消化液に刺激されて孵化(ふか)し,極糸を放出して中腸壁に突きささる。胞子の原形質であるスポロプラズムは極糸の中を通って中腸細胞内に侵入する。侵入したスポロプラズムは芽体といわれ,2核をもつアメーバ状のものであるが,細胞内で分裂増殖を続け,さらに体腔内の種々の組織や器官に感染して多数の胞子になる。発病したカイコ幼虫は著しく発育不良となり,下痢や吐液を伴って死に至るが,病気の症状として皮膚に小黒斑点が現れることもある。幼虫で致死を免れたものはさなぎになりガになるが,重症のガは羽の先が縮れ,産卵数も少なくなる。
カイコの微粒子病は養蚕業にとって恐ろしい病気の一つであるが,それは病原のノセマ・ボンビシスが感染雌蛾の卵管を通って卵内に伝わる,いわゆる経卵伝達の現象が顕著であるからである。このような卵から孵化した次世代の幼虫は産まれながらにして微粒子病に感染していることになり,1匹の雌蛾が約500粒の卵を産むことを考えると,微粒子病の伝播(でんぱ)性はきわめて高い。したがって本病の防除は経卵伝達の経路を断つことがおもな目標となり,このためパスツールの一蛾別採種法に基礎をおいた母蛾検査が行われている。これは産卵の終わった母蛾の磨砕液について胞子の有無を顕微鏡で調べ,そのガから産まれた卵が微粒子病に汚染されているか否かを間接的に検査する方法である。母蛾検査は蚕糸業法施行令ならびに同施行規則に基づいて行われ,検査の結果微粒子病に感染している可能性のある蚕種の販売,飼育は禁止されている。実用蚕種に対しては許容危険率を考慮して,抽出された母蛾を混合して調べる集団母蛾検査が行われ,原蚕種に対してはすべて母蛾を個体別に調べる一蛾別検査が行われる。
執筆者:渡部 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…フランスでのその全盛期は1820‐53年であり,53年における繭生産高は2600万kg,桑樹数は2400万本以上,養蚕業を営む村落2300以上,その従事者数30万~35万人と,史上最高を記録した。しかし以後は微粒子病などの蚕病の流行によって激しい打撃を被った。パスツールの研究により75年以降微粒子病が克服された後も,繭の生産水準は700万~800万kgにとどまり続け,19世紀末期からの政府の補助金付与の効果もなく,ブドウその他の果樹や野菜,タバコなどの栽培への転換が進んだ。…
※「微粒子病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が相対的に高まった場合に気象庁が発表する。2019年に運用が始まった。想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震が...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新